脱髄疾患(神経の膜が傷つく病気)
概要
脱髄疾患は、神経の線維を包んでいる「ミエリン」という保護膜(髄鞘・ずいしょう)が傷つく病気の総称です。神経は電線のようなもので、ミエリンは電線の被覆のような役割をしています。被覆が傷つくと、脳や脊髄、末梢神経(体の外側に張り巡らされた神経)の信号がうまく伝わりにくくなり、しびれ、力の低下、視力の変化、歩きにくさなどが起こることがあります。脱髄疾患は一つではなく、多発性硬化症、視神経炎、横断性脊髄炎、ギラン・バレー症候群など、いくつかの病気のグループです。
重要な事実
- 脱髄疾患は一つの病気ではなく、神経の保護膜が傷つく病気のグループです。
- 症状は傷つく場所によって異なり、軽いものから日常生活に影響するものまでさまざまです。
- 人にうつる病気ではありません。
- 治療やリハビリで症状をコントロールしながら生活している人が多くいます。
脱髄疾患は全体として比較的まれな病気のグループです。多発性硬化症など一部の病気は日本でも指定難病の対象になっています。まれだからといって、症状を我慢する必要はありません。
子どもから高齢者まで、どの年齢でも起こる可能性があります。多発性硬化症などは20〜40代の若い成人に多いといわれ、女性に多い病気もあります。高齢者では、加齢による変化と間違われやすいこともあります。
症状
- 突然の顔のまひ、片側の手足の力が入らない、ろれつが回らない
- 突然の視力低下や視野の欠け、ものが急に二重に見える
- 歩けないほどのふらつき、意識がもうろうとする、けいれん
- 息苦しさ、飲み込みにくさ、声が出しにくいなど、呼吸やのどの症状が急に進む
- 突然の激しい頭痛、発熱と首の硬さ、混乱
- 少しでも緊急と感じたら、ためらわず119番に電話してください
- ⚠新しいしびれや力の低下が数時間〜1日以内に出た
- ⚠視力の変化や目の痛みが急に出た
- ⚠排尿・排便が自分でコントロールしにくくなった
- ⚠歩行のふらつきが急に強くなった
- ⚠発熱や感染のあとに、神経の症状が悪化した
一般的な症状
- 手足のしびれ、ピリピリした感じ、感覚が鈍くなる
- 手足に力が入りにくい、疲れやすい
- 視力がぼやける、ものが二重に見える、目を動かすと痛む
- 歩くときにふらつく、バランスが取りにくい
- 排尿・排便のコントロールがしにくくなる
- 筋肉がこわばる、けいれんするような動きが出る
- 痛みがある
- 考えがまとまりにくい、集中しにくい(脳の疲れ)
- 暑さや入浴で症状が一時的に悪化しやすい
子供の症状
- 機嫌が悪い、元気がない、赤ちゃんでは発達の後戻りが見られることがある
- 視力の変化、目の痛み、ものが二重に見える
- 手足の力が入りにくい、歩き方がおかしい
- けいれん、意識の変化、発熱後の急な症状
高齢者の症状
- 手足の力の低下やしびれが、加齢や他の病気と間違われやすい
- 歩行のふらつき、転びやすさ
- 視力の変化、目の動きの異常
- 排尿のトラブル、便秘
- 他の薬の影響や合併症を確認しながら診断を進めることが大切
原因
主な原因
- 自分の免疫(体を守る仕組み)が、誤って神経の保護膜を攻撃してしまうこと
- ウイルスや細菌の感染のあとに、免疫の反応が関係して起こることがある
- 遺伝的な体質と環境の要因が組み合わさって起こると考えられているものがある
- はっきりした原因がまだわかっていないものもある
リスク要因
- 家族に脱髄疾患の人がいる
- ビタミンDが不足しやすい生活
- ウイルス感染の既往
- 免疫の働きに影響する病気や治療を受けている
- 肥満や生活習慣が関係する可能性も指摘されている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の力の低下、顔のまひ、ろれつが回らない、視力の急な変化
- 歩けないほどのふらつき、意識の変化、けいれん
- 呼吸が苦しい、飲み込みにくい、声が出しにくい
- 排尿・排便が急にできなくなった
定期受診を予約すべき場合:
- 数日以上続くしびれ、痛み、疲れやすさ
- 視力のぼやけや目の痛みが続く
- 歩きにくさ、バランスの不安が続く
- 排尿・排便の変化が続く
- 集中しにくい、記憶の変化が気になる
- 症状の記録を持って、かかりつけ医や神経内科に相談する
診断
診断は、症状の経過を聞く問診、神経の働きを調べる診察、画像検査などを組み合わせて行います。脱髄疾患は一つではないため、似た症状の他の病気を除外しながら、時間をかけて診断を進めることがあります。
行われる可能性のある検査
- 問診と神経学的診察(力、感覚、反射、目の動き、歩き方などを確認)
