クローン病と潰瘍性大腸炎(炎症性腸疾患)
概要
クローン病と潰瘍性大腸炎は、腸に炎症が長く続く病気です。この2つをまとめて「炎症性腸疾患(IBD)」と呼びます。潰瘍性大腸炎は、大腸(おなかの右側から肛門までの長い管)の内側の表面に炎症やただれができる病気です。一方、クローン病は、口から肛門までの消化管のどこにでも炎症が起こり、腸の壁の深いところまで傷つくことがあります。どちらも、体の免疫(外から入ってきた菌やウイルスをやっつける仕組み)が自分自身の腸を攻撃してしまうことが関係していると考えられていますが、はっきりした原因はまだ分かっていません。人から人へうつる病気ではありません。
重要な事実
- 腸に炎症が続き、下痢・腹痛・血便などが繰り返し起こる病気です。
- 調子のよい時期(寛解)と、症状が強く出る時期(再燃)を繰り返すことが多いです。
- 薬で炎症を抑えながら、ふだんどおりの生活を続けることを目指します。
日本ではどちらも国の「指定難病」に指定されています。潰瘍性大腸炎のほうが患者数が多く、クローン病はそれより少ないものの、どちらもこの数十年で増えてきていると言われています。決してめずらしい病気ではなく、学校や職場で同じ病気と付き合っている人は少なくありません。
症状
- 大量の血便が出て止まらない、トイレが真っ赤になる
- 激しい腹痛で動けない、おなかが板のように硬い
- 意識がもうろうとしている、ぐったりして反応が弱い
- 高熱とひどい腹痛が同時にあり、顔色が悪い
- ⚠38度以上の発熱が続く
- ⚠強い腹痛が数時間続き、どんどん悪くなる
- ⚠何度も嘔吐して水分が取れない
- ⚠血便が急に増えた、量が多くなってきた
- ⚠尿がほとんど出ない、口がカラカラで立てない(脱水のサイン)
一般的な症状
- 何度も続く下痢( especially 血が混じる、粘液が混じる)
- おなかの痛みや、おなかが張る感じ
- トイレに行きたいのに行っても少ししか出ない(しぶり腹)
- 疲れやすい、だるさが続く
- 食欲が落ちる、体重が減る
- 微熱が出る、熱っぽい
- 顔色が悪い、立ちくらみ(貧血のことがあります)
- 口の中の口内炎、おしりの周りの痛みや腫れ(クローン病で多い)
子供の症状
- 身長が伸びにくい、体重が増えにくい(成長の遅れ)
- 学校を休みがちになる、体育や行事に参加しづらい
- トイレが近くて授業中がつらい、など学校生活の悩み
- 思春期で見た目の変化や友達との違いを気にしやすい
- 機嫌が悪い、集中できないなど、言葉にしにくい形で表れることがある
高齢者の症状
- 下痢や腹痛があっても「年のせい」と思い込みやすい
- 脱水や貧血が進みやすい
- 他の持病の薬と治療薬の飲み合わせに注意が必要
- 症状が典型的でなく、診断までに時間がかかることがある
原因
主な原因
- はっきりした原因はまだ分かっていません。
- 遺伝的な体質(なりやすさ)と、食事や腸内細菌、生活环境などの環境要因が組み合わさって起こると考えられています。
- 体の免疫の働きが、自分の腸の粘膜を攻撃してしまう「免疫の異常」が関係しています。
- 腸の中に住む細菌のバランスの変化が関係しているという研究もあります。
- 食事やストレスだけでこの病気になるわけではありません。自分や家族のせいだと考えないでください。
リスク要因
- 家族に同じ病気の人がいる(遺伝的ななりやすさ)
- 10代から30代の若い年齢
- たばこを吸う(特にクローン病でリスクが上がると言われます)
- 食生活の欧米化(脂肪の多い食事など)
- 強いストレスや、生活リズムの乱れ(症状を悪くするきっかけになることがあります)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 血便が続く、または量が増えてきた
- 強い腹痛が続いて、食事や水分がとれない
- 38度以上の熱が続く
- 何度も嘔吐する、水分がとれない
- 急に体重が減った、ぐったりして元気がない
定期受診を予約すべき場合:
- 下痢が2週間以上続いている
- トイレに行く回数が増えた、夜中もトイレに起きる
- おなかの痛みを繰り返している
- 便に血や粘液が混じることがある
- 食欲がなく、体重が少しずつ減っている
- 家族にクローン病や潰瘍性大腸炎の人がいて、自分も気になる
診断
まず、いつからどんな症状があるか、便の回数や血の混じり方、体重の変化、家族に同じ病気の人がいるかなどを聞きます(問診)。そのうえで血液検査や便の検査を行い、大腸カメラ(内視鏡)で腸の中を直接見て、炎症の場所や程度を確かめます。必要に応じて組織を少し取って調べる検査(生検)も行います。クローン病と潰瘍性大腸炎は症状がよく似ているため、区別するのに時間がかかることがあります。
行われる可能性のある検査
- 問診(症状・生活・家族歴の確認)
- 血液検査(炎症の程度、貧血、栄養状態を調べる)
- 便の検査(感染症や炎症の目印を調べる)
- 大腸カメラ(内視鏡)と、必要に応じて組織を取る検査
- 小腸カメラやカプセル内視鏡(小腸を調べる)
- CT検査やMRI検査(腸の壁の様子や、膿がたまっていないかを見る)
診察で予想されること
大腸カメラの前には、腸をきれいにするための下剤を飲み、食事を制限する準備が必要です。検査のときは鎮静剤を使って眠ったような状態で受けられることが多く、痛みが強い場合もありますが、多くの人は耐えられる範囲です。診断がつくまでに何度か通院が必要なこともあります。検査の内容や準備は医療機関によって違うので、事前に説明を受けて、分からないことは遠慮なく聞いてください。
治療
この病気を根本から治す治療はまだ見つかっていませんが、腸の炎症をしっかり抑えて症状のない状態(寛解)を保ち、ふだんどおりの生活を続けられるようにする治療が進歩しています。治療は「薬による治療」と「生活の工夫」を組み合わせて行い、症状の強さや炎症の場所に合わせて、主治医と相談しながら内容を調整していきます。
自宅でのセルフケア
- 決められた薬は、症状が落ち着いているときも自己判断でやめずに続ける
- たばこを吸う人は禁煙する(特にクローン病では大切です)
- 症状や便の回数、食事を簡単に記録して、受診のときに伝える
- 睡眠をしっかりとり、無理な働き方や生活リズムの乱れを避ける
- ストレスをためこまず、リラックスできる時間をつくる
- 体調が悪いときは無理をせず、早めに医療機関に連絡する
- 市販薬やサプリメントを使う前に、必ず主治医か薬剤師に相談する
医療治療
治療の中心は、腸の炎症をしずめる薬です。炎症を抑える基本の薬、強い炎症を短期間で抑える薬、免疫の働きを調整する薬、炎症を起こす物質の働きをブロックする注射や点滴の薬、飲み薬の種類などがあります。症状や病気のタイプによって使い分け、よくなったあとも再燃を防ぐために続けることが多いです。このほか、腸を休ませるために栄養剤を中心にした食事療法や、血液中の成分を調整する治療、必要に応じて抗菌薬を使うこともあります。薬の名前や量は人によって違うため、ここでは具体的な薬名は挙げません。主治医から説明を受けた内容を守ってください。
手術が検討される場合
薬だけでは炎症や症状を抑えきれないとき、腸が狭くなって食べ物が通らない(狭窄)、腸に穴が開く(穿孔)、膿がたまる、腸と腸や皮膚の間にトンネルができる(瘻孔)、出血が止まらない、といった場合には手術を考えることがあります。長く潰瘍性大腸炎が続く場合には、大腸がんのリスクを考えて手術を選ぶこともあります。手術をしても病気そのものが完全になくなるわけではありませんが、手術によって症状がとても軽くなり、生活の質が大きく上がる方もたくさんいます。手術が必要かどうかは、主治医とよく相談して決めてください。
この病気と共に生きる
