複合性局所疼痛症候群(CRPS)
概要
複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、けがや手術のあとに、expected(普通なら治まってくるはず)の時期を過ぎても痛みが続き、しかも痛みが強くなったり広がったりする病気です。痛みだけでなく、皮膚の色や温度の変化、腫れ、汗のかき方の変化、関節の動きにくさなど、いろいろな症状が組み合わさって現れるのが特徴です。「複合性」はいくつもの症状が重なること、「局所性」は体の一部分に起こることを意味します。痛みは本人にしかわからないつらさですが、検査で異常が見つかりにくく、まわりに理解されにくいこともあります。決して「気のせい」ではなく、治療とリハビリで良くなる可能性のある状態です。
重要な事実
- けがや手術などのあとに起こることが多いですが、はっきりしたきっかけがない場合もあります。
- 痛みのほかに、皮膚の色・温度・腫れ・汗・毛や爪の変化など、見た目や感覚の変化が現れます。
- 早めに医療機関に相談し、リハビリを含めた治療を始めることが大切です。時間とともに良くなる人も多くいます。
CRPSは比較的まれな状態で、すべてのけがの人に起こるわけではありません。骨折や手術を受けた人のごく一部に起こるとされています。
大人にも子どもにも起こります。大人では女性にやや多く、40〜60代に多いといわれます。子どもや思春期の人にも起こり、その場合は足に現れることが多い傾向があります。年齢や性別にかかわらず、誰にでも起こる可能性があります。
症状
- けがや手術のあと、手足の感覚が急に失われた、皮膚が黒ずんだ、冷たすぎるなど、血液の流れが悪いかもしれないと感じるとき(ためらわずに119番へ連絡してください)
- 激しい痛みや腫れに加えて、高熱、意識がもうろうとする、呼吸が苦しいなどの症状があるとき(119番へ)
- 患部の腫れが急に広がり、皮膚に水ぶくれや黒い部分ができたとき(119番へ)
- ⚠痛みや腫れが急に強くなり、日常生活が難しい
- ⚠皮膚に傷や水ぶくれができた、または皮膚の色の変化が広がっている
- ⚠痛みで眠れない日が続いている
- ⚠発熱がある、または患部がいつもと違って異常に熱い
一般的な症状
- 焼けるような痛み、うずくような痛み、電気が走るような痛みが続く
- 軽く触れただけでも痛む(アロディニア:ふつうは痛くない刺激が痛く感じること)
- 患部が腫れる、はれぼったく感じる
- 皮膚の色が赤くなったり、紫・青白くなったりする
- 患部が熱く感じたり、逆に冷たく感じたりする(左右で温度差がある)
- 汗が多く出る、またはほとんど出ない
- 毛が濃くなる、または抜ける。爪がもろくなる、伸びが変わる
- 関節がこわばり、動かしにくい。力が入りにくい
- 手や足が震える、つっぱる、動かすとぎこちない
- 痛みで眠れない、疲れやすい、気分が落ち込む
子供の症状
- 足(ひざから下)に起こることが多い
- 痛みのために歩きたがらない、学校を休みがちになる
- 「痛い」と言いにくい子どもでは、ぐずる、動きたがらない、触られるのを嫌がる形で現れることがある
- 大人に比べて回復しやすいといわれているが、早めの診察とリハビリが大切
高齢者の症状
- 骨折のあとや手術のあとに起こることがある
- 痛みのために動かないことで、筋力低下や関節のこわばりが進みやすい
- 転倒や寝たきりにつながることを防ぐため、早めのリハビリが重要
- 複数の持病や薬を服用している場合は、診察時に必ず伝える
原因
主な原因
- 正確な原因はまだ完全にはわかっていません。
- けがや手術のあとに、神経が過敏になり、痛みの信号が強く出続けると考えられています。
- 体の中で炎症が続くことや、脳が痛みを処理する仕組みが変化することが関係するといわれています。
- 自律神経(血の流れや汗などを自動で調整する神経)の働きの乱れが、色や温度の変化に関係すると考えられています。
- 骨折、捻挫、手術、やけど、注射、長時間のギプス固定などがきっかけになることがあります。
- はっきりしたきっかけがないまま始まることもあります。
リスク要因
- 女性であること(やや多いとされる)
- 大人では40〜60代
- 腕や手の骨折、手術のあと
- 長期間の固定や安静
- けがのあとに強い痛みが長く続いた
- 強いストレスや睡眠不足
- もともと別の痛みの病気がある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 痛みや腫れがどんどん強くなっている
- 皮膚の色の変化が広がる、水ぶくれや傷ができる
- 発熱がある、患部が異常に熱い
- 手足がほとんど動かせない
- 痛みで眠れない、食事がとれない日が続く
定期受診を予約すべき場合:
- けがは治ったはずなのに、痛みが続いている
- 軽く触れただけで痛い
- 皮膚の色や温度が左右で違う
- 関節がこわばって動かしにくい
- 汗の量や毛・爪の様子が変わった
- 痛みのせいで家事や仕事、学校生活に支障が出ている
診断
CRPSは、問診と診察を中心に診断します。まず、けがや手術などのきっかけ、痛みの始まり方、痛みの種類や広がりをくわしく聞きます。そのうえで、皮膚の色・温度・汗・腫れ・毛や爪の様子、関節の動きなどを丁寧に診ます。CRPSに特有の一本の検査はないため、似た症状のほかの病気(神経の損傷、血管の病気、感染など)ではないことを確認するための検査を組み合わせます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(炎症やほかの病気がないか確認)
