先天性副腎過形成症(CAH)
概要
先天性副腎過形成症(せんてんせいふくじんかけいせいしょう、CAH)は、生まれつき副腎(ふくじん=腎臓の上にちょこんとのっている、小さなホルモン工場のような臓器)でホルモンがうまく作れない病気です。副腎では、体のエネルギーや血圧を保つためのホルモン(コルチゾールやアルドステロン)と、思春期や体つきに関わるホルモン(アンドロゲン)が作られています。CAHではこのうち一部のホルモンが作りにくくなり、その代わりに別のホルモンが多く作られてしまうことがあります。多くは生まれてすぐの検査で見つかり、不足するホルモンを補いながら、専門医と一緒に長く付き合っていく病気です。
重要な事実
- 生まれつきの体質(遺伝子の変化)によるもので、うつる病気ではありません。
- 日本では新生児マススクリーニング(生まれた赤ちゃん全員に行う血液検査)の対象になっており、早期に見つけることができます。
- 不足しているホルモンを薬で補う治療を続けることで、多くの人が学校生活や仕事、スポーツなどふつうの生活を送っています。
とても珍しい病気です。日本ではおよそ1万5千人から2万人に1人くらいの割合で生まれると考えられています。軽いタイプ(非古典型)はもっと多く、大人になってから見つかることもあります。
生まれつきの病気なので、赤ちゃんのときに見つかることがほとんどです。男の子にも女の子にも起こります。親から子へ遺伝するタイプ(常染色体劣性)が多く、本人の努力や生活習慣が原因でなるものではありません。
症状
- 意識がない、呼びかけへの反応が弱い、ぐったりしている
- けいれんが起きた
- 呼吸が速い・深い、または息苦しそうで顔色が悪い
- 嘔吐をくり返し、水分をまったく飲めない
- 冷汗、ふるえ、ぼんやりするなど血糖が下がったときの強い症状がある
- これは「副腎クリーゼ」という緊急の状態の可能性があります。ためらわずに119番へ連絡してください。
- ⚠発熱、下痢、嘔吐などでいつもと様子が違う(体調不良のときはホルモンが足りなくなりやすいため)
- ⚠いつもより強く倦怠感がある、水分がとりにくい
- ⚠決められた薬を飲めなかった、または吐いてしまった
- ⚠けがをした、手術や処置を受ける予定がある
- ⚠妊娠がわかった、または妊娠を考えている
一般的な症状
- 哺乳(ほにゅう)が少ない、ミルクを飲んでもすぐ吐く
- 体重が増えにくい、元気がない
- ぐったりしている、泣き声が弱い
- 脱水(だっすい=体の水分が足りなくなること)ぎみになる
- 皮膚や唇、性器のまわりが黒っぽく色素沈着する
- 血糖が下がりやすい(冷汗、ふるえ、ぼんやりする)
子供の症状
- 身長が早く伸びる時期があるのに、最終的な身長が低くなりやすい
- 陰毛やわき毛が早く生える、思春期のサインが早く出る
- 女の子では、外性器の形が男の子寄りに見えることがある
- 塩分を体に保ちにくいタイプでは、嘔吐や脱水をくり返しやすい
- 成長に合わせて薬の量の調整が必要になる
高齢者の症状
- 軽いタイプ(非古典型)では、多毛、にきび、月経不順、妊娠しにくさで見つかることがある
- 治療を続けている人は、骨の丈夫さや血圧、体重などの長期管理が大切になる
- 疲れやすさや気分の落ち込みが出ることがある
- 思春期以降の生活(進学、就職、妊娠・出産)について相談しながら進める
原因
主な原因
- 副腎でホルモンを作るための酵素(こうそ=化学反応を助けるたんぱく質)の働きが、遺伝子の変化によって低下すること
- 多くは「21-水酸化酵素」という酵素の働きが弱くなるタイプ
- ホルモンが作れない分、体が反応して副腎が大きく(過形成)なり、別のホルモンが多く作られてしまう
- 両親がどちらも変化した遺伝子を持つ場合、子どもが発症する確率はおよそ4分の1
リスク要因
- 血縁者(きょうだいやいとこなど)に同じ病気の人がいる
- 両親が遺伝子の変化を持つ「保因者」である
- きょうだいにCAHの子どもがいる場合、次の子どもも検査が必要になることがある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 赤ちゃんがミルクを飲まない、嘔吐をくり返す、体重が減っている
- ぐったりして元気がない、皮膚の色が悪い
- 発熱や下痢などで体調を崩し、いつもの対応では回復しない
- 薬を飲めない日が続いている
定期受診を予約すべき場合:
- 治療中で、次の定期受診の予定が来ている
- 身長の伸びや思春期の進み方が気になる
- 学校生活・進学・就職・妊娠などについて相談したい
- 気分の落ち込みや不安が続いている
診断
日本では、生まれた赤ちゃん全員を対象とした新生児マススクリーニング(かんたんな血液検査)で見つける仕組みがあります。そこで異常が疑われた場合や、症状から疑われた場合には、小児内分泌科などの専門医が血液検査や遺伝子の検査を行って診断します。
行われる可能性のある検査
- 新生児マススクリーニング(かかとの血をろ紙にしみこませて調べる検査)
- 血液検査:ホルモンの値、塩分(ナトリウム・カリウム)、血糖、酸とアルカリのバランスを調べる
- ACTH負荷試験:ホルモンを作る力がどのくらいあるかを確かめる検査
- 遺伝子検査(必要に応じて、ご家族の検査も行うことがある)
- 骨年齢のレントゲン検査や、体の成長・思春期の進み具合の確認
診察で予想されること
