認知症を介護する人のセルフケア — 介護する側を支えるために
概要
認知症の人の介護は、家族や身近な人が担うことが多いものです。この記事は、介護される人ではなく「介護する側の人」の心と体を守ることをテーマにしています。介護は何年も続くことがあり、がんばり続けるうちに疲れがたまっていきます。介護する人の疲れや不調は、弱さではなく、よくある自然な反応です。早めに気づいて助けを借りることは、介護を続けやすくし、介護される人にとっても安心につながります。
重要な事実
- 介護をしている人の多くが、強い疲れ・眠れない・気分の落ち込みなどを経験するといわれています。
- レスパイト(一時的に介護から離れて休むこと)は、介護保險などの制度で利用できることがあります。
- 地域包括支援センター(高齢者の相談窓口)やかかりつけ医など、一人で抱え込まないための相談先があります。
めずらしいことではありません。介護をしている人の多くが、何らかの疲れやストレスを感じた経験があるといわれています。
同居する家族(配偶者、子ども、きょうだいなど)が中心ですが、離れて暮らす家族、学生などの若い人、自分自身も高齢で持病のある配偶者など、幅広い人が介護を担っています。
症状
- 自分や相手を傷つけたい、死にたいと考えている
- 胸の強い痛み、息苦しさ、意識がもうろうとするなど、緊急の体の症状がある
- 介護している人への暴力が止められない、または危険な状態になっている
- ⚠眠れない日が何日も続き、食事もとれない
- ⚠急に体重が減った、力が出ない、立ち上がれない
- ⚠動悸や不安が強く、日常生活が回らない
- ⚠介護を続けることが難しいと感じるほど追い詰められている
- ⚠たたく・怒鳴る・放置するなど、してはいけない対応をしてしまいそうになる
一般的な症状
- 休息をとっても疲れが取れない、朝起きるのがつらい
- 寝つけない、夜中に何度も起きる、眠りが浅い
- 理由もなく涙が出る、気分が落ち込む、何も楽しめない
- イライラしやすくなる、声をあらげてしまう
- 物忘れが増えた、集中できない、頭が回らない感じがする
- 頭痛、胃の痛み、肩こり、動悸など体の不調が続く
- 「自分しかいない」と感じて孤立する、人に会うのがおっくうになる
- お酒やたばこが増える、食事を抜く、体重が減る
子供の症状
- 学校に行きづらくなる、成績が下がる、宿題が手につかない
- 友人と遊ばなくなる、自分の時間が持てない
- 家のことを話せず、一人で抱え込む
- いらいらしたり、赤ちゃん返りのような様子が出たりする
- 「助けて」と言えず、体の不調として表れることがある
高齢者の症状
- 自分自身の持病(血圧、心臓、糖尿病など)が悪化する
- 通院や自分の食事が後回しになる、栄養が偏る
- 転倒やけがが増える、体力が落ちる
- 「自分が倒れたら終わり」という不安が強くなる
- 友人づきあいが減り、引きこもりがちになる
原因
主な原因
- 休みなく長時間の介護が続き、睡眠が分断される
- 食事・排泄・入浴・夜間の見守りなど、24時間体制になりやすい
- 認知症の行動や心理の症状(不安、いらいら、物忘れへの混乱など)への対応が負担になる
- 「家族がやるべき」と考えて、外部のサービスを使わず抱え込む
- 介護保険や使える制度を知らないまま介護が始まる
- 費用の心配、仕事との両立、家族間の意見の違い
リスク要因
- 一人で介護している、頼れる人が近くにいない
- 介護者自身が高齢、または持病がある
- 睡眠不足が続いている
- 介護される人との関係性が難しかった過去がある
- 相談できる相手や場所がない
- 男性の介護者、遠距離介護、仕事と介護の両立
- 認知症の診断を受けたばかりで、先の見通しが立たない時期
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 眠れない・食べられない状態が続き、日常生活が保てない
- 気分の落ち込みが強く、自分や相手を傷つけたい気持ちがわく
- 胸の痛み、息苦しさ、動悸など体の不調が強い
- 介護への対応で手をあげてしまいそうになる、またはしてしまった
定期受診を予約すべき場合:
- 疲れが数週間以上続いている
- 眠りが浅い、朝起きられない日が増えた
- 以前楽しめていたことに興味がわかない
- 介護のことで相談したいが、どこに言えばよいかわからない
- 使える制度やサービスについて整理したい
診断
