昏睡(こんすい)——意識が戻らない状態について
概要
昏睡(こんすい)とは、深い意識障害のために、呼びかけや痛みなどの刺激に反応せず、自分から目を覚ますことができない状態をいいます。数時間で戻ることもあれば、数日から数週間続くこともあります。大切なのは、昏睡はそれ自体が「病気の名前」ではなく、脳が何らかの理由でうまく働けなくなったときに現れる「状態(症状)」だということです。ですから治療では、昏睡を直接ねらうのではなく、背景にある原因を突き止めて取り除くことが中心になります。昏睡は本人が自覚できるものではなく、周りの人が気づいて助けを呼ぶことで救命につながります。
重要な事実
- 昏睡は病気そのものではなく、脳の働きが妨げられた結果として起こる状態です。
- 原因は脳卒中や頭のけが、低血糖、けいれん発作、感染症、薬やアルコールの影響などさまざまです。
- 昏睡の人を見つけたら、まず119番通報し、意識と呼吸を確認しながら救急隊の指示に従ってください。
昏睡そのものは比較的まれな状態ですが、救急の現場では「意識がはっきりしない」という形でよく出会います。糖尿病のある方の低血糖のように、身近な原因で起こることもあります。
年齢を問わず起こりえます。脳卒中は高齢の方に多く、頭のけがは若い方や子どもにも起こります。低血糖は糖尿病のある方に多く、薬の影響や飲酒が関係することもあります。高齢の方は、感染症や脱水など少しのきっかけでも意識が低下しやすい傾向があります。
症状
- 呼びかけても目を覚まさない、強く揺らしても反応がない
- 痛みに反応しない、体がぐったりしている
- 呼吸がおかしい、息が止まっている、あえいでいる
- けいれんが数分以上続く、または繰り返す
- 頭を強く打った後に意識がない、または意識がぼんやりしている
- 突然倒れた、ろれつが回らない、体の片側が動かない
- 瞳孔(目の黒い部分)の大きさが左右で大きく違う
- ⚠意識がもうろうとしている、会話がかみ合わない
- ⚠自分の名前や今いる場所がわからない
- ⚠がまんできない強い頭痛や、繰り返す嘔吐がある
- ⚠けいれんがおさまった後も、ぼんやりした状態が続く
- ⚠普段と比べて異常に眠い状態が続いている
一般的な症状
- 呼びかけても目を開けない、返事がない
- 痛みを与えても反応が乏しい、または反応がない
- 自分から動かない、体の向きを変えられない
- 目は閉じたまま、または開いていても焦点が合わない
- 呼吸のリズムや速さがいつもと違う
- けいれんが起きる、体が硬くなる
- 尿や便のコントロールができない
- 飲みこみができず、よだれや分泌物がたまる
子供の症状
- 呼びかけても、だっこしても起きない、反応が弱い
- 泣かない、視線が合わない、表情が乏しい
- けいれんが起きる、体がびくつく
- 母乳やミルクを飲めない、ぐったりしている
- 普段と比べて眠りが深く、揺らしても目覚めない
高齢者の症状
- 軽い意識の低下でも、周りからは昏睡に近く見えることがある
- 脱水、感染症、薬の影響、低血糖などで意識が低下しやすい
- 認知症や難聴があると、反応がないように見えて判断が難しいことがある
- 普段と違う眠気や元気のなさが、意識低下の最初のサインになることがある
原因
主な原因
- 脳卒中(脳出血・脳梗塞など、脳の血管の病気)
- 頭を打ったときの脳のけが(頭部外傷)
- 血糖値が低くなりすぎる、または高くなりすぎる状態(糖尿病に関係)
- てんかんなどのけいれん発作
- 脳やその周りの感染症(髄膜炎・脳炎など)
- 薬の使いすぎや飲み合わせ、アルコールのとりすぎ
- 心臓が止まる、窒息などによる脳への酸素不足
- 肝臓や腎臓の働きが悪くなったことによる体の中の変化
- 熱中症や低体温など、体温の異常
- 甲状腺などホルモンのはたらきの異常
リスク要因
- 糖尿病がある
- 高血圧、心臓病、以前の脳卒中の経験がある
- 血液を固まりにくくする薬などを服用している
- 日常的に多い量の飲酒をする
- 高齢である
- てんかんの持病がある
- 肝臓や腎臓の病気がある
- 頭を打ったことがある、スポーツ中のけがが多い
- 感染症にかかりやすい、または重症化しやすい状態にある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 意識がぼんやりしていて、話がかみ合わない
- 普段と比べて異常に眠く、起こしてもすぐに眠ってしまう
- 強い頭痛や嘔吐がある
- 転倒や頭を打つ出来事のあと、様子がいつもと違う
定期受診を予約すべき場合:
- 意識が戻ったあと、原因を調べる検査や経過の確認が必要なとき
- 同じような意識の低下を繰り返しているとき
- 持病の薬の調整や、生活習慣病の管理について相談したいとき
診断
昏睡かどうかは、まず意識の状態を丁寧に観察して評価します。呼びかけへの反応、痛みへの反応、目の開き方などを組み合わせて、意識のレベルを点数で表す方法(グラスゴー・コマ・スケール)がよく使われます。同時に、なぜ意識が低下したのかを探るため、体の全体像と脳の状態を調べる検査が並行して進められます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(血糖、電解質、肝臓・腎臓の働き、感染のサイン、薬物の有無など)
- 頭のCT検査やMRI検査(出血、腫れ、血管の詰まりなどを調べる)
- 脳波検査(けいれんの有無や脳の電気的な活動を調べる)
- 心電図や胸部レントゲン検査
- 必要に応じて、首の後ろから髄液(脳と脊髄を囲む液体)を調べる検査
- 体温、血圧、酸素の状態などの継続的なモニタリング
診察で予想されること
