慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)
概要
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は、手足の神経(末梢神経)のまわりを包んでいる「髄鞘(ずいしょう)」という、電線の皮むきでいう被膜のような部分が、体の免疫の働きの誤作動によって傷つく病気です。髄鞘が傷むと、脳からの命令が手足にうまく伝わりにくくなり、しびれや力の入りにくさが現れます。名前のとおり、数か月以上かけてゆっくり進む(慢性)のが特徴で、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すこともあります。日本では国の「指定難病」に位置づけられており、条件を満たすと医療費の助成を受けられる場合があります。
重要な事実
- 手足のしびれや脱力が数か月以上かけてゆっくり進むのが典型的なパターンです。
- 体の免疫が自分の神経を誤って攻撃してしまう「自己免疫」の仕組みが関係すると考えられていますが、はっきりした原因はまだ分かっていません。
- 治療で症状が軽くなったり安定したりする人が多く、リハビリと生活の工夫を組み合わせて長く付き合っていく病気です。
- 日本では指定難病に認定されており、申請して認められると医療費の自己負担が軽くなる制度があります。
まれな病気です。多くの人にとって身近な病気ではありませんが、神経の病気の中では比較的よく知られており、診断や治療の方法が整えられています。手足のしびれを感じても、ほとんどは別の原因によるものであり、心配しすぎる必要はありません。
大人に多く、発症しやすいのは30〜60代くらいといわれています。男性にやや多い傾向があります。子どもに起こることはまれですが、まったくないわけではありません。遺伝する病気ではないと考えられています。
症状
- 息が苦しい、呼吸が浅い、横になると息が吸いにくい(呼吸の筋肉が弱っている可能性)
- 飲み込みにくい、唾液や食べ物がうまく飲み込めない、むせがひどい
- 話しにくい、声が出しにくい、ろれつが回らない
- 手足の麻痺が急に広がり、立てない・歩けない
- 意識がもうろうとしている、強いい頭痛やけいれんがある
- ⚠しびれや脱力が数日単位で急速に広がっている(別の急性の神経の病気の可能性があり、早めの受診が必要です)
- ⚠転倒して頭を打った、けがをした
- ⚠強い痛みで眠れない、日常生活が急に難しくなった
- ⚠尿が出にくい、トイレの回数が急に減った
- ⚠発熱など体調不良とともに、手足の症状が悪化している
一般的な症状
- 手足のしびれ(多くの場合、手より足から始まることが多い)
- 足に力が入りにくく、歩くのが遅くなる、つまずきやすい
- 階段の上り下りがつらい、立ち上がりにくい
- ボタンを留める、靴ひもを結ぶなど細かい手の動きがしにくい
- 物を落としやすい、字が書きにくい
- 手足の感覚が鈍い、触られても分かりにくい
- じんじんする痛みや、締めつけられるような不快な感覚
- 疲れやすい、少し動くとだるい
- 膝や足首の反射(腱反射)が弱い、または出ないと医師に言われる
- 症状は左右ほぼ同じように出ることが多い
子供の症状
- 歩き方がぎこちない、すぐ転ぶ、走れない
- 階段を上がるのを嫌がる、しゃがみ立ちができない
- 字を書く・箸を使うなど細かい手の動きが苦手になる
- 疲れやすく、休みたがる
- 痛みやしびれをうまく言葉で伝えられないことがあるため、様子の変化に気づくことが大切です
高齢者の症状
- 年のせいだと思われやすい(足腰の衰えや変形と区別しにくい)
- 転倒しやすくなり、けがや骨折につながることがある
- 筋力低下により、外出や家事がおっくうになる
- 他の持病の薬が多く、体調の変化に気づきにくいことがある
- 回復に時間がかかることがあり、リハビリを続けることが大切になります
原因
主な原因
- 体の免疫が自分の末梢神経の髄鞘(神経を包むさや)を誤って攻撃してしまう「自己免疫」の仕組みが中心と考えられています。
- なぜ免疫が誤作動するのか、はっきりした原因はまだ分かっていません。
- 一部の人では、感染症や血液の病気、糖尿病、他の自己免疫疾患などが関係している場合があります(二次性)。
- 特定の食べ物や生活習慣が直接の原因と確定しているものはありません。
リスク要因
- 30〜60代の大人(特に男性にやや多い)
- 他の自己免疫疾患(甲状腺の病気、関節リウマチなど)がある
