コーヘン症候群(Cohen症候群)ってどんな病気?
概要
コーヘン症候群は、生まれつきの体のつくりや発達にいくつもの特徴がみられる、とても珍しい遺伝性の病気です。主に「体の成長」「脳と学習の発達」「目の見え方」「体を感染から守る白血球の一種(好中球=こうちゅう)」に影響が出やすいのが特徴です。ひとつの遺伝子(VPS13B遺伝子)の変化が原因と考えられていて、両親から受けつぐことで起こります。症状の出方や程度は一人ひとりかなり違いがあり、軽い人から手厚い支援が必要な人まで幅があります。
重要な事実
- 生まれつきの遺伝性の病気で、感染症のように人から人へうつることはありません。
- 発達の遅れ、小さい頭、やわらかい関節、目の病気(近視や網膜の変化)、好中球という白血球が少なくなること(感染症にかかりやすくなる)、学童期以降の体幹の肥満などがよくみられます。
- 根本的に治す治療はまだありませんが、感染症の予防、目のケア、リハビリ、教育支援などを組み合わせることで、その人らしい生活を長く続けていくことができます。
とても珍しい病気です。正確な患者さんの数はわかっていませんが、数千〜数万人に1人程度と考えられています。フィンランド、アーミッシュ、アイルランドのトラベラーと呼ばれる集団など、特定の地域・集団で多くみられることが知られています。日本では診断される例は多くありませんが、全国的にも報告があります。
生まれつきの病気なので、男の子にも女の子にも同じくらいみられます。多くは乳児期から幼児期に、筋肉の力が弱い、発達がゆっくり、といったことから気づかれます。大人になってから初めて診断されることもあります。
症状
- 高熱が出て、ぐったりしている、顔色が悪い、手足が冷たい(重い感染症の可能性があるとき)
- 息が苦しい、呼吸が速い、唇の色が青っぽい
- けいれんが起きた、意識がぼんやりして呼びかけに反応しにくい
- 突然目が見えなくなった、視界が急に大きく欠けた
- 激しいおなかの痛みが続き、何度も吐く
- ⚠好中球が少ないと言われている人が38度以上の熱を出した(当日中に医療機関へ連絡してください)
- ⚠歯ぐきや顔が大きく腫れた、口が開けにくい
- ⚠耳の痛みや聞こえにくさが急に進んだ
- ⚠食べたり飲んだりできず、水分がとれない
- ⚠いつもと比べて元気がなく、反応が鈍い
一般的な症状
- 発達の遅れ:歩き始めや言葉の出始めがゆっくりで、学習の理解にも時間がかかることがあります。
- 知的発達の遅れ:程度は人によってさまざまで、軽度から中等度が多いとされます。
- 頭が小さい(小頭症):まわりの子より頭の周囲が小さいことがあります。
- 筋肉の力が弱い(筋緊張の低下):赤ちゃんのころ、体がぐにゃっとやわらかく感じられることがあります。
- 関節がよく曲がる(関節のやわらかさ):手足の関節が通常より大きく動くことがあります。
- 顔立ちの特徴:髪や眉毛が濃い、まつげが長い、前歯が目立つ、鼻の付け根が低め、といった特徴がみられることがあります。
- 目の問題:近視が強くなることが多く、網膜(目の奥の光を感じる部分)の変化がゆっくり進んで見えにくくなることがあります。
- 好中球の減少:体を守る白血球の一種が少なく、熱を出したり感染症にかかったりしやすくなります。とくに歯ぐきや口の中の感染が起こりやすいといわれます。
- 学童期以降の体の肥満:おなかや胸まわりに脂肪がつきやすい傾向があります。
- 人なつこく明るい性格:人と関わることが好きで、よく笑う子が多いといわれています。これは病気の特徴のひとつとして語られることがあります。
- 手や足が比較的小さい、背が伸びにくい、といった成長の特徴がみられることがあります。
子供の症状
- 赤ちゃんのころ、母乳やミルクを飲む力が弱い、飲むのに時間がかかる。
- 首のすわり、おすわり、歩き始めがゆっくり。
- 言葉が出るのが遅い、発音がはっきりしない。
- 反復する発熱や、口の中・歯ぐきの腫れや痛みをくり返す。
- 耳の聞こえにくさが見つかることがある。
- 幼稚園や学校で、体力が続かない、細かい手作業が苦手。
- 成長に合わせて体重が増えやすくなる。
高齢者の症状
- コーヘン症候群は生まれつきの病気のため、大人になってから新たに発症するものではありません。成人期には、網膜の変化による見えにくさが進むことがあります。
- 肥満にともなう生活習慣病(血糖値の上昇や血圧の変化など)に注意が必要になります。
- 歯や歯ぐきの病気、関節の痛みや動きにくさが続くことがあります。
- 社会生活や仕事の面で、その人に合った支援や配慮が必要になることがあります。
原因
主な原因
- VPS13B(ブイピーエスサーティーンビー)と呼ばれる遺伝子の変化が原因と考えられています。この遺伝子は、細胞の中の物質の運搬や整理に関わっているとされます。
