中枢神経系の先天異常について
国際的な診療ガイドラインに基づく
概要
中枢神経系の先天異常とは、赤ちゃんがおなかの中で成長する間に、脳や脊髄などの神経系がうまく形づくられずに生まれてくる状態のことです。「中枢神経系」は、からだ全体の動きや感覚、考え方をつかさどる大切な部分です。代表的なものに、脊髄やそのまわりがうまく閉じない「二分脊椎」、脳や脊髄をおおう膜が飛び出る「髄膜瘤」、脳の中に水がたまる「水頭症」、頭が小さい「小頭症」などがあります。
重要な事実
- 中枢神経系の先天異常は、脳や脊髄の発達が影響を受けるため、運動・感覚・知的発達に影響することがあります。
- 多くは妊娠中の赤ちゃんの時期に起こりますが、軽い症状なら生まれてしばらくしてから気づかれることもあります。
- 早期に発見し、適切な治療や支援につなげることで、生活の質を大きく向上させることができます。
まれな病気ですが、決してゼロではありません。日本では、妊娠する女性のおよそ1,000人に1人程度の割合で、なんらかの中枢神経系の先天異常がみられるといわれています。
おなかの中の赤ちゃんに起こる状態で、男の子でも女の子でもみられる可能性があります。また、すでに先天異常をもつ子がいるご家庭では、次の妊娠で同じ状態が起こるリスクがわずかに高くなることもありますが、大多数は健康な赤ちゃんが生まれます。
症状
- 呼びかけに反応せず、意識がない
- けいれんが5分以上止まらない、または繰り返し起こる
- 呼吸が止まる、または浅くて不規則な呼吸が続く
- 頭部が急に腫れて、触ると異常にやわらかい
- 顔色が真っ青で、ぐったりして力がない
- ⚠38度以上の発熱があり、ぐったりしている
- ⚠何度も吐く、ミルクや水分を受けつけない
- ⚠頭囲が急に大きくなる、または泉門(頭のてっぺんのやわらかい部分)が異常にふくらむ
- ⚠けいれんのような短い発作がみられる
- ⚠けがをしたわけではないのに、あざや出血が背骨のまわりにある
一般的な症状
- 頭が通常より大きい、または小さい
- けいれんやびくつき、体がピンとつっぱる
- 目の動きがおかしい、視線が合いにくい
- 母乳やミルクの飲みが弱い、むせやすい
- 手足の動きが少ない、左右で動きに違いがある
- 発達の遅れ(首がすわらない、寝返りしない、座らないなど)
子供の症状
- 歩き方や運動が不器用で、転びやすい
- 学習や言葉の遅れがみられる
- 集中力や記憶に課題がある
- 排尿や排便のコントロールがむずかしい
- 背中や足にしびれや痛みがある
高齢者の症状
- 小児期からの症状に加えて、筋力の低下や関節のこわばりが進むことがある
- 長年の姿勢や運動の負担から、腰痛や膝の痛みが現れることがある
- しびれや排尿のトラブルが悪化することがある
- これまでできていた日常生活動作に手助けが必要になることがある
原因
主な原因
- はっきりした原因がわからないことが多く、遺伝的な要素と環境的な要素が重なって起こると考えられています。
- 赤ちゃんの脳や脊髄は妊娠初期(特に妊娠4〜6週ごろ)に形成されるため、この時期の何らかの影響が関係することがあります。
- 特定のウィルス感染(風疹など)や、一部の薬剤、アルコールなどが関連することがあります。
- お母さんの体の状態(糖尿病や肥満など)が影響することがあります。
リスク要因
- 妊娠前からの葉酸(ビタミンB群の一種)不足
- 妊娠中の糖尿病や肥満
- 妊娠初期の風疹などの感染症
- 一部のてんかん薬など、特定の薬の使用
- 家族の中に中枢神経系の先天異常をもつ人がいる
- 過去に神経管閉鎖障害の子どもを妊娠したことがある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- けいれんが止まらない、または何度も繰り返す
- ぐったりして呼びかけに反応しない
- 繰り返す嘔吐、特に噴水のように吐く
- 頭囲が急に大きくなる
- 背中のしこりが破れて、液がにじんでいる
定期受診を予約すべき場合:
- お子さんの発達が気になる(首すわり、寝返り、歩きはじめなどが遅い)
- 運動や学習で周りの子との差を感じる
- 排尿や排便のコントロールがむずかしい
- 妊娠を計画しているが、葉酸をいつから飲めばいいか知りたい
- 過去に先天異常の子どもを出産したことがあり、次の妊娠について相談したい
診断
中枢神経系の先天異常は、妊娠中のおなかの中のエコー(超音波)検査で見つかることがありますが、生まれた後の症状や診察で診断されることもあります。確定診断には、画像検査や神経の検査が必要です。
行われる可能性のある検査
- 妊娠中の超音波(エコー)検査
- 母体血清マーカー検査(妊婦の血液から赤ちゃんの状態を推測する検査)
- 赤ちゃんの頭や背中のMRI・CT検査
- 脊椎のレントゲン検査
- 脳波検査(けいれんや脳の電気活動を見る検査)
- 神経学的診察(反射や運動の状態を確認する検査)
診察で予想されること
診断の流れは、まず小児科医や産科医がお話を聞き、体の状態を診察します。必要に応じて、脳神経外科や整形外科、リハビリテーション科などの専門医を紹介されます。検査によって、状態の程度や合併症を詳しく評価し、治療方針を一緒に決めていきます。検査で不安があれば、その場で質問をし、納得できるまで説明を受けてください。
