認知症と排泄(失禁)の問題
概要
認知症が進むと、尿や便を自分でコントロールすることが難しくなったり、トイレに行きたいと気づけなくなったりすることがあります。これは「失敗」や「わがまま」ではなく、脳の働きの変化によって起こる症状のひとつです。排泄は、尿意や便意に気づく、トイレの場所を思い出す、そこまで移動する、服を脱ぐ、姿勢を整える、といった多くのステップで成り立っています。認知症ではこのうちのどれかがうまくいかなくなることで、トイレに間に合わない、気づかないうちに漏れてしまう、といったことが起こります。多くは、周りの工夫でずいぶん楽になります。
重要な事実
- 認知症の中期から後期にかけて、排泄のトラブルはよく見られます。
- 尿路感染症や便秘、薬の影響など、取り除ける原因が隠れていることが少なくありません。
- トイレの環境を整える、排泄のリズムをつくるといった工夫で、本人も介護する人もぐっと楽になることがあります。
はい、とてもよくあることです。認知症の中期以降になると、多くの方に何らかの排泄の問題が現れるといわれています。恥ずかしいことでも、特別なことでもありません。
認知症とともに暮らす本人と、その家族や介護をする人です。女性にも男性にも起こります。特に在宅で介護している方は、対応に悩みを一人で抱えやすいといわれています。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけても反応が弱い
- けいれんが起きた、体が急に硬直した
- 高熱があり、ぐったりして動けない
- 尿がまったく出ず、お腹が硬く張って激しく痛む、嘔吐を伴う
- 呼吸が苦しい、顔色が明らかに悪い
- ⚠発熱と一緒に、尿の濁り・強いにおい・排尿時の痛みがある(尿路感染症の疑い)
- ⚠尿に血が混じる
- ⚠急に失禁が始まった、または急にひどくなった
- ⚠お腹の張りや痛みが続き、排便も排尿もない
- ⚠下痢や嘔吐が続き、水分がとれない、口が渇く、尿の量が減っている
- ⚠おしりや股の皮膚が赤くただれて、痛がっている
一般的な症状
- 尿が間に合わず漏れてしまう(尿失禁)
- 便が漏れてしまう(便失禁)
- トイレに行きたいと言わない、尿意や便意に気づかない様子がある
- トイレの場所がわからず、まよってしまう
- 便器の前に来たのに、服を下ろすのを忘れてしまう
- 夜中に何度もトイレに行く、夜間に漏らしてしまう
- 失禁しても気にしていないように見える、逆に強く恥じてふさぎこむ
- 下着やシーツを隠す、自分で洗おうとする
- ゴミ箱や庭など、トイレ以外の場所で排泄してしまう
- 便秘がちになる、お腹が張る
- 尿のにおいが強い、濁る、排尿時に痛みがある
高齢者の症状
- 加齢により膀胱にためられる量が減り、尿が近くなることがあります
- 男性では前立腺肥大により尿が出にくくなることがあります
- 女性では出産や加齢で骨盤底の筋肉が弱くなり、くしゃみや笑ったときなどに漏れやすくなることがあります
- 過活動膀胱(急に強い尿意が来て、トイレに間に合わない状態)
- 便秘がちで膀胱が圧迫され、尿が近くなる
- 移動に時間がかかり、トイレに間に合わない
- 複数の薬を飲んでいて、その影響が出ることがある
- トイレが寒い、暗い、段差があるなど、行きにくい環境になっている
原因
主な原因
- 脳の変化により、排尿・排便をコントロールする力が低下する
- 尿意や便意に気づきにくくなる
- トイレの場所や、服を脱ぐ手順がわからなくなる(実行機能の低下)
- 移動に時間がかかり、トイレに間に合わない
- 便秘が続き、膀胱や腸が圧迫される
- 尿路感染症による急な尿意や失禁
- 薬の影響(水分を出しやすくする薬、便秘を起こしやすい薬など)
- 前立腺肥大、過活動膀胱、骨盤底の筋肉の弱さ
- 水分を控えすぎることによる濃い尿や、かえってのどの渇きからの飲みすぎ
- トイレが遠い、寒い、暗い、和式で姿勢がつらいなど、環境の問題
リスク要因
- 認知症の進行の程度
