コンパートメント症候群
概要
コンパートメント症候群(コンパートメントしょうこうぐん)は、腕や脚の内部にある「コンパートメント」という、骨と丈夫な膜(筋膜)に囲まれた小さな部屋のような空間の圧力が高くなりすぎて、中の筋肉や神経、血管が押しつぶされる状態です。押しつぶされると血液が流れにくくなり、酸素や栄養が届きにくくなります。急に起こる「急性」と、運動のときだけ起こる「慢性(運動時)」の2種類があり、急性は命と手足を守るために、すぐ救急対応が必要な緊急疾患です。
重要な事実
- 急性コンパートメント症候群は時間との勝負です。疑ったらすぐに救急車(119番)を呼んでください。
- 一番多いサインは「けがの程度に比べて強すぎる痛み」です。痛みはどんどん強くなることが多く、痛み止めが効きにくいのも特徴です。
- 慢性(運動時)コンパートメント症候群は、走る・歩くなどの運動中に決まった場所が痛み、立ち止まって休むと数分で楽になるのが典型です。
急性のものはまれですが、起こりうる場面ははっきりしています。特にすねの骨の骨折や、強い打ち撲を受けたあとに注意が必要です。慢性(運動時)のものは、ジョギングやランニングをする人の一部に見られます。
急性は、骨折や打撲、筋肉の断裂などのけがをした人、ギプスやきつい包帯で固定している人、長時間同じ姿勢で体を圧迫された人に起こります。若い男性、特にすねの骨を骨折した若者に多いとされています。慢性(運動時)は、ランニングや自転車など、繰り返し負担のかかる運動をする人に多く見られます。
症状
- けがの程度に比べて非常に強い痛みがある、または痛みがどんどん強くなっている
- ギプスや包帯をした手足が、しびれて感覚がない、動かせない
- 手足が白っぽい・青っぽい、冷たい、硬く張っている
- 強い痛みで、安静にしていても眠れない、耐えられない
- ろれつが回らない、意識がぼんやりするなど、全身の様子もおかしい
- ⚠ギプスや包帯をしたあと、痛みやしびれが増してきた
- ⚠腫れが強くなり、指や足先の感覚がおかしい
- ⚠自分では判断できないが、何かがおかしいと感じる
一般的な症状
- けがの程度から考えると不釣り合いに強い痛み
- 時間とともにどんどん強くなる痛み、痛み止めが効きにくい痛み
- 患部が硬く張って、ぱんぱんに腫れている
- しびれや、針で刺すような感覚、感覚がにぶくなる
- 指や足先を動かしにくい、力が入らない
- 皮膚が白っぽい、青っぽい、またはつやつやして冷たい
- 患部の先の脈が触れにくい(ただし、これはかなり進んだ段階のサインです)
- 慢性の場合は、運動中に決まった場所が痛み、休むと数分で軽くなる
子供の症状
- 言葉で痛みをうまく伝えられないことがあり、泣き止まない、不機嫌が続く
- 触られるのを極端に嫌がる、患部をかばって動かさない
- ふだんと違ってぐったりしている、元気がない
- 手足の腫れや色の変化、冷たさに気づく
高齢者の症状
- 転倒や骨折のあとに起こりやすい
- ギプスや包帯の下の痛みや違和感を「年のせい」と我慢してしまうことがある
- 感覚のにぶさや冷感が、もともとの病気のせいだと思い込みやすい
- 腫れや皮膚の色の変化は、家族など周りの人が気づくことも多い
原因
主な原因
- 骨折(特にすねの骨の骨折)や、強い打撲・ねんざ
- 筋肉の断裂や、深いけがによる出血
- ギプス、副木、包帯、弾性ストッキングなどによる圧迫が強すぎる
- 長時間、体重や重いもので体を圧迫された状態が続く
- やけど、虫刺されなどによる強い腫れ
- 点滴や注射の液が、血管の外にもれてたまる
- 血管が詰まる病気(血栓など)
- 慢性(運動時)の場合は、走る・歩くなどの繰り返しの運動による筋肉の膨らみ
リスク要因
- 若い男性(特にすねの骨を骨折した人)
- 血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人(出血しやすく、腫れが大きくなりやすい)
- 長時間の手術や、意識がない状態で同じ姿勢が続いた
- ギプス固定中、または固定した直後
- ランニングなど、同じ動作を繰り返す運動を急に増やした
- 脱水や、激しい運動のあとの回復不足
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- ギプス固定中に、痛みやしびれが強くなってきた
- けがをしたあと、腫れがどんどん大きくなっている
- 手足の色や温度が、反対側と明らかに違う
- 運動中に決まった場所が強く痛み、休んでも軽くならない
定期受診を予約すべき場合:
- 運動中に決まった場所が痛くなるが、休むと数分で軽くなる症状が繰り返される
- ギプスがきつく感じる、違和感が続く
- けがのあとの痛みやしびれが長引いている
診断
まず、けがの様子、痛みの出方、ギプスや包帯の状態をくわしく聞き、手足の色・温度・脈・感覚・動きを診察します。そのうえで、必要に応じて筋肉の部屋の圧力を測る検査や画像検査を行います。慢性(運動時)の場合は、実際に運動してもらってから検査を行うことがあります。
行われる可能性のある検査
- 診察(手足の色、腫れ、感覚、動き、脈の確認)