- 糖尿病や血液の病気(腫瘍性のものを含む)がある
- 過去に感染症にかかったあとに発症したケースが報告されている
- 遺伝する病気ではないと考えられており、家族に同じ病気の人がいるからといって必ず発症するわけではありません
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 息苦しさや飲み込みにくさがある(119番または救急受診)
- 手足の麻痺が急に広がった、急に歩けなくなった
- 転倒してけがをした、頭を打った
- 症状が数日で急速に悪くなっている
定期受診を予約すべき場合:
- 手足のしびれや力の入りにくさが数週間以上続いている
- つまずく、階段がつらい、ボタン留めがしにくいなど、日常生活で不便を感じ始めた
- 健康診断や診察で腱反射が弱いと指摘された
- 疲れやすさやだるさが続き、原因が分からない
- 血のつながった家族に神経の病気の人がいる
診断
CIDPかどうかは、症状の出方(ゆっくり進む、左右ほぼ同じ、手足の先だけでなく近い部分にも変化があるなど)と、いくつかの検査を組み合わせて総合的に判断します。ひとつの検査だけで決まるものではないため、診断までに時間がかかることがあります。また、よく似た症状の他の神経の病気(糖尿病による神経障害や別の免疫性の神経の病気など)を除外する作業も大切です。
行われる可能性のある検査
- 問診と神経の診察(力の入り具合、感覚、反射、歩き方などを確認します)
- 神経伝導検査(神経に弱い電気刺激を流し、信号の伝わり方や速さを調べます。ピリピリした感じはありますが、短時間で終わります)
- 血液検査(貧血や糖尿病、甲状腺、他の自己免疫疾患の有無、免疫に関わるたんぱく質などを調べます)
- 髄液検査(腰から細い針で少量の髄液を採り、たんぱく質の量などを調べます。数時間の安静が必要なことがあります)
- MRI検査(神経の根元の部分の腫れや、他の病気がないかを確認します)
- 必要に応じて神経の生検(ごく小さな組織を採って調べる検査。すべての人に行うわけではありません)
診察で予想されること
診断までは複数回の通院と、いくつかの検査が必要になることがあります。検査の結果が出るまでに数週間かかることもあり、その間は不安な気持ちになるかもしれません。検査の多くは体への負担が少ないものですが、髄液検査のあとはしばらく横になって休む必要があります。分からないことは遠慮せずに医師や看護師に質問し、検査の目的や予定を確認しておくと安心につながります。
治療
CIDPの治療は、免疫の誤作動をできるだけ抑えて症状を軽くし、日常生活の動きを保つことを目指します。人によって症状の出方や経過が異なるため、治療の組み合わせや強さは一人ひとりに合わせて調整されます。治療を続けながら、リハビリや生活の工夫を組み合わせていくのが基本です。
自宅でのセルフケア
- 無理のない範囲で、毎日の生活の中に軽い運動や歩行を取り入れる
- 転びやすい場合は、手すりの設置、滑りにくい靴、夜間の照明など、家の中の環境を整える
- 足や手の感覚が鈍いときは、やけどやけが、靴ずれに気づきにくいので、毎日皮膚の様子を観察する
- 疲れをためないように、活動と休憩のバランスをとる
- 医師や理学療法士に教わったリハビリを、無理のない範囲で続ける
- 症状の変化(できるようになったこと、難しくなったこと)をメモしておき、通院時に伝える
- 体調が悪いときや新しい症状が出たときは、自己判断せずに医療機関に相談する
医療治療
治療の中心は、免疫の働きを調整する方法です。大きく分けて、(1) 免疫に関わるたんぱく質を点滴で補う療法、(2) 血液の中の免疫に関わる成分を取り除く血漿交換という療法、(3) 免疫の働きを抑える副腎皮質ステロイド薬などの薬物療法、があります。症状の強さ、生活の状況、持病、通院のしやすさなどを考慮して、医師が方法や組み合わせを選びます。治療の効果や副作用には個人差があるため、定期的な検査と体調の確認をしながら調整していきます。どの治療を選ぶか、薬の種類や量、副作用の注意点については、必ず主治医と薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
CIDPそのものを手術で治す治療はありません。ただし、神経が別の場所で圧迫されている疑いがある場合や、長く続いた症状により関節の変形などが生じた場合に、整形外科的な評価や手術が検討されることがあります。必要かどうかは主治医とよく相談して決めます。
