子どもの多発性硬化症(MS)
国際的な診療ガイドラインに基づく
概要
多発性硬化症(MS)は、脳や脊髄などの「中枢神経」に炎症が起こる病気です。免疫の働きに異常が出て、神経を包む「ミエリン」という保護膜が傷つくことで、視力や運動、感覚など、さまざまな神経の働きに影響が出ることがあります。子どものMSは、18歳未満で発症するMSのことを指します。
重要な事実
- 小児MSはまれな病気で、思春期前後に発症しやすい
- 症状が現れたりよくなったりを繰り返す経過をとることが多い
- 早く診断して治療を始めると、再発を減らし進行をゆっくりにできる
小児MSはとてもまれな病気です。日本の小児全体の中ではごく少数とされ、症状がほかの病気と似ているため、診断までに時間がかかることもあります。
10歳未満では男の子と女の子であまり変わりませんが、思春期になると女の子にやや多くなります。また、家族にMSやほかの自己免疫疾患の人がいると、発症リスクがやや高まるといわれています。
症状
- 突然、息がしづらい
- 意識がもうろうとする
- けいれんが止まらない
- 両腕・両足の力が急に入らなくなる
- ⚠新しいしびれや力の低下が急に現れた
- ⚠視力が急に落ちた
- ⚠立っているのが難しいほどのふらつきがある
- ⚠おしっこやうんちが出にくい・漏れるなどが急に現れた
一般的な症状
- 片方の目の視力が落ちる、物が二重に見える
- 手足のしびれや力が入りにくい
- ふらつきや歩きにくさ
- 疲れやすさ(MSの疲労)
- チクチクする感覚などの感覚の異常
子供の症状
- 症状が突然現れ、数日から数週間続いたあと改善する「再発と回復」を繰り返すことが多い
- 発熱や体調不良で一時的に症状が悪化することがある(これは再発とは限らない)
- 学校で集中できない、成績が下がるなど、見逃されやすい症状もある
高齢者の症状
- 小児MSは18歳未満の発症を指します。高齢者のMSでは、似た症状を起こす別の病気との区別がより重要になります。高齢で発症するMSは小児とは経過や治療の考え方が異なる場合があるため、専門医の診察が必要です。
原因
主な原因
- はっきりした原因はまだわかっていませんが、免疫の異常によって自分の神経を攻撃してしまうことが関係しています
- ウイルス感染や環境などの「きっかけ」と、遺伝的にかかりやすい体質が重なって発症すると考えられています
- 親から子へ直接伝わる「遺伝病」ではありません
リスク要因
- 家族にMSやほかの自己免疫疾患の人がいる
- 思春期の年齢である
- 思春期以降は女の子のほうがやや多い
- ビタミンDが不足しがち、日光を浴びる時間が少ない地域に住んでいる(研究レベル)
- 過去のEBウイルス感染(研究レベル)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然、神経の症状(しびれ、力の低下、視力低下など)が現れた
- 手足が急に動かしにくくなり、生活に支障がある
- 視力が急に落ちた、物が二重に見える
定期受診を予約すべき場合:
- 原因がわからないしびれやふらつきが何日も続く
- 学校で転びやすい、字が書きにくいなど、いつもと違う変化がある
- 強い疲れが何週間も続いて学校に行けないことがある
診断
小児MSの診断は、小児神経科や脳神経内科の専門医が行います。MRIで脳や脊髄の炎症のあとを確認し、ほかの病気を除外したうえで、診断基準に当てはまるかを総合的に判断します。
行われる可能性のある検査
- MRI(磁気共鳴画像)検査:頭と脊髄を詳しく見る
- 髄液検査:背中の腰椎から針を刺して、脳や脊髄をめぐる液体を調べる
- 血液検査:ほかの病気を除外するために行う
- 視覚誘発電位などの検査:視神経の働きを電気的に調べる
診察で予想されること
診断までに数週間かかることもあります。複数の検査が必要で、場合によっては入院して調べることがあります。不安が大きい時期ですが、専門医や看護師がお子さんと保護者の話をよく聞きながら、わかりやすく説明し進めてくれます。
治療
