認知症と食事~食べることの困りごとと、その工夫
概要
認知症のある方の「食べること」がうまくいかなくなる状態を、ここでは「認知症と食事の困りごと」として説明します。認知症は、記憶や判断、段取りを考える力などが少しずつ変わっていく状態です。そのため、食事の時間になったことに気づけない、食べ方を忘れてしまう、口に入れたものを飲み込むタイミングがずれる、といったことが起こります。これは決して本人のわがままや意地悪ではなく、病気による変化です。
重要な事実
- 認知症が進むと、食べることへの関心が下がったり、食べたこと自体を忘れたりすることがあります。
- むせる、口の中にためる、偏ったものばかり食べるなど、困り方は一人ひとり違います。
- 多くは、声のかけ方や食事の形、口腔ケア(口の中を清潔に保つこと)などの工夫で、食べやすくなります。
とてもよくある困りごとです。認知症が進むにつれて、食事に関する悩みは多くのご家庭で見られます。決して珍しいことではありません。
主に高齢の方に見られますが、65歳未満で発症する若年性認知症の方にも起こります。食事は本人だけでなく、介護する家族の負担にもなりやすいため、家族ぐるみの支援が大切です。
症状
- 食べ物がのどに詰まり、息ができない・声が出ない・顔色が青白い(窒息の疑い。すぐに119番へ)
- 意識がない、または呼びかけへの反応がにぶい
- けいれんが続いている、体が硬直している
- 呼吸が苦しそうで、唇や爪の色が紫色っぽい
- ⚠むせたあとに発熱や息苦しさがある(誤嚥性肺炎:ごえんせいはいえんの疑い)
- ⚠水分をほとんどとれない状態が半日以上続いている
- ⚠食べ物以外のものを口に入れてしまい、心配がある
- ⚠数週間で体重がはっきり減った、ぐったりしている
一般的な症状
- 食事の時間になっても、食べることに関心が向かない
- 食べ始めても途中で手が止まり、そのまま忘れてしまう
- 食べたことを忘れて「まだ食べていない」と何度も言う
- 口の中に食べ物をためて、なかなか飲み込まない
- むせる、咳き込むことが増えた
- 食べ物を口に運ぶ手の動きがぎこちない、こぼしてしまう
- 味の好みが変わる、甘いものばかり欲しがる
- 食べ物以外のものを口に入れてしまうことがある
- 食べむらがあり、日によって量が大きく違う
子供の症状
- 認知症は通常、成人(とくに高齢者)の病気で、子どもにはあてはまりません。
- ただし、子どもが高齢の家族の食事の様子を見ていることもあります。家庭の中でやさしく説明し、不安にさせないようにしましょう。
高齢者の症状
- 加齢による食欲の低下や、歯・入れ歯の不具合が重なって食べにくくなることがあります。
- 飲み込む力(嚥下:えんげ)が弱まり、むせや誤嚥(ごえん:食べ物が気管に入ること)が起きやすくなります。
- 複数の病気や薬の影響が重なることが多く、体調の変化が食事に出やすい傾向があります。
- 孤独や環境の変化で、食事をとる気持ちがわかなくなることもあります。
原因
主な原因
- 記憶の障害により、食事の時間や食べたことを忘れてしまう
- 段取りを立てる力の低下により、食器の使い方や食べる順番がわからなくなる
- 注意・集中が続かず、途中で気がそれる
- においや味を感じにくくなり、食欲がわかない
- 飲み込む力の低下により、むせたり口にためたりする
- 歯や入れ歯、口内の痛みなどの口のトラブル
- 気分の落ち込み(うつ状態)や不安
- 薬の影響や、体の病気(発熱・脱水など)による食欲低下
- 環境の変化(入院、引っ越し、食卓の配置など)による戸惑い
リスク要因
- 認知症が進んでいること
- 歯や入れ歯の不具合、口腔ケアが行き届いていないこと
- 以前から飲み込みにくさを指摘されたことがある
- 脳卒中のあとがある
- 多くの薬を服用している
- ひとり暮らし、食事の準備が難しいなど、食生活の支えが少ない
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- むせたあとに熱が出た、息が苦しい
- 水分も食べ物もほとんどとれない日が続く
- 急に元気がなくなり、反応がにぶい
- 食べ物以外のものを口にしてしまった
定期受診を予約すべき場合:
- 食事に時間がかかる、食べこぼしが増えた
- 食べむらや偏食が目立つようになった
- むせる回数が増えてきた、声がかすれる
- 体重が少しずつ減っている
- 食事のたびに家族が疲れている、対応に困っている
診断
まずはかかりつけ医や、認知症の相談ができる医療機関に相談します。医師は本人と家族から食事の様子を聞き、体重や栄養状態、口の中の状態、飲み込む力を確認します。必要に応じて歯科や耳鼻咽喉科、リハビリの専門職と一緒に評価します。
行われる可能性のある検査
- 問診と、家族による食事の様子の観察メモ
- 体重・水分摂取量などの身体測定
- 血液検査(栄養状態や脱水、その他の病気の確認)
- 認知機能の検査
- 歯科での口の中・入れ歯のチェック
