化学療法(抗がん剤治療)を知る
概要
化学療法(かがくりょうほう)とは、抗(こう)がん剤という薬を使って、がん細胞を攻撃する治療のことです。がん細胞は、ふつうの細胞よりも勢いよく増えていきます。抗がん剤は、そうした増え方のさかんな細胞をねらって、増えるのをじゃましたり、壊したりします。治療の目的は人によってさまざまで、がんを治すこと、再発(いったん消えたがんがまた現れること)を防ぐこと、がんの進行をゆるやかにして痛みや苦しさを和らげることなどがあります。
重要な事実
- 化学療法は、手術や放射線治療と組み合わせて行われることがよくあります。
- 薬の効き方や副作用の出方は、使う薬の種類や体の状態によって一人ひとり違います。
- 副作用の多くは、治療が終わると時間をかけて落ち着いてきます。つらさをやわらげる工夫(支持療法(しじりょうほう))も一緒に行います。
化学療法は、とても多くの種類のがんで行われている、一般的な治療法です。日本でも毎年たくさんの方が受けています。外来で受けることも、入院して受けることもあります。
小児から高齢者まで、さまざまな年代の方が対象になります。体力や持病、生活の状況をふまえて、担当医が治療の計画を立てます。若い方も高齢の方も、その人に合った進め方が選ばれます。
症状
- 38℃以上の発熱がある、または強い寒気・震えがある(感染症のサインで、命にかかわることがあります)
- 息苦しい、呼吸が速い、唇や顔色が青白い
- 意識がぼんやりする、返事がおかしい、もうろうとしている
- 顔やのどの腫れ、じんましん、息が吸いにくい(アレルギー反応の可能性)
- 止まらない出血、血を吐く、便が黒い・血が混じる
- ひどいおう吐や下痢が続き、水分がとれず尿が出ない
- ⚠38℃未満でも発熱がある、いつもと違うだるさが強い
- ⚠口内炎がひどくて、食べたり飲んだりできない
- ⚠おう吐や下痢が続いて、水分がとりにくい
- ⚠手足のしびれが強くなり、ボタンが留めにくい、つまずく
- ⚠尿が出にくい、尿をするときに痛い
- ⚠皮膚が赤く腫れて痛む、水ぶくれができた
一般的な症状
- 吐き気(はきけ)やおう吐
- 食欲がわかない、味の感じ方が変わる
- だるさ、疲れやすさ、体が重い感じ
- 髪が抜ける(脱毛)。治療が終わるとまた生えてくるのがふつうです
- 口の中の荒れ(口内炎)、口の渇き、しみる感じ
- 下痢や便秘
- 感染症にかかりやすくなる(発熱に注意が必要です)
- 手足のしびれ、ピリピリした感じ、力が入りにくい感じ
- 貧血(血が薄くなること)による息切れ、めまい、動悸
- 皮膚の荒れ、爪の変色や割れ
- 気持ちの落ち込み、不安、眠りにくさ
子供の症状
- 子どもでも副作用の種類は大人とよく似ていますが、吐き気で食べられない、感染症にかかりやすいといった点を、より注意深く見守ります。
- 髪が抜けることや、学校行事・友だちとの遊びが制限されることへの不安が出やすいので、本人にわかりやすい言葉で説明することが大切です。
- 成長や発達への影響を考えて、治療の計画は小児を専門とする医療チームで立てられます。
- 予防接種の予定は、治療中に受けてよいかどうかを必ず主治医に相談してください。
高齢者の症状
- 体力の予備力が低いため、副作用が強く出たり、回復に時間がかかったりすることがあります。
- おう吐や下痢による脱水(体の水分が足りなくなること)、ふらつき・転倒、感染症に特に注意が必要です。
- 持病の薬と抗がん剤の飲み合わせを確認するため、飲んでいる薬のリストを医療者に伝えてください。
- 物忘れがある場合は、治療日や体調の記録、服薬を家族や支援者が手伝うと安心です。
原因
主な原因
- 化学療法は「原因があって起こる病気」ではなく、がんと診断されたときに行われる治療です。
- がんを根治(治すこと)をめざして行うことがあります。
- 手術の前後に、がんを小さくしたり再発を防いだりする目的で行うことがあります。