診断のための検査は、ふつう小児内分泌科などの専門医が担当します。結果が出るまでに数日から数週間かかることがあります。ご家族には、病気のタイプや今後の治療の見通し、体調が悪いときの対応などを、わかりやすく説明してもらえます。わからないことは遠慮なく質問しましょう。
治療
CAHの治療は、足りないホルモンを薬で補い、多くなりすぎるホルモンの影響を抑えることが中心です。多くの場合、生涯にわたって続ける治療になりますが、年齢や成長に合わせて内容を調整していきます。治療の内容は専門医が一人ひとりに合わせて決めます。
自宅でのセルフケア
- 決められた薬を、毎日決まった時間に欠かさず飲む(自己判断で量を変えたりやめたりしない)
- 発熱・下痢・嘔吐など体調が悪いときの対応(シックデイルール)を、あらかじめ主治医と決めておく
- 緊急時に備えて、病気と治療内容がわかるカードや医療情報を持ち歩く
- 定期受診を欠かさず、身長・体重・血圧・血液検査の結果を一緒に確認する
- 予防接種をきちんと受ける(感染症は体に大きな負担がかかるため)
- 十分な水分をとり、無理な絶食や極端なダイエットをしない
医療治療
足りないホルモンを補う内服薬を毎日使い、体の成長やストレス(発熱・手術など)に合わせて量を調整します。塩分を体に保ちにくいタイプでは、塩分を保つはたらきのホルモンも補うことがあります。薬の種類や量は主治医が決めるので、自己判断で変更しないことが大切です。定期的に血液検査や成長の確認を行い、長期的に安全な状態を保てるように管理していきます。
手術が検討される場合
女の子で外性器の形が気になる場合、手術を検討することがあります。手術が必要かどうか、いつ行うかは、医学的な必要性と本人・ご家族の気持ちをふまえて、小児内分泌科・泌尿器科・形成外科などの専門チームとよく相談して決めます。急いで決める必要はなく、納得いくまで話し合うことが大切です。
この病気と共に生きる
毎日の薬を忘れずに飲むことが、いちばん大切なポイントです。体調が悪い日はホルモンが余計に必要になることがあるため、家族や学校・職場の人にも病気のことを伝え、緊急時の対応を共有しておくと安心です。定期受診のたびに、生活の不安や疑問を主治医に話してみましょう。
生活習慣のアドバイス
- 薬を飲む時間を決めて、スマホのアラームやお薬手帳を活用する
- 旅行や泊まりの行事のときは、薬を多めに持って行く
- 運動や部活は、主治医と相談しながら無理なく続ける
- 睡眠を十分にとり、極端な疲労をためない
- 学校・職場には、緊急時の連絡先と対応を伝えておく
食事と運動
特別な食事制限が必要なわけではありませんが、バランスのよい食事と十分な水分が基本です。塩分を体に保ちにくいタイプでは、暑い日や運動時には水分と塩分の補給が大切になります。運動は制限されませんが、激しい運動や長時間の移動の前後は体調の変化に気をつけ、主治医と相談しながら進めましょう。
精神的健康と心の健康
生まれつきの病気と長く付き合う中で、不安や落ち込み、周囲に理解してもらいにくいもどかしさを感じることがあります。これは自然な気持ちで、あなたやご家族だけの問題ではありません。話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になることがあります。気分のつらさが続くときは、かかりつけ医や専門の相談窓口に早めに相談してください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、地域の救急・相談窓口や医療機関にすぐ連絡してください。
予防
生まれつきの体質による病気のため、完全に予防することはできません。ただし、家族に同じ病気の人がいる場合は、妊娠前や妊娠中に遺伝カウンセリングを受けて相談することができます。また、新生児マススクリーニングによって早く見つけて早く治療を始めることが、重い症状を防ぐうえでとても大切です。
ワクチン
決められた定期予防接種をきちんと受けることをおすすめします。感染症にかかると体に大きな負担がかかり、ホルモンが不足しやすい状態になるためです。接種の時期や体調については主治医に相談してください。
検診プログラム
日本では、生まれたすべての赤ちゃんを対象に新生児マススクリーニングが行われており、CAHもその対象です。きょうだいにCAHの子どもがいる場合などは、追加の検査が勧められることがあります。
合併症
治療しない場合
- 副腎クリーゼ:ホルモンが急に足りなくなり、脱水・低血糖・血圧低下など命に関わる状態になる
- 成長障害:背が伸びにくくなる、最終的な身長が低くなる
- 思春期の早期発現や、月経・妊娠に関わる問題
- 骨がもろくなる、血圧や代謝のトラブル
- 治療のバランスが偏ることによる、体調の波や生活の質の低下
長期的な見通し
CAHは一生付き合っていく病気ですが、早期に発見して適切な治療を続けることで、多くの人がふつうの学校生活・仕事・妊娠出産を含む生活を送っています。治療の内容は進歩してきており、定期的な受診と主治医との信頼関係が、安心して暮らすための大きな支えになります。
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最終更新: 2026年10月22日
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