憩室炎(けいしつえん)から身を守る
概要
大腸の壁は、ときどき小さな風船のようなふくらみを作ることがあります。このふくらみを「憩室(けいしつ)」といいます。憩室そのものは珍しいものではなく、あっても特に症状がないことがほとんどです。ところが、この小さなふくらみの中に便が詰まり、そこに細菌が増えて炎症を起こした状態が「憩室炎(けいしつえん)」です。おなかの痛みや発熱などが主なサインで、多くは腸を休める治療で良くなります。
重要な事実
- 憩室は大腸の壁にできる小さなふくらみで、それ自体は病気というより「体の特徴」のようなものです。
- 憩室に便が詰まって炎症を起こした状態が憩室炎で、おなかの痛みや発熱が主なサインです。
- 多くは軽症で、腸を休める治療や生活の見直しで数日から数週間で良くなります。
憩室は欧米でとても多く、日本でも食生活の変化にともなって増えてきたと考えられています。年齢を重ねるほど見つかりやすく、50歳以上の人では珍しくない状態です。ただし、憩室がある人のすべてが憩室炎になるわけではなく、炎症を起こすのは一部の人だけです。
主に中高年以降の人に多く見られます。食物繊維が少なく脂肪の多い食事、便秘ぎみ、肥満、運動不足、喫煙などがある人は、リスクがやや高くなるとされています。若い人や子どもにも起こることはありますが、まれです。
症状
- 激しいおなかの痛みで動けない、体を丸めても楽にならない
- おなか全体が硬くなり、触ると非常に痛む(腹膜炎の可能性)
- 高熱とともに意識がもうろうとする、会話がかみ合わない
- 大量の下血(黒い便・血の混じった便)や吐血がある
- 冷や汗、顔面蒼白、脈が速い、ぐったりして反応が弱いなどショックのサインがある
- ⚠38度以上の発熱が続く、または急に高くなる
- ⚠痛みがどんどん強くなっている、痛む範囲が広がっている
- ⚠嘔吐が続いて水分が取れない、尿が出ない
- ⚠おなかが張って便もガスも出ない状態が続く
一般的な症状
- おなかの左下(または右下)が痛む、押すと痛む
- 発熱(多くは37〜38度台)や寒気
- おなかの張り、ガスが出にくい感じ
- 吐き気や食欲がない
- 便秘や下痢など便通の変化
- だるさ、体が重い感じ
子供の症状
- おなかの痛みと発熱が主なサインで、痛む場所をうまく伝えられないことがあります
- 吐き気や食欲低下、元気がない、不機嫌になる
- 子どもの場合はまれですが、激しく泣き続けたり痛みが強いときは早めに受診してください
高齢者の症状
- 高齢の方は痛みや発熱がはっきり出にくく、食欲がない・元気がないだけで済むことがあります
- 症状が軽く見えても炎症が進んでいることがあるため、いつもと違う様子に気づいたら早めに相談を
- 水分が取れない、ぼんやりする、尿が少ないときは急いで受診してください
原因
主な原因
- 憩室の中に便が詰まり、そこで細菌が増えて炎症を起こす
- 憩室の壁が薄いため、ちょっとした刺激で炎症が広がりやすい
- 腸の中の圧が高くなり、憩室に負担がかかる(便秘やいきみすぎなど)
リスク要因
- 年齢(中高年以降は憩室ができやすくなる)
- 食物繊維が少なく、脂肪の多い食事が続く
- 慢性的な便秘、排便のときの強いきばり
- 肥満、運動不足、喫煙
- 痛み止めの一部(消炎鎮痛薬)を長く使っている
- 家族に憩室炎になった人がいる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- おなかの強い痛みと38度以上の発熱が同時にある
- 痛みがどんどん強くなる、歩くのもつらい
- 何度も嘔吐して水分がとれない
- 便に血が混じる、黒い便が出た
- 高齢の方や小さな子どもで、元気がない・食欲がない状態が続く
定期受診を予約すべき場合:
- 同じ場所のおなかの痛みを何度も繰り返す
- 便秘や下痢、おなかの張りが2週間以上続く
- 食事のあと決まっておなかが痛くなる
- 以前に憩室があると言われ、最近おなかの調子がよくない
診断
まず問診とおなかの診察で、痛む場所や経過を確認します。そのうえで血液検査や尿検査を行い、炎症の程度や他の病気との区別をします。確定には腹部の超音波検査やCT検査が役立ちます。大腸カメラ(内視鏡)は、炎症が落ち着いてから行うのが一般的です。
行われる可能性のある検査
- 問診と腹部の診察(押したときの痛み、おなかの硬さなど)
- 血液検査(炎症の程度や貧血の有無をみる)
- 尿検査(尿路の病気との区別のため)
- 腹部超音波検査(体の外から超音波で観察)
- 腹部CT検査(炎症の広がりや膿の有無を詳しく確認)
- 大腸内視鏡検査(炎症が治まってから、他の病気がないか確認)
診察で予想されること
検査は外来で受けられるものがほとんどです。超音波検査は10〜20分ほど、CT検査は数分で終わります。結果はその日のうちに、または数日以内に説明されることが多いです。痛みが強いときは、検査の前に痛みを和らげる処置が行われることもあります。
