認知症と運動・活動 〜毎日の暮らしを元気に保つヒント〜
概要
認知症は、脳の働きが少しずつ変化していくことで、記憶したり、判断したり、段取りを立てたりすることが難しくなっていく状態です。このページでは、認知症のある方が「体を動かすこと」「何かに参加すること」を続けるための考え方と工夫をまとめています。運動や日々の活動は、病気を治すものではありませんが、体力や筋力を保ち、気分を安定させ、昼と夜のリズムを整え、人とのつながりを保つ助けになることが分かってきています。無理に頑張るのではなく、その人に合った形で「続けられること」を見つけるのが大切です。
重要な事実
- 体を動かすことは、認知症のある方の体力・筋力・気分・睡眠のリズムを保つ助けになります。
- 特別な運動でなくても、散歩・家事・買い物・体操・歌など、日常の中の活動で十分です。
- 「できること」を少しずつ続けることが大切で、失敗を責めない関わり方が本人の安心につながります。
- 急な元気のなさや混乱は、病気そのものではなく、発熱・脱水・便秘・痛みなど別の原因が隠れていることがあります。
認知症はとても身近な病気です。国の推計では、65歳以上の人のおよそ7人に1人が認知症とされ、さらにその先の段階(軽度認知障害)の人も含めると、多くの家庭が何らかの形で関わっています。運動や活動の支援は、今や特別なことではなく、暮らしの中の当たり前のケアになりつつあります。
主に高齢の方に多い病気ですが、65歳未満で発症する「若年性認知症」もあります。現役世代で発症した場合は、仕事や家庭の役割、子育てとの両立など、まったく違う悩みが生まれます。年齢や立場に関わらず、その人らしい活動をどう続けるかを一緒に考えることが大切です。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけに反応が乏しい
- 転倒して頭を打ったあと、吐き気・強い頭痛・ろれつの回りにくさがある
- 急に息苦しい、胸の痛みがある、顔や手足の麻痺がある
- けいれんを起こした、または止まらない
- ⚠発熱があり、いつもより強く混乱している
- ⚠水分をとれず、尿の量が極端に少ない、口の中が乾いている(脱水のサイン)
- ⚠数日排便がなく、お腹が張って苦しそう(便秘による不調)
- ⚠いつもと違う急な落ち着きのなさや興奮が続き、自宅での対応が難しい
- ⚠痛みをうまく言葉で伝えられず、急に動けなくなった
一般的な症状
- 以前はできていた身支度や片付けに、時間がかかるようになる
- 歩く機会が減り、一日の多くを座って過ごすようになる
- 楽しみだった趣味や外出を「面倒だ」と言うことが増える
- 昼寝が増え、夜に眠れない・落ち着かない(昼夜逆転)
- 些細なことで怒りっぽくなる、不安が強くなる、こだわりが強くなる
- 食事や水分をとる量が減る、体重が減る
- 部屋が散らかっても気にならなくなる、身だしなみへの関心が薄れる
高齢者の症状
- 加齢による物忘れとの区別がつきにくく、本人も家族も「年のせい」と見過ごしやすい
- 活動量が落ちると、筋力低下や転びやすさが進みやすくなる
- 新しい環境や入院をきっかけに、急に混乱が強まることがある(せん妄)
- 痛み・難聴・目の見えにくさ・便秘など、活動を妨げる別の体の問題が隠れていることがある
原因
主な原因
- 認知症そのものの原因は複数あり、アルツハイマー型・血管性・レビー小体型など、タイプによって特徴が異なる
- 活動量が落ちる原因は、痛み・関節の不調・難聴・視力低下など体の不自由さが関係することが多い
- うつや不安、気力の低下が「何もしたくない」状態として表れることがある
- 引っ越しや入院、家族の入れ替わりなど、環境の変化が活動を減らすきっかけになる
- 薬の影響や体の病気(貧血・甲状腺の異常など)で、活動性が落ちることがある
リスク要因
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病
- 喫煙、過度の飲酒
