赤ちゃんを授かるために ― 知っておきたい基礎知識
概要
赤ちゃんを授かる(妊娠する)ためには、いくつかの条件が重なる必要があります。女性の卵巣から卵子が育って放出されること(排卵=はいらん)、その卵子が卵管(らんかん=卵子と精子が出会う通り道)で精子と出会うこと、受精した卵が子宮の内膜に根づくこと。このどれか一つがうまくいかないだけでも、妊娠しにくくなることがあります。妊娠は女性だけの問題ではなく、男性側の要因が関係することも少なくありません。二人で一緒に考え、一緒に取り組むテーマです。
重要な事実
- 健康なカップルでも、1回の排卵の周期で妊娠する確率はおよそ20〜30%程度といわれます。毎月必ず授かるものではない、というのが自然な姿です。
- 年齢は大きな要素です。特に35歳を過ぎると妊娠しにくさが増していくといわれ、早めの相談が勧められます。
- 妊娠しにくさの背景には、男性側の要因が関係する場合も少なくありません。検査は二人で受けることが大切です。
- たばこ・過度のお酒・極端なやせや肥満・睡眠不足など、生活習慣も影響します。変えられるものはあります。
とてもよくある悩みです。国の調査では、不妊(ふにん=妊娠を望んで1年以上たっても授からない状態)の検査や治療を受けたことのある夫婦は、およそ5.5組に1組といわれています。決して珍しいことでも、恥ずかしいことでもありません。
妊娠を望むすべてのカップルが対象です。年齢や性別を問わず、また、これまで特に体の不調を感じていなかった人でも関係します。持病のある方、婦人科の病気を経験した方、男性側に精巣(せいそう)の病気やけがの既往がある方も、早めに相談すると安心です。
症状
- 突然の激しい下腹部の痛み、冷や汗、ふらつき、意識が遠のく ― 妊娠の可能性がある場合は緊急の状態のことがあります。すぐに119番へ
- 大量の性器出血があり、立ちくらみや意識のもうろうがある
- 妊娠中に激しい腹痛と出血が同時に起きた
- ⚠妊娠検査薬で陽性が出て、片側の下腹部の痛みや出血がある(当日中に医療機関へ)
- ⚠発熱を伴う下腹部の痛み
- ⚠性交痛や不正出血(月経以外の出血)が続く
- ⚠強い月経痛で日常生活に支障が出ている
一般的な症状
- 月経の周期が安定しない(25日より短い、38日より長い、ばらつきが大きい)― 排卵の時期が定まりにくいサインのことがあります
- 月経痛が強い、性交のときに痛みがある
- 月経が3か月以上ない
- おりものの量や状態の変化(排卵のころに増え、糸を引くように伸びることがあります)
- 体重が大きく変わった、体毛が濃くなった、肌荒れが続くなど、体の変化を感じる
- 特に症状がないのに、なかなか妊娠しない
原因
主な原因
- 排卵が起きにくい ― ホルモンのバランスの乱れなどが背景にあることがあります
- 卵管(らんかん)が詰まる、または通りが悪い
- 子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)や子宮筋腫など、子宮・卵巣の病気
- 精子の数が少ない、動きが弱いなど、男性側の要因
- 年齢による卵子の数の減少や質の変化
- はっきりした原因が見つからないことも少なくありません。その場合も、治療を進める方法はあります
リスク要因
- 年齢(特に35歳以上)
- 喫煙(本人もパートナーも)
- 過度の飲酒
- 極端なやせ、または肥満
- 睡眠不足や強いストレスが続く生活
- 性感染症にかかったことがある(卵管の癒着の原因になることがあります)
- 婦人科の病気の既往(子宮内膜症、卵巣のう腫など)
- 男性側の精巣の病気やけが、高温の環境で長時間過ごすこと
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 妊娠検査薬で陽性+片側の下腹部痛や出血がある
- 突然の激しい下腹部痛、冷や汗、ふらつき(119番を)
- 発熱を伴う下腹部痛
- 短期間で出血が増えていく
定期受診を予約すべき場合:
- 35歳未満で1年、35歳以上で6か月、避妊をせずに生活しても妊娠しない
- 月経不順や強い月経痛がある
- 持病があり、妊娠前に使っている薬の見直しを相談したい
- 妊娠検査薬で陽性が出た(早めに受診して確認しましょう)
- パートナーと一緒に、妊娠前の健康チェックを受けておきたい
診断
まず問診で、月経の周期や体調、これまでの病史、生活習慣などを伺います。そのうえで、必要に応じて検査を組み立てます。検査は女性だけのものではありません。男性側の精液検査(せいえきけんさ)は比較的負担が少なく、とても大切な情報になります。二人で一緒に受けることをおすすめします。
行われる可能性のある検査
- 基礎体温やアプリの記録を見ながら、排卵の時期や周期を確認
- 血液検査(ホルモンの値や排卵の有無、貧血などを調べます)
- 超音波検査(子宮や卵巣の形・状態を見ます)
- 卵管の通りをみる検査(卵管造影検査など)
- 精液検査(男性側。数や動きなどを調べます)
- 必要に応じて、より詳しいホルモン検査や子宮の中をみる検査
診察で予想されること
検査は一度で終わらず、月経周期に合わせて何度か通院することがあります。結果を聞くときは、二人で一緒に話を聞くのがおすすめです。検査で「特に問題なし」と言われることもあります。それは不安材料ではなく、安心して次の段階に進める材料です。わからない言葉はその場で遠慮なく聞いてください。
治療