- 両親のそれぞれが1つずつ変化した遺伝子を持っている場合に起こる「常染色体劣性(じょうせんしょくたいれっせい)」という受けつぎ方です。この場合、子どもが2つとも変化した遺伝子を受けつぐ確率は、妊娠のたびに4分の1(25%)です。
- 両親のどちらも症状がない「保因者(ほいんしゃ)」であることが多く、家族に同じ病気の人がいないことも少なくありません。
- 妊娠中のお母さんの生活や食事、しつけなどが原因で起こる病気ではありません。育て方のせいでもありません。
リスク要因
- 血のつながりの近い夫婦(近親婚)の場合、保因者どうしが結婚する可能性が高くなるため、リスクが上がることがあります。
- すでにコーヘン症候群のお子さんがいる家族では、次のお子さんにも起こる可能性があります。
- 特定の地域・集団(フィンランド、アーミッシュ、アイルランドのトラベラーなど)の出身では、保因者が多いとされています。
- 家族に同じ遺伝子の変化が見つかっている場合。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 好中球が少ないと診断されている人に発熱があったとき(まずは主治医や地域の救急相談に電話で相談してください)
- 口の中や歯ぐきの腫れ、痛みが強いとき
- 急に見えにくくなった、物が二重に見えるなどの目の変化
- 水分がとれない、尿が極端に少ない
- いつもと違うぐったりした様子があるとき
定期受診を予約すべき場合:
- 歩き始めや言葉の出始めが、まわりの子より明らかにゆっくりに感じるとき
- 体がやわらかすぎる、抱っこのしかたが難しいと感じるとき
- 頭の大きさや背の伸びが気になるとき
- くり返す発熱や感染症が多いとき
- 幼稚園・学校生活での支援の必要性を相談したいとき
- 家族に同じ遺伝子の変化があるとわかっているとき(妊娠前の相談も含む)
診断
まず小児科医や遺伝を専門とする医師が、これまでの育ち方、体の診察、発達の様子をていねいに確認します。そのうえで、コーヘン症候群でよくみられる特徴がいくつも当てはまる場合に、遺伝子の検査(VPS13B遺伝子の変化を調べる血液検査)を行って確定します。あわせて、好中球の数、目の状態、聞こえ、発達の評価なども行います。
行われる可能性のある検査
- 体の診察(顔立ちの特徴、頭の大きさ、関節のやわらかさ、皮膚の様子などを確認)
- 発達の評価(運動・言葉・学習面のチェック)
- 血液検査(白血球の種類と数、とくに好中球の数を確認。貧血や血糖値なども)
- 遺伝子検査(VPS13B遺伝子の変化を調べる)
- 眼科の検査(視力、近視の強さ、目の奥の網膜の状態)
- 聴力検査
- 必要に応じて内分泌(ホルモン)の検査、画像検査、歯科の検査
診察で予想されること
確定診断までには、いくつかの診察と検査を何回かに分けて行うことが多く、数か月かかることもあります。遺伝子検査の結果が出るまでには数週間から数か月かかることがあります。結果を伝えるときには、医師から今後の見通しや支援の方法について説明があります。一人で抱え込まず、パートナーや家族と一緒に説明を聞くことをおすすめします。
治療
コーヘン症候群そのものを根本から治す治療は、今のところありません。治療の中心は、その人に必要な支援を組み合わせて、「感染症から守る」「見え方と聞こえを保つ」「体と心と学びの発達を支える」「生活の質を高める」ことです。小児科医を中心に、眼科、歯科、リハビリ、心理、教育などの専門家がチームになって支える形が理想的です。
自宅でのセルフケア
- 手洗い、うがい、歯みがきをていねいに行い、感染症と歯の病気を予防する。
- 熱が出たときは早めに医療機関に連絡する(好中球が少ない人は特に大切)。
- 決められた眼科の定期検査を受け、見えにくさの変化を早く見つける。
- 食事は決まった時間に、野菜やたんぱく質をバランスよく。おやつのとり方も工夫する。
- 無理のない範囲で体を動かす(散歩、プール、遊びの中で)。
- 睡眠をしっかりとり、生活のリズムを整える。
- 転びやすい、ぶつかりやすい場合は、家の中の安全を整える。
- 予防接種は、主治医と相談しながら計画的に進める。
医療治療
治療は大きく分けて、(1)感染症への備え、(2)目のケア、(3)聞こえのケア、(4)発達と体のリハビリ、(5)成長・体重・生活習慣病への対応、(6)歯のケア、になります。感染症が疑われるときは、医師が状態をみて必要な治療を判断します。好中球がとても少なく感染をくり返す場合には、免疫の働きを支える治療が検討されることがありますが、これは主治医とよく相談して決めるものです。目には必要に応じて眼鏡や弱視の支援、耳には補聴器などの支援が検討されます。言葉・運動・手先の動きには、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士によるリハビリが役立ちます。このほか、学校や園と連携した学習支援、心理面のサポートも大切です。具体的な治療の選び方は、症状の程度や年齢によって一人ひとり違います。
