冠動脈バイパス術(CABG)—心臓の血流を助ける手術
概要
冠動脈(かんどうみゃく)は、心臓の筋肉に血液を送る血管です。この血管の内側に脂肪やコレステロールなどがたまって狭くなったり詰まったりすると、心臓の筋肉に十分な血液が届かなくなります。冠動脈バイパス術(CABG)は、詰まった部分を迂回(うかい)する新しい血液の通り道を作る手術です。多くの場合、脚・腕・胸の内側などから採取した自分の血管をつなぎ、「バイパス=迂回路」を作ります。詰まった血管を取り除く手術ではなく、血液の流れを助ける手術です。手術そのものが動脈硬化(血管が硬く狭くなる変化)という病気そのものを治すわけではないため、手術のあとも生活習慣の管理と通院が大切になります。
重要な事実
- 冠動脈バイパス術は、狭くなった冠動脈の代わりに新しい血液の通り道を作る手術です。
- 多くの場合、自分の脚や腕、胸の内側の血管を1本使って迂回路を作ります。
- 手術のあとは、心臓リハビリや生活習慣の見直しを続けることで、より良い状態を長く保ちやすくなります。
日本でも広く行われている心臓手術のひとつです。ただし近年は、カテーテル(細い管)を使って血管を広げる治療が選ばれることも多く、バイパス術は「血管の詰まり方が複雑」「複数の血管が狭い」「糖尿病がある」など、カテーテル治療より手術が適していると判断された場合に選ばれることが多くなっています。どちらが良いかは、心臓の状態や全身の健康状態によって一人ひとり異なります。
主な対象は、冠動脈が狭くなったり詰まったりしている冠動脈疾患(虚血性心疾患)の方です。とくに、糖尿病のある方、複数の冠動脈が狭い方、心臓の左側の重要な血管の付け根が狭い方、カテーテル治療では対応が難しい形の狭窄がある方などが検討されます。年齢や性別を問わず起こりえますが、中高年以降に多くなります。
症状
- 胸の強い痛みや圧迫感が数分以上続き、休んでもよくならない(心筋梗塞の可能性)
- 胸の痛みが冷や汗、吐き気、息苦しさと一緒に起こる
- 息ができない、ゼーゼーして会話が難しい
- 意識がもうろうとする、気を失う、ぐったりしている
- 脈がとても速い、または不規則で、ふらつきや気が遠くなる感じがある
- ⚠胸の苦しさが今までより強く、回数が増えている
- ⚠安静にしていても胸が苦しくなる
- ⚠軽い労作で息切れするようになった、足のむくみが急に出た
- ⚠動悸が続く、脈が飛ぶ感じが繰り返す
一般的な症状
- 胸の中央から左側にかけての圧迫感や締めつけられる感じ(狭心症の症状)
- 動くと胸が苦しくなり、休むと数分で軽くなる
- 胸の苦しさが肩・腕・あご・背中・みぞおちに広がる
- 息切れしやすい、階段や坂道で息が上がる
- 冷や汗、吐き気、強い不安感をともなうことがある
子供の症状
- 小児で冠動脈バイパス術が必要になることはまれです。必要になる場合は、川崎病のあとに冠動脈に大きなこぶ(動脈瘤)ができた場合や、生まれつきの心臓の病気にともなう場合などがあります。
- 子どもの場合は、胸の痛みをうまく言葉にできないことが多く、ミルクを飲みながら汗をかく、すぐ疲れる、体重が増えにくい、顔色が悪いといった様子が手がかりになることがあります。
高齢者の症状
- 高齢の方は、胸の痛みがはっきりしないことがあります。息切れ、だるさ、食欲低下、みぞおちの不快感などが主な症状として現れることがあります。
- 痛みを感じにくいために症状が軽く見え、受診が遅れやすい傾向があります。いつもと違う疲れやすさや息苦しさが続く場合は、早めに医療機関に相談してください。
原因
主な原因
- 冠動脈の動脈硬化:血管の内側に脂肪やコレステロールなどがたまり、血管が狭く硬くなることで血流が悪くなります。
- 冠動脈の血栓(血のかたまり)による詰まり:動脈硬化の部分が破れて血のかたまりができ、急に血流が止まることがあります。
- 冠動脈のけいれん(攣縮)や、川崎病のあとの血管の変化など、動脈硬化以外の原因もあります。
リスク要因
- 喫煙(本人だけでなく、受動喫煙も含む)
- 糖尿病、または血糖値が高めと言われたことがある
- 脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い状態)
- 家族に心臓病・脳卒中の人がいる(家族歴)
- 肥満、とくにおなか周りに脂肪がつくタイプの肥満
- 運動不足、長時間すわる生活
- 睡眠不足、強いストレス、過度の飲酒
- 慢性腎臓病などの持病がある
- 年齢(中高年以降で増える)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胸の痛みや圧迫感が数分以上続く、または強くなっている
