先天性甲状腺機能低下症(せんてんせい・こうじょうせん・きのうていかしょう)
概要
先天性甲状腺機能低下症は、生まれつき甲状腺(こうじょうせん:首の前にあり、体の代謝を調整するホルモンを作る小さな器官)の働きが弱く、甲状腺ホルモンが十分に作れない状態のことです。甲状腺ホルモンは、体の成長や脳の発達、体温やエネルギーの調整に欠かせないものです。そのため、生まれてすぐに見つけて治療を始めることがとても大切です。日本では、生後まもなく行われる新生児マススクリーニング(生まれた赤ちゃん全員を対象にした血液検査)で見つけることができます。
重要な事実
- 生まれつき甲状腺ホルモンが足りない状態ですが、早く見つけて治療を始めれば、多くのお子さんはふつうに成長し、発達します。
- 日本では新生児マススクリーニングで生後数日のうちに見つけることができ、治療は足りないホルモンを飲み薬で補うのが基本です。
- 治療は基本的に長く続きますが、定期的な血液検査で量を調整しながら、ふつうの生活を送ることができます。
まれな病気ではなく、日本ではおよそ3000〜4000人に1人くらいの割合で見つかるとされています。新生児マススクリーニングで見つかる病気の中では、比較的多いもののひとつです。
生まれたばかりの赤ちゃんが対象で、女の子にやや多く見られます(男の子のおよそ2倍程度)。家族に同じ病気の人がいる場合もありますが、家族歴がなくても起こることが多いです。
症状
- 赤ちゃんがぐったりして反応が弱い、母乳やミルクをまったく飲まない
- 息が弱い、呼吸が苦しそう、顔色が悪い
- 体温がとても低い、体が冷たいまま温まらない
- けいれんを起こしている、意識がない、呼びかけに反応しない
- ⚠黄疸がどんどん強くなる、長引いている
- ⚠体重が増えない、元気がない状態が続いている
- ⚠繰り返す嘔吐や便秘で機嫌が悪い
- ⚠発熱があり、いつもと様子が明らかに違う(乳児は特に注意してください)
一般的な症状
- 生まれた直後は症状がほとんどないことが多く、マススクリーニングで初めてわかるケースが大半です。
- 黄疸(おうだん:皮膚や白目が黄色くなること)が長引く
- 便秘が続く、おなかが張る
- よく眠ってばかりいる、泣き方が弱い、声がかすれる
- 母乳やミルクをあまり飲まない、体重が増えにくい
- 体温が低め、皮膚が乾燥している、体がむくむ
- へその部分がとび出している(臍ヘルニア)
- 頭のてっぺんのやわらかい部分(大泉門)が広い
子供の症状
- 治療が早く始まっていれば、これといった症状は出ません。
- 治療が遅れた場合には、身長の伸びが悪い、運動やことばの発達がゆっくりになることがあります。
- 便秘、むくみ、乾燥肌、寒がるなどの症状が出ることがあります。
- 学童期に集中しにくい、疲れやすい、学校で力が出しにくいと感じることがあります。
- 思春期の成長や体の変化が遅れることがあります。
高齢者の症状
- この病気は生まれつきのものですが、大人になってから診断される方や、大人になっても治療を続ける方がいます。
- 治療が続いていれば通常は症状が出ませんが、治療が途切れたり量が合っていないと、疲れやすい、体重が増える、寒がる、便秘、むくみ、脈が遅い、皮膚の乾燥、物忘れ、気分の落ち込みなどが現れることがあります。
- 妊娠を考えている方、妊娠中の方は、ホルモンの状態を整えておくことが大切です。早めに主治医に相談してください。
原因
主な原因
- 甲状腺が生まれつき十分に作られていない、または小さい(甲状腺形成不全)
- 甲状腺が本来と違う場所にある(異所性甲状腺)
- 甲状腺ホルモンを作る仕組みの一部が生まれつきうまく働かない(ホルモン合成障害)
- お母さんが妊娠中に服用した薬や、ヨウ素の極端なとりすぎが影響することがある(多くは一時的)
- 脳の下垂体という部分からの指令が弱いタイプ(中枢性)もあります
リスク要因
- 家族に甲状腺の病気の人がいる
- お母さんが妊娠中に甲状腺の病気の治療を受けていた
- 妊娠中に海藻やヨウ素を含むサプリメントを極端に多くとっていた
- 早産や低出生体重
- 上記に当てはまらなくても起こることが多い(多くは原因を特定できない)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 新生児マススクリーニングの再検査の連絡があったとき(できるだけ早く受診してください。再検査は「病気が確定」という意味ではありません)
- 赤ちゃんの元気がなく、母乳やミルクの飲みが悪い、黄疸が強い
- 治療中に発熱やひどい下痢などで薬が飲めない
- 治療中にぐったりしている、反応が弱いと感じた(ためらわず救急へ)
定期受診を予約すべき場合:
- 治療中の定期的な診察や血液検査の予定があるとき
- 飲み忘れが続いた、薬がなくなった、薬をこぼしてしまった
- 身長や体重の伸び、食欲、便秘などが気になるとき
- 保育園・幼稚園・学校での様子が気になるとき
- 妊娠を考えている、妊娠した、出産したとき
診断
