認知症と暮らす家族へ ― 家族のための認知症のアドバイス
概要
認知症(にんちしょう)は、脳の働きが少しずつ低下していくことで、覚える・考える・判断する・言葉を使うといった力が、続けて弱くなっていく状態をまとめた呼び方です。ふつうの物忘れとの違いは、忘れっぽさが続いて、日常生活に支障が出てくることです。認知症は一つの「病名」ではなく、いくつもの原因によって起こる状態を指します。大切なのは、家族だけで抱え込まず、早めに相談して、使える支えを見つけていくことです。
重要な事実
- 認知症は年齢を重ねるほど多くなりますが、本人の努力や性格の問題ではありません。脳の病気などによって起こる、体の変化の一つです。
- 原因は一つではなく、脳の病気によるもののほか、薬の影響や体の病気が関係して、治療で良くなる場合もあります。
- 早めに相談すると、生活の工夫や使えるサービスを早くから整えられ、本人も家族も安心して過ごしやすくなります。
とてもよくある状態です。国の推計では、65歳以上の方のおよそ5人に1人が、認知症またはその前の段階(軽度認知障害)にあたるとされています。18〜64歳という働き盛りで発症する「若年性認知症」もあります。
主に高齢の方に多いですが、若い世代でも起こります。認知症は本人だけでなく、家族や身近な人の暮らしにも影響します。家族がどう関わり、どこで助けを借りるかが、これからの毎日を左右する大切なポイントになります。
症状
- 意識がぼんやりして、呼びかけても反応が弱い、または反応がない
- けいれんが起きた、体の片側が急に動かない、ろれつが回らない、顔の片側が下がる(脳卒中のサインの可能性)
- 頭を強く打ったあとに、繰り返す嘔吐や激しい頭痛がある
- 火の不始末や交通事故など、本人や周りの命に関わる危険な出来事があった
- 行方不明になり、暑さ・寒さ・水辺など危険な場所にいる可能性がある
- ⚠いつもはできることが、半日から数日で急にできなくなった(急な混乱=せん妄の可能性)
- ⚠発熱がある、水分がとれない、尿が少ない、下痢や嘔吐が続く
- ⚠転んで痛がる、足を引きずる、動けない
- ⚠薬を一度にたくさん飲んだ、飲み間違いが疑われる(薬や包装を持って受診を)
- ⚠強い不安や興奮が続き、家族だけでは安全に過ごせない
一般的な症状
- 同じことを何度も聞く、話したことをすぐに忘れる
- しまい忘れ・置き忘れが増え、「盗られた」と感じることもある
- 日付や場所、いつもの道がわからなくなる
- 料理や買い物、お金の計算など、段取りを立てるのが難しくなる
- 約束や予定を忘れる、薬の飲み忘れや飲みすぎがある
- 気分が落ち込む、怒りっぽくなる、こだわりが強くなる
- やる気が出ない、人と会うのを避けるようになる
- 判断に時間がかかる、いつもと違う失敗が増える
子供の症状
- 子どもが認知症になることはとてもまれです(若年性認知症は大人の病気です)。
- 家族の誰かが認知症になると、子どもも不安を感じたり、説明されないまま我慢したりすることがあります。
- 年齢に合った言葉で伝え、「あなたのせいではないよ」と何度でも伝えてあげてください。
高齢者の症状
- 年齢とともに増えていきます。
- 同じ物忘れでも、疲れや睡眠不足、うつ、薬の影響など、別の理由が隠れていることもあります。
- 気になる変化があれば、早めにかかりつけ医に相談してください。
原因
主な原因
- アルツハイマー型認知症:脳にたんぱく質の変化が少しずつたまっていく
- 血管性認知症:脳梗塞や脳出血など、脳の血管の病気のあとに起こる
- レビー小体型認知症:実際にはないものが見える、体が動きにくい、眠りの異常などが目立つ
- 前頭側頭型認知症:性格の変化や、同じ行動を繰り返すことが目立つ
- そのほか、甲状腺の病気、ビタミン不足、うつ、薬の影響、頭の中に水がたまる病気など、治療で良くなるものもある
リスク要因
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールなどの異常)
- 喫煙、運動不足
- 難聴(聞こえにくさ)を放置すること
- 人とのつながりの少なさ、社会的な孤立
- うつ、睡眠の問題
- 頭を打つけがの経験
- 家族に認知症の人がいる(家族歴)
- 年齢を重ねること
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に混乱が強くなった、いつもと別人のようになった
- 発熱や脱水(水分がとれない、尿が少ない)がある
- 転倒したあとから痛がる、動けない
- 薬の飲み間違いがあった
- 火の不始末や、一人で出かけて戻れないなど危険な行動がある
- 家族が対応しきれないほどの興奮や不安が続いている
定期受診を予約すべき場合:
- 物忘れが増えた、同じ話を何度も繰り返す
- 約束や予定をよく忘れる
- お金の管理や買い物が難しくなった
- 料理の手順がわからなくなる、いつもの家事で失敗が増えた
- 性格が変わった、怒りっぽくなった、意欲がなくなった
- 運転が危ないと感じる
- 家族が疲れている、どう関わればよいかわからない
診断
問診と、家族など身近な人からの聞き取りが中心になります。本人だけでは気づきにくい変化もあるため、家族が一緒に受診すると診断の大きな助けになります。認知機能の検査、血液検査、脳の画像検査などを組み合わせて、他の病気が隠れていないかも確かめます。一度の診察では決まらず、時間をかけて判断することも多いです。
行われる可能性のある検査
- 問診と、日常生活の様子についての聞き取り
