甲状腺がんについて知っておきたいこと
国際的な診療ガイドラインに基づく
概要
甲状腺がんとは、首の前側にある「甲状腺(こうじょうせん)」という小さな臓器にできるがんのことです。甲状腺は、体の代謝(エネルギーを調整する働き)をコントロールするホルモンを作っています。ここにできるがんは、多くはゆっくり成長し、早期に見つかれば治療しやすい病気です。
重要な事実
- 甲状腺がんの多くは、がん細胞の種類が「乳頭がん」で、進行がゆっくりなことが多いです。
- 早期の甲状腺がんは、自覚症状がないことも多く、健診や別の検査で偶然見つかることもあります。
- 治療後も経過観察を続けることで、再発や転移の早期発見に努めることが大切です。
- 甲状腺がんは、ほかのがんと比べて亡くなる割合が低く、予後のよいがんの一つとされています。
国内では、毎年約1万人以上が甲状腺がんと診断されるといわれています。女性にやや多く、特に30代から50代の女性に多くみられます。また超音波検査などが普及したことで、早期がんが多く見つかるようになりました。
甲状腺がんは、女性が男性のおよそ2~3倍多いとされています。どの年齢でも起こりますが、特に20代から50代の女性に多くみられます。また、過去に首や胸部への放射線治療を受けた人、甲状腺がんの家族歴がある人では、リスクが上がることがあります。
症状
- 突然、息ができなくなるほどの強い息苦しさがある
- 声が全く出なくなり、呼吸がゼーゼーする
- 首のしこりが急速に大きくなって、気道がふさがれるような感覚がある
- ⚠飲み込みができず、水分もとれない
- ⚠首の痛みや腫れが急に強くなり、発熱を伴う
- ⚠声が急にかれて、2週間以上続く
- ⚠首のしこりが短期間で明らかに大きくなっている
一般的な症状
- 首の前側にしこり(こぶ)を触れる
- 首のリンパ節がはれる
- 声がかすれる(声がれ)
- 物を飲み込むときの違和感(つかえる感じ)
- 首に圧迫感や痛みを感じる
- 呼吸がしにくいと感じることがある(進行した場合)
子供の症状
- 小児では症状がほとんどないことも多く、しこりで見つかることが多いです。
- 首の動きによる痛みや、声がれ、飲み込みにくさなどが現れることもあります。
- 小児はまれな病気ですが、しこりが続く場合は、かかりつけの小児科や耳鼻咽喉科で相談しましょう。
高齢者の症状
- 高齢者では、首のしこりよりも先に、せきが長引く、息苦しい、体重減少などの症状が目立つことがあります。
- 甲状腺がんが肺などに転移して、その症状で見つかることもあります。
- 高齢者は別の持病があることも多いため、早めに医師へ相談し、体力や状態に合わせた治療を選ぶことが重要です。
原因
主な原因
- 甲状腺がんができる正確な原因はまだ完全にはわかっていません。
- がんは細胞の遺伝子(設計図)に傷がつくことで発生します。放射線への曝露などが関係することがありますが、多くの人で明確な原因は見つかりません。
- 遺伝性の甲状腺がんもありますが、多くは遺伝とは関係なく起こります。
リスク要因
- 女性であること
- 小児期に首や胸部へ放射線治療を受けた経験があること(治療の歴史の中で見られることがあります)
- 甲状腺がんの家族歴があること
- ヨウ素(海藻などに多い栄養素)の極端に多い・少ない食生活が続くこと(ただし、世界各国の研究で確かな関係はまだ確認されていません)
- 甲状腺の良性の病気(甲状腺腫瘍や慢性甲状腺炎など)を持っていること(ごく一部でがんを合併します)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 首のしこりが急速に大きくなり、痛みや呼吸の違和感を伴う
- 声がかれて2週間以上続き、症状が改善しない
- 飲み込みにくさや、首に強くつかえる感じが続く
定期受診を予約すべき場合:
- 首の前側を触って、しこりやふくらみに気づいた
- 結節(しこり)があり、超音波検査で「要経過観察」と言われた(定期的なチェックを受ける)
- 甲状腺がんの治療後で、定期的な再発チェックを勧められている
診断
甲状腺がんは、問診と首の触診から始めます。その後、画像検査(超音波・CT・MRIなど)でしこりの形や周囲への広がりを詳しく調べます。必要に応じて、針を刺して細胞を採る「細胞診(さいぼうしん)」を行い、がんかどうかを判定します。
行われる可能性のある検査
- 超音波検査(エコー):首にゼリーを塗り、プローブを当てて、しこりの大きさ・形・性質を調べます。痛みはほとんどありません。
- 血液検査:甲状腺ホルモンの値や、がんの目印となる「サイログロブリン」というタンパク質の量を調べます。
- CT検査・MRI検査:がんが周りの組織やリンパ節に広がっていないかを詳しく確認します。
- 細胞診:超音波で見ながら細い針でしこりの細胞を少し採り、顕微鏡で調べます。確定診断に必要な検査です。
- 声帯の検査:声のかすれがある場合、声帯の動きに影響が出ていないか喉頭ファイバーで確認します。
診察で予想されること
検査は外来で受けることができ、入院は通常必要ありません。小さな針を刺す細胞診は、局所麻酔をすることがあり、多少の痛みや内出血を伴うことがありますが、短時間で終わります。検査結果は数日から1週間ほどでわかります。診断が確定したら、専門医があなたの状態や希望に合わせて治療方法の選択肢を説明してくれます。
治療
甲状腺がんの治療は、がんの種類や大きさ、広がり方、年齢や健康状態を考慮して決めます。甲状腺がんは多くの場合進行が遅いため、すぐに強い治療が必要でないこともあります。治療法は主に「手術」「放射線療法」「薬物療法」の3つに分かれ、場合によっては「経過観察(何もしないで定期的に検査する)」という選択肢もありえます。治療方針は医師とよく話し合って決めることが大切です。
