シャルル・ボネ症候群(視力が低下したときに、実際にはないものが見える症状)
概要
シャルル・ボネ症候群(しょうこうぐん)は、目が見えにくくなった人に起こる「幻視(げんし)」の症状です。幻視とは、そこに実際にはないものが見えてしまうことです。たとえば、人や動物、花の模様、風景などが急に現れます。大切なのは、本人は「これは本物ではない」とちゃんと分かっていて、意識もはっきりしていることです。認知症や精神の病気ではありません。目から入る情報が減ったことで、脳が足りない映像を自分で作り出してしまうために起こると考えられています。
重要な事実
- 実際にはないものが見えるが、本人は「作りもの」だと分かっていることが多いです。
- 意識ははっきりしていて、話の内容が混乱したり、昔のことに戻ったりすることはありません。
- 多くは加齢による視力の低下(目の中の網膜や神経の病気など)と関係しています。
- 症状は時間とともに軽くなったり、自然に消えたりすることが少なくありません。
どれくらいの人が経験するかは研究によって差がありますが、視力が低下した人のおよそ1〜2割に起こる可能性が指摘されています。ただ、多くの人は「変だと思われたらどうしよう」と誰にも話さないため、実際はもっと多いと考えられています。決してめずらしい「不思議な病気」ではありません。
主に、視力が低下した高齢者に多く見られます。加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい:目の奥の網膜が傷む病気)、緑内障(りょくないしょう)、糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)などが背景にあることが多いです。まれに、子どものころから視力が弱い若い人にも起こります。
症状
- 突然、視力が大きく失われた、または視野が急に欠けた
- 激しい頭痛、吐き気、けいれん、意識がぼんやりするなどが一緒に起きた
- 幻覚に強く迫られて、自分やまわりの人を傷つけそうになる、またはその恐れがある
- 急に会話がかみ合わない、場所や時間が分からなくなるなど、意識の混乱が強い
- ⚠幻視が急に始まり、日を追うごとに回数や時間が増えている
- ⚠見えるものが怖くて眠れない、外出できないなど、生活に大きな支障が出ている
- ⚠目の痛み、目の充血、光がまぶしすぎるなど、目の症状が新しく出てきた
- ⚠気分の落ち込みや強い不安が続き、ひとりで抱えきれないと感じる
一般的な症状
- 実際にはないものが見える(人、動物、虫、花、建物、風景、幾何学模様など)
- 見えるものは急に現れ、しばらくすると消えることが多い
- 見えるものは動いたり、大きさや形が変わったりすることがある
- 目を閉じても見えたり、部屋の明るさで見え方が変わったりする
- 見えているものには音や匂いが伴わない(話しかけられたりはしない)
- 「本物ではない」と自分で分かっていて、意識ははっきりしている
- 症状は数秒から数分続くことが多く、一日に何度も出ることもあれば、ほとんど出ないこともある
子供の症状
- 子どもではまれですが、生まれつき視力が弱い場合などに起こることがあります
- 子どもは「見える」ことをうまく説明できず、不安そうにしたり、怖がったりすることがあります
- 「本物ではないと分かっている」と言いにくいこともあるため、まわりの大人が落ち着いて話を聞くことが大切です
高齢者の症状
- 視力の低下とともに現れることが多く、高齢者では特に見られます
- 「認知症ではないか」と心配して、症状を隠してしまうことがあります
- 幻視に驚いて転んだり、家具などにぶつかったりしてけがをすることがあります
- 夜間や暗い場所で症状が出やすいことがあります
原因
主な原因
- 視力の低下:目から脳へ届く映像の情報が減ると、脳が足りない部分を自分で補おうとして映像を作り出すと考えられています
- 加齢黄斑変性、緑内障、糖尿病網膜症、白内障など、視力を下げる目の病気
- 脳卒中(のうそっちゅう)や頭のけがなど、脳の視覚に関わる部分の障害
- 視力が急に下がったとき(手術のあとや、包帯で目を覆ったときなど)
リスク要因
- 高齢であること
- 視力が低下している、または両目の見え方に大きな差がある
- 目の病気の治療中、または治療を受けずに視力が下がったままになっている
- 暗い場所、静かな場所、ひとりの時間が長い(刺激が少ない環境)
- 強いストレス、疲れ、睡眠不足
- 社会的に孤立している、話し相手が少ない
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 幻視が急に始まり、回数や続く時間が増えているとき
- 怖い幻視のため眠れない、外出できないなど生活が乱れているとき
- 目の痛みや急な見え方の変化があるとき
- 気分の落ち込みや不安が強く、自分では対処できないと感じるとき
定期受診を予約すべき場合:
- 実際にはないものが見えるようになったと気づいたとき(まずは眼科が適しています)
- 視力が落ちてきた、眼鏡が合わなくなってきたと感じるとき
- 症状について家族やかかりつけ医に相談したいとき
- 糖尿病や高血圧など、目の病気の原因になりうる持病があるとき
診断
まずは話をうかがうこと(問診)から始まります。どんなものが、いつ、どれくらいの時間見えるのか、本人が「本物ではない」と分かっているか、意識ははっきりしているか、などを確認します。そのうえで、目の検査で視力の状態を調べ、似た症状が出る他の原因(認知症、てんかん、薬の影響、脳の病気など)ではないかを確かめていきます。特別な機械がなくても診断できることが多い、比較的やさしい診断のつく症状です。
行われる可能性のある検査
- 視力検査(見え方の程度を調べる)
- 眼底検査(がんていけんさ:目の奥の網膜や血管の状態を見る検査)
