真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)
概要
真珠腫性中耳炎は、鼓膜(こまく=耳の奥の薄い膜)の内側にある「中耳」という空間に、皮膚のような細胞が入り込んで少しずつ大きくなる病気です。この塊を「真珠腫(しんじゅしゅ)」と呼びます。名前には「腫」という字が入っていますが、がんではありません。ただし、まわりの骨を少しずつ溶かしながら広がることがあり、放っておくと聞こえが悪くなったり、めまいや顔の動きの障害が起きたりすることがあります。早めに見つけて、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)で相談することが大切です。
重要な事実
- 中耳に皮膚の細胞が入り込んでできる塊で、がんではありません。ただし、まわりの骨を溶かして広がることがあります。
- においのある耳だれや聞こえにくさが、よくあるサインです。痛みがほとんどないこともあります。
- 自然に消えることはほとんどなく、治療の中心は手術です。ただし、年齢や体の状態によっては、耳の掃除と経過観察を続けることもあります。
とても多い病気ではありません。中耳炎にはいくつか種類がありますが、真珠腫性中耳炎はその中でも少ないタイプです。めったにない病気だからこそ、耳だれが長引くときは耳鼻咽喉科で一度みてもらうことが安心につながります。
子どもから大人まで、どの年齢でも起こります。生まれつき中耳に皮膚の細胞が残っている「先天性(せんてんせい)」のタイプは、幼い子どものうちに見つかることが多いです。鼓膜がへこんだ状態から始まるタイプは、学童期から大人に多いと言われています。中耳炎をくり返したことがある人、鼓膜に穴やへこみがある人も注意が必要です。
症状
- 激しい頭痛と高い熱、首が硬くて動かしにくい(髄膜炎などのサインの可能性)
- 意識がぼんやりする、けいれんが起きた
- 顔の片側が急に動かない、口がゆがむ(顔面神経麻痺の可能性)
- 激しいめまいで立っていられない、何度も吐く
- 耳の後ろが赤く腫れて痛む、耳が前に押し出されたように見える
- 急に聞こえなくなった
- ⚠耳だれが急に増えて止まらない、痛みが強い
- ⚠発熱と耳の痛みが一緒にある
- ⚠顔の動きがいつもと違う気がする
- ⚠聞こえが急に悪くなったと感じる
一般的な症状
- においのある耳だれが続く(ドロッとした感じ、膿のような感じ)
- 耳が聞こえにくい、聞こえが悪くなった気がする
- 耳がつまった感じがする、耳鳴りがする
- ときどき耳の奥が痛む、違和感がある
- めまいやふらつきを感じることがある(多くはありません)
- 顔の片側が動かしにくい、口元がゆがむ(まれですが、とても大切なサインです)
子供の症状
- 耳だれがだらだら続く、耳のまわりをよく触る
- テレビの音を大きくする、呼びかけに気づきにくい
- 「え?」と聞き返すことが増える、学校で聞き取りが苦手になる
- ことばの遅れや発音の不明瞭さが気になる
- 学校の健診や3歳児健診などで耳の聞こえを指摘される
高齢者の症状
- 聞こえにくさを「年のせい」と思い込んで受診が遅れやすい
- 耳だれや耳の奥のかゆみ、違和感が続く
- めまいやふらつきで転びやすくなる
- 持病の治療が優先され、耳の症状が後回しになりやすい
原因
主な原因
- 鼓膜が内側にへこんだ状態が長く続き、皮膚の細胞が中耳に入り込んでしまう
- 中耳炎をくり返したり、滲出性(しんしゅつせい)中耳炎が長引いたりしたこと
- 鼓膜に穴が開いたままの状態(慢性穿孔性中耳炎)の一部から起こる
- 生まれつき(先天性)鼓膜の奥に皮膚の細胞が残っていた
リスク要因
- 中耳炎をくり返した、長引いたことがある
- 鼓膜に穴やへこみがあると言われたことがある
- 鼓膜に換気チューブを入れたことがある
- アデノイド(鼻の奥の組織)が大きい、副鼻腔炎(ふくびくうえん)など鼻とのどの炎症が続いている
- 煙の多い環境に長くいる(子どもの中耳炎のリスクとして知られています)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 耳だれが増えて止まらない、痛みが強い
- 発熱と耳の痛みが同時にある
- 顔の動きがいつもと違う、口元がゆがむ気がする
- 聞こえが急に悪くなった
- 激しいめまい、頭痛、首の硬さがある(この場合は救急へ)
定期受診を予約すべき場合:
- においのある耳だれが2週間以上続いている
- 聞こえにくさや耳鳴りが続いている
- 片側の耳だけ調子が悪い状態が続いている
- 中耳炎を何度もくり返している
- 子どもがテレビの音を大きくする、聞き返しが多い
- 鼓膜にへこみや穴があると言われたことがある
診断
耳鼻咽喉科で、耳の中を顕微鏡や内視鏡(細いカメラ)でよく観察します。においのある耳だれ、鼓膜の奥に白っぽい塊が見える、鼓膜が強くへこんでいる、といった所見が手がかりになります。さらに、聞こえの状態や骨の様子を調べる検査を行い、総合的に判断します。
行われる可能性のある検査
- 耳鏡・顕微鏡・内視鏡による耳の中の観察
- 聴力検査(オージオメトリー):ヘッドホンで音を聞き、聞こえの程度を調べます
- ティンパノメトリー:鼓膜の動きやすさを調べる検査
- CT検査:まわりの骨が溶けていないか、どこまで広がっているかを確認します
- MRI検査:必要に応じて、脳への広がりや再発の確認に使われます
- 血液検査:炎症の程度などを確認します
診察で予想されること
