セリアック病とグルテン過敏症
概要
セリアック病は、小麦・大麦・ライ麦などに含まれる「グルテン」というたんぱく質を体がとり入れたときに、免疫(体を守る仕組み)が誤って自分の小腸を攻撃してしまう病気です。小腸の内側には栄養を吸収する細かい突起(絨毛・じゅうもう)があり、ここが傷つくと、食べた物から栄養をしっかり吸収できなくなります。 一方、「グルテン過敏症(非セリアック性グルテン過敏症)」は、小腸が傷ついているわけではないのに、グルテンをとるとおなかの張りやだるさなどの不快な症状が出る状態です。小麦アレルギーとも仕組みが異なります。小麦アレルギーは免疫の別の反応で、食べてすぐにじんましんや息苦しさなどが出ることがあります。
重要な事実
- セリアック病は自己免疫の病気で、グルテンを避ける食事(グルテン除去食)を続けることが治療の中心になります。
- 小麦アレルギー、グルテン過敏症、セリアック病はそれぞれ別のもので、検査で見分ける必要があります。
- 日本では比較的まれとされていますが、気づかれていない例もあると考えられており、疑ったときは消化器の専門医に相談するのが安心です。
世界全体では人口のおよそ1%前後の人がセリアック病とされているといわれ、欧米に多い病気です。日本では報告が少なくまれですが、近年は認識が広がってきています。グルテン過敏症はセリアック病よりも多いと考えられています。
子どもから高齢者まで、どの年齢でも起こります。遺伝的な体質(HLA-DQ2/DQ8という型)が関係していて、家族にセリアック病の人がいる場合はリスクが高まります。女性にやや多いといわれ、1型糖尿病や甲状腺の病気など、ほかの自己免疫の病気がある人にも多くみられます。
症状
- 唇・まぶた・のどの腫れ、声がれ、息苦しさ、全身のじんましん、意識がもうろうとする(小麦アレルギーによるアナフィラキシーの可能性があります)——ためらわず救急車を呼んでください(119番)
- 激しい腹痛で立っていられない、おなかが板のように硬い
- 繰り返す嘔吐や下痢で水分がとれず、尿が出ない、ぐったりしている
- 血便が大量に出る、黒い便が続く
- けいれん、意識がはっきりしない
- ⚠数日続く下痢・嘔吐で水分をとりづらい
- ⚠急な体重減少、食べられない状態が続く
- ⚠強い腹痛や血便がある
- ⚠顔色が悪く、動くとふらつく・動悸がする
- ⚠子どもの元気がなく、尿の量が減っている
一般的な症状
- おなかの張り、ガス、腹痛
- 下痢や便秘が続く、便がゆるい
- 食べても体重が増えない、体重が減る
- 疲れやすさ、だるさ、集中しにくい
- 鉄分が足りない貧血(息切れ、顔色が悪い、めまい)
- 口内炎がくり返す
- 皮膚のかゆいブツブツ(疱疹状皮膚炎・ほうしんじょうひふえん)
- 骨がもろくなる(骨粗鬆症)、骨折しやすい
- 生理不順、不妊
- 気分の落ち込み、イライラ
子供の症状
- 身長や体重の伸びが悪い、成長が遅い
- おなかが張って膨らんで見える
- きげんが悪い、元気がない
- 下痢が続く、食欲がない
- むし歯ができやすい、歯の表面に傷がある
- 思春期の始まりが遅い
高齢者の症状
- 症状がはっきりせず、貧血や骨粗鬆症の検査で見つかることがある
- だるさ、体重減少、食欲低下
- 手足のしびれや感覚の鈍さ(栄養不足による神経の症状)
- 下痢と便秘をくり返すなど、おなかの症状が軽いこともある
原因
主な原因
- セリアック病は、グルテンに対する免疫の反応と遺伝的な体質が重なって起こると考えられています。
- グルテン過敏症は、グルテンを含む食品で症状が出るものの、小腸の傷やアレルギーの検査では説明がつかない状態です。仕組みはまだよく分かっていません。
- 小麦アレルギーは、小麦のたんぱく質に対するアレルギー反応で、セリアック病とは別の病気です。
リスク要因
- 家族(親・きょうだい・子ども)にセリアック病の人がいる
- HLA-DQ2/DQ8という遺伝子の型をもっている
- 1型糖尿病、甲状腺の病気、自己免疫の病気がある
- ダウン症などの染色体の病気がある
- 子どもの頃の食事や感染症の経験が関係するという研究もありますが、はっきりした原因はまだ分かっていません
