原因がはっきりしない脳梗塞(潜因性脳卒中)
概要
潜因性脳卒中(せんいんせいのうそっちゅう)は、脳梗塞(のうこうそく)の一種です。脳梗塞とは、脳に血液を送る血管が詰まってしまい、その先の脳の細胞に酸素や栄養が届かなくなる状態をいいます。ふつうの脳梗塞では、検査を進めるうちに「心房細動(しんぼうさいどう=心臓の脈が不規則になる不整脈)」「頸動脈の狭窄(けいどうみゃくのきょうさく=首の血管が狭くなること)」など、原因が見つかります。ところが、いろいろな検査をしても原因が特定できないことがあり、そのような脳梗塞を「潜因性(せんいんせい)脳卒中」と呼びます。「原因がない」という意味ではなく、「今の検査では原因が見つかっていない」という意味です。
重要な事実
- 潜因性脳卒中は「原因がまったくない」のではなく、「今の検査では原因が見つかっていない」という状態です。検査が進むと原因が分かることもあります。
- 症状は他の脳梗塞と同じで、片側の手足の麻痺、顔のゆがみ、言葉が出にくい、視野が欠けるなどが突然起こります。症状が出たらすぐに119番へ連絡してください。
- 一度よくなったように見えても再発の危険があるため、原因を調べながら再発予防を続けることが大切です。
脳梗塞のうち、原因がはっきりしないものは少なくないといわれています。報告によって幅がありますが、おおよそ10〜20%程度という数字が示されることがあります。最近は検査が進歩したことで、以前は「原因不明」とされていた方の原因が見つかることも増えてきました。
年齢を問わず起こりますが、比較的若い世代(60歳以下)の脳梗塞では原因が見つかりにくいことがあります。高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールなどの異常)、喫煙、睡眠時無呼吸、片頭痛(特に前兆のあるもの)などがある方は注意が必要です。ただし、これといった持病がない方にも起こります。
症状
- 顔の片側が下がる、笑顔を作ると左右差がある
- 両腕を前に上げると片方だけ下がってしまう、片側の手足に力が入らない
- ろれつが回らない、言葉が出ない、言っていることが理解できない
- 突然の激しい頭痛、意識がない、けいれんがある
- 突然、片方の目が見えない、物が二重に見える
- 这些症状がひとつでもあれば、ためらわずに119番へ連絡してください
- ⚠片側の手足のしびれや力の入りにくさが数分〜数時間で消えた(一過性脳虚血発作の可能性があります)
- ⚠一時的に言葉が出にくくなったが、すぐ戻った
- ⚠急なめまい、ふらつきが続いている
- ⚠急に視野の一部が欠けた、または見えにくくなった
- ⚠これらの症状は「良くなったから大丈夫」と様子を見ず、その日のうちに医療機関を受診してください
一般的な症状
- 片側の手足に力が入らない、しびれる(右だけ、左だけなど)
- 顔の片側が下がる、口元がゆがむ
- ろれつが回らない、言葉が出てこない、相手の言葉が理解しにくい
- 片方の目が見えにくい、視野の半分が欠ける
- 急なめまい、ふらつき、歩きにくさ
- 突然の激しい頭痛
- 物が持ちにくい、ボタンが留めにくいなどの細かい手の動きの低下
子供の症状
- 小児ではまれですが、赤ちゃんや子どもにも起こることがあります
- ぐったりしている、元気がない、哺乳(母乳やミルク)の量が減る
- 片方の手足だけ動かさない、体の向きがいつも同じ
- けいれん、意識がぼんやりする
- 言葉がまだ出ない年齢では、保護者の方が「いつもと違う」と気づくことが大切です
高齢者の症状
- 「年のせい」「疲れのせい」と思い込みやすい
- 急な転倒、歩行のふらつき、足が上がりにくい
- 急に物忘れが増えた、会話がかみ合わない
- 食欲低下、元気がない、ぼんやりしている
- 持病の薬の飲み忘れや、なんとなく調子が悪いといった分かりにくい形で現れることがある
原因
主な原因
- 心臓の中でできた小さな血栓(血のかたまり)が脳に流れ込んでいるが、検査では不整脈などのはっきりした原因が見つからない
- 心房細動(しんぼうさいどう)が時々しか起きず、短時間の検査では捉えられない
