糖尿病と運動〜からだを動かすことを味方につけるために〜
概要
糖尿病は、血液の中のブドウ糖(血糖)が高い状態が長く続く病気です。ブドウ糖は、からだを動かすための大切なエネルギー源ですが、インスリンというホルモンの働きが弱まったり、十分に出なくなったりすると、ブドウ糖がうまく細胞に取り込めず、血液の中にたまってしまいます。運動は、この血糖を下げる手助けをしてくれる、とても身近で効果的な方法のひとつです。筋肉は運動するとブドウ糖をたくさん使うので、インスリンの働きが悪くても血糖が下がりやすくなります。運動は「治療の一部」であり、食事・薬物療法と並ぶ大切な柱と考えられています。
重要な事実
- 運動すると筋肉がブドウ糖を取り込んで使うため、血糖値が下がりやすくなります。この効果は運動の直後だけでなく、数時間から半日ほど続くことがあります。
- ウォーキングなどの軽い運動でも効果があります。激しい運動である必要はなく、続けられることを選ぶのが一番大切です。
- 薬(特にインスリンや低血糖を起こしやすい薬)を使っている方は、運動によって血糖が下がりすぎることがあります。運動の前後の血糖測定や、医師・薬剤師への相談が大切です。
糖尿病は日本でもとても身近な病気で、大人の多くが糖尿病、またはその予備群(血糖がやや高めの状態)といわれています。決して珍しい病気ではなく、多くの方が日常的に付き合いながら生活しています。
大人になってから発症する2型糖尿病が最も多く、中高年の方に多くみられます。ただし、子どもや若い方でも発症する1型糖尿病や、遺伝的な要素が強いタイプもあります。妊娠中に一時的に血糖が高くなる妊娠糖尿病もあります。年齢や体型にかかわらず、誰でもなりうる病気です。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が弱い、ぐったりしている
- けいれんが起こっている
- 呼吸が苦しい、胸の強い痛みや締めつけられる感じが続く
- 冷や汗が止まらず、ふるえや動悸が強く、自分で水分や糖分をとれない
- ⚠低血糖の症状が繰り返し出る、または運動のあとに強いだるさが続く
- ⚠吐き気・おう吐が続き、水分がとれない
- ⚠足の傷や水ぶくれが赤く腫れて痛む、膿が出る、熱がある
- ⚠運動中に胸の痛み、強い息切れ、めまいがして運動を続けられない
一般的な症状
- のどが渇く、水をよく飲むようになる
- トイレに行く回数が増える(特に夜間)
- 疲れやすい、だるさが続く
- 十分食べているのに体重が減る
- 傷が治りにくい、皮膚のかゆみや感染を繰り返す
- 運動中や運動後に、冷や汗・手のふるえ・動悸・強い空腹感・頭がぼんやりするなどの低血糖の症状が出ることがある
子供の症状
- のどが渇いて水分を多くとる、おしっこの回数が増える
- 夜のおねしょが急に戻る
- 体重が減る、元気がない、疲れやすい
- 運動や遊びのあとに、冷汗・ふるえ・ぼんやりするなどの低血糖の症状が出ることがある(1型糖尿病の子どもでは特に注意)
高齢者の症状
- のどの渇きを感じにくく、症状が目立たないことがある
- 疲れやすさ、食欲低下、体重減少として気づかれることがある
- 運動中のふらつき、立ちくらみ、転びやすさ
- 低血糖の症状が、冷汗やぼんやりする程度で分かりにくいことがある
- 足のしびれや傷に気づきにくく、悪化しやすい
原因
主な原因
- 1型糖尿病:からだの免疫の働きの異常などにより、インスリンを作る細胞が壊れてしまい、インスリンがほとんど出なくなる
- 2型糖尿病:遺伝的な体質に、食べ過ぎ・運動不足・体重の増加などが重なり、インスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)と同時に、インスリンの分泌も不足してくる
- 妊娠糖尿病:妊娠中に胎盤から出るホルモンの影響などで、一時的に血糖が高くなる
- その他:膵臓(すいぞう)の病気、ホルモンの病気、一部の薬の影響などで血糖が高くなることもある
リスク要因
- 家族に糖尿病の人がいる(遺伝的な体質)
- 体重の増加、特に内臓脂肪が多くおなかが出ている
- 運動不足、座っている時間が長い
- 食べ過ぎ、甘い飲み物や脂っこい食事の多い食生活、食事時間が不規則
- 年齢を重ねること
- 高血圧や脂質異常症(コレステロールなどが高い状態)がある
- 妊娠糖尿病の経験がある、または大きな赤ちゃんを産んだことがある
