糖尿病の長期的な影響(合併症)を知っておこう
概要
糖尿病は、血液の中の糖(血糖値)が高い状態が長く続く病気です。血糖値が高いまま何年も経つと、体の中の細い血管や神経が少しずつ傷つき、目・腎臓・神経・心臓・脳・足などにさまざまな変化が現れることがあります。これを「合併症(がっぺいしょう)」と呼びます。合併症は急に起こるものではなく、長い時間をかけてゆっくり進むため、初期にはほとんど自覚症状がないことが多いのが特徴です。だからこそ、症状がなくても定期的に検査を受けて、早い段階で見つけて対処することがとても大切になります。
重要な事実
- 糖尿病の合併症は、血糖値が高い状態が長く続くことで、体の細い血管や神経が少しずつ傷ついて起こります。
- 合併症は初期には自覚症状がほとんどないことが多く、検査を受けないと気づけない場合があります。
- 血糖値・血圧・脂質をよい状態に保ち、禁煙を続け、決まった時期に検査を受けることで、合併症が進むリスクは大きく下げられます。
糖尿病は日本でもとても多い病気で、決して珍しいものではありません。厚生労働省の調査では、糖尿病が強く疑われる人が約1000万人、糖尿病の可能性が否定できない人を含めると約2000万人と推計されたことがあります。合併症も、糖尿病のある方にとって身近なテーマだと言えます。
糖尿病は子どもから高齢者まで、どの年代でも起こります。1型糖尿病は子どもや若い世代で多く、2型糖尿病は中高年以降に多いものの、最近は若い世代でも増えています。妊娠中に血糖値が上がる妊娠糖尿病もあります。年齢や体型にかかわらず、誰にでも関係のある内容です。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけに反応が弱い、けいれんしている
- 呼吸が荒く深い、息が果物のようなにおいがする、強い吐き気や呕吐が続く(緊急の高血糖状態の可能性)
- 冷汗、動悸、震え、強いだるさがあり、自分で糖分をとることができない(重い低血糖の可能性)
- 胸の痛みや圧迫感、冷や汗、息苦しさが続く(心臓の緊急事態の可能性)
- 顔や手足の片側が動かない、言葉が出にくい、急に視野が欠ける(脳卒中の可能性)
- 足の皮膚が黒ずみ、急に腫れて激しく痛む、悪臭がする
- ⚠急に見えにくくなった、目の前に急にちらつくものが増えた
- ⚠足の傷が赤く腫れて熱をもつ、膿が出る、痛みが強い
- ⚠尿の量が目に見えて減り、むくみが強い
- ⚠発熱や下痢・呕吐で水分がとれない状態が続く(血糖が乱れやすい状態です)
- ⚠血糖値が高い状態が数日続き、だるさやのどの渇きが強い
一般的な症状
- 初期はほとんど無症状のことが多い(だからこそ定期検査が大切です)
- 目のかすみ、見えにくさ、目の前にちらつくもの(糖尿病網膜症のサインのことがあります)
- 手足の先のしびれ、冷え、ぴりぴりした痛み、感覚が鈍くなる(糖尿病神経障害のサインのことがあります)
- 足の傷が治りにくい、水ぶくれやタコができやすい、足の形が変わる
- まぶたや足のむくみ、尿の量や回数の変化、泡立つ尿(腎臓の変化のサインのことがあります)
- 階段や坂で息切れしやすい、動悸、疲れやすい
- 傷や口の中、皮膚、尿路の感染症をくり返す
- 歯ぐきの腫れや出血、歯周病が悪化しやすい
- 男性では勃起しにくくなる、女性では腟の乾燥やかゆみ
- 体重が減る、だるさが続く、やる気が出ない
子供の症状
- 1型糖尿病では、のどの渇きが強い、水をよく飲む、おしっこの回数が増える、夜おねしょをする、体重が減る、などが急に現れることがあります
- 腹痛、吐き気、呕吐、元気がない、呼吸が荒いといった症状は、緊急の対応が必要な状態(ケトアシドーシス)のサインのことがあります