治療は、見つかった要因に合わせて段階的に進めます。まずは生活習慣の見直しと、排卵の時期を意識したタイミングから始まることが多いです。それでも授からない場合に、排卵を整える治療、卵管の通りをよくする治療、人工授精、体外受精・顕微授精(けんびじゅっせい)といった選択肢が順に検討されます。日本では2022年度から、体外受精などの生殖補助医療の一部が公的医療保険の対象になっています。費用や通院の負担も含めて、二人で納得しながら決めていくことが大切です。
自宅でのセルフケア
- 月経の周期を記録して、排卵の時期の目安を知っておく
- 禁煙する(パートナーも一緒に)
- 適正な体重を保つ。極端なダイエットは避ける
- 妊娠を考え始めたら、葉酸を意識した食事を心がける(厚生労働省も妊娠前からの摂取を勧めています)
- 過度の飲酒を控える
- 睡眠をしっかりとり、息抜きの時間を確保する
- 性交の頻度は週2〜3回程度を目安に。排卵日だけにこだわらず、自然な形で
医療治療
治療の内容は大きく分けて、排卵の時期を整える治疗、卵管の通りをよくする治疗、精子を子宮に届ける人工授精、そして体外受精・顕微授精などの生殖補助医療があります。どの段階から始めるか、どの方法を選ぶかは、年齢や検査結果、二人の希望によって変わります。具体的な薬の種類や使い方については、必ず主治医と相談してください。治療の範囲や保険の適用、自治体の助成制度についても、医療機関の相談窓口で確認できます。
手術が検討される場合
子宮内膜症や卵管の癒着、子宮筋腫など、妊娠を妨げていると考えられる病気がある場合に、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術などを検討することがあります。手術がすべての人に必要というわけではなく、年齢や状態によって判断が変わります。
この病気と共に生きる
治療は数か月から年単位になることもあり、通院の予定が生活の中心になってしまうことがあります。月経の記録や通院の予定は二人で共有し、家事や役割を分担しましょう。「治療のことを考えない日」を意識してつくることも、長く付き合っていくうえで大切です。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙と節酒を、パートナーと一緒に取り組む
- 睡眠時間を確保し、生活のリズムを整える
- ウォーキングなど無理のない範囲で体を動かす
- SNSや情報に触れすぎて気持ちが揺れるときは、いったん距離を置く
- パートナーと気持ちを話す時間を、意識してつくる
- 治療と仕事の両立について、職場の制度を早めに確認しておく
食事と運動
特別な食事療法があるわけではありませんが、主食・主菜・副菜をそろえたバランスのよい食事が基本です。葉酸は緑黄色野菜や豆類に多く含まれます。鉄分を意識すると、月経が多い方にも役立ちます。運動は、早歩きの散歩など息が少し上がる程度を無理なく続けるのがおすすめです。過度に激しい運動は月経不順の一因になることがあるので、ほどほどに。極端な糖質制限や短期的なダイエットも避けましょう。
精神的健康と心の健康
なかなか授からない期間は、期待と落ち込みを毎月くり返すことになり、心が疲れやすいものです。自分やパートナーを責めてしまう、友人や家族の妊娠の知らせがつらい、人に話しづらい ― どれも自然な気持ちです。眠れない、涙が止まらない、何も楽しめないといった状態が続くときは、一人で抱えずに医療機関や相談窓口を頼ってください。気持ちがとてもつらいときは、地域の相談窓口や医療機関に連絡を。緊急の場合は119番へ。
予防
妊娠しやすさを完全にコントロールすることはできませんし、授からないことを誰かの努力不足のせいにするべきでもありません。ただ、禁煙、節酒、適正体重を保つこと、性感染症を予防すること、睡眠とストレスを整えることは、妊娠を望む前にできる準備として役立ちます。年齢は変えられませんが、早めに相談して選択肢を広く保つことはできます。
ワクチン
妊娠を考え始めたら、風しんの抗体があるかを確認しておくと安心です。抗体がない場合は、妊娠前にワクチンを受けることが勧められています(妊娠中は接種できません)。子宮頸がんを予防するワクチンについても、かかりつけ医や自治体の案内で確認してみてください。
検診プログラム
妊娠を考えたら、妊娠前の健康チェック(プレコンセプションケア)を受けておくと安心です。風しんの抗体検査、子宮頸がん検診、性感染症の検査、持病のコントロール、服用中の薬の見直しなどが含まれます。月経の記録を続けておくと、受診のときに役立ちます。妊娠したら、自治体の妊婦健診の受診票を使って定期的に健診を受けましょう。
合併症
治療しない場合
- 年齢を重ねるにつれて、妊娠しにくさが増していく可能性があります
- 子宮内膜症など、背景にある病気が進んでしまうことがあります
- 気づかないまま心身の負担が大きくなり、孤立感が深まることがあります
- パートナーとのすれ違いや、話し合いの機会を失ってしまうことがあります
長期的な見通し
妊娠に至る道は、以前よりずっと広がっています。生活の見直しだけで授かる方もいれば、検査をきっかけに治療で授かる方、体外受精などの方法で授かる方もいます。1年以内に妊娠するカップルは少なくありません。一方で、誰もが同じ結果になるわけではないことも事実です。だからこそ、納得しながら一歩ずつ進むことが大切で、ゴールは「妊娠」だけではなく、二人が心地よく暮らしていけることでもあります。焦らず、相談しながら進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月22日
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