脈絡叢がん(脈絡叢癌)— 脳にできるまれな腫瘍について
概要
脈絡叢がん(みゃくらくそうがん)は、脳の中にある「脈絡叢」という組織からできる、まれな悪性の腫瘍(がん)です。脈絡叢は、脳室(のうしつ)という脳の中の空洞の内側をおおっている組織で、脳と脊髄を守る液体(髄液=ずいえき)を作っています。脈絡叢からできる腫瘍には、性質がおだやかな「乳頭腫(にゅうとうしゅ)」と、悪性で周りに広がりやすい「脈絡叢がん」があります。脈絡叢がんは、近くの脳の組織に広がったり、髄液の流れに乗って脳や脊髄の広い範囲に広がったりすることがあります。また、髄液の通り道が詰まりやすく、水頭症(すいとうしょう=脳に髄液がたまって頭の圧が上がる状態)を起こしやすいのが特徴です。
重要な事実
- まれな腫瘍で、患者さんの多くは2歳未満の乳幼児です。大人でも起こりますが、とてもまれです。
- 髄液の流れが詰まりやすいため、頭囲が大きくなる・繰り返す嘔吐・けいれんなど、頭の圧が上がったときの症状で気づかれることがあります。
- 治療は、手術で腫瘍を取り除くこと、化学療法(抗がん剤による治療)、放射線療法を組み合わせて行われます。年齢や広がりに合わせて方針を決めます。
とてもまれな腫瘍です。子どもにできる脳腫瘍の中でも数%程度とされ、日本では一年に数例から十数例程度が報告されるくらいの頻度と考えられています。まれだからこそ、診断と治療には小児脳腫瘍に詳しい医療チームの力が必要です。
最も多いのは乳幼児、とくに2歳未満の子どもです。生まれたときから存在している場合もあります。成人に起こることもありますが、非常にまれです。性別による大きな差はないとされています。
症状
- けいれんが数分以上続く、または繰り返し起こる
- 意識がない、呼びかけても反応が鈍い、まっすぐ立っていられない
- 呼吸がおかしい、顔色が悪い
- 突然の激しい頭痛(今までにない痛み)
- 赤ちゃんの大泉門が硬く大きくふくらんでいる、ぐったりして泣かない
- 頭を強く打ったあとの嘔吐や意識の変化
- ⚠嘔吐を繰り返し、水分がとれない
- ⚠頭囲が急に大きくなった、頭の形が変わったように見える
- ⚠朝の頭痛が毎日のように続く
- ⚠見えにくさ、ものが二重に見える
- ⚠歩きにくい、手が動かしにくいなど、新しい神経の症状が出た
- ⚠けいれんを一度でも起こした
一般的な症状
- 頭痛(とくに朝起きたときや、咳・いきんだときに出やすい)
- 吐き気や嘔吐(朝の嘔吐が続くことがあります)
- 視力の変化(見えにくい、ものが二重に見える)
- ふらつき、歩きにくさ、手の動きのぎこちなさ
- けいれん
- 日中の強い眠気、ぼんやりして反応が鈍い
- 体の力が入りにくい、顔の片側が動きにくい
子供の症状
- 頭の周り(頭囲)がふえる、頭が大きくなる
- 赤ちゃんの頭のてっぺんのやわらかい部分(大泉門)がふくらんで硬く感じる
- 不機嫌が続く、泣き止まない、あやしても反応が少ない
- 母乳やミルクを飲まない、飲む量が減る
- 繰り返す嘔吐、体重が増えない
- 首がすわらない、おすわりができないなど、発達の遅れや、できていたことができなくなる(退行)
- けいれん、目の位置がおかしい、視線が合いにくい
高齢者の症状
- 頭痛が続く、朝に強い
- 視野が欠ける、見えにくくなる
- 物忘れや考えがまとまりにくいなど、認知面の変化
- 歩行のふらつき、バランスの取りにくさ
- けいれん発作
- (成人の脈絡叢がんは非常にまれです。これらの症状は他の原因でもよく起こります)
原因
主な原因
- 脈絡叢の細胞に生じた遺伝子の変化(突然変異)が関わると考えられていますが、多くの場合、はっきりした原因はわかっていません。
- TP53という遺伝子の変化が関係することがあり、この変化が生まれつきある「Li-Fraumeni(リー・フラウメニ)症候群」の子どもでは、脈絡叢がんのリスクが高まることが知られています。