- がんの進行をゆるやかにし、痛みや苦しさを和らげる目的で行うことがあります。
- がんの種類、広がり方、体の状態によって、目的と計画が決まります。
リスク要因
- 高齢である、体力が落ちている
- 腎臓(じんぞう)や肝臓(かんぞう)の働きが低下している
- 以前に化学療法や放射線治療を受けたことがある
- 栄養状態が悪い、体重が減っている
- 感染症にかかっている、免疫の力が下がっている
- 複数の持病があり、多くの薬を飲んでいる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 38℃以上の発熱、または寒気・震えがある(すぐに医療機関に連絡してください)
- 息苦しさ、意識の変化、顔やのどの腫れがある
- 止まらないおう吐・下痢で水分がとれない
- 出血が止まらない、黒い便が出た
- 手足のしびれが急に強くなった
定期受診を予約すべき場合:
- 吐き気、だるさ、口内炎、便秘など、副作用が生活のじゃまになっているとき
- 髪・皮膚・爪の変化が気になるとき
- 食事がとりにくい、体重が減ってきた
- 仕事や家事、子育てとの両立に不安があるとき
- 気持ちが落ち込む、眠れない日が続くとき
- 次の治療の前に聞いておきたいことがあるとき(メモにまとめて持って行くと安心です)
診断
化学療法は、検査で「診断」されるものではなく、がんの診断と検査の結果をもとに、治療の計画を立てるものです。がんの種類、大きさや広がり、体の状態、生活の事情をふまえて、担当医と看護師、薬剤師などがチームで方針を話し合います。治療の目的や予定、起こりうる副作用、困ったときの連絡先について、事前に説明を受けられます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(血球の数、肝臓・腎臓の働きなどを調べます)
- 画像検査(レントゲン、CT、MRI、超音波、PET など)
- 病理検査(組織の一部を採って、がんの性質を調べます)
- 心電図や心エコー(心臓の働きの確認)
- 感染症の有無の検査
- アレルギー歴や、これまでに飲んだ薬の確認
診察で予想されること
治療の前に、目的・スケジュール・副作用・注意点の説明があります。点滴は外来で受けることも多く、数時間かかることがあります。治療の直前に血液検査をして、数値が整っていないと予定が延期になることもあります。これは安全に進めるための大切な確認です。治療日は付き添いや送り迎えがあると安心です。
治療
化学療法は、がんの種類や目的に合わせて、薬の組み合わせや期間、ペースを決めて進めます。治療を受けながら、副作用をやわらげるケア(支持療法)を同時に行うことが大切です。担当医、看護師、薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなどがチームで支えます。
自宅でのセルフケア
- 手洗い・うがいをこまめにし、人混みではマスクを使う
- 毎日体温を測って記録する
- 水分を少しずつこまめにとる
- 食べられるものを、少量ずつ回数を分けてとる
- やさしく歯みがきをし、口の中を清潔に保つ
- 十分な休養と、無理のない範囲の軽い運動
- 発熱時の連絡先をメモして、冷蔵庫など見える場所に貼っておく
- 治療日と体調の変化を手帳などに記録する
医療治療
抗がん剤には多くの種類があり、点滴・内服・注射など、さまざまな方法で投与されます。1種類のことも、いくつかを組み合わせることもあり、決められた周期で繰り返すのが一般的です。目的に応じて、手術や放射線治療と組み合わせます。また、吐き気を抑える薬、感染症を防ぐためのケア、栄養のサポート、輸血など、副作用をやわらげる支持療法も一緒に行います。具体的な薬の種類や量は、担当医があなたの状態に合わせて決めますので、疑問はその場で確認してください。
手術が検討される場合
