シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)
概要
シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は、手足の先まで伸びている細い神経(末梢神経)が、少しずつ傷んでくる病気です。生まれつきの遺伝子の変化が原因で起こります。神経から筋肉へ命令がうまく届きにくくなるため、足や手の筋肉がやせて力が入りにくくなったり、感覚がにぶくなったりします。ゆっくりと進むのが特徴で、症状の出方や進み方は人によって大きく違います。
重要な事実
- 遺伝子の変化が原因の、遺伝性の神経の病気です。日本では指定難病に含まれています。
- 足がつまずきやすい、足の形が変わる、手の細かい作業がしにくい、といった症状が少しずつ出てきます。
- 根本的に治す治療はまだありませんが、リハビリや装具、生活の工夫で、できることを保ちながら暮らせます。進み方はとてもゆっくりで、多くの人は寿命に影響なく生活しています。
特別に多い病気ではありませんが、遺伝性の神経の病気の中ではもっとも多いものです。外国の報告では、およそ2,500人に1人くらいの割合で見られると言われています。日本でも同じくらいの人がいるのではないかと考えられています。
生まれつきの遺伝子の変化が原因なので、子どもから大人まで、どの年齢でも症状が分かることがあります。多くは10代から20代の間に、走るのが遅い、つまずきやすいなどで気づかれますが、もっと遅くに分かることもあります。男女の差はほとんどありません。家族に同じ症状の人がいることが多い一方で、家族に誰もいない場合もあります。
症状
- 転んで頭を強く打った、意識がない、けいれんしている → すぐに119番に電話してください
- 息が苦しい、急に声が出ない、飲み込みにくい(特に重症のタイプで呼吸の筋肉が弱ったとき) → すぐに119番に電話してください
- 急に片方の手足が動かない、言葉が出ない、顔がゆがむ(脳卒中のサインの可能性) → すぐに119番に電話してください
- ⚠足や手のけがが治らず、赤く腫れている、膿が出る、熱がある(感染のサイン)
- ⚠急に歩けなくなった、急に手足に力が入らなくなった
- ⚠傷が黒ずんでいる、感覚がない場所に傷ができた
- ⚠痛みが強く、眠れない
一般的な症状
- 足の先が上がりにくく、つまずきやすい(下垂足=足首を上に曲げる力が弱くなった状態)
- ふくらはぎが細くなる(びんの底のような形になることがあります)
- 足の裏のアーチが高くなる(ハイアーチ)。靴が合いにくく、靴ずれをくり返す
- 手の力が弱くなり、ボタンを留める、箸を使う、ペットボトルのふたを開けるなどがしにくくなる
- 指先や足の感覚がにぶい、しびれる、じんじんする
- 歩くのが遅い、走るのが苦手、疲れやすい
- 足首や膝の痛み、筋肉のけいれん
- 転びやすい、バランスがとりにくい
子供の症状
- 走るのが遅い、よく転ぶ、なわとびやかけっこが苦手
- かかとを上げてつま先立ちができない、片足で立てない
- 体育の時間に疲れやすい、歩くのが遅いと指摘される
- 靴の減り方が左右で違う、靴ずれが多い
- 手先が不器用で、字が書きにくい、ボタンや箸が使いにくい
- 知能や勉強の力には影響しないのがふつうです
高齢者の症状
- 症状が少しずつ進み、長い距離を歩くときに杖や装具が必要になることがある
- 転びやすくなり、転倒によるけがに注意が必要になる
- 手の細かい作業が難しくなり、生活の工夫が必要になる
- 糖尿病など、別の原因による神経の障害と見分けることが大切になる
原因
主な原因
- 生まれつきの遺伝子の変化が原因です。神経の形やはたらきに必要なタンパク質の設計図が、一部変わっているために起こります。
- 多くは、親から子へ伝わるタイプ(常染色体優性遺伝)で、子どもに伝わる確率はおよそ2分の1と言われています。