救急の場では、検査が短時間のうちに次々と行われます。家族の方は、いつから様子がおかしくなったか、その前に何があったか、持病、飲んでいる薬、アレルギー、最近のけがや飲酒の有無などを、わかる範囲で伝えてください。その情報が原因の特定に大きく役立ちます。説明は一度では覚えきれないことが多いので、メモをとったり、付き添う人を決めておいたりすると安心です。
治療
昏睡そのものを直接「治す薬」はありません。治療の中心は、命を支える処置をしながら、意識が低下した原因を取り除いていくことです。気道を確保して呼吸を助け、血圧や酸素の状態を安定させ、点滴で体を支えながら、原因に応じた治療が進められます。多くの場合、集中治療室などで状態を細かく見守りながら治療が行われます。
自宅でのセルフケア
- 本人は自分でケアができないため、周りの人の助けが欠かせません。付き添いの当番を決めて、無理なく交代できるようにしましょう。
- 医師や看護師からの説明は、その場でメモをとるか、もう一人に一緒に聞いてもらうと安心です。
- 回復したあとは、処方された薬を医師の指示どおりに続けることが、再発を防ぐ大切な一歩になります。
- 血圧や血糖など、自宅で測れる数値は記録しておき、受診のときに見せられるようにしておきましょう。
医療治療
原因に応じて、たとえば血糖の異常を補正する、感染症を治療する、脳の血管の病気に対する処置を行う、けいれんを止める、脳の腫れをやわらげる、といった治療が行われます。あわせて、呼吸を助ける装置やモニターでの管理、栄養の補給、体の向きを変えて床ずれを防ぐケア、手足を動かして関節が固まるのを防ぐケア、そして意識が戻ったあとのリハビリテーションが段階的に進められます。治療の内容や時期は、原因や体の状態によって大きく異なります。
手術が検討される場合
頭のけがや脳出血で血のかたまりが脳を圧迫している場合、頭の中の圧力を下げる必要がある場合、脳に水がたまる状態(水頭症)がある場合などに、手術が検討されることがあります。手術が必要かどうかは、画像の所見と全身の状態をふまえて医師が判断します。
この病気と共に生きる
回復のしかたは一人ひとり異なります。意識が戻るまでに時間がかかることもあり、戻ったあとも記憶や集中力、体の動き、話す力などに影響が残ることがあります。あせらず、その人なりのペースで回復を支えていくことが大切です。リハビリテーションは、できることを少しずつ取り戻していくための中心的な支えになります。
生活習慣のアドバイス
- 決まった時間に薬を飲み、飲み忘れがないように工夫する(お薬カレンダーや家族の声かけなど)
- 睡眠を十分にとり、生活のリズムを整える
- 血圧や血糖を測る習慣をつけ、記録を残す
- 飲酒はほどほどにし、医師から控えるよう言われた場合は守る
- 車のシートベルト、自転車やスポーツ時のヘルメットで頭のけがを防ぐ
- 家族の中で、体調が急に悪くなったときの連絡方法や救急のかけ方を話し合っておく
食事と運動
バランスの良い食事を心がけ、塩分や糖分のとりすぎに気をつけましょう。運動は、医師やリハビリの担当者に相談しながら、無理のない範囲で続けることが大切です。歩行やストレッチなど、日常の中で体を動かす習慣が回復を後押しします。
精神的健康と心の健康
昏睡を経験した本人も、そばで見守った家族も、強い不安やこわさを抱えることがあります。家族の中には、あのときこうしていればと自分を責めてしまう方も少なくありません。眠れない、気持ちが落ち込む、つらい記憶がよみがえる、といった状態が続くときは、一人で抱え込まずに医療機関や相談窓口に話してみてください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに救急(119番)や地域の救急相談、かかりつけ医に連絡してください。
予防
すべての昏睡を防ぐことはできませんが、原因によっては予防できるものもあります。血圧や血糖を良い状態に保つこと、薬を指示どおりに使うこと、飲酒をほどほどにすること、頭のけがを避けることなどが、リスクを下げる助けになります。
ワクチン
髄膜炎などを引き起こす細菌の一部には、ワクチンで予防できるものがあります。対象となる年齢や定期接種の時期は自治体によって案内が異なるため、お住まいの自治体の案内や、かかりつけ医・薬局にご確認ください。
検診プログラム
高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、健診(特定健診など)で早めに見つけることができます。数値の変化に気づくことが、脳卒中などの大きな病気を防ぐ第一歩になります。
合併症
治療しない場合
- 脳へのダメージが進み、回復に時間がかかったり後遺症が残ったりする
- 呼吸が止まる、気道がふさがるなど命に関わる状態になる
- 肺炎(特に、口の中のものが気管に入ることによる肺炎)
- 床ずれ(同じ姿勢が続くことで皮膚が傷む)
- 脚の静脈に血のかたまりができる(血栓)
- 筋肉がやせて弱くなる、関節が固まって動きにくくなる
- 尿路感染症など、体の抵抗力が落ちたことによる感染症
長期的な見通し
回復の見通しは、原因と、処置がどれだけ早かったかによって大きく変わります。低血糖や薬の影響などが原因の場合は、適切な処置ですみやかに意識が戻ることが少なくありません。脳に強いダメージがあった場合は後遺症が残ることもありますが、リハビリテーションによってできることが少しずつ増えていく方も多くいます。先のことを決めつけず、その時々の状態に合わせて、医療者と一緒に一歩ずつ進んでいくことが大切です。
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最終更新: 2026年10月22日
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