認知症と心の変化 ― こころと行動のサインを知る
概要
認知症(にんちしょう)は、脳の働きが少しずつ変わっていくことで、最近のできごとを覚えにくくなったり、段取りを立てるのが難しくなったりする状態です。そして、変わるのは記憶だけではありません。気持ちの面でも、不安が強くなる、気分が落ち込む、イライラしやすくなる、人を疑いやすくなるなど、いろいろな変化が起こることがあります。こうした心の変化は「わがまま」や「性格が悪くなった」のではなく、脳の変化からくるものだと考えられています。本人もとまどい、不安を感じていることが多いものです。
重要な事実
- 認知症では、記憶だけでなく、気分・意欲・人との関わり方にも変化が現れることがあります。
- 不安や落ち込み、イライラは、声のかけ方や生活環境の工夫でやわらぐことがあります。
- 心の変化の背景に、脱水・便秘・感染症・薬の影響など体の不調がかくれていることもあります。早めの相談が大切です。
とてもよくあることです。認知症のある方の多くが、何らかの形で気分の落ち込み、不安、いらいら、意欲の低下などを経験するといわれています。めずらしいことでも、特別なことでもありません。
主に高齢の方に多い病気ですが、65歳未満で発症する「若年性認知症」もあります。家族歴のある方、高血圧や糖尿病などの生活習慣病のある方では、リスクが高くなると考えられています。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が乏しい
- 突然、話せない・ろれつが回らない・顔や手足の片側が動かない(脳卒中のサインの可能性)
- 転倒して頭を打ったあと、様子がおかしい・何度も吐く
- 自分や周りの人を傷つけるおそれのある行動がある
- 「消えてしまいたい」「死にたい」といった発言や、そのような様子がある
- ⚠数時間から数日のうちに、混乱やぼんやりが急に強くなった
- ⚠食事や水分をとらない、尿が出ない、ぐったりしている
- ⚠発熱・せき・痛みなど、体の不調をともなっている
- ⚠幻覚や妄想が強まり、強い恐怖を感じている
- ⚠薬が変わったあとから、様子が明らかにおかしくなった
一般的な症状
- 気分が落ち込みやすい、涙が出やすい、楽しめない
- 理由がはっきりしない不安や心配が強くなる
- ささいなことでイライラする、怒りっぽくなる
- 「物を盗られた」「悪口を言われている」と疑いやすくなる
- 趣味や外出への関心が減り、何もする気が起きない
- 人前に出るのを避ける、話すのを嫌がる
- 夜眠れない、昼夜が逆になる、夕方になると落ち着かなくなる
- 同じことを何度も訊く、確認する(不安のあらわれのことがあります)
原因
主な原因
- アルツハイマー型認知症:脳にたんぱく質の変化がたまり、記憶や判断力から少しずつ影響が出るタイプ
- 脳血管性認知症:脳の血管の病気(脳梗塞など)が原因で起こるタイプ
- レビー小体型認知症:幻視(実際にはないものが見える)や体の動きの変化をともないやすいタイプ
- 前頭側頭型認知症:性格や行動の変化が目立ちやすいタイプ
- 治療で良くなる可能性のある原因:甲状腺の病気、ビタミン不足、慢性硬膜下血腫(頭の中に血がたまる)、正常圧水頭症(脳に水がたまる)、薬の副作用、うつ病など
リスク要因
- 年齢(高齢になるほど起こりやすい)
- 家族に認知症の人がいる
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病
- 喫煙、過度の飲酒
- 運動不足、偏った食事
- 聴力の低下(聞こえにくさ)
- 社会的なつながりの少なさ、長く続くうつ状態
- 頭部のけがの経験
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に混乱が強くなった、意識がはっきりしない
- 食事や水分がとれない、ぐったりしている、発熱がある
- 転倒やけがのあとから様子が変わった
- 強い不安や恐怖、妄想で眠れない日が続いている
- 自分や他人を傷つけるかもしれないと感じる
定期受診を予約すべき場合:
- 物忘れや段取りの苦手さが増えてきたと感じる
- 気分の落ち込みや不安が2週間以上続いている
- 趣味や人づきあいを避けるようになった
- イライラや疑い深さが目立つようになった
- 夜眠れない、昼夜が逆になってきた
- 介護している家族が疲れている、どう対応してよいかわからない
診断
まずは問診で、いつごろから、どんな変化があったかを伺います。本人の話だけでなく、家族や一緒に暮らす方から見た様子も大切な情報になります。そのうえで、記憶や注意力をみる簡単な検査、血液検査、頭の画像検査などを組み合わせて、総合的に判断します。
行われる可能性のある検査
- 問診(生活の様子や変化の経過を聞く)
- 認知機能検査(記憶や注意力をみる簡単なテスト)
- 血液検査(甲状腺の病気やビタミン不足など、治療できる原因を調べる)
- 頭部のCT・MRI検査(脳の血管の病気や、血のたまり・水のたまりなどを調べる)
- 必要に応じて、より詳しい脳の画像検査や心理検査
診察で予想されること