- ご家族の遺伝子の特徴が関係することもありますが、多くの場合は遺伝とは関係なく起こります。
- 親の育て方や生活習慣、食事が原因で起こる腫瘍ではありません。ご家族が自分を責める必要はありません。
リスク要因
- 2歳未満という年齢(最も大きな要因です)
- 生まれつきのTP53遺伝子の変化、またはLi-Fraumeni症候群の診断
- 近い家族に若い年齢でのがんが多い人がいる家族歴
- これらに当てはまらない場合がほとんどで、予防できる要因はほとんど知られていません
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- けいれんを起こした、意識がぼんやりする
- 繰り返す嘔吐で水分がとれない
- 赤ちゃんの頭囲が急に大きくなった、大泉門がふくらんでいる
- 新しく視力の変化や歩きにくさが出てきた
定期受診を予約すべき場合:
- 頭痛が続いている、とくに朝に多い
- 吐き気や嘔吐がときどきある
- 赤ちゃんの飲みが悪い、体重が増えにくい
- 発達の遅れが気になる、目の動きが気になる
- 家族歴に心配な点がある、遺伝について相談したい
診断
まず問診と診察(神経の働きをみる診察を含む)を行い、必要に応じて画像検査を進めます。脈絡叢がんは画像で疑いを立て、最終的には腫瘍の一部を採って細胞を調べる病理検査(組織診)で確定します。水頭症の有無や、腫瘍が髄液の流れに乗って広がっていないかを調べる検査も行います。
行われる可能性のある検査
- 頭部MRI検査(造影剤を使うことが多い)
- 頭部CT検査(頭蓋骨や出血、水頭症の評価)
- 髄液検査(腰椎穿刺で髄液を採り、腫瘍細胞が混じっていないか調べる)
- 脊椎(背骨)のMRI検査(広がりの確認)
- 血液検査、尿検査などの全身状態の確認
- 腫瘍の組織を採って調べる病理検査(確定診断のための検査)
- 必要に応じて遺伝子の検査や遺伝カウンセリング
- 目の検査(視力や視野、眼底の確認)
診察で予想されること
検査は何日かに分けて行われ、小さなお子さんの場合は検査のときに眠くなる薬を使うことがあります。結果が出るまでに数日から1〜2週間ほどかかることがあり、待つ時間は不安なものです。検査の目的や流れ、結果がいつわかるかは、その都度医療チームに確認してください。セカンドオピニオン(別の医師の意見)を求めることもできます。
治療
脈絡叢がんの治療は、腫瘍の広がり、お子さんの年齢、全身の状態をふまえて、手術・化学療法・放射線療法を組み合わせて組み立てられます。小児脳腫瘍に詳しい病院で、脳神経外科・小児がん科・放射線治療科などがチームで関わることが大切です。
自宅でのセルフケア
- 治療中は感染症を防ぐため、手洗いや人混みを避けるなどの工夫をしてください。
- 食事は無理に量を増やそうとせず、食べられるものを少しずつ、こまめに。栄養士に相談するのも助けになります。
- 睡眠と休息を優先し、体調のよいときに無理のない範囲で体を動かしましょう。
- 症状や副作用、服薬についての気づきをメモしておくと、診察のときに伝えやすくなります。
- 予防接種や通園・通学の可否は、必ず主治医に相談してから決めてください。
医療治療
治療の中心は、可能な限り腫瘍を手術で取り除くことです。水頭症がある場合は、髄液の流れを助ける処置(シャントなど)が必要になることがあります。手術のあとは、抗がん剤による治療(化学療法)や放射線治療を組み合わせることが多く、年齢によって使える治療の種類や時期が変わります。放射線は小さなお子さんでは成長への影響を考えて時期や方法を工夫します。治療の内容や順番は、腫瘍の詳しい性質と広がりを調べたうえで、医療チームがご家族と相談して決めます。必要に応じてリハビリテーションも並行して行います。
手術が検討される場合