- コンパートメント内圧測定(細い針を筋肉の部屋に刺して圧力を測る検査)
- 血液検査(筋肉が傷んでいないかを見る指標を含む)
- X線検査(骨折の有無の確認)
- 超音波検査やCT・MRI検査(腫れや血流、筋肉の状態を見る)
- 慢性の場合は、運動の前後での検査や、圧力の変化を調べる検査
診察で予想されること
急性が疑われる場合は、診察や検査を待たずに処置が始まることがあります。ギプスや包帯を緩めたり切ったりする処置は、診断と治療を兼ねています。痛みの程度を聞かれるので、遠慮せずに「今までで一番痛い」「どんどん強くなっている」など、感じたままを伝えてください。慢性の場合は、運動の習慣や靴、練習量についても質問されます。
治療
治療の基本は「圧力を下げて、血流を戻すこと」です。急性の場合は緊急処置が必要で、ギプスや包帯を緩める、体の位置を整える、必要なら手術を行うという流れになります。慢性(運動時)の場合は、まず運動量や靴、フォームを見直し、リハビリを組み合わせます。
自宅でのセルフケア
- 医師や看護師、理学療法士の指示を守り、固定の具合や安静の度合いを自己判断で変えない
- ギプスや包帯がきつい、痛い、しびれると感じたら、自分で切ったり緩めたりせず、すぐ医療機関に連絡する
- 患部を自分で強くもんだり、強く圧迫したり、長時間強く冷やしたりしない
- 禁煙を心がける(たばこは血流を悪くします)
- 水分をとり、脱水を避ける
- 慢性の場合は、痛みの出る運動量を記録し、無理に我慢して走り続けない
医療治療
急性の場合は、まず外からの圧力を取り除きます。ギプスや包帯、副木を緩めるか切る、患部を適切な高さに保つ、といった処置が迅速に行われます。同時に痛みの管理や、体の状態の観察が続けられます。圧力が高いままなら、筋肉の膜を切って圧を逃がす手術が検討されます。慢性(運動時)の場合は、運動量や練習内容の調整、靴や走り方の見直し、リハビリテーションが中心になります。薬の種類や量については、必ず担当の医師や薬剤師にご相談ください。
手術が検討される場合
急性コンパートメント症候群では、圧力を下げるために筋肉を包む膜を切る手術(筋膜切開)が必要になることが多く、これは緊急で行われます。慢性(運動時)の場合は、運動の調整やリハビリで十分に改善しないときに、手術が検討されることがあります。
この病気と共に生きる
回復の途中は、できることとできないことが日によって変わります。痛みやしびれの変化をメモしておくと、診察のときに役立ちます。固定中は、指先の色や温度、感覚をときどき確認する習慣をつけましょう。
生活習慣のアドバイス
- 運動を再開するときは、少しずつ段階的に増やす
- 靴やインソールなど、足に合った道具を選ぶ
- 長時間同じ姿勢を避け、ときどき体を動かす
- 禁煙と適度な水分補給を心がける
- 睡眠を十分にとり、疲労をためない
食事と運動
特別な食事制限が必要な病気ではありませんが、バランスのよい食事と水分は、体の回復を助けます。運動は、担当の医師や理学療法士と相談しながら、痛みの出ない範囲から少しずつ始めましょう。慢性(運動時)の場合は、練習量を急に増やさないことが大切です。
精神的健康と心の健康
急な入院や手術、痛みが続くこと、思うように動けないことは、不安や落ち込み、いらいらにつながることがあります。それは自然な気持ちで、あなたの弱さではありません。気持ちがつらいときは、ひとりで抱え込まず、家族や友人、医療者に話してください。つらさが続くときは、お住まいの自治体の「こころの相談窓口」や、かかりつけ医に相談することをおすすめします。気持ちが追い詰められて自分を傷つけたいと考えたときは、ためらわずに救急(119番)や医療機関に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを下げることはできます。けがのあとやギプス固定中は、痛み・しびれ・腫れの変化に気を配り、違和感があれば早めに医療者へ伝えることが最も大切です。慢性(運動時)の場合は、練習量を急に増やさず、段階的に体を慣らしましょう。
検診プログラム
一般の人を対象にした決まった検診はありません。けがや手術のあと、ギプス固定中は、医療者による定期的な観察がその役割を果たします。
合併症
治療しない場合
- 筋肉が傷んで、硬く縮んでしまう(拘縮)
- 神経が傷つき、しびれや感覚の低下が残る
- 手足を思うように動かせなくなる
- 血流が長く途絶えることで、最悪の場合、組織を失うことがある
- 慢性の場合は、痛みで運動を続けられなくなる
長期的な見通し
急性コンパートメント症候群は緊急疾患ですが、早く気づいて治療できれば、多くは良い経過をたどります。手術のあとはリハビリテーションを行い、時間をかけて筋力や動きを取り戻していきます。慢性(運動時)の場合は、運動の調整やリハビリで改善する人が多くいます。不安な点は、遠慮なく担当の医師や理学療法士に質問してください。
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最終更新: 2026年10月22日
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