網膜剥離(もうまくはくり)〜目の「フィルム」がはがれる病気〜
概要
眼の中は、カメラにたとえるとわかりやすい器官です。光が通る道(レンズ)の奥に、光を感じ取る薄い膜があり、これが「網膜(もうまく)」です。カメラでいうフィルムのような役割をしています。網膜剥離は、この薄い膜が眼の内側の壁からはがれてしまう状態です。はがれた部分は光を感じにくくなり、視野の一部が欠けたり、ものが見えにくくなったりします。はがれたままにしておくと、網膜の細胞が傷んで元に戻りにくくなるため、できるだけ早く眼科で診てもらうことが大切です。
重要な事実
- 網膜剥離は「目のフィルムがはがれる」病気で、放置すると視力が戻りにくくなることがあります。
- 多くは、急に飛蚊(ひぶん)症(虫が飛んでいるように見えること)が増える、光がピカピカ走る、視野の端にカーテンが下りるように見えなくなる、といったサインで始まります。
- 治療の中心は手術で、早く見つかるほど視力が残る可能性が高くなります。少しでも「いつもと違う」と感じたら、その日のうちに眼科を受診しましょう。
網膜剥離は、それほど頻繁に起こる病気ではありません。ただし、強い近視の人やご年配の方では起こりやすく、決してめったにない珍しい病気というわけでもありません。片方の目に起こった人は、もう片方の目にも起こるリスクが少し高くなると言われています。
中高年以降の方に多くみられますが、若い方やお子さんに起こることもあります。なりやすいのは、強い近視(めがねの度がとても強い)の方、白内障(はくないしょう)の手術を受けたことのある方、眼を強くぶつけた経験のある方、ご家族に網膜剥離の人がいる方、糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)などの眼の病気がある方です。
症状
- 眼を強くぶつけたあと、激しい痛みとともに見えなくなった、眼から出血している(眼球破裂などの可能性)。すぐに119番に電話してください。
- 化学薬品(洗剤、薬品、石灰など)が眼に入った。すぐに水でよく洗い流しながら、119番に連絡してください。
- 頭を強く打ったあとに、見えにくい・ものが二重に見える・意識がぼんやりする。すぐに119番に電話してください。
- ⚠急に飛蚊症(蚊のようなものが見える)が増えた。
- ⚠光がピカピカ走る、稲妻のような光が見える。
- ⚠視野の端にカーテンが下りるように、見えない部分が出てきた。
- ⚠急に視力が下がった、ものがゆがんで見える。
- ⚠これらは「その日のうちに眼科を受診」が必要なサインです。夜間や休日で受診先がわからないときは、お住まいの地域の救急相談窓口や、地域の救急外来に相談してください。
一般的な症状
- 飛蚊症(ひぶんしょう):蚊や糸くずのようなものが視界に浮かんで見える。急に数が増えたら注意のサインです。
- 光視症(こうししょう):目を動かしたときなどに、ピカッと光が走る、稲妻のような光が見える。
- 視野の一部が欠ける:視野の端から「カーテンが下りてくる」ように見えなくなる。これは網膜剥離の典型的なサインです。
- ものがゆがんで見える、中心が見えにくい(黄斑(おうはん)という視力の中心になる部分まで及んだ場合)。
- 急に視力が下がる、視界がぼやける。
- 痛みはほとんどありません。痛くないから大丈夫、と思わずに、見え方の変化に気づくことが大切です。
子供の症状
- 子どもは症状をうまく言葉にできないことが多く、発見が遅れやすいです。
- 片方の目を隠すと嫌がる、目をこする、明るい方を嫌がる、物にぶつかりやすい、といった様子が見られることがあります。
- 黒目がずれて見える(斜視(しゃし)のように見える)、瞳孔(ひとみ)が白っぽく見える場合は、早めに眼科で診てもらいましょう。
- 子どもの網膜剥離はまれですが、眼をぶつけたあとや、強い近視がある場合は注意が必要です。
高齢者の症状
- 加齢とともに眼の中のゼリー状の部分(硝子体(しょうしたい))が縮み、網膜を引っ張りやすくなります。
- 「年のせいで飛蚊症が増えた」と思い込まず、急な変化があれば眼科へ相談しましょう。
- 白内障の手術を受けた方、糖尿病のある方は、定期的に眼底(がんてい)の検査を受けておくと安心です。
- 片方の目が見えにくいと、もう片方の目だけで生活して気づかないことがあります。ときどき片目ずつ隠して見え方を確かめてみましょう。
原因
主な原因
- 裂孔原性(れっこうげんせい)網膜剥離:いちばん多いタイプです。眼の中のゼリー状の部分が縮んで網膜を引っ張り、網膜に小さな穴(裂孔)があいて、その穴から水が入り込んで膜がはがれます。
