認知症と安全なくらし ― 事故やトラブルを防ぐために
概要
認知症(にんちしょう)は、脳の働きが少しずつ低下して、覚える・思い出す・段取りを考える・判断することが難しくなる状態です。年齢を重ねるほど起こりやすくなりますが、ふつうの「もの忘れ」とはちがい、毎日の生活や人との付き合いに支障が出てくるのが特徴です。この記事では、とくに「安全」にしぼってお話しします。認知症があると、火の始末、鍵の管理、外出、お金のやり取り、薬の飲み方などで、思わぬ事故やトラブルが起きやすくなります。でも、暮らし方を少し工夫するだけで防げる危険はたくさんあります。あせらず、ひとつずつ整えていきましょう。
重要な事実
- 認知症があると、火の元・外出・薬・お金の管理などで事故やトラブルが起きやすくなります。
- 危険の多くは、住まいの工夫とまわりの人の見守りで減らせます。
- 急に様子がおかしくなったときは、認知症の進み方ではなく別の病気が隠れていることがあります。
- ひとりで抱え込まず、かかりつけ医や地域の相談窓口に早めに相談することが大切です。
とても身近な病気です。国の推計では、日本では65歳以上の人のおよそ5人に1人が認知症になると見込まれているといわれています。誰の家族にも起こりうることであり、決してめずらしい話ではありません。
主に65歳以上の高齢者に多くみられます。一方で、18〜64歳で発症する「若年性認知症(じゃくねんせい)」もあり、働き盛りの人にも起こります。年齢だけで決まるものではなく、誰にでも起こりうる可能性があります。
症状
- 意識がない、呼びかけても反応がうすい
- けいれんが続いている、体が硬直している
- 息苦しい、胸が痛い、顔のまひやろれつの回りにくさがある(脳卒中のサインの可能性)
- 火事・やけど・ガス漏れ・感電のおそれがある
- 車道に出てしまった、交通事故にあった・起こした
- 薬や洗剤などを大量にのみ込んだ可能性がある
- 高い熱と急な混乱が同時に起きている
- 頭を強く打ったあと、吐き気や強い頭痛、ぼんやりが続く
- ⚠いつもとちがい、半日〜数日で急に混乱が強くなった
- ⚠転んで頭を打ったが、自分では様子がわからない
- ⚠水分や食事をほとんどとれていない、ぐったりしている
- ⚠薬を飲み間違えたが、どのくらい飲んだかわからない
- ⚠行方不明になりかけた、夜中に外へ出てしまう
- ⚠尿が出ない、ひどい便秘や腹痛がある
- ⚠気分の落ち込みが強く、自分を傷つけたい気持ちがある
一般的な症状
- 同じことを何度も聞いたり話したりする
- 約束や予定を忘れてしまう
- 物の置き場所がわからず、探しものが増える
- 火の始末やガスの元栓を忘れる
- 家のカギをかけ忘れる、閉め出されてしまう
- 薬を飲んだかどうかわからず、飲み忘れや飲みすぎが起きる
- 料理や買い物の段取りがうまくいかなくなる
- お金の計算を間違えたり、料金を支払い忘れたりする
- 知らない道で方向がわからなくなる、迷いやすい
- 時間や場所の感覚があいまいになる
- 慣れた家電や機器の使い方がわからなくなる
- 暑さ・寒さを感じにくくなり、服装や水分補給が適切にできない
- suspicious(さぎ)な電話や訪問にだまされやすくなる
- 気分が落ち込む、いらいらする、こだわりが強くなるなど、性格の変化のように見えることがある
子供の症状
- 認知症は通常、子どもには起こりません。
- ただし、18〜64歳で発症する若年性認知症はあり、若い人でも起こる可能性があります。
- 子どもが家族の変化に戸惑うこともあります。家庭の中で説明し、不安を減らすことが大切です。
高齢者の症状
- 加齢によるもの忘れと区別がつきにくく、見過ごされやすいです。
- 転倒して骨折する、薬を間違える、迷子になるなど、安全面の心配が増えます。
- 脱水や栄養不足、便秘、感染症などが重なると、急に混乱が強まることがあります。
- 一人暮らしや遠くに住む家族の場合、変化に気づくのが遅れやすいです。
原因
主な原因
- 脳の神経の変化によるもの(アルツハイマー型など)
- 脳の血管の病気(脳梗塞や脳出血など)によるもの
- 脳の別の病気(レビー小体型、前頭側頭型など)によるもの
- 甲状腺の病気、ビタミン不足、感染症、薬の影響など、治療で改善することがあるもの
- 安全面の事故は、記憶・判断力の低下に、運動機能の低下や視力・聴力の変化が重なって起こります
リスク要因
- 年齢を重ねること
- 家族に認知症の人がいること
