急性下肢虚血とラザフォード分類 — 脚の血流が急に止まったとき
概要
急性下肢(かし)虚血(きょけつ)は、脚に血液を送っている動脈が、突然つまったり、急に細くなったりして、脚に血液が届きにくくなる状態です。英語では「急性リム・イスケミア」と呼ばれます。血液が届かない時間が長くなるほど、筋肉や神経が傷つき、脚を失う危険や命に関わる危険が高まる、時間との勝負になる病気です。ラザフォード分類(Rutherford分類)は、この状態の重さを4つの段階に分けて、「どれくらい急いで治療する必要があるか」を医師が判断するための目安です。段階はI(生きている)、IIa(ぎりぎり危ない)、IIb(すぐに危ない)、III(取り返しがつかない)というイメージで、数字が大きくなるほど緊急度が高くなります。
重要な事実
- 急性下肢虚血は「急に」起こる緊急の病気です。脚の激しい痛み、白っぽい色、冷たさ、しびれが急に出たら、すぐに119番で救急車を呼んでください。
- ラザフォード分類は、医師が診察と血流の検査をもとに決める4段階の目安で、患者さん自身が自己判断するものではありません。
- 分類のIIbとIIIは「今すぐ血流を戻す必要がある」段階です。一方、IやIIaでも油断はできず、すぐに病院で評価を受ける必要があります。
- 分類は時間とともに悪化することがあるため、医師は繰り返し評価して治療の緊急度を決めます。
急性下肢虚血は、日常的によく起こる病気ではありません。比較的まれな病気ですが、脚と命に関わるため、とても重要な緊急疾患です。動脈硬化(血管が硬く狭くなること)が進んでいる人や、心臓の不整脈がある人では起こりやすくなります。
主に、動脈硬化が進んでいる人、心臓に不整脈(特に心房細動)がある人、糖尿病や腎臓病がある人、透析を受けている人、喫煙する人、そして高齢の人に多く起こります。若い人や子どもではまれですが、心臓のカテーテル検査や治療のあとに起こることがあります。
症状
- 突然の脚の激しい痛み
- 脚が白っぽい・青白い・まだらになっている
- 脚が明らかに冷たい
- しびれや力が入らない感じが急に出た
- 足の脈が触れない
- 脚の皮膚が黒ずんできた、水ぶくれができた
- ⚠歩くと脚が痛む、または安静にしていても脚が痛む
- ⚠両脚の色や温度に明らかな左右差がある
- ⚠足の傷がなかなか治らない、じくじくしている
- ⚠足の爪や皮膚の色が以前と違う
一般的な症状
- 突然の、がまんできないような脚の激しい痛み
- 脚の色が白っぽい、青白い、まだらになる
- 脚を触ると冷たい(反対側の脚と比べて明らかに冷たい)
- しびれ、感覚が鈍くなる、針で刺したような感じ
- 脚に力が入らない、動かしにくい、足首や指が動かせない
- 足の甲や足首の脈が触れない
- 進行すると皮膚が黒ずむ、水ぶくれができる
子供の症状
- 子どもではとてもまれですが、心臓のカテーテル検査や治療のあとに起こることがあります。
- 言葉で伝えられない子どもでは、泣き止まない、脚を触られるのを嫌がる、脚の色や温度が左右で違う、動かし方が違うといったサインに気づくことが大切です。
- 気になる変化があれば、ためらわずに医療機関に相談してください。
高齢者の症状
- 高齢者では動脈硬化や不整脈が増えるため、リスクが高くなります。
- 糖尿病や認知症があると、痛みの訴えが遅れたり、症状が分かりにくかったりすることがあります。
- 「年のせいで足が冷たい」「足が痛いのは仕方ない」と決めつけず、急な変化は必ず相談してください。
- 自分で動けない場合でも、脚の色や温度の変化に家族が気づくことがあります。
原因
主な原因
- 心臓などでできた血の塊(血栓)が血管を流れてきて、脚の動脈につまる(塞栓症=そくせんしょう)
- 動脈硬化で狭くなっていた血管が、急に血の塊でふさがる(血栓症=けっせんしょう)
- 血管のけが、カテーテル検査や治療のあとの血管のつまり
- 血液が固まりやすい体質や病気がある場合
リスク要因
- 喫煙(最も大きな危険因子のひとつです)
- コレステロールが高いと言われたことがある
- 心房細動などの不整脈
- 腎臓病、特に透析を受けている
- 末梢動脈疾患(脚の動脈硬化)と言われたことがある
- 肥満、運動不足
- 家族に血管の病気が多い
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に脚が痛くなった、冷たくなった、色が変わった
- 足の脈が触れないと言われた、または自分で触れない
- しびれや動かしにくさが急に出た
- 脚の傷が悪化している、皮膚が黒ずんできた
定期受診を予約すべき場合:
- 歩くと決まった距離で脚が痛くなり、休むと治る(間欠性跛行=かんけつせいはこう)
- 足がいつも冷たい、毛が薄くなった、爪が伸びにくい
- 足の傷や靴ずれが治りにくい
- 健康診断で足の血管の検査(ABIなど)に異常を指摘された
- 心房細動や動脈硬化と言われている
診断
診断は、問診と診察、そして血流を調べる検査を組み合わせて行われます。医師はまず、痛み、脈が触れるか、皮膚の色、冷たさ、しびれや動きの状態を確認します。これを「5つのP」(痛み、蒼白、脈拍消失、知覚異常、麻痺)と呼ぶことがあります。そのうえで、血流の音を聞く器械や超音波、必要に応じて造影CTなどで、どの血管がどこでつまっているかを調べます。これらの結果からラザフォード分類の段階を決め、治療の緊急度を判断します。
行われる可能性のある検査
- 診察(脚の色、温度、脈、感覚、動きの確認)
- ドプラ血流計(超音波で血流の音を聞く器械)による血流の確認
