歯のけがと歯を失うこと
概要
歯のけが(歯の外傷)は、転んだり、ぶつかったり、硬いものをかんだりして、歯が欠ける・折れる・ぐらぐらする・抜けてしまうことをいいます。また「歯を失う」原因には、こうしたけがのほかに、むし歯や歯周病(歯ぐきと、歯を支える骨の病気)が進んだ場合などがあります。歯は食べるためだけでなく、話すこと、見た目、そして体全体の健康にも関わります。
重要な事実
- 歯のけがは、子どもから高齢者まで、日常のふとした事故で起こります。
- 大人の歯(永久歯)が抜けたときは、歯を乾かさずに保存し、できるだけ早く歯科を受診すると元に戻せる可能性が高くなります。
- 歯を1本失うと、かみ合わせや周りの歯にも負担が広がることがあるため、早めの相談が大切です。
珍しいことではありません。転倒やスポーツ中の接触による歯のけがは国内外で多く報告されており、大人が歯を失う主な原因としては、むし歯と歯周病がよく知られています。
特に多いのは、歩き始めの子ども(乳歯)、8〜10歳ごろの子ども(永久歯の前歯)、スポーツをする10代から20代の方です。高齢の方では、転倒や歯周病、入れ歯の不調などが関係します。どの年代でも起こりえます。
症状
- 頭や顔を強く打ち、意識がもうろうとしている、または記憶がない
- けいれんがある、何度も嘔吐する
- 口や鼻から血が大量に出て止まらない
- 呼吸が苦しい、のどに血がまわっている感じがする
- 顎(あご)がずれて口が閉じられない、顔が大きく腫れている
- ⚠歯が完全に抜けてしまった(できるだけ早く、目安として1時間以内に歯科へ)
- ⚠歯が深く折れて、神経が見えている、または強い痛みがある
- ⚠歯が大きくずれた、ぐらぐらして動く
- ⚠出血が続いている
- ⚠欠けた歯の角が鋭く、口の中を傷つけている
- ⚠発熱や顔の腫れを伴う(感染の可能性があります)
一般的な症状
- 歯が欠けた、折れた、角がとがっている
- 歯がぐらぐらする、位置がずれている、向きが変わった
- 歯が完全に抜けてしまった
- 歯ぐき、唇、ほおの内側からの出血や腫れ
- かむと痛い、冷たいものがしみる、触ると痛い
- 時間がたってから歯の色が変わって見える
子供の症状
- 泣いて口を触らせたがらない、口元を押さえる
- 乳歯が抜けた、ぐらついている(永久歯への影響を確認するため受診が大切です)
- 乳歯は大人の歯と違い、抜けた歯を元に戻す処置は通常行いません。自分で押し込もうとしないでください。
- 言葉で痛みをうまく伝えられないことがあるため、様子の変化に気づくことが大切です
高齢者の症状
- 転倒による歯の破折や、口の中のけが
- 歯周病で歯がぐらつく、自然に抜ける
- 入れ歯が合わず、残っている歯に負担がかかる
- 口の渇きや、ふらつきを招く薬の影響で転びやすくなる(薬について気になる場合は主治医や薬剤師に相談してください)
- 骨が弱くなる病気がある方は、折れやすいことがあります
原因
主な原因
- 転倒、階段や自転車での事故
- スポーツ中の接触(マウスガードを使っていない場合)
- 人や物にぶつかった、打撲などの外傷
- 硬いものをかむ、歯ぎしりやくいしばり
- むし歯が進み、歯がもろくなっている
- 歯周病で歯ぐきや、歯を支える骨が弱っている
- 神経の処置をした歯は、折れやすいことがある
リスク要因
- 幼い子ども、特に歩き始めの時期
- マウスガードなしで行うスポーツ
- 歯ぎしり、くいしばりの習慣
- むし歯や歯周病の治療を受けていない、検診を受けていない
- 飲酒や、ふらつきを招く薬の使用(薬について気になる場合は主治医・薬剤師に相談してください)
- 視力の低下やバランス能力の低下、住まいの中の段差や滑りやすい床
- 骨が弱くなる病気がある方
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 歯が抜けた、大きくずれた、深く折れた
- 強い痛みや出血が続く
- 顔や口の周りが腫れてきた、熱がある
- 口が十分に開かない、かむと激痛が走る
- けがのあとから息苦しさや飲み込みにくさがある(その場合は救急要請を検討してください)
定期受診を予約すべき場合:
- 冷たいものがしみる、かむと少し痛む
- 以前のけがのあと、歯の色が変わってきた
- 歯のぐらつきが続いている
- 歯を失ったまま放置している、入れ歯が合わない
- 見た目や発音が気になっている
診断
まず、いつ・どこで・どのようにけがをしたかを聞き、口の中を診察します。歯の動きや、たたいたときの痛み、歯ぐきの状態を確認し、必要に応じて画像の検査を行います。
行われる可能性のある検査
- レントゲン撮影(歯の根や、歯を支える骨の状態を見る)
- 必要に応じてCT撮影(折れ方や、顎の骨の状態を詳しく見る)
- 歯の神経の反応を見る検査(冷たいものや弱い刺激への反応)
