発育性股関節形成不全(赤ちゃんの股関節の病気)
概要
発育性股関節形成不全は、赤ちゃんの股関節(脚の付け根の関節)がうまれつき、あるいは生まれたあとの育ち方の中でうまくかみ合わなくなる病気です。股関節は、骨のボールのような部分(大腿骨頭)が、受け皿のような部分(寛骨臼)にはまり込んで動く仕組みになっています。この受け皿が浅かったり、ボールがはずれかかったり、はずれたりした状態をまとめて発育性股関節形成不全と呼びます。以前は「先天性股関節脱臼」と呼ばれていました。痛みはほとんどなく、赤ちゃん本人は気づかないことが多いので、健診などで見つけることが大切です。
重要な事実
- 生まれたとき、または生後数か月の間に見つかることが多い股関節の病気です。
- 日本では乳幼児健診(特に生後3〜4か月ごろ)で股関節の開き具合を確認するのが一般的です。
- 早く見つけて適切な治療を始めれば、多くの赤ちゃんはその後ふつうに歩き、走れるようになります。
- 痛みがないことが多く、見た目だけでは気づきにくいため、健診を受けることがとても役立ちます。
赤ちゃんの股関節の病気の中では比較的よく見られるものです。日本では以前より減ってきているといわれていますが、今でも健診で注意して見られる大切なテーマです。
生まれたばかりの赤ちゃん、特に女の子に多く見られます。おなかの中でお尻から先に下を向いている姿勢(骨盤位・さかご)だった赤ちゃん、家族に同じ病気の人がいる場合、第一子、冬生まれの赤ちゃんなどでやや多く見られます。大人になってから初めて気づく場合もあります。
症状
- 転倒や事故のあと、股関節が大きく変形して動かせず、激しく痛がる(骨折などの可能性)
- 股関節のあたりが急に腫れて、脚の色が悪い、しびれる、動かせない
- ⚠発熱とともに股関節を痛がり、動かすのを嫌がる(関節の感染症などの可能性)
- ⚠急に歩けなくなった、体重をかけられなくなった
- ⚠股関節の痛みが数日続き、強くなっていく
一般的な症状
- おむつ替えのときに脚を左右に開きにくい(開排制限:股関節がひらきにくいこと)
- 太ももやお尻の皮膚のしわの数や位置が左右で違う
- 寝かせたときに片方の脚が短く見える、または左右の脚の長さが違う
- 股関節を動かすと「コキッ」という音や引っかかりを感じることがある(ただし音だけで病気とは限りません)
- 痛みはほとんどなく、機嫌もよくミルクも飲むことが多い
子供の症状
- 歩き始めが遅い、歩き方がぎこちない
- 歩くときに体を左右にゆらす(ペンギン歩き)、または片方に体重をかけてびっこを引く
- つま先立ちで歩く、走りにくい
- 片方の脚が短く見える、靴の減り方が左右で大きく違う
- 学校の体育などで股関節の動きが制限されていると言われる
高齢者の症状
- 子どものころ治療せずに大人になった場合、20〜40代で股関節の痛みやこわばりが出ることがあります
- 歩き始めや長時間歩いたあとの股関節の痛み
- 股関節が動きにくくなり、靴下をはく、しゃがむなどの動作がつらくなる
- 変形性股関節症(股関節の軟骨がすり減る状態)に進むことがある
原因
主な原因
- 股関節の受け皿(寛骨臼)が浅く生まれつきできていることが関係します。
- おなかの中での赤ちゃんの姿勢(特に骨盤位)により、股関節に負担がかかることがあります。
- 生まれたあとに脚をまっすぐ伸ばした姿勢で長く固定されると、股関節がはずれやすくなることがあります。
- 遺伝的な体質と、育つ環境の両方が関係する「多因子」の病気と考えられています。
リスク要因
- 女の子(男の子より多く見られます)
- 骨盤位(さかご)で生まれた
- 家族に同じ病気や股関節の病気の人がいる
- 第一子である
- 冬に生まれた(厚着やおくるみで脚が固定されやすいため)
- おくるみやおむつで脚をまっすぐに縛るように固定している
- 羊水が少ないなど、おなかの中で動きにくい状態があった
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 股関節を触ると強く泣いて痛がり、動かせない
- 発熱と股関節の痛みが同時にある
- 急に歩けなくなった、脚に体重をかけられない
定期受診を予約すべき場合:
- おむつ替えで脚を開きにくい、左右差があると感じた
- 太もものしわの数や位置が左右で違う
- 歩き方が気になる、びっこを引く、つま先立ちが多い
- 乳幼児健診で股関節について指摘された
- 家族に同じ病気の人がいて心配
診断
まずは診察で、脚の開き具合や脚の長さ、皮膚のしわの左右差を確認します。赤ちゃんの股関節はやわらかい骨でできているため、月齢によって適した画像検査の方法が変わります。日本では乳幼児健診でのチェックが早期発見の大切な場になっています。
行われる可能性のある検査
- 診察(股関節を開く動きの確認、脚の長さやしわの左右差の観察)
- 超音波(エコー)検査:骨がまだ十分に写らない生後数か月ごろまでに使われ、体への負担がありません
- レントゲン検査:骨の写り方がはっきりしてくる生後4〜6か月ごろ以降によく使われます
- 必要に応じて、股関節の角度を測る検査や、股関節の状態を詳しく見る画像検査