診察は短時間で、痛みはほとんどありません。CTは台に横になるだけの検査です。聴力検査は「音が聞こえたらボタンを押す」という簡単なものです。多くの場合、その日のうちに結果と今後の方針を説明してもらえます。手術が必要かどうかは、年齢、体の状態、広がり方、聞こえの程度をあわせて判断します。
治療
真珠腫は自然に消えることがほとんどないため、基本的には手術で取り除くことが治療の中心になります。ただし、年齢や全身の状態、広がり方、聞こえの程度によっては、すぐに手術をせず、耳の掃除と定期的な観察を続けることもあります。担当の医師とよく相談して、あなたやお子さんに合った進め方を選びましょう。
自宅でのセルフケア
- 耳に水が入らないようにする(耳栓や防水キャップを使う、シャンプーのときは特に注意)
- 綿棒で耳の奥を掃除しない(傷ついたり、かえって押し込んだりすることがあります)
- かぜや鼻の炎症を長引かせない。鼻の調子が悪いときは早めに受診する
- 煙の多い場所を避ける
- 処方された点耳薬などは、医師や薬剤師の指示どおりに使う
- 耳だれの量・におい・色、聞こえの変化をメモしておくと診察の役に立ちます
- 通院の予定を途切れさせない(症状が落ち着いても自己判断で通院をやめない)
医療治療
手術までの間や、手術が難しい場合には、耳鼻咽喉科で耳の奥をきれいに掃除し、乾いた状態を保つ治療を続けます。炎症が強いときは、炎症を抑えるお薬を使うことがありますが、薬だけで真珠腫そのものをなくすことはできません。聞こえにくさには補聴器が役立つことがあります。めまいがある場合は、バランスのリハビリを行うこともあります。
手術が検討される場合
真珠腫を取り除く手術が中心になります。鼓膜や耳小骨(じしょうこつ=音を伝える小さな骨)を整える手術を同時に行うこともあり、全身麻酔で数時間かかることが一般的です。子どもでは成長に合わせて時期を計画します。手術の後も、聞こえの検査や画像検査で再発がないかを定期的に確認していく必要があります。再発することもあるため、長く付き合っていくつもりで通院を続けることが大切です。
この病気と共に生きる
耳を乾いた状態に保つことが日常の基本です。耳だれが出たら量やにおいを記録し、かぜをひいたら早めに受診しましょう。聞こえにくさがあるときは、遠慮せずに家族や職場、学校に伝えることが大切です。通院の予定を守り、気になる変化は次の診察で必ず相談しましょう。
生活習慣のアドバイス
- 水泳やダイビング、耳に水が入る遊びは、必ず医師に相談してから
- 飞行機に乗る予定や高い山へ行く予定は、手術後かどうかを含めて医師に相談する
- たばこの煙を避ける。家族も協力する
- 睡眠とストレス管理を大切にする
- 聞こえを助けたいときは補聴器の相談を。会議や授業では前の席に座るなどの工夫を
- 子どもには、耳をいじらないこと、耳だれが出たら大人に知らせることを伝える
食事と運動
特別に避けるべき食べ物はありません。バランスのよい食事と、無理のない範囲の運動は体の回復を助けます。ただし手術の後は、医師の許可が出るまで激しい運動や水泳を控えましょう。
精神的健康と心の健康
くり返す通院や手術、聞こえにくさは、不安や疲れ、孤独感につながることがあります。子どもでは学校生活や友だちづきあいに影響することもあります。つらさを一人で抱え込まず、家族や学校、職場、医療者に話してみてください。気持ちの落ち込みが続くときは、医療者に相談するか、お住まいの自治体のこころの相談窓口を利用しましょう。つらい気持ちが強いとき、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに身近な人や医療機関、緊急の相談先に連絡してください。
予防
真珠腫そのものを完全に防ぐ方法は、まだ見つかっていません。ただし、中耳炎を早めに治療する、かぜや鼻の炎症を長引かせない、鼓膜のへこみや穴があると言われたら定期的に耳鼻咽喉科でみてもらう、といったことが大切です。生まれつきのタイプは防げませんが、早く見つけて治療を始めることができます。
ワクチン
中耳炎の原因になる菌に対するワクチンは、子どもの中耳炎を減らす可能性があると言われています。日本では定期接種として受けられるものもあります。接種のスケジュールや対象年齢は、かかりつけ医やお住まいの自治体の案内で確認してください。
検診プログラム
真珠腫性中耳炎だけを対象にした国の検診はありません。日本では3歳児健診などで耳の聞こえの確認が行われます。聞こえが気になるとき、耳だれが続くときは、検診を待たずに耳鼻咽喉科で聴力検査を受けることが勧められます。
合併症
治療しない場合
- 聞こえがだんだん悪くなる(伝音難聴や混合難聴)
- 音を伝える小さな骨(耳小骨)が溶けて、聞こえが大きく落ちることがある
- めまいや平衡感覚の障害が起きる
- 顔面神経麻痺(顔の片側が動かしにくくなる)
- 耳の後ろの骨に広がり、腫れや痛みが出る(乳様突起炎)
- まれに、髄膜炎や脳の膿瘍など命に関わる合併症を起こすことがある
- 手術が大きくなったり、再発しやすくなったりする
長期的な見通し
真珠腫性中耳炎は、適切に治療すれば多くの場合で取り除くことができ、聞こえも改善または維持できることが多い病気です。再発することもありますが、定期的な通院で早く見つけられます。早めに受診して、担当の医師と一緒に治療を進めていくことが、いちばんの近道です。
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最終更新: 2026年10月22日
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