ギラン・バレー症候群に伴う自律神経の不調(自律神経障害)
概要
ギラン・バレー症候群(GBS)は、体の免疫(自分を守る仕組み)が誤って末梢神経(手足や体の内側にある神経の糸)を攻撃してしまう病気です。手足の力が入りにくくなったり、しびれたりするのが代表的な症状です。この神経の中には「自律神経」という、自分の意思では動かせない体の働きを調整する神経があります。自律神経は、心臓の速さ、血圧、汗、体温、胃腸の動き、尿の出方などをコントロールしています。GBSの人では、この自律神経も一緒に障害されることがあり、血圧が急に上がったり下がったりする、脈が乱れる、汗のかき方が変になる、便秘や尿が出にくくなる、といった症状が現れることがあります。これを「自律神経障害」と呼びます。
重要な事実
- 自律神経の不調は、GBSの経過の途中で現れることがあります。手足の症状だけでなく、血圧や脈の変化にも注意が必要です。
- 症状は人によってさまざまで、まったく出ない人もいれば、血圧の大きな変動や不整脈が出る人もいます。
- 多くの場合、病気の回復とともに自律神経の症状も少しずつ落ち着いていきますが、入院中の観察と対応がとても大切です。
GBSそのものは珍しい病気で、人口10万人あたり年間1〜2人程度といわれています。そのうちの一部の人に自律神経の不調がみられます。珍しい病気だからこそ、医療者は血圧や脈をこまめに確認して、変化を早く見つけるようにしています。
GBSは子どもから高齢者まで、どの年齢でも起こりますが、成人に多い傾向があります。感染症(かぜや胃腸炎など)にかかったあと1〜3週間ほどして発症することが多いといわれています。自律神経の症状は、病気の勢いが強い人、症状が急に進む人、呼吸の助けが必要になる人により出やすいとされています。
症状
- 意識が遠のく、気を失う、呼びかけへの反応が弱い
- 胸の痛み、強い動悸、脈が極端に速いまたは極端に遅いと感じる
- 呼吸が苦しい、息が浅い、話すのがつらい(GBSでは呼吸の筋肉が弱ることがあります)
- 飲み込みにくい、むせる、唾液が飲み込めない
- 血圧が非常に高い、または測れないほど低い状態が続く
- 尿がまったく出ない、または強い腹痛と嘔吐が続く
- ⚠立ちくらみやふらつきが繰り返し起きる
- ⚠動悸が続く、脈の乱れを感じる
- ⚠嘔吐が続いて水分がとれない
- ⚠数日排便がなく、お腹の張りが強い
- ⚠汗の出方が明らかにおかしい、体温調節がうまくいかない
- ⚠尿が出にくい、お腹に尿がたまっている感じがする
一般的な症状
- 血圧が急に上がったり下がったりする(特に体を起こしたときのふらつきや立ちくらみ)
- 脈が速くなる、遅くなる、または不規則になる(動悸を感じることもある)
- 汗のかき方が変になる(暑くないのに汗が出る、逆に汗が出にくい)
- 便が出にくい(便秘)、お腹が張る、胃の動きが悪く感じる
- 尿が出にくい、残った感じがする、トイレの回数が変わる
- 顔がほてる、体が熱っぽい、または冷えを感じるなど体温調節の変化
- 涙や唾液の量が変わる、口や目が乾く
- 理由がはっきりしない吐き気やお腹の不快感
子供の症状
- 自分の症状をうまく言葉で説明できないことがあるため、顔色が悪い、ぐったりしている、機嫌が悪いといった様子の変化が手がかりになります。
- 腹痛や吐き気、繰り返す嘔吐として現れることがあります。
- 立ちくらみで転んだり、ふらついたりすることがあります。
- 脈が速い、汗が多い、手足が冷たいといった変化に、家族が気づくこともあります。
高齢者の症状
- 血圧の変動でふらつきや転倒が起きやすくなります。骨折やけがにつながることもあるため注意が必要です。
- 脱水になりやすいので、水分がとれているか、尿の量はどうかを一緒に見守ることが大切です。
- 便秘が長引いたり、尿が出にくくなったりしやすい傾向があります。
- 糖尿病や心臓病、高血圧などの持病がある方は、症状の出方が複雑になることがあります。持っている薬との関係も含めて、必ず医師・薬剤師に伝えてください。
