認知症がある人の運転と旅行 — 安全と自由を両立するために
概要
認知症(にんちしょう)は、記憶や判断力、物事の段取りをつける力などが、少しずつ難しくなっていく状態をいいます。このページのテーマは、認知症がある人(あるいはもの忘れが気になり始めた人)が、車の運転や旅行をどう続けるか、どう備えるかを考えるための話題です。運転や旅行は「自由」と「安全」の両方がかかわるため、本人も家族も悩みやすいテーマです。
重要な事実
- 75歳以上の方は、運転免許を更新するときに認知機能検査(ちのうきのうけんさ:記憶や判断力を確かめる検査)を受けることが法律で決まっています。
- 認知症と診断された場合、医師から公安委員会への届け出のしくみがあり、免許の取り消しや停止になることがあります。
- 運転をやめることは「何もできなくなる」ことではありません。移動の方法を別に用意すれば、買い物や通院、旅行は続けられます。
認知症はとても身近な病気で、65歳以上の方の約6人に1人ともいわれる推計があります(数字には幅があります)。運転や旅行のことをどうするかという相談は、医療現場でもよくある話題です。
認知症と診断された方、もの忘れが気になり始めた方、そしてそのご家族や支援する方々です。運転は本人だけでなく、同乗する人や道を歩く人の安全にも関わります。旅行は本人と同行する家族の両方に関わります。
症状
- 運転中に事故を起こした、人を巻き込みそうになった(119番・110番)
- 外出先や旅行先で行方がわからなくなった、保護されているのを見かけた(110番)
- 急に強い混乱が始まった、意味のわからない言葉を話す、意識がぼんやりしている(脳の病気などのサインのことがあります。119番)
- ⚠運転中に危ない思いを何度もしている、同乗した家族が恐怖を感じた
- ⚠帰り道がわからなくなり、家族が迎えに行くことがあった
- ⚠旅行中に薬を飲み忘れた、または二重に飲んでしまった
- ⚠旅行先で体調が悪い、食事や水分がとれない
- ⚠気分がひどく落ち込む、強い不安が続く、眠れない
一般的な症状
- いつも通る道なのに、曲がる場所を間違える、出口がわからなくなる
- 標識や信号を見落とす、車線をはみ出しそうになる
- 急ブレーキや急ハンドルが増えた、車間距離が近い
- 駐車が苦手になった、車にぶつけた跡がある
- 旅行先で、部屋やトイレの場所がわからず混乱する
- 待ち合わせの時間や予定を忘れる、持ち物をなくす
- いつもと違う環境で落ち着かず、不安が強くなる
- 案内や切符の買い方がわからず、駅や空港で立ち止まってしまう
子供の症状
- このテーマは主に高齢の方に関わる内容で、子どもに同じ症状が出るものではありません。ただし、家族の変化に子どもが不安を感じることがあります。やさしく説明し、話を聞いてあげてください。
高齢者の症状
- 加齢とともに視力・聴力・反射神経は低下するため、認知症がなくても運転は難しくなります
- 75歳以上の免許更新時には認知機能検査があり、結果によっては医師の診察が必要になります
- 運転をやめたあと、外出の機会が減って体力や気力が落ちることがあります(生活の不活発)
- 旅行では、慣れない環境や移動の疲れで、ふだんより混乱しやすくなることがあります
原因
主な原因
- アルツハイマー型認知症など、記憶や判断力が変化する病気
- 血管性認知症(脳の血管の病気が原因で起こるタイプ)
- レビー小体型認知症(見え方や体の動きの変化が出やすいタイプ)
- 薬の作用や飲み合わせ、睡眠不足、体調不良による一時的な集中力の低下
- 視力・聴力・筋力・反射神経の低下(加齢による変化)
リスク要因
- 年齢(高齢になるほど起こりやすい)
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病
- 聴力の低下
- 睡眠不足や飲酒
- 長年運転に慣れていて、バスや電車などの代替手段になじみがない
- 一人暮らしなど、周囲が変化に気づきにくい環境
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 運転中の事故や、ひやりとする出来事が続いている
- 外出先で道がわからなくなり、保護されたり迎えが必要になったりした
- 数時間から数日のうちに混乱が強くなった(感染症や薬の影響、脳の病気のことがあります)
定期受診を予約すべき場合:
- もの忘れが増えた、同じ話を繰り返す
- 家族が同乗して「危ない」と感じる場面があった
- 免許更新の認知機能検査で指摘があった
- 旅行の計画を立てるのが難しくなった、準備で混乱する
- 運転をやめる話し合いをどう進めればよいかわからない
診断
ふだんの様子を知る家族からの話と、本人への質問、記憶や判断力をみる検査を組み合わせて、総合的に判断します。必要に応じて脳の画像検査も行います。運転については、教習所や病院のリハビリで「運転評価」を行うことがあります。これは、実際の運転や反応の速さ、注意力をみるものです。
行われる可能性のある検査
- 問診と、ご家族からの聞き取り
- 認知機能検査(記憶・注意力・判断力を試す質問や簡単な筆記)
- 血液検査(甲状腺の病気やビタミン不足など、治せる原因を探すため)
- 頭のCT・MRIなどの画像検査
- 視力・聴力・運動機能の確認