- 睡眠不足や強いストレスが続いている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 運動中や運動後に、冷汗・動悸・ふるえ・強い空腹感・ぼんやりするなどの低血糖症状が出て、糖分をとっても改善しない
- 意識がもうろうとしている、もうろうとした人がいる(すぐに119番へ)
- 胸の痛み、強い息切れ、動悸が続く
- 足の傷や水ぶくれが赤く腫れて痛む、膿が出る、熱がある
- 吐き気・おう吐が続いて水分がとれない
定期受診を予約すべき場合:
- 最近のどが渇く、トイレが近い、疲れやすいなど気になる症状がある
- 運動を始めたいが、どのくらいの強さで行えばよいか分からない
- 運動のあとに血糖値が大きく下がる、または高くなる傾向がある
- 足のしびれ、冷え、傷が治りにくいなどの症状がある
- 健診(健康診断)で血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー:過去1〜2か月の平均的な血糖の目安)が高いといわれた
診断
糖尿病かどうかは、血液検査で血糖値とHbA1c(過去1〜2か月の平均的な血糖の目安)を調べることで判断します。症状がない場合は、別の日の検査でも同じような結果が出るかを確認することが多いです。運動を始める前には、心臓や足、目などの状態を確認するためのチェックを受けると安心です。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:血糖値、HbA1cの測定
- 尿検査:尿の中の糖やたんぱく質を調べる
- 経口ブドウ糖負荷試験:決まった量のブドウ糖を飲んで、その後の血糖の変化を調べる
- 合併症のチェック:眼底検査(目)、尿のアルブミン検査(腎臓)、足の診察や神経の検査
- 運動前のチェック:血圧、心電図、必要に応じて心臓の検査など
診察で予想されること
診察では、ふだんの食事や活動量、運動の習慣、低血糖の経験などを聞かれます。検査の結果をもとに、あなたに合った運動の量や強さ、気をつけるポイントを一緒に考えていきます。特別な準備はあまり必要ありませんが、検査の前は指示に従って食事をとってください。
治療
糖尿病の治療は、食事療法・運動療法・薬物療法をバランスよく組み合わせることが基本です。運動は、血糖を下げるだけでなく、体重の管理、血圧や脂質の改善、筋力の維持、気分の安定、睡眠の質の向上など、多くの良い効果が期待できます。治療の目標は人によって異なるため、かかりつけ医と相談しながら進めることが大切です。
自宅でのセルフケア
- まずは無理のない範囲で、歩くことから始める(例:1回10分の散歩を1日数回でもよい)
- 息が少しはずむ程度の有酸素運動を、合計で週に150分程度を目安に行う(一度にまとめてでなくても、分けて行ってもよい)
- スクワットやゴムバンドを使った軽い筋力トレーニングを、週に2〜3回行う
- 座りっぱなしを避け、30分に一度は立ち上がって少し歩く
- 運動の前後で血糖値を測り、自分のからだの反応を知る
- 低血糖に備えて、あめやジュースなどの糖分を携帯する
- 運動の前後に水分をとり、暑い日や寒い日の運動は強さを調整する
- 運動のあとは足をよく見て、傷や水ぶくれ、赤みがないか確認する
- 靴は足に合ったものを選び、靴ずれを防ぐ
- 体調が悪い日、熱がある日、血糖が大きく乱れている日は運動を控える
医療治療
血糖の状態や体型、合併症の有無などに応じて、飲み薬や注射による治療が検討されます。治療の内容は一人ひとり異なり、運動の量や強さもそれに合わせて調整します。薬を使っている方は、運動による低血糖を防ぐために、運動のタイミングや食事との関係について医師や薬剤師に相談してください。薬の名前や量、使い方については、必ず処方した医療機関の説明に従ってください。
手術が検討される場合
糖尿病そのもののために手術が必要になることは通常ありませんが、合併症(目の病気、足の病変など)や他の病気のために手術が必要になることがあります。手術の前後は血糖の管理が特に大切になるため、医療チームの指示に従ってください。
この病気と共に生きる
糖尿病は、毎日の小さな積み重ねで状態を良くしていける病気です。血糖値を毎日のように気にしすぎて疲れてしまうよりも、「食事・運動・睡眠・服薬」をできる範囲で整えていくことが長続きのコツです。天気や体調によって運動できない日があっても大丈夫。できなかった日を責めずに、翌日また少し動いてみましょう。