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 血便や黒い便がある
- 激しい腹痛が続く
- 嘔吐や下痢で水分がとれず、尿が少ない
- 体重が短期間に大きく減った
- 息切れや動悸が強く、ふらついて立っていられない
定期受診を予約すべき場合:
- 食後のおなかの張り、ガス、下痢や便秘が数週間以上続く
- 食べているのに体重が増えない、または減っていく
- 疲れやすさや貧血を指摘されたことがある
- 家族にセリアック病の人がいる
- 食事を変えると調子が良くなる気がして、自分でグルテンを抜いている
診断
問診(症状の経過、食事の内容、家族歴)に加えて、血液検査や内視鏡検査を行います。セリアック病が疑われるときは、小腸の粘膜を直接見て、一部を採取して調べます(生検・せいけん)。グルテン過敏症は、セリアック病や小麦アレルギーが否定されたうえで、症状と食事の関係から判断します。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:組織トランスグルタミナーゼ抗体など、セリアック病に関係する抗体を調べます
- 血液検査:貧血、鉄分、葉酸、ビタミンD、カルシウム、甲状腺などの栄養と体の状態を確認します
- 上部消化管内視鏡検査:口から細い管を入れて十二指腸の粘膜を観察し、小さな組織を採取します(痛みはほとんどなく、多くの場合鎮静剤を使います)
- 遺伝子の型の検査(HLA-DQ2/DQ8):陰性ならセリアック病の可能性はかなり低いといえます
- 小麦アレルギーの検査(血液検査や皮膚テストなど)
- 食事日誌:何を食べたときにどんな症状が出たかを記録します
- グルテン除去食を一定期間試して症状の変化をみる(主にグルテン過敏症の判断のため)
診察で予想されること
検査の間は、自分でグルテンを抜かないことがとても大切です。グルテンを避けてしまうと小腸の傷や抗体の値が元に戻り、病気があるのに「異常なし」と判定されてしまうことがあります。結果が出るまで数日から数週間かかることがあり、その間は不安かもしれません。医師から結果と今後の食事の進め方を一緒に説明してもらうようにしましょう。
治療
セリアック病の治療の中心は、生涯にわたってグルテンを避ける食事(グルテン除去食)を続けることです。食事を正しく続けられれば、多くの人は症状がおさまり、小腸の粘膜も時間をかけて回復します。グルテン過敏症の場合は、症状に合わせてグルテンをとる量や範囲を調整します。どちらの場合も、医師と管理栄養士(栄養の専門家)のサポートを受けると安心です。
自宅でのセルフケア
- 食品の原材料表示を毎回確認する(小麦・大麦・ライ麦の表示に注意)
- しょうゆ、みそ、だし、ソース、ルウ、加工肉、菓子、ドレッシングなどにも小麦が使われていることがあるので確認する
- パンや麺類は米粉やとうもろこし粉などの代わりになる食品を取り入れる
- 調理器具やまな板、トースターなどからの混ざり(交差汚染)を防ぐため、家庭内で使い分ける
- 外食のときは事前に電話で相談し、小麦を使っていない料理や調理法を確認する
- 鉄分・葉酸・カルシウム・ビタミンDを意識して、栄養バランスを整える
- 症状が落ち着いても自己判断で受診をやめず、定期的に体重や血液の状態を確認する
- 食事の記録をつけて、体調の変化を医師や管理栄養士と共有する
医療治療
今のところ、セリアック病そのものを治す薬や、グルテンを自由に食べられるようにする治療法は確立していません。治療の柱は食事療法で、医師と管理栄養士が食事内容の見直しや栄養の補い方を一緒に考えます。栄養が不足している場合には、足りない栄養を補う方法を医師に相談します。症状に応じて対症的な対応を行うこともあります。研究は世界中で進んでおり、新しい治療法の開発が期待されています。薬の名前や量については、必ず医師・薬剤師の指示に従ってください。
手術が検討される場合
セリアック病やグルテン過敏症そのものに対して手術が必要になることはありません。ただし、合併症が見つかった場合などは、専門医が必要に応じて判断します。