多くは新生児マススクリーニングで見つかります。これは生まれた赤ちゃん全員が受ける血液検査で、甲状腺を刺激するホルモン(TSH)が高くないかを調べるものです。再検査で異常が続く場合、採血でTSHと甲状腺ホルモン(Free T4)の値を確認し、甲状腺の形や位置を画像で調べて診断します。
行われる可能性のある検査
- 新生児マススクリーニング(かかとから少し採血します)
- 腕などからの採血によるTSH・Free T4の測定
- 甲状腺エコー(超音波)検査
- 甲状腺シンチグラフィ(少量の放射性の薬を使って甲状腺の形や位置を調べる検査)
- 必要に応じて遺伝子の検査や尿の検査
診察で予想されること
再検査の連絡が来ても、必ずしも病気とは限りません。検査の結果が出るまで数日かかることがあります。診断がついた場合は、できるだけ早く治療を始めることが多いです。検査の意味や結果については、主治医がわかりやすく説明してくれますので、遠慮なく質問してください。
治療
治療の中心は、足りない甲状腺ホルモンを飲み薬で補うことです。生後早い時期(目安として生後2週間以内)に始めると、脳や体の発達への影響を大きく減らせます。治療が始まると、多くの赤ちゃんは数週間で元気になり、食欲や便通も整っていきます。
自宅でのセルフケア
- 毎日決まった時間に飲む習慣をつけ、飲み忘れを防ぐ工夫(カレンダーやスマホの通知など)をしましょう。
- 飲み忘れに気づいたら、自己判断で2回分をまとめて飲まずに、主治医や薬剤師に相談してください。
- 飲み薬は空腹時に水かぬるま湯で飲むのが基本です。豆乳、鉄剤、カルシウム剤などは吸収に影響することがあるため、時間をずらすよう指導されることがあります。
- 定期的な血液検査と診察を欠かさず受けましょう。
- 身長・体重の記録をつけておくと、診察のときに役立ちます。
- 体調の変化や気になることをメモして、診察のときに伝えましょう。
- 予防接種は通常どおり受けることができます。タイミングは主治医に確認してください。
医療治療
不足している甲状腺ホルモンを補う飲み薬を毎日飲みます。量は年齢・体重・血液検査の結果に合わせて細かく調整されるため、自己判断で量を変えたり、止めたりしないでください。治療と並行して、定期的な血液検査、身長・体重の測定、発達の確認を続けます。具体的な薬の名前や量については、主治医から説明があります。
手術が検討される場合
通常、手術は必要ありません。甲状腺の形の異常などで別の病気が疑われる場合に、検査や専門医への相談が行われることがあります。
この病気と共に生きる
治療が安定していれば、日常生活で特別に制限されることはほとんどありません。毎日の飲み薬と定期的な通院が生活の一部になります。慣れてしまえば、それほど負担の大きなものではありません。
生活習慣のアドバイス
- 飲み薬を生活の習慣の中に組み込みましょう(朝の歯みがきの後など)。
- 家族や保育園・学校の先生など、まわりの人に病気のことを伝えておくと安心です。
- 旅行や外泊のときは、薬を多めに持っていきましょう。
- 体調が悪いときは、薬が飲めるかどうかを主治医に相談してください。
食事と運動
特別な食事制限はありません。バランスのよい食事をとり、ふつうに運動して大丈夫です。海藻などヨウ素を多く含む食品を極端にたくさんとり続けると甲状腺の働きに影響することがあるため、サプリメントを使う場合は主治医に相談しましょう。
精神的健康と心の健康
保護者の方が「自分のせいではないか」と自分を責めてしまうことがありますが、多くは防げるものではなく、誰のせいでもありません。診断直後は不安や落ち込みを感じるのが自然なことです。気持ちがつらいときは、ひとりで抱えずに、主治医・保健師・同じ病気のお子さんを持つ家族の会などを頼ってください。日本では「よりそいホットライン」などの相談窓口も利用できます。
予防
多くは防ぐことができません。ただし、妊娠中にヨウ素を含むサプリメントなどを極端に多くとり続けないよう注意することは大切です。何より大事なのは、新生児マススクリーニングで早く見つけ、早く治療を始めることです。
ワクチン
この病気そのものを防ぐワクチンはありません。ただし、定期の予防接種は通常どおり受けることができます。
検診プログラム
日本ではすべての赤ちゃんを対象に新生児マススクリーニングが行われており、生後数日のうち(退院前が多い)にかかとから少し採血して調べます。再検査の連絡が来た場合は、早めに受診してください。
合併症
治療しない場合
- 脳の発達に影響し、知的発達の遅れが残ることがあります(早い治療で防げます)。
- 成長障害(身長が伸びにくくなる)
- 聴覚(聞こえ)の障害
- 貧血、心臓や呼吸の問題
- 思春期の成長や体の変化の遅れ
長期的な見通し
早い時期に治療を始めれば、ほとんどのお子さんはふつうに成長し、学校生活や社会生活を送ることができます。治療は長く続きますが、定期的な通院と毎日の飲み薬で安定した状態を保てます。将来についての不安があれば、主治医にどんどん聞いてください。
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最終更新: 2026年10月22日
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