心拍数が上がりにくい状態(変時性不全)
概要
変時性不全(へんじせいふぜん)は、体を動かしたり緊張したりしたときに、心臓の拍動の数(心拍数)が必要なだけ増えない状態を指します。ふだん心臓は、心臓の中にある「自然のペースメーカー」のような場所(洞結節=どうけっせつ)からの電気の合図で一定のリズムを刻んでいます。運動すると、この合図が多くなって心拍数が上がり、筋肉に多くの血液を送れるようになります。変時性不全では、この調整がうまく働かず、運動しても心拍数が十分に上がらないため、息切れや疲れやすさが出ます。
重要な事実
- 心臓の「ペースメーカー役」の働きや、心臓と自律神経の連携が弱くなって起こります。
- 診断には、運動したときの心拍数の上がり方を調べる検査(運動負荷試験など)が役立ちます。
- 症状の重さに応じて、原因の見直しや生活の調整、必要なら心臓ペースメーカーなどの対応を行います。
心臓のリズムの病気の中では比較的よくみられます。ただし軽い場合は自覚症状が少なく、検査で初めて気づかれることもあります。高齢になるほど多くなり、心臓ペースメーカーを入れる方の中にも関係する方が少なくありません。
高齢の方、心臓の病気を持つ方、心臓の手術を受けた方、心拍数を抑える種類の薬を使っている方、甲状腺の病気や貧血のある方などに多くみられます。長期間の安静や体力の低下が背景になることもあります。
症状
- 意識を失った、倒れて反応がない、呼吸がない、脈がふれない(心肺停止のおそれ)→ すぐに119番
- 胸の強い痛みや圧迫感が続く
- 突然の激しい息苦しさ、息ができない感じ
- 冷や汗をともなう強い気分不良
- 脈がとても速い・とても遅い状態が続き、ふらつきが強い
- ⚠新しく出た息切れ、または急に悪化した息切れ
- ⚠ふらつきが強く、日常生活に支障が出ている
- ⚠足のむくみや体重の急な増加(数日で増え続ける)
- ⚠動悸や脈の乱れを自覚し、不安が続く
- ⚠失神しかけた(気が遠くなった)ことがある
一般的な症状
- 階段や坂道で、以前より息が上がりやすい
- 体を動かしても心拍数があまり上がらない感じがする
- 疲れやすく、少し動いただけで休みたくなる
- めまいやふらつき、立ちくらみ
- 動悸が「速くなる」より「弱い・遅い」と感じる
- 軽い運動でも息苦しさが出る
子供の症状
- 小児ではまれですが、先天性の心臓の病気や心臓の手術のあとにみられることがあります。
- 遊んでいる途中ですぐ息切れして休む、走れない
- 哺乳(授乳)のときに疲れて途中でやめる、体重が増えにくい
- 顔色が悪い、汗をたくさんかく、ぐったりしているように見える
高齢者の症状
- めまいやふらつきが増え、転びそうになる・転倒する
- 一瞬意識が遠のく、または気を失う(失神)
- 「年のせい」と思っていた息切れや疲れが目立ってくる
- 歩く速度が落ちる、買い物や家事がおっくうになる
- 足のむくみや体重の急な増加をともなうことがある
原因
主な原因
- 洞結節(心臓の自然なペースメーカー)の働きが弱くなる(洞不全症候群など)
- 加齢による心臓の電気の仕組みの変化
- 心臓の病気(心不全、心筋症、冠動脈の病気、心臓の炎症、心臓手術のあとなど)
- 自律神経(体の自動調整の神経)のバランスの乱れ
- 心拍数を抑える種類の薬や血圧の薬などの影響
- 甲状腺の働きの低下、貧血、電解質(血液中の塩分などのバランス)の異常
- 長期間の安静や体力低下
リスク要因
- 高齢であること
- 心臓の病気の既往、心臓の手術を受けたことがある
- 高血圧、糖尿病、脂質の異常などの生活習慣病
- 甲状腺の病気、貧血
- 心拍数を抑える種類の薬を使っている
- 長期間ベッドで過ごすことが多い、運動不足で体力が落ちている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 気を失った、倒れた、意識が遠のいたことがある
- 胸の痛みや強い息苦しさがある
- 脈がとても速い、またはとても遅い状態が続いている
- ふらつきが強く、一人で歩くのが不安
定期受診を予約すべき場合:
- 階段や坂道で息切れしやすくなった
- 以前より疲れやすい、体がだるい
- 運動しても心拍数が上がらない気がする
- めまいや立ちくらみを繰り返す
- 心臓の病気や血圧の薬を飲んでいて、動いたときの調子が良くない
診断
まず問診と診察で、どのようなときに症状が出るか、飲んでいる薬、心臓や甲状腺などの病気の既往を確認します。そのうえで、安静時の心電図に加えて、運動したときの心拍数と心電図の変化を調べる検査を行い、心拍数が必要なだけ上がっているかを評価します。必要に応じて、心臓の働きや血液の状態も合わせて調べます。
行われる可能性のある検査
- 心電図(安静時に心臓の電気の流れを調べる)
- 運動負荷試験(トレッドミルや自転車で運動し、心拍数と心電図の変化をみる)
- ホルター心電図(24時間など、長時間の心臓のリズムを記録する)
- 心エコー検査(超音波で心臓の形や動きをみる)
- 血液検査(甲状腺の働き、貧血、電解質などの確認)
- 必要に応じて、より詳しい心臓の電気の検査
診察で予想されること
