クッシング症候群:見つけにくい「変装の名人」
概要
クッシング症候群(クッシングしょうこうぐん)は、体の中で「コルチゾール」というホルモンが出すぎたまま、長い間続いてしまう状態です。コルチゾールは副腎(ふくじん:腎臓の上にちょこんとのっている、小さなホルモン工場)から出るホルモンで、ストレスに立ち向かう力や、血圧・血糖を保つ働きをしています。ところが多すぎると、顔が丸くなる、体の中心だけ太る、肌が弱くなる、血圧や血糖が上がる、骨がもろくなる、気分が落ち込むなど、体のあちこちに少しずつ変化が現れます。その変化はゆっくりで、よくある別の病気と見分けがつきにくいため、「変装の名人」と呼ばれます。
重要な事実
- 原因の多くは、のんだり塗ったり注射したりする「ステロイド薬」の長期使用です。次に多いのは、副腎や下垂体(はいが下垂体:脳の下にある、ホルモンの指令を出す小さな器官)にできる腫瘍(できもの)です。
- 症状はゆっくり進み、体重増加・高血圧・糖尿病・うつなど、よくある病気と似ているため、診断までに時間がかかることが少なくありません。
- 治療の中心は「コルチゾールが多すぎる原因を取り除くこと」です。手術や、ホルモンの働きを抑える治療などが行われ、多くのかたは時間をかけて改善していきます。
- 日本では「指定難病」に位置づけられており、条件を満たすと医療費の助成を受けられる制度があります。
とても多い病気ではありません。まれな病気で、新しく診断される人は年間で人口100万人あたり数人程度といわれています。ただし、実際には見逃されている例もあると考えられています。
女性に多く、20〜40代で見つかることが多い病気です。子どもや高齢者にも起こります。高齢者では「高血圧や糖尿病が急に悪くなった」「骨が折れやすくなった」という形で見つかることもあります。
症状
- 急に激しいだるさ・吐き気・おなかの痛み・下痢が起こり、ぐったりして立てない(副腎クリーゼ:ホルモンが急に足りなくなる危険な状態の可能性)
- 意識がもうろうとしている、返事がおかしい、呼びかけに反応しにくい
- けいれんが起きた
- 息が苦しい、胸が強く痛む、冷や汗が出る
- 血圧が大きく下がったように感じる、顔色が真っ白でぐったりしている
- ⚠血糖値が非常に高いと言われた、のどがひどく渇いて水をがぶ飲みする
- ⚠血圧が急に高くなり、頭痛や目の痛みがある
- ⚠発熱が続く、傷や感染がどんどん悪くなっている
- ⚠骨折したかもしれない強い痛みがある
- ⚠気分の落ち込みが強く、自分を傷つけたい気持ちがわいてくる
一般的な症状
- 体重が増える。とくに顔・首・おなかの中央がふくらみ、手足は細いままに見える
- 顔が丸くなる(満月のような顔)、顔が赤らむ
- おなかや太もも、胸に、赤紫色の幅の広い線(皮膚線条:ひふせんじょう)ができる
- あざができやすい、少しぶつけただけで内出血する、傷が治りにくい
- 太ももや肩の筋肉が落ちて、階段の上り下りがいやにきつい、立ち上がりにくい
- 血圧が高い、血糖値が高い(糖尿病を指摘される)
- 骨がもろくなり、背中や腰が痛む、ちょっとしたことで骨折する
- 月経が不順になる、または止まる。にきびや体毛が増える
- 気分が落ち込む、不安が強い、眠れない、物忘れや集中しづらさがある
- 疲れやすい、風邪などの感染症にかかりやすい、治りにくい
- のどが渇く、トイレが近くなる、トイレの回数が増える
子供の症状
- 身長があまり伸びなくなる(成長のスピードが落ちる)
- 体重が増える、顔が丸くなる
- 思春期が早く来る、または遅れる
- 学校での集中力や成績の変化、気分の波
- 皮膚が薄くなったように見える、毛が増える
高齢者の症状
- もともとの高血圧や糖尿病が急にコントロールしにくくなる
- 骨粗鬆症(こつそしょうしょう:骨がスカスカになる状態)が進み、骨折しやすくなる
- 筋力が落ちて、歩くのが遅くなる、立ち上がりにくい
- 気分の落ち込みや不安、もの忘れが目立つ
- 感染症にかかりやすく、治りにくい
- むくみや息切れが出てくる
原因
主な原因
- ステロイド薬の長期使用(のみ薬・塗り薬・注射・吸入など)。クッシング症候群でもっとも多い原因です。
- 下垂体(はいが下垂体:脳の下にある小さな器官)にできる腫瘍が、ホルモンの指令を出しすぎる(クッシング病と呼ばれます)
