認知症のいろいろなタイプ(種類)を知ろう
概要
認知症(にんちしょう)は、ひとつの病気の名前ではなく、いくつかの病気をまとめた呼び方です。脳の働きが少しずつ低下して、最近のことを覚えていられない、段取りが立てられない、言葉が出にくいなど、ふだんの生活に支障が出てくる状態を指します。認知症にはいくつかのタイプ(種類)があり、原因やあらわれ方、進み方がそれぞれ違います。タイプを知ることは、その人に合った支え方を考える第一歩になります。
重要な事実
- 認知症は「病気のグループの名前」で、アルツハイマー型、血管性、レビー小体型、前頭側頭型など、いくつかのタイプがあります。
- タイプによって、もの忘れのあらわれ方や、体の症状(歩き方、幻が見える、性格の変化など)が違います。
- タイプの中には、治療で良くなる可能性があるもの(例:脳の圧の異常やホルモンの異常によるもの)もあるため、早めの受診が大切です。
はい、とても身近な病気です。日本では高齢化にともない認知症の人が増えていると報告されており、厚生労働省も認知症施策を重点的に進めています。誰にとっても、自分や家族のこととして考えたいテーマです。
主に高齢者に多い病気ですが、若い世代(65歳未満)で発症する「若年性認知症」もあります。年齢だけで決まるものではなく、生活習慣病(高血圧や糖尿病など)や脳卒中の経験なども関係します。
症状
- 急に意識がぼんやりしている、呼びかけへの反応がおかしい
- 急に話せない、顔や手足の片側が動かない、まっすぐ歩けない(脳卒中のサインの可能性)
- 頭を強く打ったあとに、くり返し吐く、意識がぼんやりする、けいれんがある
- 本人や周りの人を傷つけるおそれがある、強い興奮が止まらない
- 行方がわからず、危険な場所(道路、水辺、線路など)にいる可能性がある
- ⚠いつもより急に混乱が強くなった、夜に興奮して眠れない
- ⚠発熱、脱水(口が渇く、尿が少ない)、下痢や嘔吐がある
- ⚠転んでけがをした、痛がっているがうまく伝えられない
- ⚠薬の飲み間違いや、いつもより多く飲んでしまった可能性がある
- ⚠ものが飲み込みにくそうで、むせることが増えた
一般的な症状
- 最近あったことを忘れる(食事の内容や約束を思い出せない)
- 同じことを何度も聞く、同じ物を何度も買う
- 日付や場所、曜日がわからなくなる
- 料理や家計の管理など、手順の多いことがうまくできなくなる
- 言葉が出てこない、人の名前や物の名前がすぐ出てこない
- 慣れた道で迷う、電車やバスで降りる場所がわからなくなる
- お金や契約など、大事なことの判断が難しくなる
- 気分が落ち込む、いらいらしやすい、興味が減る
- 性格が変わったように見える(怒りっぽくなる、無関心になるなど)
- 実際にはないものが見える(幻視)、歩き方が小刻みになる、手が震える(レビー小体型などでみられることがあります)
- 食べ物の好みが極端に変わる、その場に合わない行動が増える(前頭側頭型でみられることがあります)
子供の症状
- 子どもが認知症になることは非常にまれです。子どものころに発症する脳の病気は「小児期発症の神経変性疾患」などとして、大人の認知症とは別に診療されます。
- むしろ多いのは、家族(祖父母など)が認知症になったとき、子どもの不安やとまどいです。どうして変わってしまったのかを年齢に合った言葉で説明し、安心できる時間を一緒につくることが助けになります。
高齢者の症状
- 年齢とともに、名前が出てこない、物の置き場所を忘れるといった「加齢によるもの忘れ」は自然に増えます。体験そのものを忘れてしまう、生活に支障が出る、という場合は相談の目安になります。
- 高齢者では、複数の病気が重なっていることがあります(例:アルツハイマー型と血管性の両方の特徴をもつ)。
- 薬の影響や、体調不良による一時的な混乱(せん妄:急にぼんやりする、落ち着かない状態)が隠れていることもあります。急な変化は早めの受診が必要です。
- 聴力の低下や視力の低下が、もの忘れのように見えることもあります。耳や目の状態も合わせて確認してもらいましょう。
原因
主な原因
- アルツハイマー型認知症:脳にたんぱく質の変化が少しずつ積み重なり、記憶をつかさどる部分から障害が進むと考えられています。認知症の中で最も多いタイプです。
- 血管性認知症:脳梗塞(のうこうそく)や脳出血などで脳の血流が悪くなった部分ができ、その場所に応じた症状が出ます。脳卒中のあとに起こることがあります。
- レビー小体型認知症:脳にできるたんぱく質の塊(レビー小体)が関係すると考えられ、幻視、体の動きの鈍さ、眠りの異常などがみられます。