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病
- 聴力の低下
- 運動不足
- 社会的なつながりの少なさ、長く続く孤独
- うつ状態や強いストレス
- 頭を打つけがの経験
- 睡眠のトラブル
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に混乱が強くなった、数時間〜数日で様子が大きく変わった
- 頭を打ったあとに頭痛・吐き気・ぼんやりがある
- 食事や水分がとれない、ぐったりしている
- 薬の飲み間違いがあった
- 行方不明になりかけた、危険な行動があった
- 強い落ち込みや、自分を傷つけたい気持ちがある
定期受診を予約すべき場合:
- もの忘れや混乱が数か月かけて増えている
- 火の元や鍵、薬の管理で失敗が続いている
- お金のトラブルや、訪問販売・電話でのトラブルがあった
- 家族が「以前とちがう」と感じている
- 運転や外出に不安を感じるようになった
- 住まいの安全性を見直したい
診断
まずは問診で、いつごろから、どんな変化があったのかを聞きます。本人の話だけでなく、家族や身近な人の話も大切にされます。そのうえで、記憶や判断力をみる簡単なテスト、血液検査、画像検査などを行い、他の病気が隠れていないかを確かめます。安全面の心配(火の元、外出、薬、運転など)も一緒に整理していきます。
行われる可能性のある検査
- 問診(生活の変化、困りごと、服薬の状況の確認)
- 家族や身近な人からの聞き取り
- 記憶や注意力をみる簡単な検査
- 血液検査(甲状腺やビタミン、感染症などの確認)
- 頭の画像検査(CTやMRIなど)
- 必要に応じて、心臓や脳の血管の検査
- 生活動作や住まいの安全をみる評価
診察で予想されること
結果が出るまでに何度か通院することがあります。一度で決まるとは限らず、時間をかけて見きわめます。診断のあとは、生活の工夫や使えるサービスについて一緒に考える場がもうけられます。緊張してしまっても大丈夫です。聞きたいことはメモにしておくと安心です。
治療
治療は「進行をできるだけゆるやかにする」「困りごとを減らす」「安全に暮らす」という3つを柱に進みます。薬だけでなく、住まいの工夫、日中の過ごし方、家族の関わり方、地域のサービスの利用を組み合わせることが大切です。
自宅でのセルフケア
- 火の元やアイロン、コンロに自動で切れる安全機能をつける
- ガスの元栓やブレーカーの位置を目立つようにし、確認を習慣にする
- カギは目立つ場所にまとめ、なくしたときの合鍵を家族が持つ
- 薬は1回分ずつ小分けにし、飲んだかどうかを確認できる仕組みをつくる
- お金は使う分だけ手元に置き、大きな取引は家族がいっしょに行う
- 連絡先を書いたカードや名札を持ち歩く
- 夜間に外へ出ないよう、センサーライトやドアの工夫をする
- 浴室や階段に手すり・滑りにくいマットを置く
- 暑い日は声かけを増やし、水分をとる機会を一緒につくる
医療治療
医師は、症状の種類や生活の状況に合わせて治療の方針を考えます。進行をゆるやかにする薬が使われることがありますが、薬の種類や量は医師が判断します。この記事では具体的な薬の名前や量はお伝えしません。また、生活のリズムを整えること、睡眠や気分のトラブルへの対応、リハビリテーションやデイサービスの利用なども、治療の一部として大切にされます。
手術が検討される場合
認知症そのものを手術で治す方法は一般的ではありません。ただし、脳の血管の病気や、頭の中に水がたまる状態など、手術で改善が期待できる別の病気が見つかった場合は、専門の医師と相談して方針を決めることがあります。
この病気と共に生きる
毎日の暮らしでは「本人ができることは本人で、危ないところだけ支える」というバランスが大切です。できないことを数えるのではなく、できることを続けられるように環境を整えましょう。たとえば、ものをしまう場所にラベルを貼る、予定を大きな文字で見える場所に書く、同じ時間に同じ流れで過ごすなど、わかりやすい工夫が安心につながります。
生活習慣のアドバイス
- 朝に光を浴び、日中は活動的に、夜は静かに過ごしてリズムを整える
- 散歩など、無理のない範囲で体を動かす習慣を持つ
- 人と話す機会を意識してつくる(家族、友人、地域の集まりなど)
- 聞こえにくさがあれば、補聴器などの相談をする
- 車の運転は、安全面の心配があれば早めに家族や医師と話し合う
- 住まいを見直す機会をつくり、危ない場所をひとつずつ直す
食事と運動