- タイプによって遺伝のしかたは異なり、両親から伝わる劣性のタイプや、X染色体によるタイプもあります。
- 家族に誰も同じ症状がいないのに、本人の遺伝子に新しく変化が生じて発症する場合もあります。
リスク要因
- 家族にCMTの人がいること(いちばん大きな手がかりです)
- 生まれつき持っている遺伝子の変化
- 年齢、食事、運動不足などの生活習慣が原因で起こる病気ではありません
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に歩けなくなった、急に手足に力が入らなくなった
- 転倒して頭を打った、意識がもうろうとしている
- 足の傷が赤く腫れて膿が出る、熱がある
- 息苦しさや飲み込みにくさがある
定期受診を予約すべき場合:
- つまずきやすい、走るのが遅い、階段の上り下りがつらい
- 足の形が変わってきた、靴が合わない、靴ずれをくり返す
- 手の細かい作業がしにくくなってきた
- 家族に同じような症状の人がいる
- 指先のしびれや感覚のにぶさが続いている
診断
まず、どんな症状がいつごろからあるのか、家族に同じような人がいるかをお話しいただきます。そのうえで、神経のはたらきをみる検査や、血液で遺伝子を調べる検査を行い、糖尿病やビタミン不足など、ほかの原因ではないことを確かめます。小児科、神経内科、整形外科、リハビリ科など、いくつかの科が一緒に診ていくことがあります。
行われる可能性のある検査
- 神経伝導検査:皮膚の上から小さな電気を流し、神経が命令を伝える速さや強さを調べる検査です。痛みはほとんどありません。
- 針筋電図:細い針を筋肉に刺して、筋肉の電気のはたらきを調べる検査です。
- 血液検査:ビタミン不足、甲状腺の病気、糖尿病など、別の原因がないかを確かめます。
- 遺伝子検査:血液を採って、原因となる遺伝子の変化を調べます。結果が出るまで時間がかかることがあります。
- 家族の検査:必要に応じて、ご家族も検査を受けることがあります。
- 画像検査や神経の組織を調べる検査:必要がある場合に限って行われます。
診察で予想されること
診断がつくまでに、何か月もかかることがあります。よく似た症状の病気がほかにも多いためです。結果を聞くときは、一人で行かず、ご家族や信頼できる人と一緒に行くと安心です。遺伝について心配なときは、遺伝カウンセリング(遺伝のことを専門家と話し合う場)を受けることができます。
治療
CMTの根本的な原因を取り除く治療は、まだ確立していません。治療の中心は、今ある力をできるだけ長く保ち、日常生活を安全に快適に過ごすことです。症状や生活スタイルに合わせて、リハビリ、装具、生活の工夫を組み合わせます。定期的に通院して、変化に早く気づけるようにします。
自宅でのセルフケア
- 毎日、足の裏や指の間をよく見て、傷や赤みがないか確認する(感覚がにぶいと気づきにくいため)
- 足を清潔に保ち、乾燥させずに保湿する。爪は無理に切らず、必要なときはフットケアの専門家に相談する
- 足に合った、クッション性のある靴を選ぶ。インソール(中敷き)を使うのも助けになります
- 無理のない範囲で、ストレッチや軽い運動を続ける
- 疲れをためないように、こまめに休憩をとる
- 体重を適正に保ち、たばこを吸わない
医療治療
リハビリテーション(理学療法・作業療法)が中心になります。筋肉の柔軟性を保つストレッチ、筋力を維持する運動、バランスの練習、手の動きを助ける練習などを行います。足首を支える装具(AFO=足首と足を支えるプラスチック製の装具)や、杖・歩行器などで歩行を助けることもあります。痛みやしびれがつらいときは、医師が症状に合わせた対処を考えます。薬の名前や量については、必ず主治医の指示に従ってください。
手術が検討される場合
足の変形が強く、装具やリハビリでは日常生活が難しい場合に、整形外科で手術を検討することがあります。腱を移す手術や、関節を固定する手術などがありますが、すべての人に必要なものではありません。手術は、症状や生活の状況をよく話し合ったうえで決めます。