- 必要に応じた運転評価や運転適性の相談
診察で予想されること
一度の検査だけでは判断できないことが多く、時間をかけて見ていくことがあります。「すぐに運転をやめてください」と決めつけるのではなく、安全と生活の両方を考えながら、一緒に方針を決めていきます。
治療
認知症そのものへの治療と、「安全に移動するための工夫」を組み合わせます。運転を続けるかどうかは、本人の気持ち、生活の状況、医師の意見、家族の考えをすり合わせて決めていきます。旅行は、準備と工夫によって続けられることが多いです。
自宅でのセルフケア
- 運転日誌をつけ、ひやりとした場面を書きとめておく
- 家族に同乗してもらい、感想を率直に聞く(本人を責めない言い方で)
- 明るい時間帯、短い距離、混雑を避けるなど、無理の少ない条件で運転する(続けるかどうかは必ず医師と相談してください)
- バス・電車・タクシー・地域の送迎サービスを、元気なうちに一緒に練習しておく
- 旅行は余裕のある日程にし、予定を紙に書いて持つ、連絡先カードを持ち歩く
- 薬はお薬カレンダーなどで管理し、旅行中用の分も用意する
- 免許証・保険証・緊急連絡先を一か所にまとめて持ち歩く
医療治療
認知症の進行をゆるやかにするための薬物療法が行われることがあります(薬の種類や量は医師が決めます)。あわせて、認知リハビリテーション、生活リズムを整える支援、運転や移動についての相談(医療機関のソーシャルワーカーや地域包括支援センター)が行われます。必要に応じて運転評価を受けたり、警察・運転免許センターの相談窓口に相談したりすることもあります。医師の診断書が必要になる場合もあります。
手術が検討される場合
このテーマでは、通常、手術が治療の中心になることはありません。ただし、脳の血管の病気など別の原因が見つかった場合は、その治療が優先されることがあります。
この病気と共に生きる
運転をやめる、または減らすと決めたときは、先に「移動の代わり」を用意しておくと気持ちが楽になります。買い物は週に一度まとめて配達、通院はタクシーや家族の送迎、楽しみの外出はバス、というように組み合わせます。旅行は、よく知っている場所にする、同行者をつける、予定を詰め込みすぎない、といった工夫で続けられます。
生活習慣のアドバイス
- 日中は外に出て、人と話す時間をつくる
- 散歩や体操など、無理のない運動を続ける
- 睡眠を十分にとり、飲酒は控えめにする
- 眼鏡や補聴器をきちんと使う(見えにくい・聞こえにくいは運転の危険につながります)
- 免許証・保険証・連絡先をまとめて持ち歩く
- 家族や友人と、運転や旅行のことを早めに話し合っておく
食事と運動
野菜・魚・果物をとり、塩分を控えめにした食事は、脳の健康にも体の健康にも役立つとされています。運動は、早歩きの散歩や軽い筋力運動を無理のない範囲で続けるのがおすすめです。運動は反射神経や筋力の維持にもつながり、移動する力を保つことにも役立ちます。
精神的健康と心の健康
「運転をやめてください」と言われると、自由を失うように感じ、悲しさ・怒り・不安がわくのは自然なことです。運転をやめたあとに気分が落ち込んだり、外出がおっくうになったりすることもあります。気持ちを話せる場や、家族以外の相談相手を持つことが助けになります。つらい気持ちが続くときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ひとりで抱えず、医療機関やお住まいの自治体の相談窓口、警察(110番)や救急(119番)など、すぐに助けを求められる先に連絡してください。
予防
認知症そのものを完全に防ぐ方法はまだわかっていませんが、生活習慣病の管理、運動、社会参加、聴力への対応などがリスクを下げる可能性があるといわれています。運転や旅行のトラブルは、早めの相談と準備である程度防げます。
ワクチン
このテーマに直接関係するワクチンはありません。ただし、感染症は高齢者の体力や意識状態に影響することがあるため、かかりつけ医と相談のうえで必要な予防接種を受けておくと安心です。
検診プログラム
75歳以上の方は、運転免許の更新時に認知機能検査を受けることが法律で定められています。また、自治体によっては高齢者のもの忘れ検診(無料または低額)を行っています。気になることがあれば、かかりつけ医に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 交通事故で本人や周囲の人がけがをする
- 外出先で道がわからなくなり、行方不明になる
- 運転をやめたあと、外出が減って体力や気力が落ちる
- 家族が心配で付き添い続け、負担が大きくなる
- 話し合いがこじれて、本人と家族の関係がぎくしゃくする
- 旅行先での体調不良や薬のトラブル
長期的な見通し
認知症があっても、工夫と支えがあれば、外出や旅行を楽しむことはできます。大切なのは、ひとりで抱え込まず、早めに相談して選べる方法を増やしておくことです。運転をやめることはゴールではなく、新しい移動の形を始めるスタートだと考えてみてください。
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最終更新: 2026年10月23日
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