食事は、野菜・魚・豆類などをバランスよくとり、塩分をとりすぎないことが基本です。水分はのどがかわく前に少しずつとりましょう。運動は、ウォーキングや軽い体操など、会話ができる程度のものを続けるのがおすすめです。転倒を防ぐために、無理な運動は避け、必要なら手すりや杖も活用しましょう。
精神的健康と心の健康
本人も家族も、不安や焦り、悲しさ、怒りを感じることは自然なことです。とくに介護する家族は、疲れや孤立感をため込みやすいといわれます。つらさが強いとき、気分の落ち込みが続くとき、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、一人で抱えず、かかりつけ医や地域の相談窓口、いのちの電話などの相談サービスに連絡してください。緊急の危険があるときは119番へ。休息をとることも、大切なケアのひとつです。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを下げることは期待できます。血圧や血糖を整える、禁煙する、体を動かす、人とのつながりを持つ、聞こえにくさに対応する、頭を打たないようにする、といった積み重ねが大切です。また、すでに認知症がある場合でも、事故やけがの多くは環境の工夫で防げます。
ワクチン
認知症そのものを防ぐワクチンはありません。ただし、肺炎やインフルエンザなどの感染症は体調を大きくくずすきっかけになるため、予防接種についてはかかりつけ医や薬局に相談するとよいでしょう。
検診プログラム
もの忘れが気になるときは、自治体の健康診断や、もの忘れ外来などの相談が利用できます。検査を受けるかどうか迷うときは、かかりつけ医に気軽に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 転倒や骨折など、けがのリスクが高まる
- 火事ややけど、ガス漏れなどの事故
- 薬の飲み間違いによる体調不良
- 行方不明や交通事故
- 詐欺や悪質な訪問販売などの被害
- 脱水、栄養不足、便秘などの体調の悪化
- 人とのつながりが減り、孤立や落ち込みが強くなる
- 家族の疲れがたまり、介護が続けにくくなる
長期的な見通し
認知症は長く付き合っていく状態ですが、工夫と支えで、安全に、その人らしく暮らすことは十分に可能です。早めに相談して環境を整えるほど、選択肢は広がります。できないことより、できることと喜びに目を向けながら、少しずつ進んでいきましょう。
サポートを探す
外部リンクは第三者のウェブサイトを開きます。Ruqelo は外部コンテンツについて責任を負いません。団体名の掲載は推奨を意味するものではありません。
必ず医師に確認してください
健康に関する案内は国や地域によって異なります。このページは一般的な教育情報であり、お住まいの地域の指針、薬、診療と一致しない場合があります。心配な点はご自身の医師または医療提供者に相談し、地域の案内がある場合はそれに従ってください。
重要なお知らせ この情報は教育目的にのみ提供されています。専門的な医療アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の状況については、常に資格を持つ医療専門家にご相談ください。医療上の緊急事態が発生した場合は、直ちに最寄りの救急医療サービスに連絡してください。
関連する疾患
情報源とガイダンス
このトピックを名指しする指針はありません
このページには、このトピックそのものを名指しする健康ガイドラインや臨床の章は引用されていません。このページは一般的な教育と情報のみを目的としています。診断、治療計画、個人への医学的助言ではありません。ご自身の医師に確認し、その指示に従ってください。症状が重い、突然である、または心配な場合は速やかに受診し、緊急時は地域の緊急番号に電話してください。Ruqelo LLC は、この情報に基づく判断から生じる医学上または法律上の結果について責任を負いません。
最終更新: 2026年10月23日
教育上の注記: この情報は教育目的のみであり、診断ではありません。
免許を持つ医療者のアドバイスを補うために使い、代わりにはしないでください。
症状が重篤、悪化、または緊急の場合は、地域の救急番号に電話するか、緊急医療を受けてください。
Guidance may differ by country or region. Confirm local recommendations with a qualified healthcare provider.