- 思春期以降は、大人と同じように目の変化や腎臓の変化が進むことがあるため、定期的な検査が必要です
- 成長に合わせて食事量や活動量が変わるため、こまめな受診と相談が役立ちます
高齢者の症状
- のどの渇きや頻尿といった典型的な症状が出にくく、気づきにくいことがあります
- だるさ、食欲低下、体重減少だけが見られることがあります
- 血糖を下げる治療で低血糖(血糖が下がりすぎる状態)が起こりやすく、めまい・ふらつき・転倒につながることがあります
- 認知機能の変化や、うつ、意欲の低下として現れることがあります
- 足の感覚が鈍くなり、靴ずれや傷に気づかないまま悪化することがあります
- 複数の病気で薬が多くなりやすいため、服薬の整理と定期的な見直しが大切です
原因
主な原因
- インスリン(血糖を下げるホルモン)が十分に出なくなること
- インスリンが出ていても効きにくくなること(インスリン抵抗性と呼びます)
- 遺伝的な体質に、食事・運動・睡眠・ストレスなどの生活習慣が重なって起こる
- 1型糖尿病では、体の免疫の仕組みが誤ってインスリンを作る細胞を攻撃してしまう
- 妊娠中のホルモンの変化による妊娠糖尿病、膵臓の病気、一部の薬の影響などで起こる二次性の糖尿病
リスク要因
- 体重の増加、とくにお腹まわりに脂肪がつく内臓脂肪型の肥満
- 運動不足や長時間すわったまま過ごす時間の長さ
- 家族に糖尿病の人がいる(遺伝的な体質)
- 年齢を重ねること
- 高血圧や脂質異常症(コレステロールなどの異常)がある
- 睡眠不足や夜勤など生活リズムの乱れ、強いストレス
- 妊娠糖尿病を経験した、または大きな赤ちゃんを出産したことがある
- ステロイド薬などの薬の影響(自己判断で中止せず、必ず医師に相談してください)
- 甘い飲み物や間食の多い食生活、早食い
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 意識がもうろうとする、けいれん、呼吸が荒いなど緊急性が高いと感じたら、すぐに119番に連絡してください
- 胸の痛み、片側のまひ、言葉が出にくいなど、心臓や脳の緊急事態を疑う症状
- 足の傷が急に腫れて黒ずむ、膿が出る、痛みが強い
- 発熱や下痢・呕吐で水分がとれず、ぐったりしている
- 血糖が高い状態が続き、強いだるさや呕吐がある
定期受診を予約すべき場合:
- 健診や検査で血糖値・HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー:過去1〜2か月の血糖の平均を表す値)が高いと言われた
- のどの渇き、頻尿、体重減少、だるさが続いている
- 手足のしびれや感覚の鈍さが気になる
- 目のかすみや見えにくさを感じる
- 足の傷が治りにくい、タコや魚の目ができやすい
- 糖尿病と診断されていて、しばらく眼科や歯科を受診していない
- 気分の落ち込みや不安が続き、治療を続けるのがつらい
診断
糖尿病そのものは、血液検査で血糖値とHbA1cを測って判断します。長期的な影響(合併症)については、症状の有無にかかわらず、診断された時点から定期的に少しずつ検査を重ねて、目の血管、腎臓、神経、心臓や脳の血管、歯ぐきと歯、足の状態を確認していきます。検査は痛みの少ないものが多く、外来で受けられるものがほとんどです。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(血糖値、HbA1cなど)
- 尿検査(尿の中のたんぱく質=アルブミンを調べ、腎臓の変化を早期に見つけます)
- 眼底検査(目の奥の血管の状態を見ます。目薬で瞳孔を広げることがあります)
- 視力検査
- 足の診察(皮膚の状態、タコや傷、脈の触れ方、感覚のチェック)
- 神経の検査(振動や温度の感じ方、腱反射など)