- 前頭側頭型認知症:脳の前のほう(前頭葉・側頭葉)が障害され、性格の変化や行動の変化が目立つタイプです。比較的若い年齢で発症することもあります。
- そのほか、治療で良くなる可能性があるもの:脳に水がたまる病気、慢性硬膜下血腫(頭を打ったあとに血がたまる)、甲状腺の働きの低下、ビタミン不足、薬の影響など。
リスク要因
- 年齢が高いこと(最も大きな要因のひとつ)
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの生活習慣病
- 脳卒中や心臓の病気の経験
- 頭を強く打った経験(頭部外傷)
- 聴力の低下をそのままにしておくこと
- 運動不足、偏った食事、社会的なつながりの少なさ
- ご家族に認知症の人がいる場合(遺伝の影響はタイプによって異なります)
- うつ病などの気分の病気、強いストレスや睡眠不足
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に意識がぼんやりした、急に混乱が強くなった
- 話せない、手足が動かない、まっすぐ歩けないなどの症状が急に出た
- 頭を打ったあとに様子がおかしい
- 転倒して痛がる、動けない
- 薬の飲み間違いがあった
定期受診を予約すべき場合:
- もの忘れが増えてきた、同じことを何度も聞く
- 料理や買い物、お金の管理など、これまでできていたことが難しくなった
- 日付や場所がわからなくなることがある
- 性格が変わった、怒りっぽくなった、関心がなくなった
- 実際にはないものが見えると言う
- 歩きにくい、手が震える、動作が遅くなった
- 本人は気にしていないが、家族が変化を感じている
診断
診断は、本人の話だけでなく、家族など身近な人の話も合わせて行われます。医師は、いつごろから、どんな変化があったのかを丁寧に聞き取り、認知機能の検査、血液検査、脳の画像検査などを組み合わせて、認知症かどうか、どのタイプに近いかを考えます。一度の受診ですべてが決まるわけではなく、時間をかけて見ていくこともあります。
行われる可能性のある検査
- 問診と生活の聞き取り(本人と家族の両方から)
- 認知機能検査(記憶、注意力、言葉、図形の模写などを確認する検査)
- 血液検査(甲状腺の働き、ビタミン不足、貧血、血糖・脂質などを確認)
- 脳の画像検査(CTやMRIで、脳梗塞の跡、脳の萎縮、水のたまり、血の塊などを確認)
- 必要に応じて、脳の血流や働きをみる検査(SPECTなど)
- 心電図や胸部レントゲンなど、体全体の状態の確認
- 薬の内容の確認(薬の影響でぼんやりすることがあるため)
診察で予想されること
受診の前に、気づいた変化をメモしておくと役立ちます(例:いつごろから、どんなことができなくなったか、困っていること)。本人が受診をいやがる場合は、無理に説得しようとせず、健康診断や別の用事に合わせて一緒に行くなど、負担の少ない方法を相談してみてください。結果の伝え方は医師によって異なりますが、本人と家族が納得できるまで質問してよいものです。
治療
認知症の多くは、根本から治す治療がまだ確立していません。しかし、進行をできるだけゆるやかにし、その人らしい生活を長く続けられるようにするための治療や支援はたくさんあります。また、タイプによっては治療で良くなるもの(脳に水がたまる病気、ホルモンの異常、薬の影響など)があるため、原因を調べることがとても大切です。
自宅でのセルフケア
- 規則正しい生活リズムを保ち、昼夜の区別をつける
- 無理のない範囲で体を動かす(散歩など)
- 人と話す機会をつくる(家族、友人、通いの場など)
- 忘れても大丈夫なように、メモやカレンダー、持ち物に名前を書くなどの工夫をする
- 安全のため、コンロの火や鍵、外出時の見守りなどの環境を整える
- 本人ができることは、時間がかかっても見守って任せる
- 睡眠不足や脱水、便秘など体調の乱れを防ぐ
医療治療
治療は、大きく分けて「脳の働きを支えるための薬を使うこと」「生活の支援を組み立てること」「困っている症状(不安、怒り、不眠など)に合わせた対応をすること」に分かれます。薬はタイプや体の状態によって使うかどうかが変わり、種類や量は医師が判断します。薬は万能ではなく、効果も人によって異なるため、目的と副作用についてよく説明を受けたうえで決めましょう。服薬中の変化は、遠慮なく医師や薬剤師に伝えてください。あわせて、リハビリテーション(作業療法など)や、地域の通いの場、訪問看護、介護保険のサービスなどを組み合わせて、生活全体を支えることが大切です。
