聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)
国際的な診療ガイドラインに基づく
概要
聴神経腫瘍は、耳の奥にある聴神経(音を伝える神経)と平衡神経(体のバランスを保つ神経)が集まる場所にできる、良性(がんではない)の腫瘍です。「前庭神経鞘腫(ぜんていしんけいしょうしゅ)」とも呼ばれます。多くはゆっくりと成長し、すぐに命に関わることはまれですが、周りの神経を圧迫すると、聞こえや平衡感覚に影響を与えることがあります。
重要な事実
- がんではなく、良性の腫瘍がほとんどです。
- 成長がとてもゆっくりで、数年から数十年かけて進むこともあります。
- 片側の耳に症状が出ることが多く、両側にできるのはまれです。
比較的まれな病気で、日本の報告では年間に10万人あたり1〜2人程度が見つかるとされています。
20歳代から60歳代の成人に多く、特に40歳代から50歳代で診断されることが多いと言われています。子どもには非常にまれです。
症状
- 突然、強いめまいや立てないほどのふらつきがある
- 突然、顔の半分が動かせなくなった、しびれがある
- 突然、ろれつが回らない、言葉が出にくい
- 突然の激しい頭痛や意識の変化がある
- ⚠急に片側の耳が聞こえにくくなった
- ⚠めまいが続き、日常生活に支障がある
- ⚠顔のしびれや違和感が続く
一般的な症状
- 片側の耳の聞こえにくさ(難聴)
- 片側の耳鳴り(キーン、ジージーという音が続く)
- めまいやふらつき
- 耳がつまった感じ
- 腫瘍が大きくなると、顔のしびれや顔の片側が動きにくくなることがある
子供の症状
- 聞こえにくさや耳鳴り
- 学校や遊びの場面で聞き返すことが多い
- ふらついたり、転びやすくなったりする
- 頭痛を訴えることがある
高齢者の症状
- 加齢による難聴と重なり、片側の聞こえにくさに気づきにくいことがある
- めまいやふらつきによる転倒に注意が必要
- 耳鳴りや耳の閉塞感が続くことがある
原因
主な原因
- はっきりした原因はまだ分かっていません。
- 聴神経や平衡神経の周りにある「シュワン細胞」という細胞が腫瘍化してできると考えられています。
- 大部分は片側だけにできます。
リスク要因
- 神経線維腫症2型(ニューロフィブロマトーシス2型)という遺伝性の病気があると、両側の聴神経腫瘍ができやすくなります。
- 過去に頭または首の領域への放射線治療を受けたことがある人は、リスクがやや高くなる可能性があります。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に聞こえにくくなった
- 強いめまいやふらつきがある
- 顔の半分が動かない、しびれがある
定期受診を予約すべき場合:
- 片側の耳鳴りや聞こえにくさが数週間以上続く
- 耳がつまった感じやふらつきが続く
- 家族から「聞こえが悪いのでは」と言われた
診断
聴神経腫瘍の診断では、耳鼻咽喉科や脳神経外科の医師による問診・診察に加えて、聴力検査と画像検査を行います。見つかったら、腫瘍の大きさや場所、聴力の状態を詳しく調べます。
行われる可能性のある検査
- 聴力検査(オージオグラム)
- 平衡機能検査(体のバランスを調べる検査)
- MRI(磁気共鳴画像検査)
- 必要に応じて、聴性脳幹反応検査(音の刺激が脳に届くかを調べる検査)
診察で予想されること
MRIは体に負担が少なく、約30分程度かかります。痛みはありません。腫瘍の有無や大きさがはっきり分かるため、診断にとても役立ちます。結果の説明には数日から1週間程度かかることがあります。
治療
治療は一律ではなく、腫瘍の大きさ・場所・進行の速さ・年齢・聴力の状態などから、医師と相談して決めます。ゆっくり成長する良性腫瘍がほとんどなので、すぐに治療を始めずに定期的なMRIで経過を見ることも選ばれます。
自宅でのセルフケア
- 大きな音や騒がしい場所を避け、耳を休める
- めまいやふらつきがあるときは、急な立ち上がりや無理な動きを避ける
- 転倒予防のために、家の中の段差をなくし、手すりや照明を活用する
- 聞こえにくさがつらいときは、補聴器や聞こえのサポート器具について医師や言語聴覚士に相談する
医療治療
腫瘍そのものを消す薬は、現時点ではありません。症状のつらさに対して薬が使われることもありますが、治療の中心は「経過観察」「放射線治療」「手術」の3つです。放射線治療には、周りの正常な組織への影響を抑える「定位放射線治療」という方法があります。どの治療が合うかは患者さんごとに異なるため、医師と十分に話し合うことが大切です。
手術が検討される場合
腫瘍が大きい、聴力の温存が難しい、脳幹を圧迫している、急激に大きくなっている、などの場合には手術が検討されます。手術の方法は、腫瘍の大きさや場所、聴力を保てる可能性などを考慮して決められます。
この病気と共に生きる
聴神経腫瘍はゆっくり進むことが多く、経過観察中でも生活の質を保てる場合がほとんどです。聞こえにくさやめまいなどの症状に合わせて、日常生活の工夫を取り入れましょう。定期的な検査を続け、変化があれば早めに医師に伝えることが大切です。
生活習慣のアドバイス
- 片側の聞こえが悪いときは、聞こえやすい側を相手に向けて話す
- めまいやふらつきがあるときは、杖や手すり、滑りにくい靴を使う
- 耳鳴りが気になるときは、静かな環境より、小さな音楽や自然音を流して気をそらす
- 睡眠不足やストレスは症状を感じやすくすることがあるため、休養を十分にとる
- 定期的な検査や受診を続ける
食事と運動
特別な食事制限はありません。栄養バランスのよい食事を心がけ、無理のない範囲でウォーキングなどの軽い運動を取り入れましょう。適度な運動は気分転換にもなり、転倒予防にもつながります。めまいが強いときは運動を休んでください。
精神的健康と心の健康
難聴や耳鳴り、めまいが続くと、不安や気分の落ち込みを感じることがあります。それは自然な反応です。一人で抱え込まず、家族や友人、医師、看護師に気持ちを話しましょう。つらい気持ちが続く場合は、地域の精神保健福祉センターや心の健康相談窓口を利用することもできます。
予防
現時点で、聴神経腫瘍を確実に予防する方法は分かっていません。聞こえやバランスの異変を感じたら早めに医療機関を受診することが、早期発見と早期対応につながります。
検診プログラム
一般的な健康診断で聴神経腫瘍を調べることはありません。片側の難聴や耳鳴りなど気になる症状があれば、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
合併症
治療しない場合
- 難聴が進行して、その側の耳の聞こえがほとんど失われることがある
- めまいやふらつきが続き、転倒しやすくなる
- 腫瘍が大きくなると、顔のしびれや麻痺、飲み込みにくさが現れることがある
- まれに脳幹を圧迫して、頭痛、吐き気、歩行障害などが出ることがある
長期的な見通し
聴神経腫瘍は良性の腫瘍で、多くは成長がとてもゆっくりです。経過観察、放射線治療、手術のいずれの選択肢でも、聴力や顔の機能をできるだけ保つことを目指して治療が行われます。早期に見つかれば見つかるほど、治療後の生活への影響を小さくできる可能性が高くなります。希望を持って、医師と一緒に無理のない対応を選んでいきましょう。
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最終更新: 2026年7月31日
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