- 血圧測定、体重・腹囲の測定
- 血液検査でのコレステロールや中性脂肪の確認
- 心電図、必要に応じて心臓や頸動脈(けいどうみゃく)の超音波検査
- 歯科での歯周病の検査
診察で予想されること
初回は検査項目が多くて大変に感じるかもしれませんが、すべてを毎回行うわけではありません。多くは数か月から1年に1回のペースで、必要な検査を組み合わせて行われます。眼底検査のあとは目がまぶしく感じることがあるため、車の運転は控えて帰るようにしましょう。検査結果は「数値が少し高い」程度のことも多く、その段階で生活を見直せば十分間に合うことがほとんどです。
治療
長期的な影響を防ぐための治療の中心は、「血糖値をよい範囲に保つこと」と「血圧・脂質・体重・禁煙をよい状態に保つこと」です。合併症がある場合も、進行をゆるやかにし、生活の質を保つことを目指して治療を組み立てていきます。治療は一度決めたら終わりではなく、体調や生活の変化に合わせて少しずつ調整していくものです。
自宅でのセルフケア
- 主食・主菜・副菜をそろえた食事を、よくかんでゆっくり食べる
- 甘い飲み物を水やお茶に置きかえる、間食の回数と量を見直す
- 歩く、階段を使うなど、日常生活の中で体を動かす時間を増やす
- 禁煙する(受動喫煙も避ける)
- 毎日、足の裏や指の間を鏡などで観察し、傷や変色がないか確認する
- 靴は足に合ったものを選び、やけどやけがに注意する(感覚が鈍いと気づきにくいため)
- 歯みがきと歯間清掃を習慣にし、定期的に歯科を受診する
- 睡眠時間を確保し、生活リズムを整える
- 自己判断で治療や薬をやめず、体調の変化はメモして受診時に伝える
医療治療
治療は、食事療法と運動療法を土台に、必要な場合に薬物療法を組み合わせる形で進みます。薬には飲み薬と注射薬があり、血糖値の状態、年齢、腎臓や心臓の状態、低血糖のリスク、生活スタイルなどを総合して、主治医が適切な方法を選びます。薬の種類や量は人によって異なるため、この記事では具体的な薬の名前や量はお伝えしません。処方された薬については、飲み忘れや副作用が心配なときは自己判断せず、医師や薬剤師に相談してください。あわせて、血圧や脂質を整える治療、禁煙の支援、目の検査や歯科治療なども、合併症を防ぐ大切な治療の一部です。
手術が検討される場合
合併症が進んだ場合には、手術や処置が必要になることがあります。たとえば、目の血管の変化に対するレーザー治療や注射による治療、腎臓の働きが大きく落ちた場合の透析(血液をきれいにする治療)のための準備、足の傷や感染に対する処置、心臓の血管や下肢の血管の狭窄に対するカテーテル治療や手術などです。これらはすべての人に必要になるわけではなく、状態に応じて検討されます。
この病気と共に生きる
糖尿病とともに長く暮らしていくうえで大切なのは、完璧を目指すよりも、続けられる小さな習慣を積み重ねることです。血糖値は食事・睡眠・ストレス・体調で日々変わるので、数字に一喜一憂しすぎないことも大切です。受診のときには、気になっていること(足の傷、目の見え方、気分の落ち込みなど)をメモして持っていくと、相談がスムーズになります。
生活習慣のアドバイス
- 決まった時間に食事と睡眠をとる
- 毎日の血圧・体重・足の状態など、決めた項目だけを無理なく記録する
- 仕事や旅行の予定は、受診や検査の日程と合わせて調整する
- 暑い日・寒い日・体調を崩した日は、血糖が乱れやすいので早めに休む
- 飲酒は主治医と相談し、適量を守る
- 予防接種や健診の予定をあらかじめ決めておく
- 家族や友人に自分の状態を伝え、助けてもらいやすい環境をつくる
食事と運動