- 口の中の写真撮影(治療前後の記録として)
診察で予想されること
診察はそれほど時間がかからないことが多いです。けがの直後は、処置の前に歯科医から説明を受けられます。お子さんの場合は保護者の方が一緒に説明を聞くと安心です。気になることは遠慮なく質問してください。
治療
治療の方法は、けがの種類と歯の状態によって変わります。欠けた歯は形を戻し、ずれた歯は元の位置に戻して固定し、抜けた永久歯は時間との勝負で元に戻す処置を検討します。すでに歯を失っている場合は、かむ力と見た目をどう補うかを、歯科医と相談しながら選んでいきます。
自宅でのセルフケア
- 抜けた歯は、歯の根元(根の部分)に触らず、牛乳か生理食塩水に浸して乾かさないようにしてください。それが難しければ、ほおの内側と歯ぐきの間に置いておく方法もあります。
- 自分で無理に歯を押し込もうとしないでください(特に乳歯は戻してはいけません)。
- 出血があるときは、清潔なガーゼで10〜15分ほど押さえてください。
- 腫れが強いときは冷やして、早めに受診してください。
- 痛み止めが必要に思うときは、自己判断せず、歯科医や薬剤師に相談してください。
- 治療後しばらくは、柔らかく刺激の少ない食事を選び、喫煙や飲酒は控えめにしてください。
- スポーツへの復帰は、歯科医や医師の許可を待ちましょう。
医療治療
欠けた部分は詰め物やかぶせ物で形を戻します。折れ方が深く神経にまで及ぶ場合は、神経の処置を検討します。歯がずれた場合は、元の位置に戻して隣の歯と固定し、数週間安静にして様子を見ます。抜けた永久歯は、洗って根元に触れないように扱い、元の位置に戻す処置(再植)を検討します。歯を失った場合は、ブリッジ、入れ歯、インプラントなどの方法を、年齢や残っている歯の状態、生活スタイルに合わせて相談します。感染を防ぐための処方が必要なこともあります。具体的な薬や量は、歯科医の指示に従ってください。
手術が検討される場合
骨にまで及ぶ折れ方、顎の骨折、インプラントの処置、歯ぐきの手術などが必要な場合は、歯科口腔外科などの専門の科を紹介されることがあります。
この病気と共に生きる
治療のあとは、かみ合わせの変化に慣れるまで少し時間がかかります。無理をせず、気になることがあれば早めに歯科医院に伝えてください。定期的な検診を受けることで、変化に早く気づけます。
生活習慣のアドバイス
- 柔らかめの歯ブラシを使い、歯と歯の間はフロスなどでていねいに掃除する
- スポーツをするときはマウスガードの使用を検討する
- 喫煙は歯ぐきの治りを悪くするため、控えることを検討する
- 飲酒は控えめにし、転倒のきっかけを減らす
- 住まいの段差や滑りやすい床を見直し、夜間の照明を明るくする
食事と運動
治療直後は、柔らかく栄養のある食事を選びましょう。たんぱく質やカルシウムを含む食品を、バランスよくとることが大切です。激しい運動は歯科医の指示に従って段階的に再開してください。高齢の方は、転倒予防のための筋力づくりやバランス運動も役立ちます。
精神的健康と心の健康
見た目の変化や、話しにくさ、食べにくさから、気持ちが落ち込んだり、人と会うのが不安になったりすることがあります。これは自然な気持ちです。つらいときは一人で抱えず、家族や歯科医に話してみてください。気分の落ち込みが続く場合は、かかりつけ医や地域の保健所・自治体の相談窓口に相談できます。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、工夫でリスクを下げることはできます。スポーツ時のマウスガード、定期的な歯科検診、むし歯と歯周病の予防、転倒しにくい環境づくり、車ではシートベルトを着けることなどが役立ちます。
ワクチン
歯のけがを防ぐワクチンはありません。
検診プログラム
自治体の歯科健康診査や、学校・職場の歯科検診を活用しましょう。かかりつけの歯科医院で定期的に診てもらうと、歯ぐきやかみ合わせの変化に早く気づけます。
合併症
治療しない場合
- 歯を失う、または抜かざるを得なくなる
- かみ合わせが乱れ、周りの歯に負担がかかる
- 歯を支える骨が減ってしまう
- 見た目や発音に影響が出る
- 食べにくくなり、栄養が偏ることがある
- 感染を起こして歯ぐきが腫れたり、膿が出たりする
- 痛みが長引く
長期的な見通し
歯のけがや歯の喪失は、早めの対応で状態を保てることも多いです。歯を失った場合でも、かむ力と見た目を補う方法はいくつもあります。落ち込まずに、まずは歯科医院に相談してみてください。
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最終更新: 2026年10月23日
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