原因
主な原因
- GBSでは、免疫が誤って末梢神経を攻撃します。その中に自律神経の線維が含まれると、血圧・脈・汗・消化管・膀胱の働きが乱れます。
- 感染症(胃腸炎やかぜなど)のあとに免疫の反応がずれて発症することが多いといわれています。
- 病気の勢いが強い時期には、神経の信号が不安定になり、血圧や脈が大きく変動しやすくなります。
- 入院中の治療や環境の変化(安静、点滴、体位の変化など)によって、一時的に血圧が動くこともあります。
リスク要因
- 症状が急に進む、または重症度が高い
- 呼吸の助け(人工呼吸器)が必要になる
- 高齢である
- 糖尿病、心臓病、高血圧などの持病がある
- 入院して動く時間が長く減っている
- 水分や食事が十分にとれていない
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 気を失った、意識がもうろうとした
- 胸の痛みや強い動悸がある
- 呼吸が苦しい、飲み込みにくい、むせる
- 血圧が大きく上下する、または脈が極端に速い・遅い
- 尿がまったく出ない、嘔吐が止まらない
定期受診を予約すべき場合:
- 立ちくらみやふらつきが時々ある
- 便秘や尿の出にくさが続いている
- 汗のかき方が以前と違うと感じる
- 動悸や体のほてりが気になる
- 回復期に入っても疲れやすさや血圧の不安定さが続く
診断
まず、症状の出方や経過をくわしく聞き、血圧と脈を寝た状態と起きた状態の両方で測ります。GBSそのものの診断に加えて、自律神経の働きがどこまで影響を受けているかを、検査を組み合わせて確認します。診断は「GBSの一部として自律神経の不調があるか」を見極める形で進みます。
行われる可能性のある検査
- 血圧と脈の測定(横になったときと、座る・立ったときの変化を比べる)
- 心電図(脈の乱れや心臓のリズムを確認)
- 必要に応じて24時間心電図(ホルター心電図)
- 血液検査(電解質、血糖、腎臓の働き、栄養状態などを確認)
- 発汗の検査や、自律神経の働きをみる検査(施設によって行われます)
- 呼吸の力や飲み込みの評価
- 尿の量や残尿の確認、腹部の診察
診察で予想されること
検査は痛みの少ないものがほとんどですが、何度も血圧を測ったり、機械をつけたりするため少し落ち着かないこともあります。結果によって対応が変わるため、気になる点は遠慮なく質問してください。入院中は定期的な測定が続きますが、それは変化を早く見つけるための大切な観察です。
治療
治療は大きく2つに分かれます。1つはGBSそのものの勢いを抑える治療、もう1つは自律神経の不調によって起こる血圧の変動や脈の乱れ、便秘や尿の問題をその都度やわらげる対応です。どちらも担当医の判断のもとで進みます。
自宅でのセルフケア
- 起き上がるときは、ゆっくり時間をかけて体を起こす(急に立たない)
- 水分をこまめにとり、脱水を避ける(医師に量の指示がある場合はそれに従う)
- 入院中はベッドの端に座ってから立つなど、安全な動きを看護師と確認する
- 便通を意識して記録し、便秘が続くときは早めに伝える
- 尿が出にくい、お腹が張るときは我慢せずスタッフに伝える
- 暑さ・寒さを感じたら、衣類や室温で調整する
- 体調の変化(ふらつき、動悸、汗の変化)をメモしておき、診察のときに伝える
医療治療
GBSそのものに対しては、免疫の働きを調整する治療(血液を介した治療や、免疫に関する治療)が行われることがあります。自律神経の症状に対しては、血圧と脈をこまめに測って観察し、血圧の変動に合わせた対応、脈の乱れへの対応、点滴による水分調整、便秘や尿の問題への対応などが行われます。症状の程度に応じて、集中治療の場で観察が続くこともあります。具体的な治療内容や薬の使用は、担当医が病状を見て決めますので、わからないことは遠慮なく尋ねてください。
手術が検討される場合