治療
憩室炎の治療の中心は「腸を休めること」と「炎症を落ち着かせること」です。軽症なら自宅で食事を控えめにしながら安静にし、通院で経過を見ます。痛みや発熱が強い場合、水分がとれない場合、高齢の方や持病がある場合は、入院して点滴やお薬で治療することがあります。
自宅でのセルフケア
- 痛みや発熱が強いあいだは、消化に負担をかけない食事にして腸を休める
- 水分を少しずつこまめにとる(お茶やスープなど、刺激の少ないもの)
- 無理に食べず、おなかの状態を見ながら少しずつ戻していく
- 安静を心がけ、激しい運動や長時間の外出は控える
- 症状が良くなったと自己判断せず、医師の指示どおりに通院する
医療治療
炎症を抑えるためのお薬(抗菌薬など)や、痛みをやわらげるお薬が使われることがあります。水分がとれないときは点滴で補います。膿がたまっている場合には、体の外から管を入れて膿を抜く処置を行うことがあります。お薬の名前や使い方は、必ず医師・薬剤師の指示に従ってください。
手術が検討される場合
手術が必要になるのは一部の方だけです。膿が大きくたまった場合、腸に穴が開いて腹膜炎を起こした場合、腸が狭くなって詰まりを繰り返す場合、炎症を何度も繰り返して生活に大きな支障が出る場合などに検討されます。手術が望ましいかどうかは、症状や全身の状態をふまえて医師とよく相談して決めます。
この病気と共に生きる
回復したあとは、毎日の食事と排便のリズムを整えることが大切です。食物繊維を少しずつ増やし、水分をこまめにとり、朝食後にゆっくりトイレの時間をとる習慣をつけると、便秘による負担を減らせます。おなかに違和感がある日は無理をせず、早めに休むようにしましょう。
生活習慣のアドバイス
- 食物繊維を毎日の食事に取り入れる(野菜、果物、きのこ、海藻、豆類、全粒穀物)
- 水分をこまめにとる
- 禁煙する、または減らす
- 適正体重を保つ
- 軽い運動を習慣にする(ウォーキングなど)
- 強いきばりを避け、便秘をためない
- 飲酒はほどほどに
食事と運動
食事は、急に大量の食物繊維をとるのではなく、少しずつ増やしていくのがコツです。野菜・果物・海藻・きのこ・豆類・玄米や全粒粉のパンなどを、毎食少しずつ組み合わせましょう。水分は1日を通してこまめに。脂っこい食事や刺激の強いもの、食べ過ぎは控えめにすると安心です。運動は、息がはずむ程度のウォーキングを1日20〜30分、無理のない範囲で続けるのがおすすめです。
精神的健康と心の健康
「また痛くなったらどうしよう」という不安や、食事を選ぶことへの疲れを感じる方は少なくありません。不安は自然な気持ちです。一人で抱え込まず、家族や友人、かかりつけ医に気持ちを話してみてください。眠れない、気分が落ち込み続ける、食事がつらく感じるといった状態が続くときは、医療機関やお住まいの自治体の相談窓口など、専門の相談サービスを利用してください。つらい気持ちが強いときや自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに救急(119番)や医療機関に連絡してください。
予防
憩室炎を100%防ぐ方法はありませんが、日々の生活を整えることでリスクを下げることは十分に可能です。食物繊維をしっかりとり、水分をこまめにとり、便秘をためないこと。適正体重を保ち、禁煙し、軽い運動を続けること。これらは腸にも全身にも良い影響があります。
ワクチン
憩室炎に直接効くワクチンはありません。ただし、感染症にかかると体の負担が大きくなるため、季節のワクチンや持病に関する接種については、かかりつけ医に相談してみてください。
検診プログラム
日本では、大腸がん検診(便潜血検査)が自治体などで行われています。憩室や憩室炎は、検査や別の目的の画像検査のときに見つかることもあります。検診の対象年齢や受け方は、お住まいの自治体の案内を確認するか、かかりつけ医に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 炎症の範囲に膿がたまる(膿瘍)
- 腸に穴が開き、おなかの中に炎症が広がる(腹膜炎)
- 炎症を繰り返すうちに腸が狭くなり、詰まりやすくなる
- 腸と他の臓器の間に細い通り道ができる(瘻孔)
- 腸からの出血が続く
長期的な見通し
多くの方は、適切に腸を休めれば数日から数週間で落ち着き、ふだんどおりの生活に戻れます。再発する方も一定数いますが、食事や生活習慣を見直すことでリスクを下げられます。気になる症状があるときは早めに相談する。その積み重ねが、安心して暮らすことにつながります。
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最終更新: 2026年10月22日
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