手術の前に化学療法を行い、がんを小さくして手術しやすくすることがあります。手術の後に、目に見えない小さながん細胞をねらって再発を防ぐために行うこともあります。手術が難しい場所や広がりがある場合は、化学療法や放射線治療が中心になることもあります。
この病気と共に生きる
治療のリズムに体を慣らしていくことが大切です。治療日とその前後の予定をカレンダーに書き、仕事や家事は無理のない範囲で調整しましょう。買い物や送り迎えなど、頼めることは早めに周りに頼るのがおすすめです。体調がよい日と悪い日の波があることを、自分も周りも知っておくと気持ちが楽になります。
生活習慣のアドバイス
- 感染症を防ぐため、手洗い・うがい・換気を心がける
- 睡眠をしっかりとる。疲れたら迷わず休む
- たばこは避け、お酒は主治医に相談して控えめに
- 口の中、皮膚、爪のケアをやさしく続ける
- 日焼けを避け、外出時は帽子や日焼け止めを使う
- 治療中は予防接種の可否と時期を必ず主治医に確認する
食事と運動
食事は、食べられるものを少しずつ、回数を分けてとるのが基本です。生ものや加熱が不十分な食品は避け、食中毒の予防を心がけてください。味の感じ方が変わったときは、だしのきいたもの、冷たいもの、香りのさわやかなものを試すと食べやすくなることがあります。運動は、散歩などの軽いものを無理のない範囲で。どのくらい動いてよいか、食事で気をつけることは、担当医や管理栄養士に相談してください。
精神的健康と心の健康
「先が見えなくて不安」「人に迷惑をかけてしまう」「髪が抜けるのがつらい」——こうした気持ちは、治療中のごく自然な反応です。落ち込みや眠れない日が続くときは、がまんせずに医療者に話してください。気持ちを話すこと自体が、つらさを軽くする助けになります。もし自分を傷つけたい気持ちがわいてきたら、すぐに医療者や身近な人に伝え、地域の相談窓口や緊急の窓口を頼ってください。あなたは一人ではありません。
予防
化学療法は治療なので「予防する」という性質のものではありません。ただし、副作用が重くならないように工夫することはできます。感染症を防ぐ、水分をとる、早めに体調の変化を伝える、決められた検査を受ける——こうした日々の心がけが、治療を安全に続ける力になります。また、治療後の生活では、禁煙や定期的な検査など、再発を防ぐための取り組みが大切です。
ワクチン
インフルエンザや肺炎などのワクチンは、治療の時期によって接種の可否が変わります。自分で判断せず、必ず主治医に相談してください。生ワクチンは治療中に避けることがあります。
検診プログラム
治療の前と治療中は、血液検査や心臓の検査などで体の状態を定期的に確認します。治療が終わったあとも、再発や晚期の副作用を見つけるための定期通院が続きます。決められた受診を大切にしてください。
合併症
治療しない場合
- 発熱を放置すると、感染症が重くなることがあります
- おう吐や下痢で水分がとれないと、脱水(体の水分不足)になることがあります
- 口内炎や食欲低下が続くと、栄養や体力が落ちます
- 治療の延期が重なると、予定していた効果が得にくくなることがあります
- 治療を始めない・続けられない場合、がんが進行する可能性があります
長期的な見通し
化学療法を受けながら、仕事や家庭の日々を送っている方はたくさんいます。副作用は工夫でやわらげられることが多く、治療の内容も年々進歩しています。目的や見通しは、がんの種類や進行の程度によって異なるため、一律には言えません。だからこそ、いま自分がどの目的で治療を受けているのか、どんな選択肢があるのかを、担当医に何度でも聞いてみてください。納得して進むことが、力になります。
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最終更新: 2026年10月22日
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