治療
治療は、症状や重症度に応じて個別に組み立てられます。根本的に脳や脊髄の形を元に戻す治療は難しいですが、症状をやわらげ、からだの機能をできるだけ高めるための治療・リハビリ・支援を長期的に行うことが中心になります。
自宅でのセルフケア
- 医療機関やリハビリテーションの予約を長く途切れさせずに通い続ける
- 家庭でできる運動やマッサージを理学療法士などの指導を受けて行う
- お子さんの様子を毎日観察し、変化があれば記録して医師や看護師に伝える
- 保護者同士で情報交換をし、地域の子育て支援を利用する
- 無理をせず、保護者自身も休養をとる
医療治療
けいれんや筋肉のこわばり、脳圧の上昇などに対して、症状をやわらげるお薬が使われることがあります。また、膀胱や腸の機能をサポートするお薬や、リハビリを助けるお薬が使われることもあります。どのお薬も、お子さんや患者さんの年齢や状態に合わせて医師が慎重に選びます。必ず処方を受けて、指示されたとおりに使用してください。自分で市販薬を追加したり、ほかの人の薬を使ったりしてはいけません。
手術が検討される場合
背中の皮膚が破れて神経が露出している場合(開放性二分脊椎)や、脳脊髄液の通り道がふさがって脳に水がたまる水頭症の場合は、手術が必要になることがあります。また、脊髄のまわりの骨や組織が神経を圧迫している場合に、手術で圧迫をとることもあります。手術のタイミングや方法は、状態や年齢をみながら専門医が判断します。
この病気と共に生きる
中枢神経系の先天異常は、生涯にわたってつきあっていく状態です。しかし、多くの人が適切な医療や支援を受けながら、学校に行き、仕事をし、家庭を築いています。一人ひとりの能力に合わせて、運動面・学習面・生活面のサポートを組み合わせることが大切です。定期的な通院とリハビリを続けることで、からだの機能を維持・向上できます。
生活習慣のアドバイス
- 毎日の生活リズムを整え、十分な睡眠をとる
- 無理のない範囲で体を動かす習慣をもつ
- 水頭症の人は、頭の密な観察が必要です。急な頭痛や吐き気に注意する
- てんかんがある場合は、水泳や入浴など事故防止の工夫が必要
- 保護者や成人の患者さんの場合は、運転免許や就労について専門家に相談する
食事と運動
バランスの良い食事を心がけましょう。便秘や排尿トラブルがある場合は、水分を適切にとり、食物繊維を意識するとよいでしょう。運動は、理学療法士の指導のもとで、筋力維持や関節の動きをサポートする運動を続けることが勧められます。体重が増えすぎると腰や膝に負担がかかるため、健康的な体重を維持することも重要です。
精神的健康と心の健康
自分の体や発達に違いがあると、自信をなくしたり、いじめや孤立を経験したりして、こころの負担を感じることがあります。特に小児期〜青年期は、自己肯定感が育ちにくいこともあります。そうした悩みは医療者や学校のカウンセラー、心理士に話しましょう。大人の患者さんも、長年の疲れや将来の不安を抱えやすいです。精神的な苦しさや、眠れない・食欲がないなどの症状が続く場合は、早めに医師に相談してください。
予防
すべての中枢神経系の先天異常を予防することはできません。しかし、神経管閉鎖障害の一部は、妊娠前から葉酸を十分に摂取することでリスクを減らせることがわかっています。妊娠を計画している人は、妊娠の少なくとも1か月前から妊娠初期の間、医師や助産師に相談しながら葉酸を補うことがすすめられます。
ワクチン
妊娠可能年齢の女性が風疹にかからないように、妊娠前に風疹の抗体検査を受け、必要があればワクチン接種を済ませておくことが推奨されています。風疹は妊娠初期に感染すると、赤ちゃんの心臓や目、耳、神経に影響を及ぼすことがあります。詳しくは母子手帳の記録や医師に相談してください。
検診プログラム
妊婦健診では、超音波検査や母体血清マーカー検査などで、中枢神経系の先天異常がみつかることがあります。ただし、すべての異常を必ず見つけられるわけではありません。若いときから健康管理を行い、妊娠前から葉酸や生活習慣に気をつけることも大切です。
合併症
治療しない場合
- 脊髄の露出部分から細菌が入り、髄膜炎を起こすことがある
- 水頭症が進行して脳圧が上がり、視力障害や意識障害を起こすことがある
- 運動機能の低下や変形が進み、歩行困難になることがある
- 排尿・排便の管理が難しく、尿路感染症や腎障害を起こすことがある
- けいれん(てんかん)の発作が続き、窒息やけがのリスクが高まる
長期的な見通し
早期に発見し、適切な治療・リハビリ・教育支援を受けることで、多くの子どもは元気に成長し、自立した生活を送ることができます。治療や支援の技術は日々進歩しており、成人になったあとも社会参加の可能性は広がっています。完全に治ることは少ないかもしれませんが、「できること」を少しずつ増やし、豊かな人生を歩むことは十分に可能です。
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情報源とガイダンス
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最終更新: 2026年8月14日
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