妊娠糖尿病(にんしんとうにょうびょう)
概要
妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて見つかる「血糖値(けっとうち:血液の中の糖の量)が高めになる」状態です。赤ちゃんに栄養を送る胎盤(たいばん)から出るホルモンの影響で、インスリン(血糖を下げる体のホルモン)が効きにくくなることが原因です。多くの方は大きな症状がなく、妊婦健診の血液検査で見つかります。食事や生活の工夫で血糖をコントロールできれば、赤ちゃんもお母さんも安心して出産を迎えられることが多い病気です。
重要な事実
- 妊娠中に初めて血糖値が高くなった状態を指し、妊娠前から糖尿病があった場合とは区別されます。
- 多くの場合、目立った症状はなく、妊婦健診の血液検査で見つかります。
- 食事の内容や量、運動などの生活の工夫で管理することが多く、必要に応じて医療スタッフの管理のもとでお薬を使うことがあります。
比較的よくある状態で、日本では妊娠した人のおよそ7〜9%に見られると報告されています。決してめずらしい病気ではありません。
妊娠中の方ならどなたでも起こる可能性があります。35歳以上の妊娠、BMI25以上の肥満、家族に糖尿病の方がいる、前回の妊娠で妊娠糖尿病だった、大きな赤ちゃんを出産した経験がある、多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)がある、ステロイド薬を使っている、などの場合はリスクが高まると言われています。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけに反応が弱い。
- けいれんが起きた。
- ほとんど尿が出ない、口の中がカラカラで水が飲めないなど、ひどい脱水のサインがある。
- 呼吸が速くて深い、あるいはとても苦しそう。
- 腟から多量の出血があり、止まらない。
- ⚠赤ちゃんの動き(胎動)が少ない、または感じられない。
- ⚠腟からの出血や、水のようなおりもの(破水の可能性)がある。
- ⚠高い熱が続く。
- ⚠繰り返す嘔吐で水分がとれない。
- ⚠強い喉の渇きや頻尿、体重減少が急に進む。
一般的な症状
- ほとんどの方は無症状で、健診の採血で初めて分かります。
- 喉が渇きやすい、水をよく飲む。
- 尿の回数や量が増える。
- 疲れやすい、だるさを感じる。
- 体重が急に減る(まれです)。
子供の症状
- この病気は妊娠中の方のもので、子どもにはあてはまりません。ただし、お母さんの血糖が高い状態が続くと、生まれた赤ちゃんの血糖が下がりすぎたり、黄疸(おうだん:皮膚や白目が黄色くなること)が出たりすることがあるため、出生後は医療スタッフが赤ちゃんの状態をよく見てくれます。
高齢者の症状
- 高齢での妊娠(35歳以上)はリスクが高まると言われますが、症状の出方は年齢にかかわらず同じで、やはり無症状のことが多いです。年齢が高い方は、もともと糖尿病がないかを妊娠前や妊娠初期に確認しておくことが大切です。
原因
主な原因
- 妊娠中に胎盤から出るホルモンが、インスリン(血糖を下げるホルモン)の働きを妨げるためです。
- 妊娠すると体はふだんより多くのインスリンを作りますが、追いつかずに血糖値が高くなることがあります。
- もともと血糖が高めになりやすい体質の方が、妊娠をきっかけに表面化することがあります。
リスク要因
- 35歳以上の妊娠
- BMI25以上の肥満(妊娠前の体重が重めだった)
- 家族(両親・きょうだい)に糖尿病の方がいる
- 前回の妊娠で妊娠糖尿病と診断された
- 過去に大きな赤ちゃん(出生体重が重め)を出産した、または流産・死産を経験した
- 多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)がある
- 妊娠高血圧症候群(にんしんこうけつあつしょうこうぐん)がある
- ステロイド薬を使っている
- 日本人を含むアジア系の背景がある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胎動が少ない、感じない。
- 腟からの出血や破水のような水っぽいおりものがある。
- 高い熱、繰り返す嘔吐で水分がとれない。
- 意識がぼんやりする、けいれん、ひどい脱水がある(この場合は救急車を呼んでください)。
定期受診を予約すべき場合:
- 健診で血糖値が高いと言われた。
- 喉の渇きや頻尿、疲れやすさが気になる。
- 食事や運動の方法について相談したい。
- 血糖の自己測定の記録を見てもらいたい。
- 出産後の血糖チェックの予定を確認したい。
診断
妊婦健診の採血で血糖値を調べます。最初の検査で引っかかった場合は、より詳しい検査(決められた量のブドウ糖を飲んでから時間ごとに採血する検査)を行い、診断します。痛みは採血のときの針程度で、検査自体は短時間で終わります。
行われる可能性のある検査
- 随時血糖検査(食事の時間に関係なく測る血糖)
- 空腹時血糖検査(朝食を抜いて測る血糖)
- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー:過去1〜2か月の平均的な血糖の目安)
- 経口ブドウ糖負荷試験(けいこうブドウとうふかしけん:ブドウ糖を飲んで時間ごとに採血する検査)
- 尿糖検査(尿に糖が出ていないかを見る検査)
診察で予想されること