自律神経障害そのものに対する手術は通常行われません。ただし、別の病気や合併症で手術が必要と判断される場合は、担当医と相談のうえで方針が決まります。
この病気と共に生きる
回復の途中では、血圧が不安定な時間帯があったり、疲れやすかったりします。朝のうちはゆっくり動く、外出時は座れる場所を確認する、といった小さな工夫が安心につながります。入院中はスタッフと一緒に、安全な動き方やトイレの工夫を練習しておくと、退院後の生活が楽になります。
生活習慣のアドバイス
- 急な動作を避け、ゆっくり動く習慣をつける
- 睡眠を十分にとり、疲れたら休む(回復期は休息も大切な治療です)
- 水分をこまめにとり、脱水を防ぐ
- 便秘を防ぐために、食物繊維や発酵食品を意識してとる
- 医師の許可のもとで、無理のない範囲のリハビリや散歩を続ける
- 飲酒や喫煙は血圧や脈に影響することがあるため、医師に相談する
- 体調の記録(血圧、脈、排便、尿、汗の変化)をつけておくと診察に役立つ
食事と運動
食事は、塩分をとりすぎないこと、水分をしっかりとることを意識しながら、バランスよく食べることが基本です。便秘がちなときは、野菜やきのこ、海藻などの食物繊維と、適度な水分を組み合わせるとよいでしょう。運動は、回復期にはリハビリの専門家と相談しながら、少しずつ体を動かしていきます。立ちくらみがあるときは、無理に立って運動せず、座った姿勢での運動から始めましょう。
精神的健康と心の健康
急に体が動かなくなったり、血圧の変化で不安が続いたりすると、こころが疲れてしまうのは自然なことです。GBSは回復に時間がかかることがあり、いらだちや不安、眠りにくさを感じる方も少なくありません。つらい気持ちを一人で抱え込まず、家族や友人、医療スタッフに話してみてください。気持ちの落ち込みが続くときは、かかりつけ医や地域の相談窓口、自治体の保健センターに相談することができます。
予防
GBSそのものを確実に防ぐ方法は、今のところ知られていません。自律神経障害についても「ならないようにする」予防法はありませんが、血圧や脈の変化を早く見つけて対応することが、大きなトラブルを防ぐことにつながります。入院中の観察と、退院後のセルフチェックが大切です。
ワクチン
ワクチン接種とGBSの関連については、まれな報告があるものの、はっきりした因果関係は分かっていません。予防接種を受けるかどうか迷う場合は、持病やこれまでの経過をふまえて、かかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
GBSや自律神経障害に対する特別なスクリーニング検査はありません。ただし、糖尿病や高血圧などの持病がある方は、ふだんの健康診断を続けることが大切です。
合併症
治療しない場合
- 血圧が急に下がって気を失い、転倒してけがをすることがある
- 脈の乱れが続き、心臓に負担がかかることがある
- 飲み込みが悪くなり、誤嚥(食べ物が気管に入る)による肺炎を起こすことがある
- 尿が出にくい状態が続き、尿路の感染症を起こすことがある
- 便秘が長引き、お腹の張りや痛みが出る
- 動けない時間が長くなり、足の血管に血の塊ができる(血栓症)ことがある
- 入院が長引くことで、体力や筋力が低下することがある
長期的な見通し
GBSは回復が見込める病気です。多くの方は数週間から数か月かけて、手足の力や自律神経の働きが少しずつ戻っていきます。自律神経の症状も、経過とともに落ち着くことが多いとされています。一方で、疲れやすさや血圧の不安定さがしばらく残る方もいます。回復には個人差があり、時間がかかることもありますが、リハビリと周囲のサポートを続けることで、日常生活を取り戻していく方が多くいます。
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最終更新: 2026年11月3日
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