この病気と共に生きる
CIDPは長く付き合っていく病気なので、その日の体調に合わせて予定を調整することが大切です。疲れやすい日は休む、調子が良い日に少し多めに動くなど、波を認めながら生活すると負担が軽くなります。手すりや滑りにくい靴、開けやすい容器など、道具や環境を工夫するのも有効です。仕事や家事については、抱え込まずに家族や職場に状況を伝え、必要に応じて相談窓口や制度を利用することを検討してみてください。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい睡眠と休養を心がけ、疲れをためない
- 転倒予防のため、室内の段差や照明を見直し、手すりを活用する
- 禁煙や節酒など、体全体の健康に良い習慣を続ける
- 足元の感覚が鈍いときは、低温やけどや靴ずれを防ぐために温度や履き心地に注意する
- ストレスを抱え込みすぎないよう、趣味や人との交流の時間をつくる
- 予防接種などの健やかさに関わる判断は、自己判断せず主治医に相談する
食事と運動
特定の食べ物がCIDPを良くする、あるいは悪くするという確かな証拠はありません。バランスの良い食事を3食とり、塩分や糖分のとりすぎに気をつけることが基本です。運動は、筋力を保ち、転倒を防ぎ、気分を保つ助けになります。ただし、無理をすると疲労がたまり症状が悪く感じることもあるため、医師や理学療法士に相談しながら、ウォーキングや軽いストレッチなど自分のペースで続けられるものから始めましょう。
精神的健康と心の健康
長く続く症状や、良くなったり悪くなったりを繰り返す経過は、不安や落ち込み、いらだちにつながることがあります。それは自然な反応であり、あなたの弱さではありません。気持ちのつらさが続くときは、かかりつけ医に話す、地域の相談窓口や専門の相談先に連絡するなど、ひとりで抱え込まないでください。気持ちが追い詰められて自分を傷つけたいと考えたときは、すぐに119番やお住まいの地域の緊急相談窓口に連絡し、安全を第一にしてください。
予防
CIDPのはっきりした原因が分かっていないため、確実な予防方法は今のところありません。免疫の誤作動が関係すると考えられているので、生活習慣だけで完全に防ぐことは難しいのが実際です。一方で、糖尿病や他の自己免疫疾患など関連する可能性のある病気をきちんと管理すること、睡眠や食事などの体調を整えることは、体全体の健康を保つ意味で役立ちます。
ワクチン
特定のワクチンがCIDPの原因だと確定しているわけではありません。ワクチン接種を受けるかどうかは、年齢や持病、これまでの経過をふまえて主治医と相談して決めてください。感染症にかかると体調全体が崩れやすいため、予防できる感染症への備えは日頃の健康管理の一つとして考えられます。
検診プログラム
CIDPだけを早期に見つけるための決まったスクリーニング検査はありません。ただし、手足のしびれや力の入りにくさが続く場合は早めに受診することが大切です。糖尿病や血液の病気、他の自己免疫疾患と診断されている人は、神経の症状が現れたときに主治医に伝えるようにしましょう。
合併症
治療しない場合
- 手足の筋力低下が進み、歩行や立ち上がりが難しくなる
- 転倒が増え、骨折やけがのリスクが高まる
- 手の細かい動きが難しくなり、着替えや食事などの日常生活に支障が出る
- 関節が固まりやすくなる(拘縮)
- 痛みやしびれが続き、睡眠や気分に影響する
- まれですが、呼吸の筋肉や飲み込む動きが弱くなり、息苦しさや誤嚥(食べ物が気管に入る)が起こることがある
- 仕事や学業、社会生活への参加が難しくなることがある
長期的な見通し
CIDPは、多くの人が治療によって症状の改善や安定を得られる病気です。良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、長い目で見るとゆっくり落ち着いていく人もいます。経過には個人差が大きく、すべての人に同じ道筋があるわけではありません。治療を続けながらリハビリや生活の工夫を組み合わせることで、できることを保ちながら暮らしていくことが期待できます。不安なときは、そのつど主治医に経過と見通しを確認してみてください。
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最終更新: 2026年10月22日
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