子どもの注意欠如・多動症(ADHD)
国際的な診療ガイドラインに基づく
概要
注意欠如・多動症(ADHD)は、脳の発達の特徴のひとつで、「不注意(気が散りやすい)」「多動(じっとしていられない)」「衝動性(考えずに行動してしまう)」などの行動が強く表れ、日常生活や学校生活に支障が出ることがあります。しつけや親のせいではなく、脳の働き方が関係しています。
重要な事実
- ADHDは子どもに多く見られる発達の特徴です。
- 「もう少し注意すれば…」「頑張ればできるのでは?」という問題ではありません。
- 適切な支援や治療で、子どもが自分の良さを生かして成長することができます。
- 診断や治療には、医師・心理士・学校・家庭が連携することが大切です。
ADHDは珍しいものではありません。日本を含め、世界中の子どもの約5%にみられるといわれています。
子どもに発症しやすく、男の子のほうが診断されることが多いですが、女の子にもあります。多くの場合、小学校低学年ごろに目立ってきますが、幼児期から気づかれることもあります。
症状
- 子どもが自分を傷つける行動をしている、またはその恐れが強い
- 子どもが他人に激しい暴力をふるい、止められない
- 急に倒れた、呼びかけに反応しないなど、命に関わる状態がある
- ⚠強いパニックや興奮が長時間続き、家庭や学校で危険な行動が見られる
- ⚠突然、大きなけがをした、または事故にあいそうになった
- ⚠緊急ではないが、親や先生が「このままでは危険」と強く感じて、その日のうちに相談したい
一般的な症状
- 注意力が短く、細かいところまで気が回らない
- 順番を待てない、話を遮ってしまう
- 落ち着きがなく、じっとしていられない
- 物忘れや忘れ物が多い
- 思いつきで危険な行動をとることがある
子供の症状
- 宿題や片づけに時間がかかり、やり忘れが多い
- 座っているべき場面で立ち歩く
- 質問が終わる前に答えてしまう
- やっていることに飽きやすく、遊びや作業が頻繁に切り替わる
- 友達とのトラブルや、けがが多い
原因
主な原因
- ADHDは、脳の「実行機能」や「感情のコントロール」にかかわる部分の発達に特徴があることで起こると考えられています。
- 遺伝的な要素が関係していることがわかってきていますが、特定の遺伝子のせいというわけではありません。
- 親のしつけや育て方が原因ではないことがはっきりしています。
- 何かひとつの理由で起こるのではなく、いくつかの要因が重なって現れます。
リスク要因
- 家族にADHDや、発達の特性を持つ人がいる
- 早産で生まれた、出生体重が少なかった
- 妊娠中のお母さんの健康状態や、喫煙・アルコールなどの影響
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 子どもが自分や他人を傷つける危険な行動を何度も繰り返す
- パニックや興奮が強く、生活がまわらないほどつらい状態が続いている
定期受診を予約すべき場合:
- 幼稚園や小学校で「じっとしていられない」「集団行動がむずかしい」と指摘される
- 家で忘れ物が多く、学習や生活に困りごとが続いている
- 「この子に合うかかわり方を知りたい」と感じている
- 学校や家庭で、ほめたり注意したりしてもよいことがないと感じる
診断
ADHDの診断は、血液検査やCTなどで「はい」と決まるものではありません。医師が、保護者や本人から聞き取りをし、学校での様子をふまえて、行動がどれくらいの頻度で、どの程度の強さで、長く続いているかを慎重に評価して行います。
行われる可能性のある検査
- 医師との面接(問診)
- 行動評価のための質問票(保護者や学校の先生が記入)
- 知能・学習の状態を確認する検査(発達の凸凹を理解するため)
- 視力・聴力の検査(他の原因を見わけないため)
診察で予想されること
「これだけで診断」という検査はありません。数週間から数か月のあいだ、家庭や学校の様子をしながら、小児科医や児童精神科医を中心に進められます。はじめから薬を使うことはめったになく、まずは環境の調整やサポートの方法が話し合われます。
治療