- 首の血管(頸動脈)や大動脈の内側に動脈硬化による変化があり、そこから血栓が飛ぶ
- 卵円孔開存(らんえんこうかいぞん=生まれつき心臓の一部に小さな穴が残っている状態)
- 血液が固まりやすい体質(凝固異常)
- 血管の炎症(血管炎)や、ごく小さな血管の病気
- 片頭痛(特に前兆のあるもの)との関連が指摘されている
- これらのどれにも当てはまらず、現時点では原因を特定できない
リスク要因
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪の異常)
- 喫煙、過度の飲酒
- 肥満、運動不足、塩分の多い食事
- 睡眠時無呼吸症候群(いびきがひどい、日中の眠気が強い)
- 心房細動などの不整脈、心臓の病気の既往
- 片頭痛(前兆のあるもの)
- 脱水、長時間同じ姿勢でいること(長時間のフライトや車の運転など)
- 加齢、家族に脳卒中の人がいる、過去の脳卒中・一過性脳虚血発作の経験
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 顔のゆがみ、片側の手足の麻痺、言葉の出にくさなどが突然現れた(119番へ)
- 症状が数分で消えても、脳卒中の前ぶれの可能性があるため、すぐ受診する
- 急な激しい頭痛、意識の変化、けいれん
- 急な視力・視野の異常
定期受診を予約すべき場合:
- 健康診断で血圧・血糖・コレステロールを指摘されている
- 動悸(どうき)や脈の乱れを感じることがある
- 家族に脳卒中や心臓病の人がいる
- 片頭痛があり、前兆(閃光が見えるなど)を伴うことがある
- 以前に「原因不明の脳梗塞」と言われたことがある
診断
まず問診と診察で、いつ、どんな症状が、どのくらい続いたかを確認します。次に、脳の画像検査で脳梗塞があるかどうかと、その場所・大きさを調べます。さらに、原因を探すために心臓や血管の検査を組み合わせます。こうした検査を一通り行っても原因がはっきりしないときに「潜因性脳卒中」と考えられます。原因を探す検査は、外来通院で少しずつ進めることが多いです。
行われる可能性のある検査
- 頭部MRI・頭部CT(脳の画像検査)
- 頸動脈エコー(首の血管の超音波検査)
- 心電図、Holter心電図(24時間など長時間心電図を装着して脈の乱れを調べる)
- 心エコー(心臓の超音波検査)、場合によっては経食道心エコー
- 長時間心電図モニター(皮下に小さな記録装置を入れて数週間〜数か月記録する方法など)
- 血液検査(血糖、コレステロール、血液が固まりやすい傾向がないかなど)
- 必要に応じて脳の血管の詳しい画像検査
診察で予想されること
検査の数が多く、結果が出るまで時間がかかることがあります。「原因が分からないまま」と感じて不安になる方も少なくありません。検査を進めるうちに原因が見つかることもあるため、主治医と相談しながら根気よく進めることが大切です。分からないことは遠慮なく質問してください。
治療
潜因性脳卒中の治療の中心は「再発を防ぐこと」です。原因が見つかれば、その原因に合わせた治療に切り替えます。原因がはっきりしない間は、脳梗塞の再発を防ぐための一般的な治療を続けながら、検査を続けることが多いです。治療の方針は、年齢や持病、出血のリスクなどによって一人ひとり異なります。
自宅でのセルフケア
- 処方された薬は、自己判断でやめたり量を変えたりせず、決められたとおりに続ける
- 家庭で血圧を測り、記録する
- 禁煙する。飲酒は量と頻度を控えめにする
- 水分をこまめにとる(脱水は血栓のリスクになります)
- 長時間同じ姿勢を避け、ときどき足を動かす
- 睡眠を十分にとり、いびきや日中の眠気があれば相談する
- 気になった症状は日時とともにメモしておき、診察時に伝える
医療治療
治療は大きく分けて、(1) 血液を固まりにくくして血栓ができないようにする治療、(2) 血圧・血糖・コレステロールなどを整える治療、(3) リハビリテーション があります。心臓の脈の乱れ(心房細動など)が見つかった場合は、それに合わせた治療に切り替わることがあります。薬にはいくつかの種類があり、脳梗塞を防ぐ効果と出血しやすくなるリスクのバランスを考えて選ばれます。具体的な薬の種類や量については、必ず主治医・薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