生活習慣のアドバイス
- 運動は「特別なこと」にせず、買い物や通勤、家事の中で自然に動く工夫をする
- 朝・昼・夕の食事の時間をできるだけ決まったリズムにする
- 主食は適量を意識し、野菜やたんぱく質を組み合わせる
- 甘い飲み物を水やお茶に置きかえる
- 睡眠をしっかりとり、夜更かしを避ける
- 禁煙する(喫煙は血管の病気のリスクを高めます)
- アルコールは量と回数を意識し、飲む場合は主食の量や低血糖に注意する
- 定期的に健診や受診の予定を守る
食事と運動
運動を始めるときは、まずは「今より少し多く動く」ことを目標にしましょう。目安は、息が少しはずむ程度の有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、自転車、水泳など)を合計で週150分程度、加えて週2〜3回の軽い筋力トレーニングです。一度に長時間行う必要はなく、10分ずつ分けて行っても効果があります。食事との関係も大切で、空腹時の激しい運動は低血糖を起こしやすくなります。食後1時間前後の軽い運動は血糖を下げやすいとされています。インスリンや低血糖を起こしやすい薬を使っている方は、運動のタイミング・時間・強さについて医師と相談し、運動前後に血糖を測り、糖分を携帯しましょう。足の感覚が低下している方は、ウォーキングなど足への負担が少ない運動を選ぶ、靴ずれに注意するなどの工夫が必要です。合併症(特に目の病気や心臓の病気)がある場合は、運動の内容について必ず医師に相談してください。
精神的健康と心の健康
糖尿病と付き合っていく中で、不安、落ち込み、イライラ、「疲れた」という気持ちがわくことは珍しくありません。血糖の数値に一喜一憂してしまうこともあるでしょう。こうした気持ちは、あなたの弱さではなく、長く付き合う病気につきものの自然な反応です。一人で抱え込まず、かかりつけ医、看護師、管理栄養士、心理の専門家、家族や友人に話してみてください。地域の保健センターなどにも相談の窓口があります。もし「消えてしまいたい」「自分を傷つけたい」と感じるようなら、すぐに医療機関や地域の相談窓口に連絡し、緊急の場合は119番に助けを求めてください。あなたの気持ちは大切にされるべきものです。
予防
2型糖尿病は、食事や運動などの生活習慣を見直すことで、発症を遅らせたり、予防したりできることが分かっています。特に「予備群」といわれる血糖がやや高めの段階では、体重を少し減らすことや、日常的に歩く時間を増やすことが役立ちます。1型糖尿病は生活習慣では予防できませんが、早期に見つけて適切な治療を始めることが大切です。
ワクチン
糖尿病があると、感染症にかかったときに重症化しやすくなることがあります。インフルエンザや肺炎などのワクチンについて、かかりつけ医に相談してみてください。接種の時期や回数は、年齢や体調によって異なります。
検診プログラム
日本では、特定健康診査(メタボ健診)などで血糖値やHbA1cを調べることができます。自覚症状がなくても、定期的に健診を受けることで早い段階で気づけます。家族に糖尿病の人がいる方、体重が増えてきた方、運動不足が気になる方は、健診の機会を活用しましょう。
合併症
治療しない場合
- 網膜症:目の血管が傷み、視力が低下することがある
- 腎症:腎臓の働きが少しずつ低下し、進行すると透析が必要になることがある
- 神経障害:足のしびれや痛み、感覚の低下、立ちくらみなどが起こる
- 動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中、閉塞性動脈硬化症のリスクが高まる
- 足の病変:小さな傷に気づかず悪化し、治りにくくなることがある
- 歯周病や感染症にかかりやすく、治りにくくなる
- 血糖が非常に高い状態が続くと、緊急の治療が必要な状態になることがある
長期的な見通し
糖尿病は、うまく付き合っていける病気です。食事・運動・薬物療法を無理のない形で続け、定期的に受診して合併症のチェックを受けることで、健康な人と変わらない毎日を長く過ごすことができます。運動はそのための心強い味方です。今日の10分の散歩から、一緒に始めてみませんか。
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最終更新: 2026年10月23日
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