慢性外傷性脳症(CTE)について知っておきたいこと
概要
慢性外傷性脳症(まんせいがいしょうせいのうしょう、CTE)は、頭に強い衝撃を何度も受けてきた人に見られることがある、脳の変化のことです。脳の中に「タウ」というたんぱく質が少しずつたまり、脳の細胞が傷ついていくと考えられています。ただし、CTEはまだ研究中の病気で、わかっていないことも多いのが現状です。そして大切なことですが、頭を打った人全員がCTEになるわけではありません。
重要な事実
- 繰り返す頭への衝撃(コンタクトスポーツ、転倒、暴力など)との関連が指摘されていますが、原因はまだ完全にはわかっていません。
- 今のところ、生きている間にCTEを確定する検査法は確立しておらず、確定は脳の組織を詳しく調べることによります。
- 特効薬はなく、治療は症状に合わせたサポート(リハビリ、生活の調整、気持ちのケアなど)が中心になります。
CTEは比較的まれな病気だと考えられています。報告されているのは、長年にわたって頭に衝撃を受けてきた人たちが中心です。スポーツや事故で頭を打った人の大多数はCTEを発症しませんが、研究が進むにつれて少しずつわかってきている段階です。
報告が多いのは、ボクシングやラグビー、アメリカンフットボール、アイスホッケーなどのコンタクトスポーツを長く続けた人、軍務で爆風にさらされた経験のある人、家庭内暴力などで頭に衝撃を受け続けた人などです。子どもや若い人でも頭のけがは起こりますが、CTEは長い年月をかけて現れると考えられており、症状が出るのは大人になってからが一般的です。
症状
- 頭を打ったあと、意識がない、または呼びかけても反応が悪い
- けいれんが起きた
- 何度も嘔吐する、または呕吐が止まらない
- ろれつが回らない、手や足に力が入らない、体の片側が動かしにくい
- 瞳孔(目の黒い部分)の大きさが左右で違う
- 頭を打ったあと、どんどん眠くなっていく、または起こしても起きにくい
- 鼻や耳から透明な液体や血が出ている
- 「消えたい」「死にたい」と口にする、または自分を傷つける行動がある
- ⚠頭痛が強くなっていく、または長く続く
- ⚠めまいやふらつきが続いて歩きにくい
- ⚠物忘れや混乱が急に増えた
- ⚠強い落ち込みや不安が続き、日常生活が回らない
- ⚠眠れない日が続いている
一般的な症状
- 物忘れが増える、大事な予定を忘れる
- 考えがまとまりにくい、頭の回転が遅くなったように感じる
- 気分の落ち込みや不安が続く、怒りっぽくなる、ちょっとしたことでかっとなる
- やる気が出ない、人と会うのがおっくうになる
- 頭痛、めまい、よく眠れない
- お酒やギャンブルなどに頼りすぎてしまう
- 進行すると、話すことや歩くことが不自由になることがある
子供の症状
- CTEそのものは長い年月をかけて現れると考えられており、子どものうちに症状が出ることは多くありません。
- 子どもでは、頭を打った直後の「脳しんとう(一時的に脳の働きが乱れる状態)」の症状に注意が必要です。頭痛、めまい、吐き気、ぼんやりする、集中しにくい、いつもと違う様子などが見られます。
- 脳しんとうのあとは、症状が消えてから段階的にスポーツに戻ることが大切です。早すぎる復帰は避け、医師や学校の先生と相談しましょう。
高齢者の症状
- 高齢者では、物忘れや気分の変化が「年のせい」や他の認知症と見分けにくいことがあります。
- 転倒して頭を打つ機会が増えるため、頭のけがそのものに注意が必要です。
- 頭を打ったあとの様子の変化は、家族が気づくことが多いです。気になる変化はメモしておき、受診のときに伝えましょう。
原因
主な原因
- 頭に強い衝撃が何度も加わることが関係していると考えられています。一度の大きなけがよりも、繰り返しの衝撃が問題とされています。
- 脳に「タウ」というたんぱく質がたまり、脳の細胞が傷つく仕組みが考えられていますが、なぜ一部の人だけに起こるのかはまだわかっていません。
- 衝撃を受けてから症状が出るまでに、長い年月がかかることが多いとされています。
リスク要因
- ラグビー、アメリカンフットボール、ボクシング、アイスホッケーなど、ぶつかり合いの多いスポーツを長く続けている
- 競技を始めた年齢が早い、プレーしている期間が長い
- 脳しんとうを繰り返した経験がある
- 軍務などで爆風にさらされた経験がある
- 家庭内暴力や虐待などで頭に衝撃を受け続けた経験がある
- 頭を打ちやすい環境(転倒しやすい、ヘルメットを着けないで乗り物に乗るなど)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 頭を打ったあと、意識がもうろうとする、記憶が飛ぶ、嘔吐する、けいれんする(この場合は救急要請を)
- 頭痛やめまいがだんだん強くなる
- 急に物忘れや混乱が増えた
- 気分の落ち込みが強く、日常生活が難しい
定期受診を予約すべき場合:
- 物忘れや集中しにくさが気になり始めた
- 怒りっぽくなった、気分の波が大きくなったと家族に言われる
- 頭痛や睡眠の問題が続いている
- スポーツでの頭のけがのあと、なかなか調子が戻らない
- 家族やパートナーから「最近、様子が違う」と言われた
診断
現時点では、生きている間にCTEを確定する検査はありません。確定するには、脳の組織を詳しく調べる必要があります。そのため診察では、これまでの頭のけがの歴史、症状の経過、生活の様子をていねいに聞き取り、他の原因(甲状腺の病気、うつ病、認知症、睡眠の問題など)がないかを確認していきます。研究の場では、症状と経過から「外傷性脳症症候群」という考え方を用いることがあります。