- 高齢であること
- 便秘がちであること
- 水分を控えすぎていること
- 歩行が不安定、杖や車いすを使っていること
- 尿路感染症をくり返していること
- 前立腺の病気の既往、女性では出産の経験
- 入院や引っ越しなど、環境が大きく変わったこと
- 飲んでいる薬の種類が多いこと
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 発熱と尿の濁り・痛みがある
- 尿に血が混じる
- 尿がほとんど出ず、お腹が張って痛む
- 急に失禁が始まった、または急に悪化した
- 下痢や嘔吐が続いて水分がとれず、ぐったりしている
定期受診を予約すべき場合:
- 失禁が始まった、回数が増えてきた
- 夜間のトイレの回数が増えた
- 便秘が続いている、お腹が張っている
- 尿のにおいや濁りが気になる
- 介護の負担が大きくなってきた、対応に困っている
- 介護保険サービスや福祉用具を使いたい
診断
診察では、まず「いつから、どんなときに、どのくらい」を聞きます。あわせて、ふだんの排尿・排便の様子、水分や食事、飲んでいる薬、トイレまでの動線、生活の変化などを確認します。そのうえで、尿検査や腹部の超音波検査などを行い、感染症や便秘、前立腺の病気、膀胱の問題など、取り除ける原因がないかを探します。かかりつけ医、泌尿器科、認知症の専門医が協力して進めることもあります。
行われる可能性のある検査
- 問診と排尿日誌(いつ、何回、どのくらい、どんなときに漏れたかを記録)
- 尿検査(感染や血尿がないかの確認)
- 血液検査(腎臓の働きや全身の状態の確認)
- 腹部の超音波検査(尿が残っていないか、膀胱の様子をみる)
- お腹の診察と、便通・便秘の確認
- 飲んでいる薬の確認と見直し
- 必要に応じて、記憶や判断力をみる検査
診察で予想されること
診察は恥ずかしいものではありません。家族や介護をする人が、日ごろ気づいたことをメモして持っていくと、とても役に立ちます。一度の診察ですべてが解決するとは限りませんが、原因を一つずつ確かめていくことで、少しずつ楽になっていきます。本人の気持ちを尊重しながら、一緒に相談していきましょう。
治療
治療は「まず原因を探し、取り除けるものは取り除く」ことから始まります。感染症や便秘があればその治療を、前立腺や膀胱の病気があれば泌尿器科でその治療を行います。そのうえで、トイレの環境を整える、排泄のリズムをつくる、声のかけ方を工夫するといった、暮らしの中の調整を組み合わせていきます。介護保険のサービスや福祉用具も、大きな力になります。
自宅でのセルフケア
- トイレの場所がひと目でわかるように、大きな文字や絵のサインを貼る
- 夜間は足元灯をつけ、廊下やトイレを明るくする
- トイレのドアは閉めきらず、開けておく(便器が見えるようにする)
- 寒くないように暖房を整え、段差や手すりを見直す
- 服はゴムウエストなど、脱ぎ着しやすいものにする
- 「そろそろトイレに行きましょう」と、時間を決めて声をかける(定時排泄)
- 食後や起床後など、排泄しやすいタイミングを活用する
- 水分は日中にしっかりとり、寝る前の大量の水分は控えめにする
- 便秘を防ぐため、食物繊維と適度な水分、軽い運動を心がける
- 防水シーツや吸水パッドなどを活用し、片づけの負担を減らす
- 漏れてしまっても責めず、「大丈夫ですよ」と穏やかに声をかける
- 排尿・排便の記録をつけ、受診のときに持っていく
医療治療
治療は、見つかった原因に合わせて組み立てます。尿路感染症や便秘があればその治療を、前立腺や膀胱の病気があれば泌尿器科でその治療を行います。薬が影響していると考えられる場合は、主治医が薬の内容や量を見直すことがあります。認知症に対する治療やリハビリが、排泄の落ち着きにつながることもあります。骨盤底の筋肉を鍛える体操や、トイレに誘導する間隔を決める方法が役立つこともあります。薬の名前や量は一人ひとりで大きく違うため、ここではお伝えしません。必ず医師や薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