- 難聴を放置すること(聞こえにくいと会話や外出が減りやすい)
- 運動不足、社会的なつながりの少なさ
- うつ状態、強いストレス、睡眠の乱れ
- 頭部へのけがの経験、家族歴
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に混乱が強くなった、または数日で状態が大きく変わった
- 転倒を繰り返す、歩けなくなった
- 食事や水分がとれず、元気がない日が続く
- 強い不安や落ち込み、眠れない状態が続いている
- 介護する家族が疲れきっている、支えきれないと感じている
定期受診を予約すべき場合:
- 「最近、外に出たがらない」「歩くのが遅くなった」と気になるとき
- 運動や活動を始めたいが、何から手をつければよいか分からないとき
- 物忘れが気になり始めた、家族が変化に気づいたとき
- デイサービスや通所の利用を考え始めたとき
- 難聴・視力・痛みなど、活動を妨げる体の不調があるとき
診断
認知症かどうか、そして活動量が落ちている理由は、いくつかの情報を合わせて判断します。本人への問診だけでは足りないことが多いため、家族など普段の様子を知る人からの話がとても重要になります。医師は、記憶や判断力の検査、体の診察、血液検査、必要に応じて脳の画像検査を行い、同時に「活動を妨げている別の原因」(痛み、難聴、うつ、薬の影響など)がないかを確認します。
行われる可能性のある検査
- 問診と生活歴の聞き取り(いつから、どのような変化があったか)
- 家族や介護者からの状況の聞き取り
- 認知機能をみる簡単な検査(言葉や図形を使ったテスト)
- 血液検査(貧血・甲状腺・ビタミン不足など、別の原因を探す)
- 脳の画像検査(CT・MRIなど。必要に応じて)
- 歩行やバランス、筋力などの体力面の確認
診察で予想されること
診察は一度で終わらないことが多く、時間をかけて様子をみていく形になります。検査の結果は「できた・できない」を決めるためではなく、どんな支援が合うかを考えるための材料です。家族も同席して、普段の生活や困りごとをメモしておくと話がしやすくなります。
治療
認知症の治療は、大きく分けて「暮らしを支える工夫」と「医療による支援」の2本柱です。運動や活動は前者の中心で、日中の活動量を保つことが、夜の睡眠や気分の安定、体力の維持につながります。あわせて、生活習慣病の管理や聞こえのケアなど、体全体の健康を整えることが行われます。
自宅でのセルフケア
- 朝にカーテンを開けて日光を浴び、昼間に活動し、夜は暗く静かにする
- 1日10〜20分の散歩など、無理のない範囲で体を動かす習慣をつくる
- 椅子からの立ち座り、かかとの上げ下げなど、家の中でできる運動を取り入れる
- 歌・手芸・園芸・料理など、本人が楽しめる活動を選ぶ
- 昔の写真や音楽を使って会話を楽しむ(回想法と呼ばれる方法)
- 水分と食事をこまめにとり、便秘を防ぐ
- できたことを具体的にほめる、失敗しても話題を変えて自然に支える
- 活動の時間帯を毎日同じにして、生活のリズムを整える
医療治療
医療の側面では、かかりつけ医や専門の医療機関と相談しながら、症状の進行に合わせた薬による治療が行われることがあります。薬の種類や量は医師が一人ひとりの状態に合わせて判断するもので、この記事では具体的な薬の名前はお伝えしません。あわせて、運動や活動を続けるためのリハビリテーション、通所サービス(デイサービス)などの介護保険サービス、生活習慣病の治療、聞こえにくさへの対応などが組み合わされます。薬はあくまで支援の一部であり、日々の活動や人とのつながりと合わせて考えることが大切です。
手術が検討される場合
認知症そのものを手術で治す治療はありません。ただし、別の病気(例:水頭症や脳の血管の病気など)が原因として見つかった場合には、医師から手術を含む選択肢が話されることがあります。気になる場合は遠慮なく主治医に質問してください。
この病気と共に生きる