- レントゲン検査(骨の状態を確認)
- MRI検査(神経や組織の状態を確認)
- 骨シンチグラフィ(骨の血の流れや代謝を調べる画像検査)
- サーモグラフィ(皮膚の温度を調べる検査)
- 神経伝導検査(神経の働きを調べる検査)
- 痛みの強さや症状の変化を記録する症状日記
診察で予想されること
診断までに何度か通院が必要になることがあります。症状は日によって変わるため、その日の様子を伝えることが役立ちます。痛みの強さ、どんなときに悪化するか、睡眠や食事、日常生活への影響をメモしておくと診察がスムーズです。確定までに時間がかかることもありますが、その間も痛みをやわらげる工夫を一緒に考えてもらえます。
治療
CRPSの治療は、ひとつの方法だけでなく、いくつかを組み合わせて行います。大切なのは、早い段階から痛みをやわらげながら、使わないことで固まらないように体を動かしていくことです。治療の進み方は人によって異なるため、医療者と相談しながら自分に合った方法を探していきます。
自宅でのセルフケア
- 医師や理学療法士の指示に沿って、無理のない範囲で患部を動かす
- 冷やしすぎ・温めすぎに注意し、心地よいと感じる方法を選ぶ
- 痛みの強さ、症状の変化、できたことを日記に記録する
- 睡眠を十分にとる。寝る前のスマートフォンやカフェインを控える
- ストレスをためないように、リラックスする時間をつくる
- 禁煙を心がける(血の流れを悪くするため)
- 痛みが強い日は無理をせず、良い日は少しずつ動くなど調整する
医療治療
治療には、痛みをやわらげる薬(神経の痛みに使われるものを含む)を用いることがあります。薬は医師が体調や持病に合わせて選び、量を調整しますので、自己判断で飲み方を変えたり中止したりせず、気になる副作用があれば相談してください。リハビリ(理学療法・作業療法)は中心となる治療で、関節の動きや筋力を保ち、日常生活の動作を助けます。必要に応じて、神経の働きを一時的にブロックする処置や、神経の興奮を調整する治療(脊髄刺激療法など)が検討されることもあります。痛みが長引くことで生じる不安や落ち込みに対しては、心理面の支援や認知行動療法が役立つことがあります。
手術が検討される場合
手術がCRPSの主な治療になることは多くありません。症状や経過に応じて、神経ブロックや神経を調整する装置の埋め込みなどが検討される場合があります。手術を検討するときは、メリットとリスクを主治医とよく話し合って決めましょう。
この病気と共に生きる
痛みがあると、つい動かさずに安静にしたくなりますが、長く動かさないと関節が固まり、筋力も落ちてしまいます。痛みが軽い日を利用して少しずつ動く、痛い日は休むといった「ペース配分」が大切です。家の中の動線を整える、重いものを持たない、温かい服装を工夫するなど、暮らしの中で負担を減らす工夫も役立ちます。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい生活リズムを保ち、十分な睡眠をとる
- ストレスをためず、趣味やリラックスの時間をもつ
- 禁煙を心がける
- 寒さで症状が強くなる場合は、手袋や靴下で冷えを防ぐ
- 家族や友人に症状を伝え、理解と協力を得る
- 職場や学校には、必要な配慮(休憩、作業量の調整など)を相談する
食事と運動
CRPSに特別な食事療法はありませんが、バランスのよい食事と十分な水分は体調を整える基本です。運動は、痛みの悪化を避けながら、医師や理学療法士と相談して少しずつ行います。水中での運動やストレッチなど、負担の少ない方法から始めると続けやすくなります。痛みが強い日は無理をせず、翌日に持ち越さない範囲で行いましょう。
精神的健康と心の健康
長く続く痛みは、イライラ、不安、落ち込み、眠れないといった心の負担を伴うことがあります。それは弱さではなく、痛みが続くときの自然な反応です。気持ちがつらいときは、ひとりで抱え込まず、かかりつけ医や地域の相談窓口、専門の医療機関に相談してください。気分の落ち込みが強い、何も楽しめない、自分を傷つけたい気持ちがわいてくるといったときは、すぐに医療機関や相談窓口に連絡してください。
予防
CRPSを完全に防ぐ方法はまだわかっていません。ただし、けがをしたあとに早めに適切なリハビリを始める、長すぎる固定や安静を避ける、痛みを我慢しすぎずに医療者に伝えるといったことが、リスクを下げる助けになる可能性があります。けがの治療中に痛みが長引く、様子がおかしいと感じたら、早めに相談してください。
検診プログラム
CRPSのための特別なスクリーニング検査はありません。けがや手術のあとは、痛みや腫れ、皮膚の変化をよく観察し、気になる症状があれば医療者に伝えることが大切です。
合併症
治療しない場合
- 関節が固まり、動く範囲が狭くなる
- 筋力が低下し、日常生活の動作が難しくなる
- 骨の状態が変化することがある
- 皮膚や爪の変化が進む
- 睡眠不足、不安、落ち込みが強くなる
- 仕事や学校、家事など社会生活に支障が出る
長期的な見通し
CRPSは、人によって経過が大きく異なります。早めに治療とリハビリを始めることで、痛みがやわらぎ、日常生活を取り戻す人が多くいます。特に子どもや思春期の人は回復しやすいといわれています。長く症状が続く場合もありますが、医療者と一緒に工夫を重ねることで、少しずつできることが増えていく可能性があります。あせらず、一歩ずつ進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月22日
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