診断までは一度で終わらず、何回かに分けて行われることがあります。検査の結果は、本人と家族が今後の生活を考えるための材料になります。診断を受けることは不安を伴うかもしれませんが、原因によっては治療で良くなるものもあるため、早めに調べることに意味があります。
治療
治療の目的は、進行をできるだけゆるやかにし、その人らしい生活を長く続けられるようにすることです。薬による治療と、薬以外の工夫(環境づくり、日中の過ごし方、家族への支援)を組み合わせて進めます。心の変化に対しては、まず体の不調や生活環境を整えることが土台になります。
自宅でのセルフケア
- 日中の明るい光を浴び、朝に起きて夜に眠るリズムをつくる
- 水分をこまめにとり、便秘をためない
- 静かで落ち着ける場所、わかりやすい表示(時計・カレンダー・部屋の目印)を用意する
- できることは本人にやってもらい、できたことを言葉にして伝える
- 急がせない、大声で叱らない。短く、やさしい言葉で伝える
- 介護する家族も、ひとりで抱え込まずに休む時間をつくる
医療治療
医師の判断で、認知機能の変化に働きかける薬が検討されることがあります。また、落ち込みや不安、いらいらが強い場合には、それに合わせた治療が行われることがあります。どの治療が合うかは人によって異なるため、効果と副作用の両方を見ながら、医師と相談して決めていきます。薬の名前や量については、必ず処方した医師・薬剤師の説明を受けてください。ここでは特定の薬の名前はお伝えしません。
手術が検討される場合
認知症そのものを手術で治すことは基本的にありませんが、検査の結果、慢性硬膜下血腫(頭の中に血がたまる)や正常圧水頭症(脳に水がたまる)など、手術で改善が見込める原因が見つかることがあります。その場合は専門の医師から詳しい説明があります。
この病気と共に生きる
その人らしい毎日を保つことが、心の安定につながります。できるだけ同じ時間に起き、食事をし、眠る。日中の予定は詰め込みすぎず、わかりやすく伝える。失敗を責めず、できたことに目を向ける。こうした積み重ねが、不安やイライラを減らす助けになります。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい生活リズムを保つ
- 日中の散歩や軽い家事など、体を動かす時間をつくる
- 人と話す機会を保つ(通いの場、地域の集まり、家族との会話)
- 聞こえにくさがある場合は、補聴器などで聞こえを整える
- 暑さ・寒さ、騒音など、環境の変化に気を配る
- お酒は控えめにし、十分な睡眠をとる
食事と運動
バランスのよい食事を心がけ、野菜・魚・豆類などを取り入れることが、体と脳の健康を支えると考えられています。塩分のとりすぎに気をつけ、水分をこまめにとりましょう。運動は、無理のない範囲で歩くことから始めるのがおすすめです。転びやすい方は、手すりのある場所や付き添いのある中で行ってください。
精神的健康と心の健康
認知症の心の変化は、本人にとっても家族にとってもつらいものです。「なぜこんなことを言うのか」と腹が立ったり、悲しくなったりするのは自然な気持ちです。まずは、その変化が病気からくるものだと知ることが、気持ちを楽にする助けになります。落ち込みや不安が強いとき、眠れない日が続くとき、「死にたい」と考えてしまうときは、ひとりで抱えず、かかりつけ医や地域の相談窓口にすぐ連絡してください。緊急の危険があるときは救急車(119)を呼んでください。
予防
すべての認知症を確実に防ぐ方法は、今のところ見つかっていません。ただし、生活習慣病を整える、体を動かす、バランスよく食べる、人とつながる、聞こえを整えるといった取り組みが、リスクを下げる助けになる可能性があるといわれています。厚生労働省も、生活習慣の改善や社会参加の重要性を伝えています。
ワクチン
認知症そのものを防ぐワクチンは現在ありません。ふだんの感染症予防(手洗い、必要な予防接種など)は、体調を保ち、急な混乱を防ぐ意味で役立ちます。
検診プログラム
健康診断の場などで、もの忘れの相談や簡単なチェックができることがあります。気になる変化があるときは、自治体の相談窓口やかかりつけ医に相談してみてください。
合併症
治療しない場合
- 気分の落ち込みや不安が強くなり、生活の質が下がることがある
- 食事や水分がとれず、体力が落ちる
- 転倒やけが、事故の危険が増える
- 妄想や混乱が強まり、本人も家族もつらくなる
- 介護する家族の疲れがたまり、体調を崩すことがある
長期的な見通し
認知症は、少しずつ変化していく状態ですが、かかわり方や支援の工夫で、穏やかに過ごせる時間は十分にあります。早めに相談し、必要な支援をつなげることで、本人も家族も安心して暮らしやすくなります。心配なことがあれば、どうかひとりで抱えず、医療や地域の相談先を頼ってください。
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最終更新: 2026年10月23日
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