腋窩ウェブ症候群(コーディング)
概要
腋窩ウェブ症候群(えきかウェブしょうこうぐん)は、いわゆる「コーディング」とも呼ばれ、腋の下(わきのした)から腕にかけて、皮膚のすぐ下に硬い「ひも状のすじ」が触れる状態です。腕を上げると、そのすじが突っ張って痛み、肩や腕が動かしにくくなることがあります。多くは、乳がんなどの手術で腋の下のリンパ節を取ったあとや、放射線治療のあとに現れます。命に関わる病気ではなく、時間とともに良くなることがほとんどです。
重要な事実
- 腋の下から腕に向かって、細いひもや太い血管のようなものが皮膚の下に触れるのが特徴です。
- 腕を上げる、横に広げるといった動きで痛みや突っ張りが出やすくなります。
- 多くの場合は数週間から数か月かけて自然に、またはリハビリで改善していきます。
腋の下のリンパ節を広めに取る手術(腋窩リンパ節郭清=えきかリンパせつかくせい)を受けた方では、2〜5割くらいの方に起こるといわれています。リンパ節を少しだけ調べる手術(センチネルリンパ節生検)の場合や、放射線治療のあとにも起こることがあります。
主に、乳がんなどの手術で腋の下のリンパ節を取った方、腋の下に放射線治療を受けた方にみられます。手術を受けた側の腕に起こることが多いです。子どもでは非常にまれで、多くは成人の方にみられます。
症状
- 腕が急に大きく腫れて、激しい痛みがある
- 息苦しさ、胸の痛み、動悸が急に出現した(腕の血管に血栓ができ、肺に流れた可能性など)
- 顔色が悪い、意識がもうろうとしている、冷汗が出る
- ⚠腕が赤く腫れて熱を持ち、赤みが広がってきた(感染の可能性)
- ⚠38度以上の発熱が続く
- ⚠腕の腫れが急に強くなった、指の動きが急に悪くなった
- ⚠痛みが強く、夜も眠れない
一般的な症状
- 腋の下から腕の内側にかけて、硬いひも状のすじが触れる(見えることもある)
- 腕を上に上げたり横に広げたりすると、すじが突っ張って痛む
- 肩や腕を動かせる範囲が狭くなる、服を着替えるのがつらい
- すじが肘の内側、手首、親指のつけ根あたりまで続いて感じられることがある
- 腕のだるさ、重さ、肩こりのような違和感
- 腕のむくみ(リンパ浮腫)を同時に感じることがある
子供の症状
- 小児では非常にまれで、ほとんど報告されていません。
- もし手術後に腕を動かしにくそうにしている場合は、痛がっていないか、腫れがないかをよく見てあげてください。
- 子どもの場合は、診察で他の原因がないかを確認することが大切です。
高齢者の症状
- もともとの肩の動きの制限や筋力の低下と重なって、動かしにくさが目立ちやすくなります。
- 回復に少し時間がかかることがありますが、年齢だけで必ず悪くなるわけではありません。
- 痛みを我慢して動かさないでいると、肩が固まりやすくなるため、無理のない範囲での運動が大切です。
原因
主な原因
- 腋の下のリンパ節を取る手術(腋窩リンパ節郭清やセンチネルリンパ節生検)のあとに起こりやすいです。
- 腋の下への放射線治療のあとにも起こることがあります。
- 手術や放射線によるリンパ管・細い血管・周りの組織の変化や、傷あとが縮むことが関係すると考えられています。
- まれに、腋の下の手術を受けていない方でも起こることがあります。
リスク要因
- 腋窩リンパ節郭清など、腋の下の手術の範囲が広い
- 腋の下への放射線治療を受けた
- 手術後の痛みや不安から、腕をあまり動かさずにいた
- 術前から肩の動きが硬かった、肩の病気があった
- 肥満がある
- リンパ浮腫(腕のむくみ)がある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 腕が急に赤く腫れて熱を持ち、赤い範囲が広がっている
- 発熱と腕の腫れが同時にある
- 腕の腫れや痛みが急に強くなった、指が動かしにくくなった
- 息苦しさや胸の痛みがある(この場合はためらわず救急要請を)
定期受診を予約すべき場合:
- 腋の下から腕にかけてひも状のものがあると気づいたとき
- 腕を上げると痛くて、着替えや髪を洗うのがつらい
- 手術後に肩や腕の動きが思うように戻らない状態が続いている
- 腕の違和感が数週間以上続いている
診断
多くは問診と診察だけで診断できます。腕を上げてもらい、腋の下から腕にかけて皮膚の下のひも状のすじを目で見たり、そっと触れたりして確認します。特別な検査がなくても診断できることが多いのが特徴です。
行われる可能性のある検査