- MRI(脳や脊髄、目の神経などの画像を調べる)
- 血液検査(他の病気や炎症の有無を確認)
- 髄液検査(腰から細い針で液を採り、炎症の変化を調べる。必要に応じて行う)
- 神経伝導検査(末梢神経の信号の伝わり方を調べる)
- 視覚誘発電位など、神経の信号を調べる検査
診察で予想されること
診断までに複数の受診や検査が必要なことがあります。一度の検査で決まらないこともありますが、それは慎重に他の病気を除外しているためです。不安なことは医師に質問し、検査の目的を確認しながら進めましょう。
治療
脱髄疾患の治療は、急性の炎症を抑えること、再発を防ぐこと、症状を和らげること、リハビリで生活機能を保つことから成ります。病気の種類や症状の強さによって治療の組み立て方が変わります。根治が難しい病気もありますが、治療と工夫で生活の質を保つことは可能です。
自宅でのセルフケア
- 症状と体調を記録し、受診時に医師に見せる
- 疲れをためないように休憩をとる
- 暑さで症状が悪化しやすい場合は、涼しい環境を工夫する
- 医師の指示どおりに治療を受け、自己判断で中断しない
- 転倒しないように、家の中の通路や照明を整える
- 排尿・排便の悩みは一人で抱えず、早めに相談する
医療治療
急性期には炎症を抑える治療が行われることがあります。再発を防ぐために、免疫の働きを調整する治療が検討される病気もあります。症状に合わせて、痛み、疲労、筋肉のこわばり、排尿・排便の悩みに対する治療や、理学療法・作業療法などのリハビリテーションを行います。治療は病気の種類、症状、生活背景に合わせて医師と相談して決めます。
手術が検討される場合
脱髄疾患そのものを手術で治すことは通常ありません。ただし、合併症や別の病気が疑われる場合には、手術が必要かどうかを専門医が判断することがあります。
この病気と共に生きる
脱髄疾患は、症状が良くなったり悪くなったりしながら長く付き合うことがある病気です。体調に合わせて予定を調整し、疲れたら休むことを大切にしてください。無理をしない範囲で、できる活動を続けることが生活の質を保つ助けになります。
生活習慣のアドバイス
- バランスの良い食事を心がける
- 無理のない範囲で体を動かす
- 禁煙する
- 睡眠を十分にとる
- 暑さや寒さなど、症状を悪化させる要因を避ける工夫をする
- ストレスをためず、相談できる人や場所を持つ
- 車の運転や仕事について不安があるときは、医師や支援者に相談する
食事と運動
特別な食事法だけで病気が治るということはありません。野菜、たんぱく質、主食をバランスよくとり、水分を適切にとることが基本です。運動は、疲れすぎない程度の散歩やストレッチ、医師や理学療法士の指導による運動が役立ちます。症状に合わせて無理のない範囲で続けましょう。
精神的健康と心の健康
体の症状が続くと、不安、落ち込み、いらいら、孤立感を感じることがあります。これは弱さではなく、病気に向き合う中で自然に起こることです。つらい気持ちが続くときは、医師、看護師、心理の専門家、地域の相談窓口に話してください。自分を傷つけたい気持ちがあるなど緊急の場合は、ためらわず119番など緊急の連絡先に助けを求めてください。
予防
脱髄疾患の多くは、確実に予防する方法が確立していません。感染予防、禁煙、バランスの良い食事、適度な運動など、体調を整えることが一般的な健康づくりとして役立ちます。
ワクチン
脱髄疾患そのものを防ぐワクチンはありません。免疫の働きを調整する治療を受けている場合は、ワクチンの種類によって注意が必要なことがあります。接種について迷うときは、主治医に相談してください。
検診プログラム
一般の人を対象にした脱髄疾患のスクリーニング検査はありません。気になる神経の症状があるときは、早めに医療機関を受診することが大切です。
合併症
治療しない場合
- 神経の傷が残り、しびれや力の低下が続くことがある
- 視力の障害が残ることがある
- 排尿・排便のトラブルが続くことがある
- 疲労や痛み、気分の落ち込みが生活に影響することがある
- 一部の急性の脱髄疾患では、呼吸の筋肉が弱くなることがある
長期的な見通し
脱髄疾患の経過は人によって大きく異なります。症状が落ち着いて長く安定する人も多く、治療やリハビリ、生活の工夫で日常を続けている人がいます。早めに相談し、自分に合った支援を見つけることが、これからの生活を支えます。
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最終更新: 2026年10月23日
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