- 牽引性(けんいんせい)網膜剥離:糖尿病網膜症などで網膜の上に薄い膜ができ、それが縮んで網膜を引っ張ってはがすタイプです。
- 滲出性(しんしゅつせい)網膜剥離:炎症や腫瘍などで、網膜の下に水がたまってはがれるタイプです。穴はあいていません。
- 眼を強くぶつけたときの外傷がきっかけになることもあります。
リスク要因
- 強い近視(めがねの度がとても強い、目玉が縦に長い)
- 50歳以上(加齢で硝子体が縮みやすい)
- 白内障の手術を受けたことがある
- もう片方の目に網膜剥離の経験がある
- ご家族に網膜剥離の人がいる
- 眼を強くぶつけた経験、格闘技など眼に衝撃を受けるスポーツ
- 糖尿病網膜症などの眼の病気がある
- まれに、一部の眼の病気や先天異常に伴って起こることもあります
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に飛蚊症が増えた、光が走る、視野の端が見えなくなった(カーテンが下りる感じ)。
- 急に視力が下がった、ものがゆがむ。
- 眼をぶつけたあとに見え方がおかしい、痛みが続く。
- これらの症状があるときは、翌日まで待たずに、その日のうちに眼科を受診してください。夜間・休日で迷うときは、地域の救急相談窓口に電話すると安心です。
定期受診を予約すべき場合:
- 強い近視がある方、ご家族に網膜剥離の人がいる方、白内障手術を受けた方、糖尿病がある方は、症状がなくても定期的に眼底検査を受けましょう。
- 飛蚊症が以前からある方は、次回の眼科受診のときに相談しておくとよいでしょう。
- 片目ずつ隠して見え方を確かめ、左右で違いがあるときは相談してください。
診断
眼科で、まず症状の話をうかがい、点眼薬で瞳孔(ひとみ)を広げて眼の奥を詳しく調べます。網膜のどこがはがれているか、穴があいているかどうかを、直接見て確認します。必要に応じて眼の超音波検査なども行います。診断は比較的はっきりつきやすく、検査そのものは痛みがありません。
行われる可能性のある検査
- 視力検査(見え方の確認)
- 眼圧検査(眼の硬さを測る)
- 散瞳(さんどう)眼底検査:点眼薬で瞳孔を広げ、専用のレンズで網膜を詳しく観察します。
- 細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査:眼の前端から奥までを拡大して見る検査です。
- 眼底写真、OCT(光干渉断層計):網膜の断面を画像で調べる検査です。
- 眼の超音波(エコー)検査:網膜がはがれている様子を画像で確認します。
- 必要に応じて、血液検査や他の科の検査を行うこともあります。
診察で予想されること
瞳孔を広げる点眼薬を使うため、検査のあとは数時間まぶしく感じたり、近くのものがぼやけたりします。その日の車の運転は避け、サングラスがあると楽です。検査の結果はその日のうちに説明を受けられることが多く、手術が必要かどうかもあわせて相談できます。
治療
網膜剥離は、自然に元に戻ることはほとんどなく、治療の中心は「はがれた網膜を元の位置に戻して固定する」ことです。はがれ方が小さいうちはレーザーや冷凍で穴のまわりを固めるだけで済むことがありますが、はがれている場合は手術が必要になります。中心となる黄斑(おうはん)という部分がはがれる前に対処できるかどうかが、視力の回復にとってとても大切です。
自宅でのセルフケア
- 「その日のうちに受診」と言われたら、できるだけ早く眼科へ向かいましょう。
- 手術後は、医師の指示した姿勢(うつぶせなど)や安静の時間をきちんと守ることが、回復にとても大切です。
- 眼をこすらない、強く押さない。洗顔や洗髪のときは目に水が入らないようにします。
- 目薬は処方されたとおりにさします。自己判断で回数を変えたり、やめたりしないでください。
- 術後しばらくは重いものを持ち上げる、激しい運動、眼に衝撃が来るスポーツは控え、再開の時期は医師に確認しましょう。
- 眼の中にガスを入れる手術を受けた場合は、飛行機に乗る・高い山に登るなど気圧が変わる行動を避けます(いつまで避けるかは医師に確認してください)。
- 見え方に急な変化(急に見えにくくなった、痛みが強くなった)があれば、すぐに連絡しましょう。
医療治療
治療法は、網膜の状態によって選ばれます。代表的なのは次のようなものです。レーザー光凝固(こうぎょうこ):網膜にあいた小さな穴のまわりをレーザーで焼き固め、穴から水が入らないようにします。網膜冷凍凝固:レーザーが届きにくい場所では、冷凍で穴のまわりを固めることがあります。強膜(きょうまく)バックリング:眼の外側にシリコンの帯を巻いて、眼の壁を内側に押し、網膜をくっつきやすくする手術です。硝子体(しょうしたい)手術:眼の中のゼリー状の部分を取り除き、ガスやシリコンオイルを入れて網膜を内側から押さえ、穴をふさぐ手術です。どの方法がよいかは、はがれ方や穴の位置、年齢や生活背景をふまえて眼科医が判断します。使用する薬剤の種類や量については、必ず担当の医師・薬剤師の説明に従ってください。