- 家族や身近な人からの情報(いつごろから、どんな変化があったか)
- 認知機能検査(言葉や絵を使った簡単なテスト)
- 血液検査(甲状腺の病気やビタミン不足などを調べる)
- 頭部CT・MRI(脳の画像検査)
- 必要に応じて、専門医での詳しい検査
- うつや眠りの状態の確認
診察で予想されること
診断までに何回か通院することがあります。検査の結果は、家族も一緒に聞くと理解しやすく、今後の準備にも役立ちます。「診断名」だけでなく、本人が今できること、これから工夫できることを、一緒に整理してもらいましょう。
治療
認知症は、今のところ根本的に治す方法が確立しているわけではありませんが、進行をゆるやかにしたり、困りごとを減らしたりする方法はたくさんあります。薬だけでなく、生活の工夫、住まいの安全、人とのつながり、介護保険などのサービスを組み合わせることが大切です。家族は「支える人」であると同時に「支えられる人」でもあります。
自宅でのセルフケア
- 朝に日光を浴び、日中は起きて過ごすなど、生活のリズムを整える
- カレンダーや時計、メモ、スマホの通知など、忘れを補う道具を活用する
- 鍵・めがね・財布などは「いつもの場所」を決めて、ラベルを貼る
- 薬は1日分ずつ分けて置く、声かけの時間を決めるなど、飲み忘れを防ぐ工夫をする
- コンロの自動消火、見守りセンサー、緊急通報など、安全の道具を検討する
- 運転が心配なときは家族で話し合い、かかりつけ医や地域の相談窓口に相談する
- 介護する家族も、一人で抱えず、定期的に休息をとる
医療治療
脳の働きの低下をゆるやかにする薬が使われることがあります。また、不安や落ち込み、眠りの問題など、困っている症状に合わせて薬が検討されることもあります。薬には効果と副作用の両方があるため、かかりつけ医や薬剤師とよく相談しながら進めます。薬だけで全てが解決するわけではなく、生活の工夫やリハビリ、デイサービスなどの支援と組み合わせることが大切です。具体的な薬の名前や量は、その人の状態によって変わるため、ここではお伝えしません。
手術が検討される場合
手術で治る認知症はまれです。ただし、頭の中に水がたまる病気など、一部の原因では手術が検討されることがあります。気になる場合は専門医に相談してください。
この病気と共に生きる
その人らしい毎日を続けられるように、できることは残し、できない部分だけをそっと支えるのが基本です。先回りして全部やってしまうと、本人の自信や意欲が減ることがあります。「できること」を一緒に楽しみ、失敗しても大丈夫な環境をつくりましょう。食器を並べる、花に水をやるといった小さな役割があると、張り合いにつながります。
生活習慣のアドバイス
- 日中の活動と光を浴びて、夜よく眠れるリズムを作る
- 散歩や体操など、無理のない運動を続ける
- 人と話す機会を保つ(地域の集まり、認知症カフェ、家族や友人との電話)
- 聞こえにくさがあれば、補聴器など早めに対応する
- お酒はほどほどに、禁煙を心がける
- 家族も自分の時間を確保し、息抜きをする
食事と運動
食事は、野菜・魚・果物をとり、塩分を控えめにしたバランスのよい食事がすすめられます。決まった時間に、無理なく食べられる量で構いません。運動は、ウォーキングやラジオ体操など、会話ができる程度の軽い運動を、できる日に行うだけでも十分です。転びやすい方は、いすに座ってできる運動や、手を動かす活動から始めましょう。
精神的健康と心の健康
家族は、つらさ、怒り、悲しさ、罪悪感など、いろいろな気持ちを抱えます。「なぜ忘れるの」と腹が立つことは自然なことです。気持ちを一人で抱えず、家族会や信頼できる人に話してください。眠れない、食べられない、涙が止まらないなどが続くときは、医療機関に相談を。もし自分や家族が追い詰められ、命に関わる危険を感じたら、すぐに119番、またはお住まいの地域の救急・相談窓口に連絡してください。
予防
完全に防ぐ方法はありませんが、リスクを下げることは期待できます。血圧や血糖、コレステロールを整える、禁煙する、難聴に早めに対応する、体を動かす、人とつながるといった生活習慣が大切とされています。厚生労働省も、認知症の予防と、認知症の人とともに暮らす社会づくりの両面から取り組みを進めています。
検診プログラム
自治体の健康診査や、かかりつけ医での相談が入り口になります。気になる物忘れがあるときは、健診を待たずに早めに相談してよいものです。検査を受けるか迷うときは、かかりつけ医に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 記憶や判断の低下が進み、日常生活の支障が大きくなる
- 転倒やけが、火の不始末、交通事故などの危険が増える
- 薬の飲み間違い、食事や水分がとれず体調を崩す
- お金のトラブルや、詐欺にあう危険
- 介護する家族の疲弊や孤立、ときに虐待につながる
- うつや不安が強くなる
長期的な見通し
認知症の進み方は人それぞれで、何年も穏やかに暮らせる方も多くいます。早めの相談と周りの支援があれば、その人らしい時間は十分に続けられます。できないことが増えても、感じる心や好きなことは残ります。完璧を目指さず、その日の小さな良さを一緒に見つけていくことが、家族にとっても力になります。
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最終更新: 2026年10月22日
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