発育性股関節形成不全(DDH)
概要
発育性股関節形成不全(はついくせいこかんせつけいせいふぜん、DDH)は、赤ちゃんの股関節の「受け皿」の部分が浅くて、太ももの骨の先っぽ(骨頭)がうまく収まらない、あるいは外れやすい状態のことです。生まれつきその形でいることもあれば、生まれた後に育ちにくくなることもあります。英語の頭文字をとって「DDH」と呼ばれます。
重要な事実
- 生まれつき、または生後数か月の間に股関節の形が育ちにくくなる状態で、多くの場合、赤ちゃん本人は痛がりません。
- 早く見つけて治療を始めれば、ほとんどのお子さんは無事に歩けるようになります。
- 乳幼児健診での股関節のチェックが、早期発見の大切な機会になります。
日本では1,000人に1〜3人くらいに見られると言われています。以前より減ってきましたが、決して珍しいものではありません。
生まれたばかりの赤ちゃんに多く、とくに女の子(男の子の4〜6倍)に多く見られます。第一子、逆子(骨盤位)で生まれた子、家族に同じ経験がある子にも多いとされています。大人になって股関節の痛みの原因として見つかることもあります。
症状
- 意識がぼんやりしている、ぐったりして反応が弱い
- 呼吸が苦しそう、顔色が青白い、けいれんを起こしている
- けがのあと足が大きく変形している、痛みで泣き続けて動かせない
- ⚠発熱があり、片方の足を動かそうとすると強く泣く(股関節の感染症などの可能性があります)
- ⚠きのうまで動かしていた足を急に動かさなくなった
- ⚠足が赤く腫れている、熱を持っている、触ると嫌がる
一般的な症状
- 両足を開いたとき、片方だけ開きが悪い(開排制限:かいはつせいげん)
- 太ももやおしりのしわの数・位置が左右で違う
- 片方の脚が少し短く見える、または太ももの太さが左右で違う
- おむつ替えのとき、片方の足を動かすのを嫌がる
- 多くの場合、赤ちゃん本人は痛がらず、機嫌も良い
子供の症状
- 歩き始めが遅い、歩き方がぎこちない
- 足を引きずる、つま先で歩く(跛行:はこう)
- 片足で立つと体が傾く、左右の脚の長さが違う
- 成長とともに腰や膝、足の付け根の痛みを訴えることがある
- かけっこなどで走りにくそうにする
高齢者の症状
- 大人になって股関節の痛みや歩きにくさが出ることがある
- 変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)の原因のひとつとして見つかる
- 長時間歩く・立ち上がるのがつらい、足の付け根が痛む
- あぐらや正座がしにくくなる
原因
主な原因
- 股関節の受け皿(寛骨臼:かんこつきゅう)が浅く生まれつきできていること
- 出産前に母体から移るホルモンの影響で、股関節のじん帯がゆるくなっていること
- おなかの中での姿勢や狭さ(逆子など)が影響すること
- 生まれた後の脚の包み方(両足をまっすぐ伸ばしてきつく包む)が関係すること
- 遺伝的な体質も関係すると考えられています
リスク要因
- 女の子(男の子の4〜6倍)
- 逆子(骨盤位:こつばんい)で生まれた
- 家族に股関節の病気の人がいる
- 冬に生まれた、羊水が少なかった
- おくるみで両脚を伸ばしたままきつく包む習慣がある
- 首の傾き(斜頸)や内反足など、ほかの骨の特徴をあわせ持つ
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 発熱とともに片方の足を動かさない、触ると強く泣く
- きのうまでできていた動きを急にしなくなった
- 転んだ・落ちたあとに足を動かさず、腫れや変形がある
定期受診を予約すべき場合:
- 両足の開きが左右で違う、しわの数が違うと感じる
- 健診で股関節の開きが悪いと言われた
- 歩き始めが遅い、歩き方が気になる
- 成長期や大人になって股関節・足の付け根が痛む
診断
問診と体の診察で、股関節の開きや脚の長さ、しわの左右差などを確認します。赤ちゃんの股関節をやさしく動かして、外れやすさや収まりにくさがないかを見る検査もあります。痛みはなく、数分で終わります。必要に応じて超音波(エコー)やレントゲンで股関節の形を確認します。
行われる可能性のある検査
- 視診・触診(足の開き、しわの左右差、脚の長さの確認)
- 股関節をやさしく動かす診察(外れやすさ・収まりにくさを見る)
- 超音波(エコー)検査 — 骨がまだやわらかい生後数か月までに有効です
- レントゲン検査 — 骨が写るようになる生後4〜6か月ごろ以降に行います
- 歩ける年齢では、歩き方の観察
診察で予想されること
診察は痛みがなく、赤ちゃんが泣くこともありますが短時間で終わります。超音波検査はゼリーを塗ってあてるだけで、放射線は使いません。レントゲンの放射線量はごくわずかです。結果によっては、数か月ごとの経過観察を提案されることがあります。
治療
多くは、股関節を正しい位置に保つ装具をつけて、自然に形が育つのを待つ治療が中心です。見つかるのが遅い場合や、装具でうまくいかない場合は、入院しての治療や手術を考えることがあります。治療の始まりが早いほど、体への負担が少なく済むことが多いです。