食事は、極端に減らすのではなく、主食を適量にし、野菜・たんぱく質(肉・魚・卵・大豆製品)・汁物を組み合わせて、よくかんで食べることが基本です。外食が多い方は、定食スタイルを選ぶ、丼ものはご飯を少なめにする、など工夫で十分対応できます。運動は、息が少しはずむ程度のウォーキングを1日20〜30分、週に数回から始めるのが現実的です。ただし、足にしびれや傷がある方、心臓や目の病気がある方は、運動の強さについて主治医に確認してから始めてください。運動前後の水分補給も忘れずに。
精神的健康と心の健康
糖尿病は毎日の食事や検査が続くため、「疲れた」「もう嫌だ」と感じることは自然なことです。合併症の話を聞いて不安が強くなる方も多くいます。気分の落ち込みや不安が2週間以上続く、眠れない、何も楽しめないといった状態があれば、それは気持ちの問題ではなく、治療の一部として相談してよいサインです。主治医、看護師、精神科・心療内科、地域の相談窓口などに話してみてください。もし自分を傷つけたい気持ちが浮かんだり、追い詰められたと感じたりしたときは、ひとりで抱えず、すぐに医療機関やお住まいの地域の相談窓口、救急外来に連絡してください。緊急の場合は119番に連絡してください。あなたのつらさは、ひとりで抱える必要のないものです。
予防
2型糖尿病は、食事や運動などの生活習慣を見直すことで、発症を遅らせたり防げたりする可能性があると言われています。すでに糖尿病がある場合でも、合併症が進むのを大きく抑えられることが分かっています。ポイントは、血糖値だけでなく、血圧・脂質・体重・禁煙をあわせて整えること、そして症状がなくても定期検査を続けることです。
ワクチン
糖尿病があると、感染症にかかったときに重症化しやすくなることがあります。インフルエンザや肺炎などの予防接種については、年齢や体調に応じて主治医と相談してください。接種の時期や必要性は人によって異なります。
検診プログラム
日本では、特定健康診査(メタボ健診)などで血糖値やHbA1cを測ることができ、糖尿病やその予備群を早く見つけられます。すでに糖尿病と診断されている方は、眼底検査、尿のアルブミン検査、足の診察、歯科受診を、決められた間隔で受けることが合併症の早期発見につながります。健診の案内が届いたら、面倒に感じても受けてみてください。
合併症
治療しない場合
- 糖尿病網膜症:目の奥の細い血管が傷つき、見えにくくなることがあります。進行すると視力の低下につながります
- 糖尿病腎症:腎臓のろ過機能が少しずつ低下し、むくみや尿の変化が現れます。進むと透析が必要になることがあります
- 糖尿病神経障害:手足のしびれや痛み、感覚の鈍さが起こります。足の傷に気づきにくくなります
- 足の病変(糖尿病足):感覚が鈍くなることで傷ややけどに気づかず、感染が広がることがあります
- 心筋梗塞や狭心症、脳卒中:血管が傷つき、動脈硬化が進みやすくなります
- 歯周病の悪化:歯ぐきの炎症が血糖にも影響することがあります
- 感染症にかかりやすく、重症化しやすい
- 認知機能の低下やうつ、フレイル(心身の弱り)との関連が指摘されています
- 妊娠中は、母体と赤ちゃんの両方に注意が必要になることがあります
長期的な見通し
合併症の話は重く感じられるかもしれませんが、希望のある話もあります。血糖値・血圧・脂質をよい状態に保ち、禁煙し、目の検査や尿の検査、足の診察を欠かさず受けることで、合併症が進む速さは大きく抑えられます。早期に見つかれば、治療で進行を食い止めたり、状態を保ったりできることも多くなっています。そして何より、毎日の暮らしの中で小さな工夫を続けることが、将来の自分を守る一番の近道です。できることから一つずつ始めてみましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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