- 副腎(ふくじん)そのものにできる腫瘍が、コルチゾールを作りすぎる
- 肺など、別の場所にできた腫瘍が、副腎を刺激するホルモンを出す(異所性ACTH産生腫瘍)
- ごくまれに、遺伝的な体質が関係することもあります
リスク要因
- ステロイド薬を長期間使っている、または使ったことがある
- 高血圧・糖尿病・骨粗鬆症が、若いうちから、または急に悪くなった
- 同じような症状が家族にもある、遺伝性の病気(複数の臓器に腫瘍ができる体質など)の家系である
- 20〜40代の女性(もっとも多い層です)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急にぐったりして立てない、吐き気や下痢が強い、意識がぼんやりする(すぐ救急要請を)
- 胸の痛み、強い息苦しさ、けいれん
- 自分を傷つけたい気持ちが強い、生きていたくないと感じる
- 急に血糖が非常に高くなった、または血圧が非常に高くなったと言われた
定期受診を予約すべき場合:
- 体重が増え続けている、顔が丸くなった、おなかに赤紫の線が出てきた
- 高血圧や血糖値の高さを指摘されている、薬を増やしても下がりにくい
- 筋力が落ちてきた、階段がつらい、骨折しやすくなった
- 月経が止まった、体毛やにきびが急に増えた
- 気分の落ち込みや不安、不眠が続いている
- ステロイド薬を使っていて、体の変化が気になる
診断
まず問診と診察で、症状の経過や使っている薬(ステロイド薬を含む)を確認します。そのうえで「コルチゾールが本当に多すぎるか」を確かめる検査を行い、次に「どこが原因か」を画像などで探します。一度の検査では判断が難しく、何度か検査を繰り返すことが多い病気です。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(コルチゾールや、指令を出すホルモン(ACTH)の値を調べます)
- 尿を24時間ためて、コルチゾールの量を測る検査
- 夜遅くの唾液、または深夜の血液でコルチゾールを測る検査(夜は本来コルチゾールが下がるため、下がらないと参考になります)
- 抑制試験(よく「デキサメタゾン抑制試験」と呼ばれます。試験用の薬を使って、コルチゾールがちゃんと減るかを見る検査です)
- 下垂体や副腎のCT・MRI検査(腫瘍の有無と場所を調べます)
- 必要に応じて、血管の検査や、腫瘍の種類を調べる検査
- 血圧・血糖・骨密度・電解質(血液中の塩分やカリウム)の確認
診察で予想されること
診断までに数週間から数か月かかることがあります。検査の結果が出るのに時間がかかったり、検査をやり直したりすることも珍しくありません。これは、あなたの訴えが軽いということではなく、この病気が「変装の名人」で見分けにくいからです。多くの場合、内分泌(ないぶんぴつ)内科などの専門医に紹介され、そこで詳しい検査が進みます。
治療
治療の目標は、コルチゾールが多すぎる原因を取り除き、体の状態を少しずつ元に戻していくことです。原因によって治療の方法が変わるため、まず「どこが原因か」をはっきりさせることが大切です。改善には時間がかかりますが、多くのかたが少しずつ良くなっていきます。
自宅でのセルフケア
- 症状や体の変化(体重、血圧、血糖、気分、睡眠)を簡単なメモにつけておく。診察のときに役立ちます
- 処方された薬は、医師の指示どおりに使う。とくにステロイド薬は、自己判断で急にやめたり量を変えたりしない(急にやめると体が危険な状態になることがあります)
- 塩分を控えめにして、血圧を上げすぎないようにする
- 骨がもろくなっていることがあるので、転びにくい環境を整える(夜間の照明、手すり、滑りにくい靴)
- 睡眠をできるだけ確保し、無理のない範囲で体を動かす
- 手洗い・うがいなど、感染症の予防を心がける
- 気分の落ち込みが強いときは、ひとりで抱えず、早めに相談する
医療治療
治療は原因によって組み立てられます。腫瘍が原因の場合は、手術で取り除くことが第一の選択になることが多いです。手術が難しい場合や、手術後もホルモンが高い状態が続く場合には、放射線治療や、コルチゾールを作る働きを抑える薬による治療が検討されます。ステロイド薬が原因の場合は、担当医と相談しながら、病気の治療に必要な量を保ちつつ、少しずつ減らしていく調整を行います。どの治療も、定期的な血液検査などで経過を見ながら進めます。具体的な薬の種類や量は、必ず担当医の指示に従ってください。