検査の結果は医師から説明があります。妊娠糖尿病と分かった場合は、管理栄養士による食事の相談、助産師や看護師による生活のアドバイス、必要に応じて血糖を自分で測る方法の指導があります。妊婦健診の回数が増えたり、赤ちゃんの大きさをこまめに確認したりすることもあります。
治療
治療の中心は、食事の内容と量を工夫すること、そして無理のない範囲で体を動かすことです。これで血糖が安定しない場合は、医療スタッフの管理のもとで血糖を下げるお薬を使うことがあります。お薬の種類や使い方は医師が決めるので、自己判断で使ったりやめたりしないでください。治療の目標は、お母さんと赤ちゃんが安全に過ごし、出産を迎えることです。
自宅でのセルフケア
- 主食・主菜・副菜をそろえ、野菜から先に食べるなど、食べる順番を意識する。
- 甘い飲み物やお菓子を控えめにし、間食は時間と量を決める。
- 食事はよくかんで、ゆっくり食べる。
- 医師の許可を得たうえで、散歩などの軽い運動を無理のない範囲で続ける。
- 血糖を測るように言われたら、測った時間と値を記録して健診で見せる。
- 体重の増え方を記録し、急に増えないように気をつける。
- 禁煙・禁酒を心がける。
- 睡眠をしっかりとり、疲れをためない。
医療治療
食事と運動だけでは血糖が安定しないときに、血糖を下げるお薬を使うことがあります。使うかどうか、どのくらいの期間使うかは、血糖の値や赤ちゃんの状態を見ながら医師が判断します。お薬を使う場合も、食事の工夫や血糖の記録は続けることが大切です。妊娠中は使えるお薬が限られるため、必ず医療スタッフの指示に従ってください。
手術が検討される場合
この病気は手術で治療するものではありません。
この病気と共に生きる
妊娠糖尿病は「毎日のちょっとした選択」でうまく付き合える病気です。食事の内容を少し見直す、食後に軽く歩く、血糖の記録をつける。こうした積み重ねが、赤ちゃんとお母さんの安心につながります。完璧を目指す必要はありません。できなかった日があっても、次の食事からまた整えれば大丈夫です。
生活習慣のアドバイス
- 食事の時間をできるだけ決めて、規則正しくとる。
- 買い物のときに栄養成分表示を見る習慣をつける。
- 家族にも食事の工夫を一緒に楽しんでもらう。
- 健診の予定を守り、気になることはメモして相談する。
- 出産後も、血糖のチェックを受ける予定を忘れずに確認する。
食事と運動
食事は、ごはんやパンなどの主食を適量にし、肉・魚・卵・大豆製品などのたんぱく質、野菜やきのこ・海藻をしっかりとるバランスが基本です。野菜から先に食べると血糖の上がり方がゆるやかになると言われています。果物や甘い飲み物は量と回数を意識しましょう。運動は、医師に確認したうえで、散歩や軽いストレッチなどを無理のない範囲で行います。息が上がるほどの激しい運動や、おなかを圧迫する動きは避け、体調がすぐれないときは休みましょう。
精神的健康と心の健康
食事の制限や毎日の血糖測定は、思っている以上に負担になることがあります。「赤ちゃんに何かあったらどうしよう」という不安が出るのも自然なことです。不安や落ち込みが強いとき、眠れない日が続くとき、自分を責めてしまうときは、ひとりで抱え込まずにかかりつけの産婦人科や助産師、地域の相談窓口に話してください。自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や救急(119)に連絡してください。あなたの気持ちを聞いてくれる人は必ずいます。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを下げることはできます。妊娠を考えている方は、妊娠前から体重を適正に保ち、バランスのよい食事と運動を心がけましょう。以前に妊娠糖尿病だった方は、次の妊娠の前に医療スタッフへ相談しておくと安心です。
検診プログラム
妊娠初期と中期の妊婦健診で血糖の検査が行われます。日本では厚生労働省の妊婦健診の指針に沿って、すべての妊婦さんに血糖検査が行われるのが標準です。健診を飛ばさずに受けることが、早期発見のいちばんの近道です。
合併症
治療しない場合
- 赤ちゃんが大きくなりすぎて、お産が進みにくくなったり、帝王切開になる可能性が高まったりする。
- 妊娠高血圧症候群(にんしんこうけつあつしょうこうぐん)や羊水過多(ようすいかた)になることがある。
- 生まれた赤ちゃんの血糖が下がりすぎたり、黄疸が出たりすることがある。
- お母さんが将来2型糖尿病になりやすくなる。また、お子さんにも将来のリスクが関係すると言われている。
- まれに、妊娠中に非常に血糖が高い状態となることがある(強い喉の渇き、頻尿、意識がぼんやりするなど)。
長期的な見通し
妊娠糖尿病の多くは、食事や生活の工夫、必要な場合のお薬で血糖を安定させることができ、元気な赤ちゃんを出産されています。出産後は血糖がもとに戻ることがほとんどです。ただし、将来2型糖尿病になりやすいと言われているため、出産後の血糖チェックと、その後の定期的な健診を続けることが大切です。心配なことは、遠慮なく医療スタッフに相談してください。
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最終更新: 2026年10月23日
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