毎日の暮らしでは「特別な運動の時間」を作るよりも、生活の中に体を動かす場面を散りばめる方が続きやすくなります。買い物の荷物を運ぶ、洗濯物をたたむ、食器を下げる、ごみを出す——どれも立派な活動です。時間に余裕をもち、手順を紙に書いて貼る、声をかけながら一緒に行うなどの工夫で「できた」経験を増やしていきましょう。体調や気分がすぐれない日は休んでよい、という前提で計画するのがコツです。
生活習慣のアドバイス
- 起床・食事・活動・就寝の時間をできるだけ一定にする
- 昼寝は短めにして、日中は明るい場所で過ごす
- 散歩は同じ道順で、安全なコースを選ぶ。必要なら付き添う
- 転倒予防のため、家の中の段差や物の置き方を整える
- 補聴器や眼鏡をきちんと使えるよう、定期的に調整する
- 本人が参加できる地域の集まり(認知症カフェなど)を探してみる
- 介護する家族も、休む時間と相談できる相手を持つ
食事と運動
食事は、主食・たんぱく質(肉・魚・卵・大豆製品)・野菜をバランスよくとり、水分をこまめにとることが基本です。塩分をとりすぎない、よくかんで食べることも大切で、口腔ケアは誤嚥(食べ物が気管に入ること)の予防にもつながります。運動は、有酸素運動(散歩など)と、軽い筋力運動(立ち座り・かかと上げ)を組み合わせると効果的です。1回にまとめて行う必要はなく、5分ずつこまめに行っても構いません。痛みやめまい、息苦しさがあるときは中止し、かかりつけ医に相談してください。
精神的健康と心の健康
活動が減ると、本人は「できなくなった」という喪失感や不安を抱えやすくなります。一方で、介護する家族も、疲れ・孤立感・罪悪感を抱え込むことが少なくありません。どちらも自然な気持ちです。認知症のある方も家族も、うつ状態になることがあるため、「眠れない」「食欲がない」「何も楽しめない」といった変化が続くときは、かかりつけ医や相談窓口に早めに話してください。ひとりで抱え込まず、支援を求めることは弱さではなく、続けていくための知恵です。
予防
認知症を完全に防ぐ方法はまだ分かっていません。ただし、運動習慣・バランスのよい食事・生活習慣病の管理・禁煙・難聴への対応・社会とのつながりを保つことは、リスクを下げる可能性があると報告されています。これは認知症のある方にも当てはまり、進行をゆるやかにし、生活の質を保つ助けになると考えられています。
ワクチン
認知症そのものを予防するワクチンはありません。ただし、感染症を防ぎ体調を整えることは、認知症のある方の急な体調悪化(発熱やせん妄)を防ぐうえで大切です。年齢や持病に応じた予防接種については、かかりつけ医や薬局にご相談ください。
検診プログラム
健康診断での血圧・血糖・脂質のチェックは、血管の健康を保つという意味で大切です。「物忘れが気になる」「活動量が落ちた」と感じたときは、自己判断で様子を見続けず、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談してください。早めの相談は、原因を確かめ、合った支援を早く始めることにつながります。
合併症
治療しない場合
- 体を動かさない状態が続くことで、筋力や体力が落ち、歩けなくなる(廃用症候群)
- 転びやすくなり、骨折につながる
- 昼夜逆転や不眠が強まり、本人も家族も疲弊する
- 飲み込みの機能が落ち、誤嚥や肺炎のリスクが上がる
- 会話や外出が減り、孤立やうつ状態が進む
- 認知症以外の病気(感染症・脱水など)の発見が遅れる
長期的な見通し
認知症は長く付き合っていく状態ですが、できることはたくさんあります。運動や活動を無理なく続けることで、体力・気分・睡眠・人とのつながりを保ち、その人らしい毎日を長く続けられる可能性があります。進行の速さや経過は人によって大きく異なり、一概には言えません。今日できたことを一緒に喜ぶ、そんな積み重ねが力になります。
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最終更新: 2026年10月22日
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