この病気と共に生きる
グルテンを避ける生活は、最初は戸惑うことが多いかもしれません。うどん、ラーメン、パン、天ぷら、カレーなど、日本では小麦を使う料理が多く、会食や外食の場面で気をつかうこともあります。ただ、米粉の食品やグルテンを使わない調味料など、選べるものは年々増えています。買い物のときに表示を見る習慣が身につけば、少しずつ負担は軽くなっていきます。
生活習慣のアドバイス
- 外食の予定が決まったら早めにお店に相談し、必要なら持参できるものは持っていく
- 家族や友人に自分の食事の決まりを伝えて、理解してもらう
- 旅行のときは、食べられる食品をあらかじめ用意しておく
- ストレスや睡眠不足は体調の波に影響するので、無理のない生活リズムを心がける
- 喫煙は骨や腸の健康に良くないため、禁煙を心がける
- 定期的な受診を続け、体重や血液検査の変化を確認する
食事と運動
食事はグルテンを避けるだけでなく、全体のバランスが大切です。たんぱく質、野菜や果物、食物繊維、鉄分、カルシウム、ビタミンDを意識してとりましょう。外食や加工食品が多いと栄養が偏りやすいので、管理栄養士に相談すると具体的な工夫が分かります。運動は、骨がもろくなるのを防ぐためにとても役立ちます。ウォーキングや軽い筋力運動など、無理なく続けられるものを毎日の習慣にするとよいでしょう。
精神的健康と心の健康
食事が制限されることで、会食の場で気まずさを感じたり、『なぜ自分だけ』という孤独感や、食べ物への不安が続いたりすることがあります。これは自然な気持ちで、あなたの弱さではありません。不安や落ち込みが長く続くときは、一人で抱え込まずに、かかりつけ医や地域の保健所・精神保健福祉センター、専門の相談窓口に話してみてください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の緊急の相談窓口に連絡してください。
予防
セリアック病は遺伝的な体質と免疫の仕組みが関係しているため、食事や生活の工夫で完全に防ぐ方法は今のところ分かっていません。授乳の方法やグルテンを食べ始める時期を調整しても、セリアック病を確実に防げるという証拠は得られていません。早期に見つけて食事療法を始めることが、合併症を防ぐうえで大切です。
ワクチン
セリアック病やグルテン過敏症を防ぐワクチンはありません。インフルエンザなどの一般的な予防接種については、体の状態に合わせてかかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
日本ではセリアック病の集団検診は行われていません。ただし、家族にセリアック病の人がいる場合や、原因の分からない貧血・骨粗鬆症・長く続くおなかの不調がある場合は、症状がなくても検査を考えます。検査が必要かどうかはかかりつけ医に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 鉄分・葉酸・ビタミンD・カルシウムなどの栄養不足
- 骨がもろくなる(骨粗鬆症)、骨折しやすくなる
- 子どもの成長の遅れ
- 貧血が続くことによる息切れやだるさ
- 生理不順や不妊、妊娠中のトラブルのリスク
- 手足のしびれなど神経の症状
- とてもまれですが、小腸のがん(リンパ腫)のリスクが高まることが知られています
- グルテン過敏症の場合は命に関わる合併症は知られていませんが、症状によって生活の質が下がることがあります
長期的な見通し
セリアック病は、グルテンを避ける食事をきちんと続けることで、多くの人の症状が改善し、小腸の粘膜も時間をかけて回復します。最初は大変でも、知識とサポートが増えるほど生活は楽になっていきます。グルテン過敏症も、自分に合った付き合い方を見つけることで症状をコントロールしやすくなります。定期的に受診しながら、あせらず一歩ずつ進めていきましょう。
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最終更新: 2026年10月22日
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