現在、MSを完全に治す治療法はありませんが、病気の進行を遅らせたり、再発を減らしたりする治療が大きく進歩しています。小児の場合、成長や発達への影響を考え、成人と同じ治療がそのまま使えるとは限りません。専門チームがお子さん一人ひとりに合わせて治療計画を立てます。
自宅でのセルフケア
- 十分な睡眠と規則正しい生活リズムを心がける
- 暑さや過度のストレスを避け、疲れたら休む
- 症状や気分の変化を日記に記録し、受診時に伝える
- 無理をしすぎない範囲で学校や遊びを楽しむ
医療治療
病気の進行を抑える「疾患修飾療法」という治療が中心になります。再発したときには、炎症を抑えるための点滴や内服の治療が行われることがあります。薬の選び方や量、開始時期は、お子さんの年齢・症状・生活スタイルを踏まえて、担当医が保護者とよく話し合って決めます。リハビリテーションや症状に合わせた支援も治療の一部です。
手術が検討される場合
多発性硬化症そのものに対して手術は行いません。ただし、症状によっては(例:排尿のトラブルなど)専門医によるほかの治療やケアが必要になることがあるため、その場合は担当医と相談します。
この病気と共に生きる
学校や家庭では、「疲れやすい」ということを周りに伝え、休める環境を整えることが大切です。症状は日によって変わるため、調子のよい日とうまく付き合いながら、無理をしない生活を続けます。
生活習慣のアドバイス
- 無理のない範囲で体を動かす(体力と気分の維持に役立つ)
- 暑くなりすぎる場所を避け、涼しい環境で過ごす
- 睡眠をしっかりとり、ストレスをためない工夫をする
- 定期的に医療機関でフォローアップを受ける
食事と運動
特別にこれといった食事療法はありません。バランスのよい食事を心がけ、ビタミンDを適切に保つよう、医師の指導のもとで日光を浴びたり、必要に応じてサプリメントを検討したりすることがあります(サプリメントを始める前には必ず医師に相談してください)。運動は、体力を保ち気分を明るくするためにおすすめです。できない日があっても、あせらず休みながら続けましょう。
精神的健康と心の健康
慢性の病気と診断されることは、子ども本人も家族も大きな不安を感じることがあります。怒りや悲しみ、孤独感を抱えるのは自然なことです。どんな気持ちになっても大丈夫だと知り、まわりに助けを求めてください。もし気分の落ち込みが続いたり、眠れない日が続く場合は、医師や学校のカウンセラーに相談しましょう。つらい気持ちを一人で抱え込まないでください。
予防
現時点では、小児MSの発症を確実に予防する方法はまだわかっていません。感染症やビタミンD不足などの要因が関与する可能性は研究されていますが、予防できると証明された方法はありません。
ワクチン
ワクチンがMSの原因になるという証拠はありません。予防接種については、治療の状況や体調に合わせて受ける時期や種類を主治医と相談することが大切です。
検診プログラム
小児MSを対象にした一般的な検診制度はありません。気になる症状があれば、早めに小児科を受診してください。
合併症
治療しない場合
- 再発を繰り返すうちに、神経の障害が積み重なり、歩きにくさや視力の低下が残りやすくなることがある
- 学校生活や友人関係に影響が出やすく、心理的な負担が大きくなることがある
- まれに、重度の再発で日常生活の動作に大きな介助が必要になることがある
長期的な見通し
小児MSは、適切な治療を続けることで再発を減らし、進行を遅らせることができます。医学の進歩により、以前よりもずっと希望のもてる時代になりました。お子さんが自分のペースで成長し、楽しい子ども時代を過ごせるよう、医療者と一緒に長い目で支えていくことが大切です。
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情報源とガイダンス
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最終更新: 2026年7月31日
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