- 安静にしていても胸が苦しい、夜中に胸の苦しさで目が覚める
- これまでできていた動作で急に息切れするようになった
- 動悸や脈の乱れが続く、ふらついて立っていられない
- 手術後の傷口が腫れて熱を持つ、膿のようなものが出る、痛みが急に強くなる(手術後は早めに連絡を)
定期受診を予約すべき場合:
- 階段や坂道で胸が苦しくなる、息が上がる状態が続いている
- 胸の不快感が繰り返し起こり、回数や強さが増えている気がする
- 心臓の病気と言われたことがある、または健康診断で心電図の異常を指摘された
- 血圧・血糖値・コレステロールを指摘されているが、受診していない
- ご家族に心臓病の方がいて、自分も検査を受けたい
診断
まず問診で、症状の出方(いつ、どんなときに、どれくらい続くか)や持病、ご家族の病歴をうかがいます。そのうえで心電図や血液検査、心臓の超音波検査などを行い、必要に応じて運動負荷試験や冠動脈CT、心臓カテーテル検査で血管の状態を詳しく調べます。手術(バイパス術)が必要かどうかは、狭くなっている場所と本数、心臓の働き、全身の状態、糖尿病などの持病を合わせて、循環器内科と心臓血管外科の医師が相談して判断します。
行われる可能性のある検査
- 問診と身体診察(症状の出方、持病、家族歴の確認)
- 心電図(心臓の電気の流れを見る検査)
- 血液検査(心臓への負担や貧血、血糖・コレステロール、腎臓の働きなどを確認)
- 心臓超音波検査(心臓の動きや弁の状態を見る検査)
- 運動負荷試験(歩いたり自転車をこいだりして心臓の反応を見る検査)
- 冠動脈CT(造影剤を使って血管の狭さを画像で確認する検査)
- 心臓カテーテル検査(細い管を血管から入れ、冠動脈の狭さを直接調べる検査)
- 心臓MRI・心筋シンチグラフィなど(必要に応じて行われる追加の検査)
診察で予想されること
検査は段階的に進みます。最初は体に負担の少ない検査から始まり、手術を考える段階になるとカテーテル検査など入院が必要な検査を行うことがあります。検査結果はその場ですべて分かるとは限らず、数日かかることもあります。医師から説明を受けるときは、あらかじめ聞きたいことをメモしておくと、話が整理しやすくなります。ご家族と一緒に説明を聞くこともおすすめです。
治療
冠動脈の狭さや詰まりに対する治療には、大きく分けて「お薬による治療」「カテーテル治療(細い管で血管を広げる)」「バイパス術(手術で迂回路を作る)」の3つがあります。どれが合うかは、血管の詰まり方、心臓の働き、糖尿病などの持病、年齢や生活の状況をふまえて総合的に決まります。手術はあくまで選択肢のひとつで、手術のあとも薬と生活習慣の管理を続けることが、その後の状態を左右します。
自宅でのセルフケア
- 禁煙する(受動喫煙も避ける)。禁煙は治療の一部と考えてください。
- 血圧・血糖値・体重を自宅で記録し、通院時に見せられるようにする
- 塩分を控えめにし、野菜・魚・大豆製品などをバランスよくとる
- 医師の指示の範囲で、無理のない運動を続ける(心臓リハビリへの参加がおすすめです)
- 睡眠を十分にとり、過労や強いストレスをためない
- 処方された薬は、症状がなくても自己判断でやめない
- 手術後は、傷口を清潔に保ち、指示された入浴・仕事・運転の制限を守る
- 風邪や歯の治療などで受診するときは、心臓の手術を受けたことを必ず伝える
医療治療
治療は、生活習慣の見直しを土台にして、いくつかの種類の薬を組み合わせて行います。血液が固まりにくくなる薬、血圧を下げる薬、コレステロールを下げる薬、心臓の負担を減らす薬、脈の乱れを整える薬などが、その方の状態に合わせて選ばれます。薬の種類や量は医師が判断しますので、飲み方で気になることがあれば薬剤師や医師に相談してください。カテーテル治療は、腕や脚の血管から細い管を入れて、狭くなった部分を風船や網状の器具で広げる方法です。体への負担は比較的小さい一方、血管の狭くなり方によっては向かない場合もあります。
手術が検討される場合
バイパス術は、次のような場合に検討されます。冠動脈の複数の場所が狭い、心臓の左側の重要な血管の付け根が狭い、糖尿病があって血管の狭くなり方が広範囲、カテーテル治療では届きにくい形や場所に狭みがある、カテーテル治療でうまくいかなかった、心臓の動きが低下している、などです。手術の時期や方法(どの血管を使うか、心臓を止めて行うか動かしたまま行うかなど)は、心臓血管外科の医師が詳しい検査結果をもとに説明します。手術を受けるかどうかは、メリットとリスクの説明をよく聞いたうえで、ご家族と相談して決めてかまいません。
この病気と共に生きる