介護する人の不調は、診察や質問票を使って整理されます。うつ病や適応障害、燃え尽き(バーンアウト)とよばれる状態と判断されることもあります。かかりつけ医、保健師、地域包括支援センターの相談員などが最初の窓口になります。
行われる可能性のある検査
- 問診(睡眠、食事、生活のリズム、介護の状況を聞く)
- 気分や不安の状態をみる質問票
- 血液検査(貧血や甲状腺など、体の病気が隠れていないかの確認)
- 血圧や体重の測定
- 必要に応じて、心療内科や精神科などの専門機関の紹介
診察で予想されること
まずは話を聞いてもらい、状況を一緒に整理するところから始まります。「介護をやめなさい」と言われる場ではありません。使える制度や休息の取り方を、一緒に考える場です。
治療
中心になるのは、介護する人自身の休息と、まわりからのサポート体制をつくることです。医療はそれを支えるために使います。
自宅でのセルフケア
- 休む時間を先に予定として入れる(15分でもよい)
- 家族や友人に具体的に頼む(「買い物だけ」「1時間だけ見ていて」など)
- レスパイト(一時的に介護から離れて休むこと)の利用を検討する
- 夜間の対応を分担する、見守り機器などを活用する
- 食事を抜かない、少しでも体を動かす時間をつくる
- 気持ちを話せる相手や相談の場を持つ
- 介護の記録をつけて、状況を整理する
- 「完璧にやらない」と自分に許可を出す
医療治療
不眠や気分の落ち込みが強いときは、医療機関で相談することが役立ちます。医師は、体の病気が隠れていないかを確認し、睡眠や気分の状態に応じて、休息の取り方や相談先を一緒に考えます。治療が必要かどうか、どんな方法が合うかは人によって異なります。必ず医師や薬剤師の説明を受けてください。この記事では、特定の薬の名前や量はお伝えしません。
この病気と共に生きる
介護は毎日の積み重ねです。だからこそ、毎日のどこかに「自分のための小さな時間」を入れることが大切です。予定にないと休めないので、休息も予定表に書き込みましょう。完璧を目指さず、その日にできたことを数える方が続けやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 起きる時間と寝る時間をできるだけ一定にする
- 短い昼寝を上手に使う(長すぎないように)
- 近所を歩くなど、軽い運動を日常に取り入れる
- 自分の趣味や、友人との連絡を細くても続ける
- 信頼できる人に、状況を定期的に話す
- 役所や地域包括支援センターの窓口に一度相談しておく
- 介護日誌をつけ、変化を医療者に伝えられるようにする
食事と運動
食事は抜かず、決まった時間にとることを心がけましょう。用意が大変なときは、無理のない範囲で簡単なもので構いません。体を動かすことは、眠りと気分の両方に役立ちます。激しい運動でなくてよく、散歩や軽いストレッチで十分です。
精神的健康と心の健康
怒り、悲しみ、罪悪感、「逃げたい」という気持ちがわくことは、決して異常ではありません。介護している人の気持ちは揺れて当然です。つらい気持ちが強いとき、自分を傷つけたいと考えたときは、ひとりで抱えず、すぐに救急(119)や医療機関、お住まいの自治体の相談窓口に連絡してください。
予防
完全に防ぐことは難しいですが、早めに相談すること、休息を予定に入れること、介護を分担することで、強い疲れがたまるのをやわらげられる可能性があります。
検診プログラム
自治体の健康診査や、こころの健康相談を定期的に利用するのもひとつの方法です。自分の体と心の状態を、年に一度は見直してみましょう。
合併症
治療しない場合
- うつ病や不安障害、睡眠障害が進むことがある
- 血圧や心臓、糖尿病などの持病が悪化する
- 転倒やけが、栄養不足が起こりやすくなる
- 介護する人への不適切な対応や虐待につながるおそれがある
- 仕事を続けられなくなる、経済的に苦しくなる
- 人とのつながりが切れ、孤立が深まる
長期的な見通し
介護する人の疲れは、早めに気づいて助けを借りることで、ずいぶん軽くできます。相談することは、介護される人の安心にもつながります。ひとりで抱え込まなくてよい、ということがいちばん大切なメッセージです。
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最終更新: 2026年10月23日
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