行われる可能性のある検査
- 問診:頭を打った経験、スポーツ歴、仕事、症状がいつから始まったか
- 症状のチェック表や心理的な質問紙
- 記憶や注意力をみる神経心理検査
- MRIやCTなどの画像検査(他の病気や古いけがの跡を確認するため)
- 血液検査(甲状腺やビタミン不足など、似た症状が出る他の原因を調べる)
診察で予想されること
診察は一度で終わらず、何回かに分けて行われることが多いです。家族やパートナーと一緒に受診すると、本人が気づきにくい変化を伝えられます。診断がはっきりしない時期は不安かもしれませんが、症状に合わせたサポートは診断前から始められます。
治療
CTEそのものを治す治療はまだありません。治療の中心は、今ある症状をやわらげ、生活の質を保つためのサポートです。記憶の助けになる工夫、気分のケア、睡眠や運動の調整、家族への支援などを組み合わせていきます。
自宅でのセルフケア
- 頭をこれ以上打たない工夫をする(ヘルメット、シートベルト、段差や転倒への注意)
- 決まった時間に寝て、決まった時間に起きる
- 無理のない範囲で体を動かす
- 予定や約束は手帳やスマートフォンに記録する
- お酒はほどほどにする。気分を落ち着けるために飲む習慣が増えたら相談する
- 一人で抱え込まず、家族や友人に話す
医療治療
症状に合わせて、気分の落ち込み、不安、睡眠の悩み、頭痛などに対する治療が検討されます。使われるお薬は症状や体の状態によって変わるため、自己判断で使わず、かかりつけ医や専門医とよく相談して決めましょう。あわせて、認知リハビリテーション(記憶や注意力を保つ練習)、心理的なサポート、作業療法などの支援が役立つことがあります。
手術が検討される場合
CTEそのものに対する手術はありません。ただし、頭を打ったあとに血腫(血液がたまって脳を圧迫する状態)ができた場合などは、緊急の手術が必要になることがあります。
この病気と共に生きる
症状はゆっくり変わることが多く、その日の体調によっても揺れます。大事なことは、できないことを責めるのではなく、できる工夫を増やしていくことです。忘れっぽさには「メモとアラーム」、疲れやすさには「休憩をこまめに」、気分の波には「早めに人に話す」といった具合です。家族も一緒に生活のリズムを作っていくと、無理が少なくなります。
生活習慣のアドバイス
- 生活のリズムを整え、睡眠を十分にとる
- 頭を打つ危険を減らす(スポーツのルールを守る、防具をつける、家の中の段差をなくす)
- 喫煙を控え、お酒はほどほどにする
- 社会的なつながりを保つ(趣味、通いの場、友人との交流)
- 新しいことを一度にたくさん抱えず、優先順位をつける
食事と運動
バランスのよい食事(野菜、魚、豆、穀物など)は脳と体の健康を支えます。運動は、歩くことや軽いストレッチなど、無理なく続けられるものから始めましょう。頭を打つ危険のある競技に戻る場合は、必ず医師と相談し、段階的に戻ることが大切です。
精神的健康と心の健康
物忘れや気分の変化は、本人にも家族にも大きな負担になります。落ち込み、不安、いらだち、孤立感が強くなることがあります。つらい気持ちが続くとき、または「消えたい」と考えたときは、一人で抱えず、かかりつけ医や地域の相談窓口、信頼できる人にすぐ連絡してください。緊急の場合は119番(救急)をためらわずに利用しましょう。助けを求めることは、弱さではなく大切な対処です。
予防
CTEを完全に防ぐ方法はまだ確立していません。ただし、頭への衝撃を減らすことは大切です。ヘルメットや防具を正しく使う、シートベルトを着ける、スポーツでは安全なタックルやルールを守る、脳しんとうのあとは症状が消えてから段階的に復帰する、といった対策が勧められます。スポーツ団体や学校での脳しんとう対応の指針(厚生労働省やスポーツ庁などが示している考え方)も参考にしてください。
ワクチン
CTEを予防するワクチンはありません。
検診プログラム
現時点で、CTEを見つけるための確立したスクリーニング検査はありません。頭のけがのあとに症状が続く場合は、かかりつけ医に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 物忘れや集中力の低下が進み、仕事や家事が難しくなることがある
- 気分の落ち込みや不安が強くなり、人との付き合いが減る
- 怒りや衝動のコントロールが難しくなり、人間関係がこじれることがある
- 進行すると、話す・歩く・飲み込むことが不自由になることがある
- 家族や介護する人の負担が大きくなる
長期的な見通し
CTEはまだわかっていないことが多い病気で、症状の出方や進み方は人によってさまざまです。一方で、頭のけがをした人の大多数はCTEを発症せず、回復していきます。研究は世界中で進んでおり、診断法や支え方も少しずつ良くなっています。今できる工夫を重ね、必要な支援につながることで、生活の質を保ちながら過ごすことは十分に可能です。
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最終更新: 2026年10月22日
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