大脳皮質基底核変性症(CBD)
概要
大脳皮質基底核変性症(CBD)は、脳の一部の神経細胞が少しずつ減っていくことで、体の動きと思考の両方に変化が現れる、比較的まれな進行性の脳の病気です。名前の「大脳皮質」は脳の表面にある考える・感じる部分、「基底核」は脳の奥にある動きを調整する部分を指します。この両方が影響を受けるため、手が思うように動かない、歩きにくいといった症状と、言葉が出にくい、物事の段取りが立てにくいといった症状が、一緒に現れやすいのが特徴です。根本的に治す治療はまだ見つかっていませんが、リハビリや生活の工夫で、できることを保ちながら過ごすことができます。
重要な事実
- 脳の神経細胞が少しずつ減っていく進行性の病気で、動きと認知の両方に変化が現れます。
- 症状の出方や進み方には個人差が大きく、数年かけてゆっくり変化することが多い病気です。
- 根本的な治療法はまだありませんが、リハビリテーションや生活の工夫、症状に合わせた支援で、生活の質を保つことができます。
とてもまれな病気です。日本では「指定難病」の一つに定められており、診断を受けた方は医療費の助成などの支援制度を利用できる場合があります。
主に50〜70代の成人に多くみられ、発症のピークは60代前後といわれています。男性にやや多いとされますが、性別による大きな差はありません。小児には基本的にみられない病気です。
症状
- 呼びかけに反応しない、意識がもうろうとしている
- けいれんが止まらない、または繰り返す
- 呼吸が苦しい、顔色が悪い
- 転倒して頭を強く打った、その後に吐き気や意識の変化がある
- 突然の激しい頭痛
- 食べ物や唾液で窒息しそうになっている、息ができない
- ⚠発熱がある、熱が続く
- ⚠むせこみが急に増えた、食事や水分がとりにくい
- ⚠水分がほとんどとれず、尿の量が減っている
- ⚠転倒して痛みが続く、動かせない部位がある
- ⚠急に動きが悪くなった、症状が数日で大きく変化した
- ⚠尿が出ない、便秘がひどくお腹が張っている
一般的な症状
- 片方の手が思うように使えない、細かい作業がしにくくなる(箸が持ちにくい、ボタンを留めにくいなど)
- 手足が硬くなる、動きがぎこちない、震える
- 歩き方が不安定になる、バランスを崩しやすい、転びやすくなる
- 言葉が出にくい、ろれつが回りにくい、声が小さくなる
- 「他人の手症候群」と呼ばれ、自分の意思と関係なく片方の手が動いてしまうことがある
- 道具の正しい使い方がわからなくなる(観念運動失行:歯ブラシやスプーンをうまく使えないなど)
- 物忘れ、段取りが立てにくい、判断が遅くなるなどの認知面の変化
- 感情のコントロールが変わりやすい、意欲が低下するなどの行動の変化
- 飲み込みにくい、むせやすい
子供の症状
- 大脳皮質基底核変性症は成人にみられる病気で、小児では基本的に報告されていません。子どもの動きや発達の心配がある場合は、小児科医に相談してください。
高齢者の症状
- 転びやすくなり、骨折につながる転倒のリスクが高まります。
- 飲み込みにくさ(嚥下障害)が目立ちやすく、むせや誤嚥性肺炎(食べ物や唾液が気管に入って起こる肺炎)に注意が必要です。
- 認知面の変化や意欲の低下が、日常生活の支障として目立ちやすくなることがあります。
- 複数の病気を抱えていることが多く、薬の調整や生活環境の見直しが大切になります。
原因
主な原因
- 脳の神経細胞の中に、たんぱく質の一種(タウと呼ばれるたんぱく質)が異常にたまり、神経細胞が少しずつ減っていくと考えられています。
- 大脳皮質(脳の表面)と基底核(脳の奥)の両方に変化が起こることで、動きと認知の両方の症状が現れます。
- なぜこの変化が起こるのか、詳しい原因はまだよく分かっていません。多くの場合は原因が特定できない「孤発性」ですが、ごくまれに家族内で発症する例も報告されています。
リスク要因
- 年齢:50〜70代に多く、加齢に伴って発症リスクが高まると考えられています。
- 家族歴:ごくまれに家族内で発症することがあり、特定の遺伝子の変化が関係する例が報告されています。
- 現時点では、生活習慣や食事が直接の原因になるとは考えられていません。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 転倒して頭を打った、その後ぐったりしている、または嘔吐した
- 急に言葉が出なくなった、手足が動かなくなった(脳卒中の可能性もあるため、すぐに救急へ)
- 発熱とむせこみが増え、食事や水分がとれない
- 呼吸が苦しそう、顔色が悪い
定期受診を予約すべき場合:
- 片方の手が使いにくい、動作がぎこちない状態が続いている
- 歩きにくい、転びやすい、バランスがとりにくい
- 言葉が出にくい、声が出しにくい
- 物忘れや段取りの悪さ、性格の変化が気になる
- 日常生活でできることが減ってきた、家族が変化に気づいた
診断
診断は、問診(症状の始まり方や進み方の聞き取り)、神経の診察、画像検査、神経心理検査などを組み合わせて行われます。似た症状を起こす他の病気(パーキンソン病、脳卒中、認知症など)を除外しながら、総合的に判断します。確定診断は脳の組織を調べることでしかできませんが、実際には症状と検査の結果から「可能性が高い」と判断されることが一般的です。
行われる可能性のある検査
- 問診と神経診察:手足の動き、硬さ、感覚、言葉、認知機能などを丁寧に確認します。
- 頭部MRI検査:脳の萎縮や、脳卒中など他の原因がないかを調べます。
- 脳血流・代謝の画像検査(SPECTやPETなど):脳のどの部分の働きが低下しているかをみます。
