銅欠乏症(どうけつぼうしょう)について知っておきたいこと
概要
銅(どう)は、体に必要な量はごくわずかですが、生命を保つうえで欠かせないミネラル(無機質)のひとつです。鉄を利用して血液を作る、神経の働きを保つ、骨や血管を丈夫にする、体を酸化から守るなど、多くの役割を担っています。銅欠乏症は、この銅が体の中で足りなくなった状態をいいます。多くは食事だけが原因ではなく、腸からの吸収の低下や、銅の働きを妨げる別の成分のとりすぎなど、背景に何らかの理由があります。原因がわかれば、多くは適切な対応で改善が期待できる状態です。
重要な事実
- 銅はごく微量で足りる栄養素で、ふだんバランスよく食べている人では不足はまれです。
- 不足すると、疲れやすさや息切れ(貧血=血液が酸素を運びにくくなった状態)、手足のしびれ、感染症にかかりやすいなどの症状が出ることがあります。
- 自己判断でサプリメントを増やすのは危険です。銅もとりすぎると体に害があり、原因の見極めと量の調整は医療機関で行う必要があります。
日本ではまれな状態です。健康な人が普通の食事をしているだけで起こることはほとんどありません。ただし、長期の点滴栄養や胃・腸の手術後など、特定の背景がある人では起こりうるため、注意が必要です。
なりやすいのは、長期間にわたって点滴やチューブからの栄養だけに頼っている人、胃や腸の大手術を受けた人、腸の病気で栄養を吸収しにくい人、亜鉛(あえん)のサプリメントを長く多くとっている人、鉄剤を大量にとり続けている人などです。また、ごくまれですが、銅を吸収しにくい遺伝的な体質を持つ赤ちゃん(メンケス病など)でも起こります。
症状
- 強い息苦しさ、胸の痛み、冷や汗がある
- 意識がもうろうとしている、受け答えがおかしい
- 突然立てない、歩けない、力が入らない
- 高熱とぐったりした状態が同時にある(感染症が重くなっているサインの可能性)
- けいれんや失神があった
- ⚠手足のしびれが急に広がってきた
- ⚠歩きにくい、転びやすくなった
- ⚠動悸や息切れが悪化している
- ⚠発熱をくり返す、感染症が長引く
- ⚠顔色の悪さと強い疲労が続いている
一般的な症状
- 疲れやすく、だるさが続く
- 顔色が悪い、皮膚が青白く見える
- 階段や坂道で息切れがする、動悸(どうき)がする
- 手足の先のしびれ、ぴりぴりした感じ
- 力が入りにくい、歩くときにふらつく
- 風邪などの感染症にかかりやすい、治りにくい
- 髪が細くなる、抜けやすくなる
- 傷が治りにくい
- 物忘れが増えた気がする、集中しにくい
子供の症状
- 体重が増えにくい、成長がゆっくりになる
- 機嫌が悪い、元気がない
- 骨が弱く、骨折しやすい
- 顔色が悪く、疲れやすい
- 感染症をくり返す
- 発達の進みが気になる
高齢者の症状
- 歩くときのふらつきや転びやすさ
- 手足のしびれや感覚の鈍さ
- 強い疲労感、元気が出ない
- 物忘れや集中力の低下が目立つ
- 貧血のような症状(息切れ、めまい)
- 複数のサプリメントや健康食品を併用している場合は特に注意が必要
原因
主な原因
- 長期間の点滴栄養(中心静脈栄養)や経管栄養で、銅が十分に含まれていない場合
- 胃や腸の手術(特に減量手術)の後で、栄養の吸収が変化した場合
- 腸の病気(吸収不良症候群など)で、栄養をうまく吸収できない場合
- 亜鉛のサプリメントや健康食品の長期・大量摂取(亜鉛は銅の吸収を妨げることがあります)
- 鉄剤の大量・長期の使用
- 食事量が極端に少ない状態(重度のやせ、摂食障害など)
- 遺伝的な体質により銅を吸収しにくい場合(乳幼児のメンケス病など)
- 腎臓の病気で銅が尿から失われる場合
リスク要因
- 長期間の点滴栄養やチューブ栄養
- 胃・腸の手術歴(特に肥満治療のための手術)
- クローン病やセリアック病など、腸の慢性の病気
- 亜鉛を含むサプリメントや健康食品の常用
- 鉄剤の長期服用
- 偏った食事、極端なダイエット、摂食障害
- 高齢で複数の薬やサプリメントを使っている
- 早産児、低出生体重児
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 手足のしびれや力の入りにくさが急に進んでいるとき
- 歩行が不安定になった、転びやすくなったとき
- 息切れや動悸が強くなってきたとき
- 高熱や感染症をくり返しているとき
定期受診を予約すべき場合:
- 何となくだるさや疲れやすさが数週間以上続く
- 顔色が悪いと言われたことがある
- 手足の軽いしびれや感覚の変化が気になる
- 亜鉛や鉄のサプリメントを長く飲んでいて、体調の変化が気になる
- 胃や腸の手術を受けたことがあり、食事量が少ない
診断
まず問診で、食事の内容、サプリメントや健康食品の使用、手術歴、腸の病気の有無などを確認します。そのうえで血液検査を行い、体の中の銅の量や、銅を運ぶたんぱく質(セルロプラスミン)の値を調べます。同時に、貧血や白血球の状態も確認します。銅の値は、体の炎症や別の病気の影響で変わって見えることがあるため、検査結果と症状をあわせて総合的に判断します。場合によっては、銅を補ったあとに症状や数値が改善するかどうかで診断を確かめることもあります。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(血清銅、セルロプラスミンという銅を運ぶたんぱく質の値)