- 視診と触診(ひも状のすじの位置や硬さを確認)
- 肩や腕の可動域(動かせる範囲)の評価
- 痛みの程度や日常生活への支障についての聞き取り
- 必要に応じて超音波検査(血栓やリンパ浮腫などの確認)
- 症状が典型的でない場合に、他の原因を除外するための画像検査
診察で予想されること
診察は短時間で終わることが多く、腕を上げ下げしてもらう動きの確認が中心です。痛みがある場合は無理をせず、その旨を伝えてください。診断後は、リハビリや自宅でのケアについて具体的なアドバイスを受けられます。
治療
腋窩ウェブ症候群は、多くの場合、時間とともに自然に改善します。治療の中心は、痛みを抑えながら無理のない範囲で腕を動かし、肩や腕の動きを取り戻していくことです。状態に応じて、リハビリの専門家と相談しながら進めます。
自宅でのセルフケア
- 痛みのない範囲で、少しずつ腕を上げたり伸ばしたりする
- 入浴や温めることで、筋肉や組織をゆるめてから動かす
- 急に強く引っ張らず、ゆっくり深呼吸しながらストレッチする
- 着替えや家事などは、痛みの少ない姿勢や道具を使って工夫する
- 腕の腫れが出てきたら、医療者に相談する(自己判断で強く圧迫しない)
- 手術後の運動についての指示がある場合は、それに従う
医療治療
主な治療は理学療法(リハビリ)です。ストレッチや関節を動かす運動、手技によるケアなどを通して、痛みを和らげながら腕の動きを改善していきます。リンパ浮腫(腕のむくみ)を伴う場合は、そのためのケアが組み合わされます。痛みが強いときは、医療者に相談したうえで痛みのケアを検討します。薬の名前や使い方については、必ず医師や薬剤師の指示に従ってください。
手術が検討される場合
腋窩ウェブ症候群そのものに対して手術が必要になることは、通常ありません。
この病気と共に生きる
痛みがあると腕を動かすのが怖くなりますが、まったく動かさないでいると肩が固まりやすくなります。痛みの少ない範囲でこまめに動かすことが、回復への近道です。家事や着替えは、無理のない方法に少しずつ変えていくと楽になります。
生活習慣のアドバイス
- 腕を上げる動作(洗濯物を干す、高い棚に手を伸ばす)を、痛みに合わせて少しずつ行う
- 長時間同じ姿勢を続けず、こまめに肩や腕を動かす
- 睡眠を十分にとり、疲れをためない
- 手術側の腕での重い物持ちや、きつい腕輪・血圧測定などは、主治医の指示に従う
- 気になることは一人で抱えず、診察のたびに相談する
食事と運動
特別な食事制限はありません。バランスのよい食事と、無理のない範囲の運動が回復を助けます。ウォーキングなど軽い全身運動と、痛みのない範囲での肩・腕のストレッチを組み合わせるとよいでしょう。運動の強さや始め方は、手術後の経過をみている医療者に相談して決めてください。
精神的健康と心の健康
「また手術の合併症が増えた」「腕が動かないのはこの先も続くのでは」と不安になるのは自然なことです。痛みや動かしにくさは気分にも影響します。つらさが続くときは、主治医や看護師、がん相談支援センターなどに話してみてください。医療者に相談することは、弱さではなく、自分を大切にする行動です。
予防
完全に防ぐ方法はまだ確立していません。ただし、手術後の早い段階から、痛みの範囲で肩や腕をやさしく動かしておくことが、動きの制限を軽くする助けになる可能性があります。術後の運動は、必ず医療者の指示に沿って行ってください。
検診プログラム
腋窩ウェブ症候群に特化した検診はありません。手術後は、診察のときに腕や肩の動きを確認してもらい、気になる症状があれば早めに伝えることが大切です。
合併症
治療しない場合
- 肩や腕の動きの制限が長引き、着替えや入浴などの日常生活がつらくなることがある
- 痛みを避けて動かさないことで、肩の関節が固まりやすくなる
- リンパ浮腫(腕のむくみ)を伴う、または悪化することがある
- 痛みや不安によるストレスが続く
長期的な見通し
腋窩ウェブ症候群は、多くの方にとって時間とともに改善する状態です。数週間から数か月で良くなることが多く、リハビリやセルフケアで痛みを和らげながら動きを取り戻せます。症状が長引く場合でも、医療者と相談しながら一つずつ対処していくことができます。
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最終更新: 2026年10月22日
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