- 飲み込みの評価(必要に応じて、造影や内視鏡を用いた検査)
- 胸部のレントゲン検査(発熱や咳がある場合)
診察で予想されること
一度の受診ですべてが決まるとは限らず、何回かに分けて様子を見ていくことがあります。日ごろの食事の様子をメモにまとめておくと、診察の大きな助けになります。
治療
治療は、薬だけでなく、食事の工夫・環境の調整・リハビリ・口腔ケア・家族への支援を組み合わせて進めます。何が食べづらさの原因かを一つずつ見つけ、できそうなことから試していくのが基本です。
自宅でのセルフケア
- 食事の時間を決めて、毎日同じリズムで過ごす
- 食卓を明るく整理し、テレビや騒音を減らして気がそれにくい環境をつくる
- 「お茶をどうぞ」など、一つずつ短く声をかける
- 量を一度に盛らず、少量ずつ皿に出す
- 手で持って食べられるもの(おにぎり、小さなサンドイッチなど)も取り入れる
- 食べやすい大きさ・やわらかさに切る、とろみをつけるなど工夫する
- 食事前に口の中を清潔にし、入れ歯の具合を確認する
- こまめな水分補給を、食事の合間にも入れる
- 食べこぼしが気になるときは、深さのある皿や滑り止めを使う
医療治療
医師は、食事の困りごとの背景にある病気や体調を確認し、必要に応じて治療方針を考えます。気分の落ち込みや飲み込みに関わる問題が関係していると判断された場合は、医師の判断でお薬が検討されることがあります。お薬の種類や量は、体調や他の病気との関係をみながら医師が決めるものです。飲み込みのリハビリや栄養の相談、歯科的な処置など、複数の専門職が関わることもあります。
手術が検討される場合
食事の困りごとそのものが手術で治るものではありません。ただし、歯や入れ歯、口の中の病気などが原因になっている場合は、歯科などで処置が検討されることがあります。
この病気と共に生きる
食事は毎日のことなので、無理なく続けられる工夫が大切です。完璧に食べさせることより、その人が穏やかに食べられる時間を大切にしましょう。家族が一人で抱え込まず、食事の準備や声かけを分担するのも立派なケアです。
生活習慣のアドバイス
- 日中は起きて過ごし、夜はしっかり眠る生活リズムを整える
- 散歩や軽い運動など、体を動かす時間をつくる
- 人と食事をする機会をできるだけ保つ
- 定期的に体重を測り、変化に気づけるようにする
- 入れ歯や口の中のケアを習慣にする
- 家族や介護者が休息をとれる時間を意識して確保する
食事と運動
食事は、食べやすい形ややわらかさにしつつ、たんぱく質や野菜も少しずつとれるとよいでしょう。一度にたくさんより、少量を回数多くが楽なこともあります。食事前後の軽い運動や、口を動かす体操、声を出して話すことも、飲み込む力の維持に役立つとされています。具体的な内容は、かかりつけ医や歯科、リハビリの担当者に相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
食べない姿を見ると、家族は「このままで大丈夫だろうか」と強い不安や疲れを感じます。本人も、うまく食べられないことに戸惑いや恥ずかしさを感じていることがあります。気持ちを一人で抱え込まず、医療機関や地域の相談窓口、同じ経験をした家族の集まりなどを頼ってください。つらい気持ちが続くときは、ためらわずに専門の相談先へ連絡しましょう。
予防
認知症そのものを完全に防ぐ方法はまだわかっていません。ただ、食事の困りごとは、早めの気づきと工夫である程度やわらげることができます。生活習慣病の予防、体を動かす習慣、人とのつながりを保つこと、歯と口の健康を守ることが、暮らしの土台として大切とされています。
ワクチン
肺炎などの感染症を防ぐための予防接種については、かかりつけ医に相談してください。年齢や持病によって考え方が変わるため、一律にはおすすめできません。
検診プログラム
自治体の健康診査や歯科健診を受けておくと、体と口の変化に早く気づけます。もの忘れが気になるときは、早い段階で認知症の相談ができる窓口や医療機関に相談してみましょう。
合併症
治療しない場合
- 食べる量が減り、栄養不足や脱水になる
- 体重が減り、体力や免疫力が低下する
- 誤嚥性肺炎(食べ物や唾液が気管に入って起こる肺炎)をくり返す
- 入院が長引き、生活の場が変わってしまうことがある
- 介護する家族の疲れや睡眠不足が積み重なる
長期的な見通し
食事の困りごとは、工夫と支援で和らぐことが多くあります。食べられない日が続いても、それは終わりを意味するものではありません。原因を見つけて一つずつ対応していくことで、穏やかに食べられる時間を取り戻せる方は少なくありません。心配なときは早めに相談し、できる範囲で続けていくことが何より大切です。
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最終更新: 2026年10月23日
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