診察で予想されること
診察は短時間で、赤ちゃんに大きな負担はかかりません。画像検査も痛みはありませんが、動かないように抱っこで支えることがあります。結果によっては「経過を見ましょう」と言われることもあり、その場合は数か月後に再チェックします。
治療
治療の目的は、股関節のボールが正しい位置にはまり、受け皿がしっかり育つようにすることです。月齢が小さいほど、体の自然な成長を利用したやさしい方法で治療できます。見つかった月齢や股関節の状態によって、方針は変わります。
自宅でのセルフケア
- おむつは股関節を外に開いた自然な姿勢を保てるように当て、脚をまっすぐきつく縛らないようにしましょう。
- おくるみを使うときは、脚がまっすぐ伸びた状態でぐるぐる巻きにせず、股関節が曲がって開けるゆとりを残します。
- 抱っこひもやスリングは、赤ちゃんの脚がM字型に開いた姿勢になるものを選ぶと安心です。
- 健診の予定を守り、気になることがあれば次の健診を待たずに相談しましょう。
医療治療
月齢が小さいうちは、股関節を外に開いた姿勢に保つ専用の装具をつけて、正しい位置で育てる治療がよく行われます。装具は医師の指示に従って決められた期間つけ、定期的に通院して位置や皮膚の状態を確認します。装着中は皮膚のトラブルがないか毎日見てあげましょう。成長とともに装具が合わなくなることもあるため、自己判断で外したり緩めたりせず、必ず医師に相談してください。状態によっては、入院して牽引(けんいん:脚を軽く引っぱって関節をゆるめる方法)を行うこともあります。治療方針は股関節の状態や月齢によって変わるので、主治医の説明をよく聞き、わからないことは遠慮なく質問しましょう。
手術が検討される場合
装具などの治療で改善しない場合や、見つかるのが遅かった場合には、手術が必要になることがあります。股関節を正しい位置に戻す手術や、受け皿の形成を助ける骨の手術などが、年齢や状態に合わせて検討されます。手術が必要と言われても、必ずしも大変な将来になるわけではなく、その後の経過は多くの場合良好です。
この病気と共に生きる
装具をつけている間は、おむつ替えや着替え、入浴のしかたに工夫が必要です。慣れるまでは大変に感じますが、家族で役割を分けたり、自治体の保健師や看護師に相談したりしながら少しずつペースをつかんでいきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 装具の下に当たる肌を毎日観察し、赤みやかぶれがあれば早めに相談する
- 装具をつけたままでも抱っこや授乳がしやすい姿勢を工夫する
- 上のきょうだいがいる場合は、家族で協力して負担を分け合う
- 通院日をカレンダーにまとめ、健診や診察の予定を忘れないようにする
食事と運動
赤ちゃんの場合、母乳やミルクをしっかり飲んで順調に体重が増えることが何より大切です。離乳食が始まったら、ふだんどおり進めてかまいません。装具がとれたあとは、医師の指示に沿って、うつぶせ遊びやハイハイなど自然な動きをたくさん経験させてあげましょう。大きくなってから股関節の動きが気になる場合は、無理のない範囲のストレッチや運動を医師や理学療法士に相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
「自分が何かしたせいではないか」と自分を責めてしまう保護者の方は少なくありません。しかし、この病気は育て方のせいではなく、多くは生まれつきの体質や姿勢が関係しています。通院や装具のケアが続くと疲れや不安がたまりやすいので、ひとりで抱え込まず、家族やかかりつけの医師、保健師に気持ちを話してみてください。つらい気持ちが続くときは、地域の相談窓口や医療機関で相談することが大切です。
予防
生まれつきの体質が関係するため、完全に防ぐことはできません。ただし、生まれたあとの脚の扱い方に気をつけることと、健診をきちんと受けて早く見つけることが、とても大切です。
検診プログラム
日本では乳幼児健診が市区町村で行われ、生後3〜4か月ごろと1歳6か月ごろに股関節のチェックが含まれます。対象月齢の案内が届いたら忘れずに受け、気になることがあれば健診を待たずにかかりつけの小児科に相談しましょう。
合併症
治療しない場合
- 股関節が正しい位置に戻らず、脚の長さの左右差が残ることがあります
- 歩き方のくせや、びっこを引く歩行が続くことがあります
- 成長してから股関節の軟骨がすり減り、変形性股関節症になって痛みが出ることがあります
- 大人になってから手術が必要になることがあります
長期的な見通し
多くは、早い時期に見つけて適切な治療を受けることで、ふつうに歩き、スポーツを楽しめるようになります。治療の期間は長く感じられるかもしれませんが、赤ちゃんの成長力はとても強いものです。気になることは主治医に何度でも相談しながら、一緒に進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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