- 神経心理検査:記憶、注意力、言葉、判断力などを詳しく調べます。
- 血液検査:甲状腺の病気やビタミン不足など、似た症状を起こす他の原因を除外します。
- 必要に応じて、遺伝カウンセリングや専門医への紹介が行われることがあります。
診察で予想されること
診断までには時間がかかることがあります。症状の変化を記録したり、家族が気づいた変化を伝えたりすることが、診断の助けになります。専門医(神経内科など)への紹介が必要になることもあります。診断がつくまで不安な気持ちになるかもしれませんが、その間も症状に合わせた支援を受けることはできます。
治療
大脳皮質基底核変性症を根本的に治す治療法は、今のところ見つかっていません。治療の中心は、症状に合わせて生活の質を保つことです。リハビリテーション、生活環境の調整、症状に応じた薬物治療、そして本人と家族への支援を組み合わせて行われます。
自宅でのセルフケア
- 転倒を防ぐために、家の中の段差や障害物を減らし、手すりや滑りにくいマットを活用する。
- 無理のない範囲で、理学療法士や作業療法士の指導を受けた運動を続ける。
- むせこみがあるときは、姿勢を整える、食べ物を小さく分ける、とろみをつけるなどの工夫をする。
- 疲れやすい場合は、活動と休憩のバランスをとる。
- 気分の落ち込みや不安があるときは、一人で抱え込まずに家族や医療者に話す。
- 運転や外出など、安全に関わることは早めにかかりつけ医に相談する。
医療治療
症状に応じて、動きの症状(パーキンソン症状)に対する薬が試されることがありますが、効果は限定的で、人によって異なります。飲み込みの訓練、言葉のリハビリ、手足のリハビリ、装具の使用、気分や行動の変化に対する支援などが行われます。薬を使う場合も、必ず医師の判断のもとで調整されます。具体的な薬の名前や量については、かかりつけ医や薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
大脳皮質基底核変性症は、通常、手術で治す病気ではありません。ただし、飲み込みの問題が重くなった場合に、誤嚥性肺炎を防ぐための胃瘻(お腹から栄養をとる方法)などが、状態に応じて検討されることがあります。手術の適否は、主治医や専門医とよく相談して決めます。
この病気と共に生きる
できるだけ長く安全に、その人らしく過ごすことが目標です。転倒予防のための環境整備、食事の工夫、定期的なリハビリ、家族や介護サービスの活用が大切です。できることが変わっていく中で、新しい方法を一緒に探していく姿勢が助けになります。
生活習慣のアドバイス
- 無理のない範囲で、毎日の運動やストレッチを続ける。
- 睡眠をしっかりとり、疲れをためない。
- 家族や友人、地域の人とのつながりを保つ。
- 介護保険サービスや地域の支援制度を早めに調べておく。
- 運転や外出の安全性について、早めに相談する。
食事と運動
食事はバランスよく、むせこみを防ぐ工夫をしながらとることが大切です。食べる姿勢を整え、ゆっくり、少量ずつ食べるようにしましょう。運動は、理学療法士などの指導のもとで、バランスや筋力を保つものを無理なく続けることが勧められます。疲れや痛みがあるときは休み、体調に合わせて調整してください。
精神的健康と心の健康
体の変化や先の見えにくさから、本人も家族も不安や落ち込みを感じることがあります。それは自然なことです。気持ちを話せる場所や人を持つことが大切です。つらい気持ちが続くとき、眠れないとき、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、一人で抱え込まず、かかりつけ医、地域の相談窓口、保健所などに相談してください。緊急の場合は、ためらわずに119番(救急)へ連絡してください。
予防
大脳皮質基底核変性症を確実に防ぐ方法は、今のところ分かっていません。原因もまだ十分に解明されていないためです。できることとしては、血圧や血糖などの生活習慣病を管理し、転倒を防ぐ環境を整え、定期的に健康チェックを受けることが、脳と体の健康を保つ助けになります。
ワクチン
インフルエンザや肺炎球菌のワクチンは、誤嚥性肺炎(食べ物や唾液が気管に入って起こる肺炎)の予防に役立つことがあります。接種の可否や時期については、かかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
大脳皮質基底核変性症そのものを早期に見つけるための検診は、現在ありません。気になる症状がある場合は、かかりつけ医に相談することが大切です。
合併症
治療しない場合
- 転倒による骨折やけがのリスクが高まります。
- 飲み込みにくさから誤嚥性肺炎を起こすことがあります。
- 食事がとりにくくなり、栄養不足や脱水になることがあります。
- 動ける範囲が狭くなり、寝たきりに近づくことがあります。
- 認知面の変化が進み、日常生活にさらに支援が必要になることがあります。
- 本人と介護する家族の負担が大きくなることがあります。
長期的な見通し
大脳皮質基底核変性症は進行性の病気で、ゆっくりと症状が変化していくことが多いですが、進み方には大きな個人差があります。根本的な治療法はまだありませんが、リハビリや生活の工夫、支援制度を活用することで、長くその人らしい生活を続けることができます。不安なときは、主治医や地域の支援窓口に相談しながら、一歩ずつ進んでいくことが大切です。
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最終更新: 2026年10月22日
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