手術が検討される場合
コーヘン症候群そのものに対する手術は通常必要ありません。ただし、歯の治療、眼科的な合併症、整形外科的な問題など、個別の状態に応じて手術が検討されることがあります。その場合も、主治医と専門医が相談して決めていきます。
この病気と共に生きる
日々の暮らしでは、「感染症を早く見つける」「見え方と聞こえを定期的に確かめる」「その子に合った伝え方で意思をくみ取る」という3つが柱になります。決まった時間に食事と睡眠をとり、予定を絵や写真で示すと見通しを持ちやすくなります。学校や園、福祉の担当者と情報を共有しておくと、急な体調変化のときにも対応しやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 手洗い・うがい・歯みがきを習慣にする。
- 家族全員で感染症予防を心がけ、体調が悪い人は家の中でも距離をとる。
- 定期的な通院予定をカレンダーに書き、忘れないようにする。
- 家の中の段差や危ない場所を減らし、転びにくい環境を整える。
- 絵カードや短い言葉など、その人がわかりやすい伝え方を使う。
- 本人の好きなこと(音楽、絵、散歩など)を日常に取り入れる。
- 親や家族が休息をとれるように、支援サービスを早めに使う。
食事と運動
肥満が進みやすい傾向があるため、食事は決まった時間に、野菜・たんぱく質・主食をバランスよくとることが大切です。甘い飲み物やおやつの量は、かかりつけ医や管理栄養士と相談しながら工夫するとよいでしょう。運動は無理のない範囲で、散歩、水遊び、ストレッチなど、本人が楽しめるものを習慣にします。関節がやわらかい人は、無理に伸ばしすぎないように注意し、理学療法士に相談しながら進めると安心です。
精神的健康と心の健康
珍しい病気で診断がつくまで時間がかかると、家族は「自分の育て方が悪いのでは」と自分を責めてしまいがちです。それは事実ではありません。診断を受けたあとも、通院の多さ、先の見えなさ、きょうだいへの気がねなどから、不安や疲れがたまることがあります。本人も、言葉でうまく伝えられないもどかしさを抱えていることがあります。家族が一人で抱え込まず、地域の相談窓口や小児科の相談、心理の専門家に話してみることは、とても大切なことです。つらい気持ちが続くときは、早めに医療機関や地域の相談窓口に相談してください。
予防
コーヘン症候群は遺伝子の変化による生まれつきの病気のため、生活習慣などで予防することはできません。ただし、家族に同じ遺伝子の変化が見つかっている場合は、妊娠を考える前に遺伝カウンセリングを受けることで、次のお子さんについての可能性や選択肢をあらかじめ知ることができます。これは「予防」というより「準備と選択」のための相談です。
検診プログラム
一般の妊婦健診で本症が偶然見つかることは通常ありません。家族に遺伝子の変化がある場合は、遺伝専門の医師やカウンセラーに相談することで、保因者かどうかを調べる検査や、出生前の検査についての情報を得られます。検査を受けるかどうかは、本人と家族が十分に話し合って決めることです。
合併症
治療しない場合
- 好中球が少ないことで、感染症をくり返したり、重い感染症になったりする可能性があります。
- 網膜の変化が進み、見えにくさが強くなることがあります。
- 歯ぐきの病気(歯周病)が進み、歯を失うことがあります。
- 肥満が進み、血糖値の上昇や血圧の変化などの生活習慣病につながることがあります。
- 聞こえにくさが見逃され、言葉の発達や人との関わりに影響することがあります。
- 発達や学習への支援が届かないと、学校生活や社会生活での困りごとが大きくなることがあります。
- 関節のやわらかさから、けがや姿勢の問題が起こることがあります。
長期的な見通し
コーヘン症候群は生涯にわたってつきあっていく病気ですが、見通しは決して暗いものばかりではありません。感染症に早く気づくこと、目と耳と歯を定期的にケアすること、その子に合った学び方と生活の支えを早くから整えることで、多くの人が自分なりの生活を築いていきます。症状の程度は人によって大きく異なり、大人になって地域で暮らしたり、仕事や趣味を持ったりする人もいます。心配なことは、かかりつけ医や地域の相談窓口に一つずつ相談しながら進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月22日
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