手術が検討される場合
下垂体や副腎に腫瘍が見つかった場合、その腫瘍を取り除く手術が検討されます。腫瘍の場所や大きさ、体の状態によって、手術が適切かどうかを専門医が判断します。手術のあとも、ホルモンの状態を確かめるために通院が必要です。
この病気と共に生きる
クッシング症候群は、治療を始めてから体が元に戻るまでに時間がかかります。体重や顔の変化、疲れやすさが続くと、気持ちが落ち込みやすい時期でもあります。今日できたことを小さく数えながら、急がずに進むことが大切です。通院の予定を手帳やスマホで管理し、家族や同僚に病気のことを少し伝えておくと、生活の負担が軽くなります。
生活習慣のアドバイス
- 食事は、塩分ひかえめ・たんぱく質と野菜をバランスよく
- 骨を守るために、転倒しにくい住まいの工夫をする
- 疲れやすいときは、こまめに休む。活動と休息のリズムを作る
- 感染症にかかりやすい時期があるので、人混みや体調不良の人との接触に気をつける
- 飲酒・喫煙は控えめに。血圧や骨への負担を減らします
- 診察のたびに、気になっていることをメモして持っていく
食事と運動
食事は特別な制限食ではなく、ふだんの食事を整えることが基本です。塩分を控え、野菜・たんぱく質・適量の主食をバランスよくとり、急な糖分のとりすぎを避けます。運動は、骨や筋肉の状態に合わせて、ウォーキングなど無理のない範囲から始めます。骨が弱っているときは、転倒や重い負荷のかかる運動を避け、始める前に担当医に相談してください。
精神的健康と心の健康
クッシング症候群では、ホルモンの影響そのものによって、気分の落ち込み・不安・いらいら・不眠が起こることがあります。これは「気持ちの持ちよう」ではなく、体の変化からくる症状です。つらいときは、我慢せずに担当医に伝えてください。気分の落ち込みが強いとき、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ひとりで抱えず、すぐに医療機関や、お住まいの自治体の相談窓口、下記の相談電話につながってください。
予防
腫瘍が原因のクッシング症候群は、今のところ確実に防ぐ方法はわかっていません。一方で、もっとも多い原因であるステロイド薬によるものは、使い方に気をつけることでリスクを下げられます。ステロイド薬は必要があって処方されている薬です。自己判断でやめたり減らしたりせず、気になる変化があれば処方した医師や薬剤師に相談してください。
ワクチン
感染症にかかりやすい状態のときは、インフルエンザや肺炎などのワクチンについて、担当医と相談しておくと安心です。接種の時期や可否は、治療の状況によって変わるため、自己判断せずに医師に確認してください。
検診プログラム
一般のかた向けの決まったスクリーニング検査はありません。ただし、ステロイド薬を長く使っているかた、高血圧・糖尿病・骨粗鬆症が急に悪くなったかたは、定期的に血圧・血糖・骨密度を確認し、気になる症状があれば早めに相談することが大切です。
合併症
治療しない場合
- 高血圧が続き、心臓や血管の病気のリスクが高まる
- 糖尿病や、血糖値の高い状態が続く
- 骨がもろくなり、骨折しやすくなる
- 感染症にかかりやすく、重症化しやすくなる
- 脚の血管に血のかたまり(血栓)ができやすくなる
- 気分の落ち込みや不安、不眠が長引く
- 筋力が落ちて、日常生活の動作がつらくなる
- 妊娠を考えている場合、妊娠に影響することがある
長期的な見通し
クッシング症候群は、原因を取り除く治療によって、多くの場合ゆっくりと改善していきます。体重や顔の変化、血圧、血糖、骨の状態は、時間をかけて戻っていくものが多いです。改善のスピードには個人差があり、治療後も定期的な通院で経過を見ていく必要があります。再発することもあるため長く付き合う病気ですが、専門医と一緒に一歩ずつ進んでいける病気です。
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最終更新: 2026年10月22日
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