この病気とは長く付き合っていくことになりますが、治療を続けながら学校や仕事、旅行などふだんの生活を楽しんでいる人は大勢います。外出先ではトイレの場所を先に確認しておく、着替えやおむつ用の用品をかばんに入れておく、といった準備をしておくと安心です。必要なときに周りの人に病気のことを伝えておくと、理解を得やすくなります。調子のよい日と悪い日の波があることを、自分でも受けとめておくと気持ちが楽になります。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい生活と十分な睡眠を心がける
- 食事は少しずつよくかんで、無理に量を増やさない
- 症状が強いときは、脂っこいもの・刺激の強いもの・アルコールを控えめにする
- 下痢がひどいときは水分をこまめにとり、脱水を防ぐ
- 禁煙する
- 適度な運動を無理のない範囲で続ける
- ストレスを一人で抱えず、話せる相手や相談先を持つ
食事と運動
食事は「これを食べれば必ずよい」という決まったものはなく、合う・合わないは人によって違います。ふだんの食事を記録して、自分が調子を崩しやすい食べ物を見つけると役立ちます。症状が強い時期は、腸にやさしい消化のよいものを少量ずつとり、よくかんで食べましょう。栄養が偏りやすいので、心配なときは管理栄養士に相談するのもおすすめです。運動は、散歩や軽いストレッチなど続けやすいものを選び、体調のよい日に無理のない範囲で行いましょう。
精神的健康と心の健康
下痢や腹痛が続くと、外出や人づきあいを控えてしまいがちで、不安や落ち込み、イライラを感じることはよくあります。トイレのことを気にするあまり緊張してしまう、将来のことを心配になる、といった気持ちは自然なものです。つらい気持ちが長く続くときは、一人で抱えずに主治医に話してみてください。必要に応じて、心の専門家につないでもらえます。命に関わるほど追い詰められていると感じたときは、ためらわずに救急(119番)や地域の相談窓口を頼ってください。
予防
この病気を確実に防ぐ方法は、今のところ分かっていません。ただし、禁煙は特にクローン病で発症や悪化のリスクを下げる助けになります。バランスのよい食事、十分な睡眠、ストレスをためない生活は、腸の調子を保つうえで役立ちます。すでに診断を受けている人は、治療を続けて炎症を抑えておくことが、再燃を防ぐ一番の方法です。
ワクチン
免疫の働きを調整する治療を受けると、感染症にかかりやすくなることがあります。治療を始める前に、受けられるワクチンを確認しておくことが大切です。生ワクチンは治療中に接種できないことがあるため、必ず主治医に相談してください。インフルエンザや肺炎などのワクチンについても、かかりつけ医と相談しておきましょう。
検診プログラム
長く潰瘍性大腸炎が続く場合、大腸がんのリスクが少し高くなると言われており、定期的に大腸カメラで調べる「サーベイランス」が勧められます。いつから、どのくらいの間隔で受けるかは、病気の範囲や期間によって変わるので主治医に確認してください。家族に大腸がんや炎症性腸疾患の人がいる場合は、そのことも診察のときに伝えましょう。
合併症
治療しない場合
- 腸が狭くなって食べ物が通りにくくなる(狭窄)
- 腸に穴が開く(穿孔)、おなかの中に膿がたまる(膿瘍)
- 腸と腸、腸と皮膚の間にトンネルができる(瘻孔)
- 出血が続いて貧血が進む
- 栄養が吸収しにくくなり、体重減少や成長の遅れが起きる
- 関節の痛み、皮膚の症状、目の炎症など、腸の外にも症状が出る
- 長期の潰瘍性大腸炎では大腸がんのリスクが高まる
長期的な見通し
クローン病も潰瘍性大腸炎も、今は治療の選択肢が増え、炎症を抑えて症状のない状態を長く保てる人が多くなっています。うまく付き合いながら、仕事や学校、趣味、家族との時間を大切にしている方はたくさんいます。調子を崩す時期があっても、それは治療を調整するサインです。あきらめずに主治医と相談を続けることが、よい状態を保つ近道です。
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最終更新: 2026年10月22日
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