手術が検討される場合
網膜が実際にはがれている場合や、はがれる危険が高い穴がある場合は、手術が検討されます。特に、視力の中心になる黄斑(おうはん)がまだはがれていない段階で手術ができると、視力の回復が期待しやすいとされています。そのため「急に視野が欠けた」というときは、できるだけ早い受診が勧められます。手術の必要性や時期、方法は、検査の結果をふまえて医師とよく相談して決めましょう。
この病気と共に生きる
治療のあとは、見え方の変化に慣れながらの生活になります。術後しばらくは、眼の中のガスやオイルの影響で見え方が不安定になったり、視界に小さな影や泡のようなものが見えたりしますが、多くは時間とともに落ち着きます。段差や階段、駅のホームでは足元を確認する、夜間の外出は明るい道を選ぶなど、小さな工夫が安全につながります。見えにくさが残る場合は、眼鏡の調整や、視覚に障がいのある方むけの支援(ろーびじょん支援)について、眼科のスタッフや地域の相談窓口に尋ねてみてください。
生活習慣のアドバイス
- 眼をぶつけないようにする(スポーツ時の保護メガネなど)。
- 術後は、医師が許可するまで重いものを持つ、激しい運動、眼に衝撃が来るスポーツを控える。
- 血圧や血糖の値を整えておくことは、眼の血管の健康にも役立ちます。
- 禁煙は、眼を含めた全身の血管の健康に良い影響があります。
- 定期的な眼科の受診を続ける。特に反対側の目も定期的にチェックしましょう。
- 片目ずつ隠して見え方を確かめる習慣をつけると、変化に早く気づけます。
食事と運動
特別な食事制限はありません。バランスのよい食事を心がけ、緑黄色野菜や魚など、眼と血管の健康によいとされる食品を日常に取り入れるとよいでしょう。運動は健康のためにおすすめですが、手術のあとは医師の許可が必要です。ウォーキングなど軽い運動から再開し、再開の時期と強さは必ず担当医に確認してください。
精神的健康と心の健康
急に見え方が変わること、手術を受けること、片目での生活になることは、とても不安な体験です。眠れない、気分が落ち込む、イライラする、といった気持ちが出てくるのは自然なことです。一人で抱え込まずに、家族や友人、医療スタッフに話してみてください。つらさが続くときは、かかりつけ医や地域の相談窓口に相談しましょう。気持ちの面でもサポートを受けられます。
予防
すべての網膜剥離を防ぐことはできませんが、リスクを減らし、早く見つけることはできます。強い近視がある方、白内障の手術を受けた方、糖尿病のある方、ご家族に網膜剥離の人がいる方は、症状がなくても定期的に眼底検査を受けましょう。眼をぶつけない工夫も大切です。そして何より、「急に飛蚊症が増えた」「光が走る」「視野の端が見えない」という変化に気づいたら、その日のうちに眼科へ行くことが、視力を守る最大の予防になります。
ワクチン
網膜剥離を防ぐワクチンはありません。
検診プログラム
特別な集団検診はありませんが、眼科での眼底検査がスクリーニングになります。40歳以上では、特定健診などで眼の検査が含まれることもあります。リスクのある方は、症状がなくても年に一度などを目安に、眼科で眼底検査を受けておくと安心です。
合併症
治療しない場合
- はがれた網膜の細胞が傷み、視力が元に戻りにくくなることがあります。
- 黄斑(おうはん)という視力の中心部分までのはがれが及ぶと、見え方の回復が難しくなります。
- まれに、網膜が再びはがれたり、眼の中に異常な膜ができて進行したり(増殖性硝子体網膜症)、眼の形や圧が保てなくなったりすることがあります。
- 片方の目に起こった場合、もう片方の目にも起こるリスクが少し高くなります。
長期的な見通し
多くの方にとって、網膜剥離は適切な治療で網膜を元の位置に戻せる病気です。特に、黄斑がはがれる前に治療できた場合は、視力を保てる可能性が高くなります。治療後に見え方が完全に元どおりにならないこともありますが、時間をかけて落ち着いていくことが多く、生活の工夫でできることはたくさんあります。早めに気づいて眼科につながることが、いちばんの味方です。希望を持って、担当の医師と一緒に進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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