手術後は、集中治療室から一般病棟へ移り、少しずつ歩く練習が始まります。退院後は、傷口が安定するまで重いものを持ち上げる動作や、勢いをつける動作を控えます。胸の骨は数か月かけて安定するため、痛みや違和感が続くことがありますが、多くは徐々に軽くなります。通院は定期的に続き、必要に応じて心臓リハビリに参加します。日常生活のペースは、焦らず少しずつ戻していくのが安心です。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける。再発予防で最も効果が大きいことのひとつです。
- 処方された薬を決まった時間に続ける。飲み忘れが多いときは医師や薬剤師に相談する。
- 血圧・体重・血糖値を記録する習慣をつける
- 睡眠時間を確保し、疲れをためない
- アルコールは医師の指示に従い、量と頻度を控えめにする
- 歯の健康を保つ(歯ぐきの病気は心臓にも影響することがあります)
- 手術後は、発熱や傷口の変化を見逃さず、気になれば早めに連絡する
食事と運動
食事は、塩分を控えめにし、野菜・海藻・きのこ・魚・大豆製品を中心に、揚げ物や加工食品を減らす形が基本です。極端な食事制限は続きにくいので、できるところから少しずつ変えていきましょう。運動は、退院後に医師から許可が出てから始めます。ウォーキングなど、会話ができる程度の強さを、無理のない範囲で毎日少しずつ行うのが一般的です。胸の苦しさ、強い息切れ、めまいを感じたら中止して休み、繰り返す場合は医療機関に相談してください。心臓リハビリは、運動の強さを安全に調整できる場として役立ちます。
精神的健康と心の健康
心臓の手術のあとは、不安、気分の落ち込み、眠りにくさ、イライラが起こることがあります。「思ったより動けない」「また倒れたらどうしよう」という気持ちは自然なものです。これは珍しいことではなく、多くは時間とともに落ち着きますが、2週間以上続く気分の落ち込みや、何をしても楽しめない状態があるときは、かかりつけ医や心臓リハビリのスタッフに話してみてください。話すことで楽になることは多くあります。もし自分を傷つけたい気持ちが浮かんだり、強い不安で日常生活が難しいと感じたりする場合は、一人で抱えず、地域の相談窓口や医療機関に連絡してください。差し迫った危険があるときは救急(119)をためらわずに呼んでください。
予防
冠動脈バイパス術そのものを「予防する」というより、手術が必要になる原因である動脈硬化を進めにくくすることが大切です。禁煙、血圧・血糖値・コレステロールの管理、バランスのよい食事、適度な運動、十分な睡眠は、心臓の血管を守る基本になります。すでに手術を受けた方も、これらの習慣を続けることで、バイパスした血管や残りの血管が傷みにくくなると考えられています。
ワクチン
心臓や血管の病気がある方は、かぜや肺炎などの感染症にかかると重症化しやすいことが知られています。インフルエンザや肺炎球菌などのワクチンについては、厚生労働省の考え方や自治体の案内も参考にしながら、かかりつけ医に相談してみてください。接種の時期や可否は、その方の体調によって判断されます。
検診プログラム
日本では、特定健康診査(メタボ健診)や職場の健康診断で、血圧・血糖値・コレステロール・心電図などを確認できます。自覚症状がなくても、数値の変化を早く見つけることが動脈硬化の進行を抑える第一歩になります。家族に心臓病の人が多い場合や、喫煙・糖尿病などのリスクが重なる場合は、かかりつけ医に心臓の検査について相談してみてください。
合併症
治療しない場合
- 心筋梗塞(心臓の筋肉が壊れる状態)を起こす危険が高まります。
- 心臓の働きが低下し、心不全(息切れやむくみが続く状態)になることがあります。
- 不整脈が起こりやすくなり、動悸や失神の原因になることがあります。
- 狭い血管の状態によっては、命に関わる急な出来事につながる危険があります。
- 生活の質が下がり、歩く・働くといった日常の動作が制限されることがあります。
長期的な見通し
冠動脈バイパス術は、血流を回復させて症状をやわらげ、その後の生活の質を保つための確立された治療です。手術後に胸の痛みが軽くなり、以前のように動けるようになる方も多くいます。バイパスに使った血管も、長い年月のなかで少しずつ変化することがあるため、禁煙や薬、通院を続けることが、良い状態を長く保つ鍵になります。回復のスピードも、その後の経過も一人ひとり違います。焦らず、医療者と一緒に一歩ずつ進んでいくことができます。
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最終更新: 2026年10月22日
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