首の血管(頸動脈)の狭くなり方が強い場合や、生まれつき心臓に小さな穴が残っている卵円孔開存が原因と考えられる若い方などでは、手術やカテーテルによる治療が検討されることがあります。適応があるかどうかは、専門医との相談が必要です。
この病気と共に生きる
退院後は、服薬を続けること、血圧を記録すること、体調の変化に気づくことが日常生活の中心になります。麻痺や言葉の不自由が残った場合は、リハビリテーションを続けることで少しずつできることが増えていくことがあります。運転や仕事復帰については、主治医と相談しながら段階的に進めましょう。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい生活リズムを保つ
- 禁煙し、受動喫煙も避ける
- 塩分を控えめにし、野菜・果物・魚を意識してとる
- 適度な運動(ウォーキングなど)を無理のない範囲で続ける
- ストレスをためこまず、休息の時間をとる
- 定期的な通院と健康診断を欠かさない
- 家族や周囲の人に、自分の症状や助けてほしいことを伝えておく
食事と運動
食事は、塩分を控えめにして、野菜・海藻・魚・大豆製品をバランスよくとる和食スタイルが勧められます。揚げ物や加工食品は控えめにしましょう。運動は、主治医に確認したうえで、息が少し弾む程度のウォーキングを毎日の習慣にするのがおすすめです。無理をして強度を上げる必要はありません。脱水を防ぐために、運動の前後には水分をとりましょう。
精神的健康と心の健康
脳卒中を経験した方の多くが、再発への不安、気分の落ち込み、眠りにくさ、集中しづらさを感じます。これは珍しいことではなく、心の反応として自然なものです。つらい気持ちが長く続くときは、一人で抱え込まず、主治医や地域の保健・福祉の相談窓口、専門の相談先に話してみてください。もし「消えてしまいたい」と考えたり、自分や大切な人を傷つける考えが浮かんだりしたときは、すぐに119番、またはお住まいの地域の緊急相談窓口に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを下げることはできます。血圧を適切に保つこと、禁煙、節酒、バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠が基本です。また、脈の乱れ(心房細動)を早期に見つけることも大切で、家庭での血圧計や脈のチェックが役立ちます。
ワクチン
特定のワクチンが潜因性脳卒中を直接防ぐわけではありませんが、感染症は体の負担を増やし、脳卒中や心臓病のリスクと関わることがあります。年齢や持病に応じたワクチンについては、かかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
日本では健康診断や特定健診で血圧・血糖・コレステロール・心電図などを調べられます。動悸や脈の乱れが気になる場合は、診察時に伝えて心電図を確認してもらいましょう。家族に脳卒中が多い方は、早めに医療機関に相談すると安心です。
合併症
治療しない場合
- 再発のリスクが高まる(一度目より重症になることもある)
- 手足の麻痺、言葉の不自由、飲み込みにくさなどの後遺症が残る
- 認知機能の低下、集中力や記憶の変化
- てんかん発作、うつ状態、睡眠の乱れ
- 転倒やけがのリスクの増加
長期的な見通し
潜因性脳卒中と診断された方の多くは、適切な再発予防とリハビリテーションによって、日常生活を取り戻しています。原因が分からないことで不安が続きやすい病気ですが、検査を続けるうちに原因が見つかることもあり、治療の選択肢は増えています。あせらず、主治医と一緒に一歩ずつ進めていくことが大切です。
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最終更新: 2026年10月22日
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