- 血算(赤血球や白血球、特に好中球=細菌と戦う白血球の数を調べる)
- 亜鉛の値の測定(亜鉛のとりすぎがないかの確認)
- 肝機能・腎機能の検査
- 尿検査や24時間尿の検査(銅が尿から失われていないかの確認)
- 必要に応じて、腸の状態を調べる検査や画像検査
診察で予想されること
診断は特別に痛みの強い検査ではなく、主に採血で進みます。結果が出るまで数日かかることがあります。原因を探るために、食事やサプリメントについて詳しく聞かれることがあるので、普段使っているものを持参または写真に撮っておくと話がスムーズです。
治療
治療の中心は、銅が足りなくなっている原因を見つけて取り除くことと、足りない銅を安全に補うことです。自己判断でサプリメントを始めるのではなく、必ず医療機関の管理のもとで行います。銅はとりすぎても体に悪影響があるため、量の調整が大切です。
自宅でのセルフケア
- 処方された指示を守り、自分で量を増やしたり減らしたりしない
- サプリメントや健康食品は、飲んでいるものをすべて医師・薬剤師に伝える
- バランスのよい食事を心がけ、極端な食事制限を避ける
- 症状の変化(しびれ、疲れやすさ、息切れなど)をメモして診察時に伝える
- 禁酒・節酒を心がける(アルコールのとりすぎは栄養状態を乱すことがあります)
- 十分な睡眠と無理のない範囲の運動で体力を保つ
医療治療
まず原因への対応を行います。亜鉛や鉄のサプリメントが関係している場合は中止や調整を検討し、点滴栄養の人では栄養の組成を見直します。そのうえで、医師の判断により銅を補う治療が行われます。補い方には飲み薬による方法や、点滴による方法があり、症状の重さや原因によって選ばれます。治療中は血液検査で値の変化と副作用の有無を確認しながら、必要量を調整していきます。しびれなどの神経の症状は、数値が改善してからも回復に時間がかかることがあり、気長に経過を見ていきます。
手術が検討される場合
銅欠乏症そのものを手術で治療することはありません。ただし、原因が胃や腸の手術後の栄養吸収の変化にある場合は、手術を受けた医療機関と連携しながら栄養管理を調整します。
この病気と共に生きる
治療が始まれば、多くの人は疲れやすさや顔色の悪さなどが少しずつ改善していきます。神経の症状は回復に時間がかかることがあるため、焦らずに通院を続けることが大切です。日常生活では、無理をしすぎず、体調の変化を記録しながら過ごすと、診察のときに役立ちます。
生活習慣のアドバイス
- 決まった時間に食事をとり、偏りの少ない献立を心がける
- サプリメントを自己判断で追加しない
- 飲酒はほどほどにする
- 睡眠を十分にとり、疲れをためない
- 無理のない範囲で散歩などの軽い運動を続ける
- 転びやすいと感じるときは、家の中の段差や照明を見直す
食事と運動
銅は、貝類(かき、かになど)、レバーなどの内臓肉、ナッツや種子、全粒穀物、豆類、きのこ、ココアやチョコレート、アボカド、ドライフルーツなどに含まれています。特別な食品を大量にとる必要はなく、いろいろな食品を組み合わせて食べることが基本です。運動は、筋力を保ち転倒を防ぐために役立ちます。しびれやふらつきがあるときは、転倒しないよう手すりや歩行補助を使い、無理のない範囲で行いましょう。
精神的健康と心の健康
長引く疲労感や手足のしびれは、気分の落ち込みや不安につながることがあります。「なかなか良くならない」と感じるときは、一人で抱え込まずに話してみてください。気持ちのつらさが続く場合は、かかりつけ医や地域の相談窓口(保健所や保健センターなど)に相談することが助けになります。
予防
ふだんからバランスのよい食事をとっていれば、多くの場合予防できます。特に、亜鉛や鉄のサプリメントを長く使う場合は、自己判断で量を増やさず、医師や薬剤師に相談することが大切です。長期の点滴栄養や経管栄養を受けている人、胃・腸の手術を受けた人は、定期的な血液検査で栄養状態を確認することが早期発見につながります。
検診プログラム
一般の人を対象とした銅欠乏症のスクリーニング検査は行われていません。ただし、長期の点滴栄養・経管栄養を受けている人、胃・腸の手術後、腸の慢性の病気がある人などは、かかりつけ医と相談のうえで定期的な血液検査を受けることが勧められます。
合併症
治療しない場合
- 貧血が続き、息切れや疲労感が強くなる
- 細菌と戦う白血球が減り、感染症にかかりやすくなる
- 手足のしびれや歩きにくさなど、神経の症状が進む
- 神経の症状が残り、回復に長い時間がかかることがある
- 骨が弱くなり、骨折しやすくなる
- 子どもの場合は成長や発達に影響することがある
長期的な見通し
銅欠乏症は、原因がはっきりして適切に対応すれば、多くは改善が期待できます。疲労感や貧血は比較的早く良くなることが多く、神経の症状は時間がかかるものの回復していく例が少なくありません。気になる症状があるときは、早めにかかりつけ医に相談することが、安心につながります。
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最終更新: 2026年10月22日
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