この病気と共に生きる
CMTは長く付き合っていく病気なので、毎日の暮らしを自分に合った形に整えていくことが大切です。疲れやすいため、こまめに休む、予定を詰め込みすぎないといった「ペース配分」が助けになります。段差や階段、滑りやすい床には注意し、手すりや滑り止めを上手に使いましょう。ボタンの代わりに面ファスナーを使う、持ちやすい食器を使うなど、道具の力を借りることも立派な工夫です。
生活習慣のアドバイス
- 家の中の段差や障害物を減らし、手すりや夜間の照明を整える
- 滑りにくい靴を選び、ヒールの高い靴やサンダルは控えめにする
- こまめに休憩をとり、疲れをためない
- 車の運転は、足の力や感覚の変化について医師に相談してから判断する
- たばこをやめる(血流や神経の健康に良い影響があります)
- 補装具の給付などの制度について、自治体の窓口やソーシャルワーカーに相談する
食事と運動
CMTに特別な食事療法はありません。バランスのよい食事を心がけ、体重を適正に保つことが、足や関節への負担を減らします。お酒の飲みすぎは神経に良くないので控えめにしましょう。運動は、ウォーキング、水泳、固定式自転車、ストレッチ、バランス練習など、無理なく続けられるものがおすすめです。翌日まで強い筋肉痛が残るような運動は避け、理学療法士に自分に合ったメニューを相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
ゆっくりとはいえ進んでいく病気と付き合うのは、ときに不安や悲しさ、疲れを伴います。診断を受けたときの驚きや落ち込みは、自然な気持ちです。子どもでは、学校生活や友だちとの関係で悩むことがあります。気持ちがつらいときは、一人で抱えず、家族や医療者に話してください。眠れない、何も楽しめない、自分を傷つけたい気持ちがわいてくる、といった状態が続くときは、早めに医療機関や地域の相談窓口に連絡してください。命に関わる危険があるときは、ためらわず119番に電話してください。
予防
生まれつきの遺伝子の変化が原因なので、発症そのものを防ぐ方法はありません。ただ、遺伝カウンセリングを受けて、次の世代に伝わる可能性について専門家と話し合うことはできます。また、転倒やけが、足の傷、合併症を防ぐことはできます。定期的な受診と毎日のセルフケアが、その助けになります。
ワクチン
CMTに特効のワクチンはありません。ただし、インフルエンザや肺炎の予防接種は、感染症で体調を崩すのを防ぐ助けになります。受けるかどうかは主治医と相談してください。
検診プログラム
症状がない段階で受ける一般的なスクリーニング検査はありません。家族にCMTの人がいる場合は、遺伝カウンセリングの場で、検査を受けるかどうかを相談できます。また、糖尿病など神経を傷める別の病気がないかは、ふだんの健康診断で確認しておくと安心です。
合併症
治療しない場合
- 足の変形が進み、歩きにくさが増すことがある
- 関節が固まって動きが悪くなる(拘縮)
- 転びやすくなり、けがや骨折の危険が高まる
- 感覚がにぶいため足の傷やマメに気づかず、皮膚が深く傷んだ状態(潰瘍)や感染につながることがある
- 手の力が弱まり、日常生活の動作が難しくなる
- 痛みやしびれが続き、睡眠や気分に影響することがある
長期的な見通し
CMTはゆっくり進む病気で、多くの人は寿命に大きな影響を受けずに生活しています。装具やリハビリ、生活の工夫によって、できることを長く保つことができます。研究も進んでいて、新しい治療の可能性が調べられています。心配なことがあれば、ひとりで抱えずに、主治医や支援してくれる人たちと一緒に考えていきましょう。
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最終更新: 2026年10月22日
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