- 視野検査(見える範囲を調べる検査)
- 眼圧検査(目の硬さを調べ、緑内障などを確認する)
- 必要に応じて頭の画像検査(CTやMRI)
- 必要に応じて血液検査(他の原因を調べるため)
診察で予想されること
検査は痛みのないものがほとんどで、外来で行えます。医師からは「症状の記録をつけてみましょう」と提案されることがあります。いつ、どんなものが、どれくらい見えたかをメモしておくと、診断の助けになります。診断がつけば「病気のせいではなく、目と脳の仕組みから起こっている」と分かり、気持ちがずっと楽になる方も多くいます。
治療
シャルル・ボネ症候群そのものを根本から治す治療は、今のところ確立していません。ただし、多くの人にとって症状は時間とともに軽くなります。治療の中心は、できるだけ見え方を良くすること、暮らしの中の工夫で幻視が出にくい環境をつくること、そして不安やストレスを減らすことです。「放っておいても大丈夫」ではなく、生活の質を保つためのサポートを組み合わせていく考え方です。
自宅でのセルフケア
- 部屋を明るくする。夜間は小さな照明をつけておく
- 幻視が出たら、照明をつける、テレビやラジオをつける、体を動かすなど、別のことに意識を向ける
- まばたきをしたり、目を動かしたり、視線を変えてみる
- 家具の配置を大きく変えない(見間違いによる転倒やけがを防ぐため)
- 症状が出た日時と内容を簡単にメモしておく
- ひとりで過ごす時間が長くならないように、人と話す機会をつくる
- 睡眠をしっかりとり、疲れやストレスをためない
医療治療
治療は、原因になっている目の病気への対応が中心です。眼鏡やコンタクトレンズの調整、白内障など目の病気の治療、視力を補う道具や工夫を使う「ロービジョンケア」などが行われます。それでも幻視が生活を大きく妨げる場合には、医師の判断で幻視を減らす目的の薬が使われることがありますが、これは症状や体の状態に合わせて慎重に判断されるものです。薬の名前や量はここではお伝えできませんので、必ず主治医にご相談ください。
手術が検討される場合
白内障など、手術で改善できる目の病気が視力低下の原因になっている場合は、その手術によって見え方が良くなり、幻視が減ったり消えたりすることがあります。ただし、シャルル・ボネ症候群そのものを治す手術はありません。手術が適しているかどうかは、目の状態や全身の健康状態をふまえて眼科医が判断します。
この病気と共に生きる
幻視は「自分がおかしくなった」証拠ではありません。出てきたときは「また始まった」と落ち着いて受け止め、明かりをつける、体を動かす、誰かに話すなど、意識を別に向けると消えやすくなります。見えたものを無理に否定したり、怖がりすぎたりせず、「目と脳が作った映像」として扱うことが大切です。生活の中で起きやすい時間帯や場所が分かってくると、備えやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 日中の外出や人との会話など、脳に適度な刺激がある生活を心がける
- 夜間は廊下やトイレへの動線に照明を置き、転倒を防ぐ
- 床に物を置かない、段差をなくすなど、家の中を安全に整える
- 定期的に眼科を受診し、眼鏡が合っているかを確認する
- ひとりで抱え込まず、家族や友人、かかりつけ医に症状を伝える
食事と運動
特別な食事療法があるわけではありません。糖尿病や高血圧は目の病気の原因になるため、バランスのよい食事、塩分を控えめにする、禁煙を心がけることが目の健康を守ります。運動は、無理のない範囲の散歩などでよく、気分転換や睡眠の改善にも役立ちます。視野が狭い方は、つまずきや転倒を防ぐため、慣れた安全な場所で行うようにしましょう。
精神的健康と心の健康
「変なものを見る人だと思われたくない」と感じて、症状を隠してしまう方は少なくありません。しかし隠していると、不安や孤独が大きくなり、気分の落ち込みや眠れない状態につながることがあります。幻視は病気の症状のひとつで、あなたの人格や心の弱さとは関係ありません。話せる人に話すこと自体が、大きな支えになります。もし気持ちがつらくて自分では対処できないと感じたら、早めにかかりつけ医や地域の相談窓口に相談してください。緊急性があると感じたら、迷わず119番に連絡してください。
予防
シャルル・ボネ症候群そのものを確実に防ぐ方法は分かっていません。ただし、視力の低下を防ぎ、良い見え方を保つことが、症状を軽くしたり出にくくしたりする助けになります。目を大切にする生活と定期的な眼科の受診が、いちばんの備えです。
検診プログラム
40歳を過ぎたら、自覚症状がなくても定期的に眼科で視力や眼底の検査を受けることが勧められています。糖尿病や高血圧がある方は、よりこまめな受診が必要です。厚生労働省も、生活習慣病の管理と合わせた目の健康づくりをすすめています。
合併症
治療しない場合
- 幻視に驚いて転倒したり、家具にぶつかったりしてけがをする
- 怖い症状が続くことで、不安や気分の落ち込みが強くなる
- 「変だと思われたくない」と外出や人づきあいを避け、孤立してしまう
- 眠れない日が続き、疲れやストレスがたまる
- 視力の低下に気づかないまま、目の病気の治療が遅れる
長期的な見通し
シャルル・ボネ症候群は、多くの場合、時間とともに症状が軽くなったり、自然に消えたりします。視力のケアや暮らしの工夫で、幻視とうまく付き合えるようになる方もたくさんいます。本人が「本物ではない」と分かっていることは、とても心強い特徴です。ひとりで悩まず、眼科やかかりつけ医に話すことから始めてみてください。
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最終更新: 2026年10月22日
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