- 血管エコー(超音波で血管の中を映す検査)
- 造影CT(血管のつまりの場所を詳しく調べる画像検査)
- 血液検査(体の状態、筋肉の変化、血液の固まりやすさなどを確認)
- 心電図(不整脈がないかの確認)
診察で予想されること
救急外来では、評価はできるだけ早く行われます。痛みの程度を聞かれ、脚を触って温度や脈を確認し、血流の検査を受けます。検査中は脚を動かさないようにお願いされることがあります。分類は一度決めたら終わりではなく、時間がたつと悪化することがあるため、繰り返し確認されます。診察中は、いつから症状が始まったか、どんなふうに始まったかを伝えることが、治療の速さにつながります。
治療
治療の目標は、できるだけ早く血流を戻して脚を救い、命を守ることです。ラザフォード分類の段階によって、どれくらい急いで治療するかが変わります。IIbやIIIの段階では、すぐに血流を戻す処置が必要になります。IやIIaの段階でも、こまめな観察と早めの治療の準備が大切です。
自宅でのセルフケア
- 脚を温めない(カイロや湯たんぽ、熱いお風呂は避けてください)
- 脚を強くもんだり、マッサージしたりしない
- 脚を心臓より高く上げる姿勢は避け、医師の指示に従う
- 飲んでいる薬のリスト(お薬手帳)を持って病院へ行く
- 症状が始まった時刻をできるだけ正確に伝える
- 喫煙する人は、この機会に禁煙を考える
- 治療後は、毎日、脚の色・温度・傷の有無を観察する
医療治療
血流を戻すための治療にはいくつかの方法があります。細い管(カテーテル)を血管に入れて血の塊を取り除いたり、血管を広げたりする治療、バイパス手術(別の血管で血液の通り道を作る手術)、血管のつまりを防ぐための薬(血液を固まりにくくする薬など)が使われることがあります。痛みをやわらげる治療も同時に行われます。どの方法がよいかは、つまっている場所、時間の経過、体の状態によって医師が判断します。具体的な薬の名前や量は、必ず担当の医師・薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
分類がIIbやIIIの場合や、カテーテル治療で血流が戻らない場合は、緊急の手術が必要になることがあります。IIIの段階で組織がすでに死んでしまっている場合には、命を守るために脚を切断する手術が必要になることがあります。できるだけ早く治療を始めることが、切断を避ける最大の方法です。
この病気と共に生きる
治療で血流が戻ったあとも、血管の状態を保つための毎日のケアが大切です。脚の色や温度、傷がないかを毎日見て、変化があれば早めに相談してください。爪のケアや靴ずれにも気を配り、定期受診を続けましょう。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙する(再発を防ぐために最も大切です)
- 血圧・血糖・コレステロールを医師と一緒に管理する
- 長時間同じ姿勢で座り続けない
- 足を冷やしすぎない、やけどに注意する(感覚が鈍いと気づきにくいため)
- 歩く習慣を、医師の指示の範囲で無理なく続ける
- 水分を適度にとる
- 足に合った靴を選び、靴ずれを予防する
食事と運動
食事は、塩分を控えめにして、野菜・魚・大豆などを中心にバランスよくとることが基本です。揚げ物や加工食品を減らすことも役立ちます。運動は、医師に相談したうえで、歩行を中心に無理のない範囲で続けましょう。治療直後や傷があるときは、運動の始め方について必ず医師に確認してください。
精神的健康と心の健康
突然の入院や手術は、大きな不安をもたらします。脚を失うかもしれないという恐怖、再発への心配、生活が変わってしまうことへの戸惑いを感じるのは自然なことです。気持ちを一人で抱え込まず、家族や医療スタッフに話してください。落ち込みや眠れない状態が続くときは、遠慮なく相談を。つらい気持ちが強いときは、地域の相談窓口や医療機関に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを下げることはできます。禁煙、血圧・血糖・コレステロールの管理、心房細動などの不整脈を医師と一緒に治療することが大切です。また、脚の変化を日ごろから観察しておくと、異常に早く気づけます。
検診プログラム
動脈硬化のリスクがある人(喫煙、糖尿病、高血圧、高齢など)は、健康診断などで足の血圧を測る検査(ABI)を受けることがあります。動悸や脈の乱れを感じたら、心電図で不整脈を調べてもらいましょう。健診結果で気になる点があれば、かかりつけ医に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 筋肉や神経が傷つき、脚の機能が失われる
- 組織が死んでしまい、脚の切断が必要になる
- 壊れた筋肉の成分が体に回り、腎臓や心臓に大きな負担がかかる
- 命に関わる状態になることがある
長期的な見通し
急性下肢虚血は命に関わる病気ですが、早く気づいて早く治療すれば、多くの場合で脚を救うことができます。症状が始まってからの時間がとても重要です。「おかしいな」と思ったらすぐに119番。それが、いちばん確かな希望につながります。治療後も、禁煙と血管の管理を続けることで、再発のリスクを下げられます。
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最終更新: 2026年11月3日
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