自宅でのセルフケア
- 治療中の体調の変化や気になる症状を記録し、診察時に伝えましょう。
- 処方された薬は、医師の指示に従って正しい量・時間に服用しましょう。自己判断でやめたり増やしたりしないでください。
- 生活リズムを整え、十分な睡眠と休養をとりましょう。
- 首の手術後は、傷のケアを医師の指示に従って行い、無理な力をかけないようにしましょう。
- 不安や疑問は一人で抱えず、医師や看護師、薬剤師などに相談しましょう。
医療治療
甲状腺がんの治療では、主に以下の方法が用いられます。まず「手術」でがんを取り除くことが基本です。がんの大きさや位置によっては、甲状腺の一部だけを残す手術や、甲状腺全体を取る手術があります。手術後には、必要に応じて「放射性ヨウ素内用療法」が行われることがあります。これは、放射線を出すヨウ素を飲み、残っている甲状腺組織や転移した細胞をやっつける方法です。また、進行している場合や再発した場合には、細胞の増殖を抑える「分子標的薬」や、がん細胞を攻撃する免疫の力を利用する「免疫チェックポイント阻害薬」などの薬物療法が行われることがあります。これらの治療には専門的な管理が必要なため、必ず医師の説明を受けてください。
手術が検討される場合
手術は、甲状腺がんの治療の中心となる方法です。しこりが小さい場合や、周りに広がっていない場合は、甲状腺の一部を残せる場合もあります。しかし、がんが甲状腺の外に広がっている、リンパ節に転移している、再発しやすいタイプの場合は、甲状腺全体を摘出することがあります。手術後は、甲状腺ホルモン剤を内服して体のホルモン量を保つ治療が必要になります。
この病気と共に生きる
甲状腺がんの治療後も、多くの人が日常生活へ戻れます。甲状腺を摘出した場合は、甲状腺ホルモン薬を毎日飲むことで体の機能を維持します。定期的な血液検査や超音波検査などによる経過観察を続けることが、再発や転移の早期発見につながります。無理をせず、自分の体調と向き合いながら、仕事や家事、趣味を続けていきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を心がけましょう。たばこは治療の効果を妨げる可能性があります。
- 飲酒はほどほどにし、休肝日を設けましょう。
- 規則正しい生活で、免疫力を高めましょう。
- ストレスをためないように、自分の好きなことやリラックスする時間を持ちましょう。
- 健康診断やがん検診など、定期的なチェックを忘れずに受けましょう。
食事と運動
特別な食事制限はありません。栄養バランスのよい食事を3食とり、海藻や魚などのヨウ素を含む食品を極端に食べすぎたり、避けすぎたりしないことが大切です。ただし、治療によってはヨウ素の制限が必要な場合があります。医師や管理栄養士の指示に従いましょう。運動は、体力に合わせて散歩やストレッチなど軽いものから始めるのがおすすめです。過度な運動は避け、体調がよいときに無理なく行いましょう。
精神的健康と心の健康
がんと診断されたり、治療を受けたりすることは、気分の落ち込みや不安、恐怖を感じることが自然なことです。また、首の手術による見た目への影響や声の変化に戸惑うこともあります。これらの感情は時間とともに和らぐことが多いですが、つらいときは一人で抱え込まないでください。医師や看護師に相談したり、専門の心理士や精神科医のサポートを受けることもできます。
予防
甲状腺がんの多くは、はっきりとした原因がわかっておらず、完全に予防する方法はまだありません。ただし、小児期に首や胸部への放射線曝露を避けることは、リスクを減らすことにつながる可能性があります。また、胃の酸を抑える薬や特定の薬を長期間使用している場合は、医師と相談しましょう。
ワクチン
甲状腺がんに特化したワクチンは、現在ありません。
検診プログラム
一般の人を対象にした、甲状腺がんの集団検診は推奨されていません。ただし、首にしこりを感じる場合や、家族に甲状腺がんの人がいる場合、過去に首への放射線治療を受けた場合は、医師に相談し、超音波検査などを受けることがあります。日本では、甲状腺がんの早期発見のために、気になる症状があるときに医療機関を受診することが大切です。
合併症
治療しない場合
- がんが周囲の組織(気管や声帯、頸部のリンパ節)に広がり、呼吸困難や飲み込み困難を起こすことがあります。
- 肺や骨などへの転移があると、それぞれの臓器の症状(せき、血痰、骨の痛み、骨折など)が現れることがあります。
- 甲状腺の働きが低下し、だるさ、寒気、むくみなどの症状が現れることがあります。
長期的な見通し
甲状腺がんは、ほかのがんと比べて進行がゆっくりで、治療効果が高いがん種です。特に早期に見つかった乳頭がんは、5年生存率が95%以上といわれ、ほとんど治癒が期待できます。治療後も、ホルモン補充や定期的な検査を続けることで、多くの人が健康に長生きしています。あなたの病気に向き合う勇気と、医療者とともに治療を進めていくことが、何よりも大切です。
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情報源とガイダンス
この記事は教育目的で、利用可能な場合は認知された健康情報および臨床ガイダンスの情報源を参照して作成されています。具体的な情報源リンクはトピックによって異なる場合があります。
最終更新: 2026年7月31日
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