自宅でのセルフケア
- おむつは股関節を締め付けないように当てる(両足がM字に開く形が自然です)
- だっこは、赤ちゃんの脚を支えて股関節が開いた姿勢になるようにする
- おくるみは、両脚を伸ばしてきつく巻かない
- 装具が処方されたら、決められた時間きちんとつけ、自己判断で外さない
- 装具があたる部分の皮膚を毎日見て、赤くなりすぎていないか確認する
- 健診や受診の予定を守り、気になることはメモして相談する
医療治療
赤ちゃんの年齢によって方法が変わります。生後6か月ごろまでは、股関節を開いた姿勢に保つ専用の装具をつけて様子を見ることが多いです。それより遅くに見つかった場合は、入院して牽引(けんいん:脚を引っぱって股関節をゆるめる処置)を行ったり、股関節を正しい位置に戻す処置をしたりすることがあります。いずれの場合も、定期的に通院して股関節の育ち具合を確認します。治療方針は年齢・股関節の状態・生活スタイルによって変わるので、担当の医師とよく相談してください。
手術が検討される場合
装具で股関節が正しい位置に保てない場合、見つかるのが遅れて股関節の形が固くなっている場合、成長してから股関節の痛みや変形が強くなる場合には、手術を検討します。手術の方法や時期は、年齢や股関節の状態によって変わります。手術が必要と言われても、多くのお子さんはその後のリハビリで歩行が改善します。
この病気と共に生きる
治療中は、装具をつけたままの生活になりますが、抱っこや授乳、おむつ替えは工夫しながら続けられます。装具に慣れるまで1〜2週間かかることもありますが、赤ちゃんは意外とすぐ慣れます。通院の予定を家族で分担し、無理のないペースで続けることが大切です。
生活習慣のアドバイス
- 装具をつけている間も、できる範囲で外遊びや抱っこで触れ合う時間を作る
- きょうだいがいるときは、上の子との時間も意識して作る
- 通院日は余裕をもった予定を組み、家族や周りの人に手伝いを頼る
- 自治体の子育て支援や保健師に、装具生活の相談をしてみる
食事と運動
特別な食事制限はありません。赤ちゃんは母乳やミルクを普段どおり飲み、離乳食も月齢に合わせて進めて大丈夫です。装具をつけている間は運動量が減りがちなので、外した時間にやさしく脚を動かしたり、うつぶせ遊び(タミータイム)を短時間から始めたりするとよいでしょう。成人して股関節の痛みがある場合は、体重を適正に保つことと、水中歩行など股関節に負担の少ない運動が役立ちます。痛みが強いときは無理をせず、医師や理学療法士に相談してください。
精神的健康と心の健康
「自分のせいで…」と自分を責めてしまう保護者の方は少なくありません。けれどDDHは、多くの要因が重なって起こるもので、育て方のせいではありません。通院や装具の生活が長く感じられ、不安や疲れがたまることもあります。それは自然な気持ちです。眠れない、気分が晴れない、涙が止まらない日が続くときは、一人で抱えず、保健師やかかりつけ医、地域の相談窓口に話してみてください。子育て中のこころの相談は、自治体の母子保健窓口でも受け付けています。つらい気持ちが強いときや、自分や赤ちゃんを傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の緊急窓口に連絡してください。
予防
完全に防ぐ方法はありませんが、リスクを下げる工夫はあります。おむつは股関節を締め付けず、両脚が開いた自然な姿勢になるように当てること。おくるみは脚を伸ばしたままきつく巻かず、股関節が動かせるゆとりを残すこと。そして何より、乳幼児健診をきちんと受けて、気になることがあれば早めに相談することです。
検診プログラム
日本では、母子保健法に基づく乳幼児健診(生後3〜4か月ごろ、1歳6か月、3歳など)で、股関節の開きや歩き方のチェックが行われます。とくに女の子・第一子・逆子だった場合は、健診のときに股関節のことを伝えておくと安心です。超音波検査を受けられるかどうかは施設によって異なるため、かかりつけの小児科に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 股関節が正しい位置に戻らず、脚の長さが左右で違ってくることがある
- 歩き方がぎこちなくなる、足を引きずる
- 成長してから股関節が変形し、早い時期に変形性股関節症になることがある
- 腰や膝、背中への負担が増えることがある
長期的な見通し
早く見つけて治療を始めた場合、多くのお子さんは装具でよく治り、痛みなく歩けるようになります。治療のスタートが少し遅くなっても、年齢や状態に合わせた方法で対応できます。定期的な健診と通院を続けることが、長く元気に歩くための一番の近道です。心配なことがあれば、いつでも主治医に相談してください。
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最終更新: 2026年10月23日
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