手術は、腫瘍をできるだけ取り除き、確定診断のための組織を採ることを目的に行われます。腫瘍の場所や大きさ、お子さんの状態によっては、すべてを取り除くことが難しいこともあります。その場合でも、安全を第一に考えたうえで、化学療法や放射線治療を組み合わせる方針が検討されます。手術の利点とリスクについては、必ず主治医から詳しい説明を受けてください。
この病気と共に生きる
治療の期間は通院や入院が続き、家族の生活リズムも大きく変わります。予定を詰め込みすぎず、その日の体調に合わせて過ごすことが大切です。医療チーム、看護師、ソーシャルワーカー、保育・教育の関係者と早い段階からつながっておくと、日常生活の調整がしやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 家族みんなで睡眠を十分にとり、看病する側も休む時間を意識して作りましょう。
- 感染予防のため、手洗い・うがい・部屋の換気を心がけましょう。
- 学校や園、仕事との調整は、早めに相談窓口(ソーシャルワーカーなど)に相談すると負担が軽くなります。
- 医療費の助成制度や小児慢性特定疾病の制度など、使える支援制度を確認しておきましょう。
- きょうだいへの気持ちのフォローも大切です。家族で話す時間を作りましょう。
食事と運動
食事は特別な制限が必要ないことがほとんどですが、治療中は食欲が落ちたり味の感じ方が変わったりします。無理に食べさせず、少量を頻回に、本人が食べられるものを中心にしましょう。栄養士や主治医に相談すると安心です。運動は、体調がよいときに散歩や軽い遊びなど無理のない範囲で。けいれんがある場合や頭の圧が高い時期の運動は、主治医の指示に従ってください。
精神的健康と心の健康
この病気と向き合うことは、お子さん本人にも、ご家族にも大きな心の負担をもたらします。不安、悲しみ、怒り、罪悪感、眠れない日が続くことは自然な反応です。一人で抱え込まず、医療チームの心理職やソーシャルワーカー、同じ経験をした家族の集まりなどを頼ってください。気持ちがつらい状態が続くときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関やお住まいの自治体の相談窓口に連絡してください。緊急の場合は119番通報を。助けを求めることは、弱さではなく大切な対処です。
予防
脈絡叢がんを確実に防ぐ方法は、今のところ知られていません。生活習慣や食事を変えれば防げる種類の腫瘍ではありません。ご家族が「何かできたのでは」と自分を責める必要はありません。
検診プログラム
一般の人を対象にした決まった検診はありません。ただし、Li-Fraumeni症候群など遺伝性のがんの素因があるとわかっている場合は、定期的な画像検査などのフォローについて主治医や遺伝カウンセラーと相談することが大切です。
合併症
治療しない場合
- 髄液がたまって頭の圧が上がる水頭症が進み、頭痛や嘔吐、意識の変化が強くなる
- 腫瘍が大きくなり、脳の働きが障害されて、運動や言葉、視力などに影響が出る
- 腫瘍が髄液の流れに乗って脳や脊髄の広い範囲に広がる
- けいれんや意識障害など、緊急の対応が必要な状態になる
長期的な見通し
脈絡叢がんはまれで、治療の難しい腫瘍であることは事実です。ただし、手術でできるだけ取り除き、その後に化学療法や放射線治療をきちんと行うことで、長く元気に過ごしているお子さんも多くいます。治療後のフォローやリハビリも含めて、長期の見通しは腫瘍の広がりや年齢によって大きく異なります。数字だけでなく、お子さん一人ひとりの状況について主治医から丁寧な説明を受け、希望を持ちながら一緒に方針を考えていきましょう。
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最終更新: 2026年10月22日
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