ADHDの治療は「この薬を飲めば治る」というものではなく、子どもが生活しやすくなるためのサポートです。保護者へのペアレントトレーニング、学校での工夫、行動療法などが中心になり、必要に応じて医師の指導のもとで薬物療法がすすめられます。治療の目標は、困っている行動を減らすことではなく、子どもの持つよい面を伸ばし、自信をもって生活できるようにすることです。
自宅でのセルフケア
- 一日の予定を決まった流れで同じ時間におこなう「ルーティン」を作る
- 口で伝えるだけではなく、メモや絵カード、タイマーなどの目に見える合図を使う
- 「これをやりなさい」と言うときは、短くわかりやすい言葉でひとつずつ伝える
- よい行動を見つけたら、その場で具体的にほめる
- 宿題や片づけは、小さい区切りにわけて、適度に休憩を入れる
- テレビやゲーム、スマホなどの時間を決めて、夜の睡眠をしっかりとる
医療治療
薬物療法は、医師による診断と説明を踏まえ、保護者の同意のもとで検討されます。使用される薬は脳の情報伝達の働きを整え、集中しやすくするタイプのものです。かならず専門医の処方・指示にしたがって使用し、服用中の体調や様子を定期的に確認することが大切です。特定の薬名や用量は、一人ひとりの状態に合わせて医療機関で決められるため、ここには記載しません。
手術が検討される場合
ADHDに対して、手術治療は通常行いません。
この病気と共に生きる
ADHDのある子どもは、「失敗するのが当たり前」の毎日を送っていることが多いです。大人が接し方を工夫するだけで、安心して過ごせる時間が大きく増えます。できることをきっちりさせようとせず、できないことにはスモールステップで挑戦し、すぐにほめることを意識するとよいでしょう。
生活習慣のアドバイス
- 毎日同じ時間に起きて、十分に寝る
- 体を動かす遊びや運動を日課にする
- 朝・昼・夜の食事や睡眠などの生活のリズムを整える
- 動画やゲームの時間はあらかじめルールを決める
- 子どもが「好き」「得意」と思えることに時間をつくる
食事と運動
特別な「ADHDに効く食事」というものはありません。しかし、バランスのよい食事と適度な運動は、脳の働きや気分の安定に良い影響を与えるといわれています。砂糖や食品添加物がADHDを引き起こすという科学的な根拠は今のところ十分ではないため、神経質になりすぎず、食事の時間を楽しくすることが大切です。
精神的健康と心の健康
ADHDのある子どもは、周囲から「なんでできないの」と言われ続けると、自分に自信が持てず、つらい思いをすることがあります。親もまた「育て方が悪いのか」と自分を責め、疲れてしまうことがあります。そういった気持ちに気づいたら、無理せず、医療機関や学校、相談機関に話を聞いてもらいましょう。
予防
ADHDそのものを「予防する」ことは現在のところできません。大切なのは、早めに気づいて、子どもの特性に合ったかかわり方を始めることです。早い時期の支援は、その後のつまずきを減らし、自信を持って成長するために役立ちます。
ワクチン
ADHDを予防するための特別なワクチンはありませんが、通常の小児期の予防接種は、健康を守るために受けるようにしましょう。体調や発達が気になるときは、接種の前に医師に相談できます。
検診プログラム
ADHDを確定するための特別な「スクリーニング検査」はありません。乳幼児健診や学校での健康観察、先生の指摘などをきっかけに、気になる行動が続けば医療機関に相談するのが第一歩です。
合併症
治療しない場合
- 勉強の遅れや「学校が楽しくない」という気持ちが強くなることがある
- 友達や家族とのトラブルが続き、孤立したり自信を失ったりする
- 思春期以降に、うつ病や不安症を併発することがある
- 危険な行動や衝動的な事故に遭いやすくなることがある
長期的な見通し
ADHDは決して「直らない」病気ではありません。特性に合った周囲の理解と支援があれば、多くの子どもが自分の力を発揮して成長していきます。多動なエネルギーや発想の自由さを長所として伸ばし、大人になってからその才能を活かしている人もたくさんいます。将来を悲観せず、一歩ずつサポートすることが大切です。
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最終更新: 2026年8月14日
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