手術が検討される場合
認知症の多くは手術の対象ではありませんが、タイプによっては手術で改善が期待できる場合があります。たとえば、脳に水がたまる病気や、頭を打ったあとに血がたまる病気(慢性硬膜下血腫)などです。手術が適切かどうかは、画像検査の結果や体の状態をふまえて医師が判断します。
この病気と共に生きる
認知症とともに暮らすうえで大切なのは、できるだけ今まで通りの生活を続けられることです。できないことを数えるより、できることを活かす視点が助けになります。忘れてしまうことを責めず、「一緒に確認しよう」という関わり方が、本人の安心につながります。介護する家族がひとりで抱え込まないことも同じくらい大切です。
生活習慣のアドバイス
- 決まった時間に起き、日中は光を浴びて過ごす
- 役割をもつ(食卓の準備、花の水やりなど、できることを続ける)
- 定期的に人と会う場をもつ(通いの場、趣味の集まりなど)
- 家の中の危険を減らす(段差、火の元、通路の照明など)
- 持ち物や部屋の配置をシンプルにし、目印をつける
- 本人の気持ちを聞く時間を意識してつくる
- 介護する家族も、休息の時間を確保する
食事と運動
食事は、野菜・果物・魚・全粒穀物などをバランスよくとり、塩分を控えめにすることが、脳と血管の健康に役立つと考えられています。水分が足りないと混乱が強まることがあるので、こまめな水分補給も大切です。運動は、ウォーキングや軽い体操など、無理なく続けられるものを日課にするとよいでしょう。転倒を防ぐために、必要なら手すりや歩行の補助具も検討してください。
精神的健康と心の健康
認知症は、本人にも家族にも大きな気持ちの変化をもたらします。「自分は何もできない」という喪失感、怒り、不安、悲しみ、介護する側の疲れや孤独感は、自然な反応です。気持ちを一人で抱え込まず、信頼できる人や専門職に話してください。落ち込みが続く、眠れない、何もする気が起きないといった状態があるときは、医療機関(精神科・心療内科を含む)や自治体の相談窓口に早めに相談しましょう。つらい気持ちが強いときは、地域の相談窓口や医療機関を頼ってください。あなたやご家族の気持ちが守られることも、ケアの一部です。
予防
すべての認知症を完全に防ぐ方法はまだわかっていません。ただ、血管性認知症については、高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理、禁煙、適度な運動などでリスクを下げられる可能性が示されています。アルツハイマー型についても、生活習慣の改善や社会的なつながり、聴力のケアなどが、リスクを下げる可能性があると報告されています。できることを無理なく続けることが大切です。
ワクチン
認知症そのものを防ぐワクチンは、現在のところありません。ただし、肺炎や帯状疱疹など、感染症が体調の大きな乱れにつながることがあるため、年齢や体調に応じた予防接種について、かかりつけ医に相談してみてください。
検診プログラム
日本では、40歳以上を対象に特定健康診査(メタボ健診)が行われており、血圧・血糖・脂質などを確認できます。生活習慣病の予防と管理が、脳の健康にもつながります。認知機能の検査は、気になる症状があるときに医療機関で受けるものです。健診結果で気になる値があれば、早めに相談しましょう。
合併症
治療しない場合
- 転倒や骨折、けがのリスクが高まる
- 行方不明や交通事故などの危険が増える
- 火の不始末や、お金のトラブルが起きやすくなる
- 食事や水分がとれず、脱水や栄養不足になる
- 飲み込みにくくなり、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を起こすことがある
- 体調の変化による急な混乱(せん妄)が起こりやすくなる
- 本人の不安やうつ、家族の疲れや孤立が強まることがある
長期的な見通し
認知症は、ゆっくり時間をかけて進むことが多く、すぐに生活が大きく変わるわけではありません。タイプや原因によって進み方は異なり、治療で改善が期待できる場合もあります。今ある力を活かしながら、環境や支えを整えることで、穏やかに過ごせる期間は十分にあります。早めに相談し、本人と家族が納得して準備を進めることが、これからの生活を支えます。希望をもって、一歩ずつ考えていきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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