前立腺肥大や膀胱・骨盤底の問題が強い場合には、手術が選択肢になることがあります。ただし、認知症のある方では体への負担や、手術後の一時的な混乱(せん妄)なども考慮する必要があります。手術をするかどうかは、泌尿器科の医師、かかりつけ医、ご家族でよく話し合って決めていきます。
この病気と共に生きる
毎日の暮らしの中では、「失敗を減らす」よりも「お互いが穏やかでいられる」ことを大切にしてください。時間を決めて声をかける、トイレまでの道をわかりやすくする、片づけの手間を減らす。この三つだけでも、暮らしはぐっと楽になります。できたことを数え、できなかったことは一緒に工夫する。そんな姿勢が、本人の安心につながります。
生活習慣のアドバイス
- 起床・食事・排泄・就寝のリズムを、できるだけ毎日同じに保つ
- 日中はカーテンを開けて光を浴び、夜は照明を落として眠りやすくする
- 散歩など、無理のない範囲で体を動かす習慣をつくる
- トイレに行きやすい服装と、歩きやすい靴を選ぶ
- 暑い季節は特に、水分をこまめにとる
- 介護をする人も、決まった時間に休むことを予定に入れる
食事と運動
食事は、野菜やきのこ、海藻などの食物繊維を毎日とり、朝食を抜かないことが便秘の予防に役立ちます。水分は、日中に少しずつこまめにとるのが基本です。夜間の失禁が気になって水分を極端に減らすと、かえって尿が濃くなったり便秘になったりします。運動は、歩くことや軽い体操で十分です。骨盤底の筋肉を意識した体操も、続けることで効果が期待できます。無理のない範囲で、楽しみながら続けましょう。
精神的健康と心の健康
排泄の失敗が続くと、本人は「迷惑をかけている」と深く傷つき、ふさぎこんだり、逆に怒りっぽくなったりすることがあります。介護をする人も、睡眠不足や不安から追い詰められやすいものです。どちらも自然な気持ちです。一人で抱え込まず、家族や友人、専門職に話してください。気持ちがつらい、眠れない、涙が止まらない、自分や相手を傷つけてしまいそうだと感じたときは、地域の相談窓口や医療機関に早めに連絡を。命の危険を感じる緊急のときは、迷わず119番に電話してください。
予防
認知症そのものの進行を完全に防ぐ方法は、まだわかっていません。ただし、排泄のトラブルの多くは、工夫によって予防したり、軽くしたりできます。便秘を防ぐ、水分を適切にとる、トイレに行きやすい環境をつくる、変化に早めに気づいて相談する。どれも今日から始められることです。
検診プログラム
定期的な健康診断や、かかりつけ医への相談が役立ちます。便秘や排尿の変化は、健診のときに一緒に伝えてみてください。認知症が気になるときは、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談すると、必要な検査や支援につながります。
合併症
治療しない場合
- 尿や便で皮膚がかぶれ、ただれたり褥瘡(床ずれ)になったりする
- 尿路感染症をくり返し、発熱や入院のきっかけになる
- 急いでトイレに向かう途中での転倒・骨折
- 便秘が悪化し、お腹の張りや食欲低下、イライラにつながる
- 外出や人づきあいを控えるようになり、閉じこもりがちになる
- 介護をする人の睡眠不足や疲労が積み重なる
長期的な見通し
排泄のトラブルは、認知症とともに生きる中で避けにくいことではありますが、決して手の施しようがないわけではありません。原因を取り除くこと、環境を整えること、周りの支えを借りることで、多くの方は穏やかな毎日を取り戻していきます。うまくいかない日があっても大丈夫です。少しずつ、一緒に整えていきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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