検査は痛みの少ないものがほとんどです。運動負荷試験では、実際に歩いたり自転車をこいだりしながら心電図を記録するため、少し疲れることがあります。結果が出るまでに数日かかることもあります。検査の内容や注意点は、受ける前に医療スタッフが説明してくれます。
治療
治療は、症状の強さと原因によって変わります。原因になっている薬や病気があれば、それを調整することが第一歩です。生活の調整でよくなる場合もあり、症状が強い場合や失神がある場合には、心拍数を補う機器(心臓ペースメーカー)を検討することがあります。
自宅でのセルフケア
- 無理のない範囲で、日常的に体を動かす習慣をつくる
- 急に立ち上がらない、暑い場所での長時間の立ち仕事を避ける
- 水分をこまめにとる(医師から制限を指示されている場合はそれに従う)
- 毎日、血圧と脈を測って記録しておく
- 症状が出たときの状況(何をしていたか、どれくらい続いたか)をメモする
- 薬は自己判断でやめたり量を変えたりせず、気になることがあれば医師や薬剤師に相談する
- 十分な睡眠と休息をとる
医療治療
まず、原因になっている可能性のある薬の見直しや、甲状腺の病気・貧血などの基礎疾患の治療を行います。心臓のリハビリテーションのように、安全な範囲で運動能力を高める取り組みが役立つこともあります。症状が強い場合、失神がある場合、心不全をともなう場合などには、心拍数を補う心臓ペースメーカーを体内に植え込む治療が検討されます。治療方針は、検査結果と生活状況をふまえて医師と相談して決めます。
手術が検討される場合
心臓ペースメーカーの植え込みは、小さな手術にあたります。気を失う発作がある、日常生活に支障が出る強い症状がある、心臓の働きの低下をともなう、といった場合に検討されます。手術の必要性やタイミングは、検査の結果と症状の経過をみながら、循環器を専門とする医師と相談して決めます。
この病気と共に生きる
変時性不全は、付き合い方を工夫することで日常生活を穏やかに保てることが多い状態です。自分の体が「どこまでなら無理なく動けるか」を知っておくと、不安が減り、生活の計画も立てやすくなります。症状の記録を続けると、受診のときにも役立ちます。
生活習慣のアドバイス
- 朝と夜に血圧と脈を測り、ノートやアプリに記録する
- 暑い日や入浴時、長時間の立ちっぱなしなど、体に負担のかかる場面を避ける
- 急な動作をさけ、ゆっくり動く習慣をつける
- 飲んでいる薬のリストをいつも持ち歩く
- 定期的な受診を欠かさず、体調の変化を伝える
- 家族や身近な人に、自分の症状と助けてほしいことを伝えておく
食事と運動
食事は、塩分や脂質のとりすぎに気をつけ、野菜やたんぱく質をバランスよくとることを心がけましょう。運動は、医師に相談したうえで、散歩や軽いストレッチなど無理のないものから始めると安心です。運動中に息苦しさやめまいが出たら、すぐに中止して休み、症状が続く場合は医療機関に相談してください。体力は少しずつついていくものなので、あせらず続けることが大切です。
精神的健康と心の健康
「思うように動けない」「また倒れたらどうしよう」という不安は、誰にとっても自然な気持ちです。不安や落ち込みが続くと、外出や人との交流を控えてしまい、それがさらに体力や気分に影響することもあります。つらさが強いときや気持ちが落ち着かないときは、一人で抱えこまず、かかりつけ医や地域の相談窓口に話してみてください。緊急に自分や身の安全が心配なときは、迷わず119番に連絡してください。
予防
変時性不全そのものを完全に防ぐ方法はありませんが、心臓と血管の健康を保つことは、リスクを下げることにつながります。血圧・血糖・脂質を良好に保つ、禁煙する、適度に体を動かす、十分な睡眠をとるといった基本的な生活習慣が大切です。飲んでいる薬が影響している可能性がある場合は、自己判断で変更せず、医師や薬剤師に相談してください。
ワクチン
心臓や血管に病気のある方は、かかりつけ医と相談のうえで、インフルエンザなどのワクチン接種を検討することがあります。接種の可否や時期は、体調や治療の状況によって変わるため、必ず医療者に確認してください。
検診プログラム
健康診断での心電図、血圧測定、血液検査は、心臓や血管の変化に早く気づく助けになります。動いたときの息切れやめまいが気になるときは、健診の結果を待たずに受診を検討しましょう。
合併症
治療しない場合
- 運動できる範囲が狭くなり、日常生活の活動量が落ちる
- めまいやふらつきによる転倒・けが
- 気を失う発作による事故やけが
- 心臓の働きの低下(心不全)が進むことがある
- 不安や気分の落ち込みなど、こころへの負担が大きくなる
長期的な見通し
変時性不全は、原因を調べ、生活を調整し、必要に応じて治療を行うことで、症状をやわらげながら生活の質を保てることが多い状態です。心臓ペースメーカーで調子が良くなる方も少なくありません。あせらず、かかりつけ医と一緒に自分のペースで整えていくことが大切です。
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最終更新: 2026年10月22日
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