糖尿病性昏睡(とうにょうびょうせいこんすい)— 意識を失う前に知っておきたいこと
概要
糖尿病性昏睡とは、糖尿病のある人で血糖値(血液の中の糖の量)が極端に高くなったり、逆に低くなりすぎたりして、意識がもうろうとしたり、呼びかけに反応しなくなったりする危険な状態のことです。「昏睡」は、強い刺激でも目が覚めない状態を指しますが、そこまで進む前に、強い眠気や混乱、会話がかみ合わないといったサインが出ることが多くあります。これは家で様子を見ていい状態ではなく、すぐに救急車を呼ぶ必要がある緊急事態です。大きく分けると、血糖値がとても高いとき(高血糖によるもの)と、低すぎるとき(低血糖によるもの)の2つのタイプがあり、どちらも命に関わります。
重要な事実
- 糖尿病性昏睡は「家で様子を見る」状態ではなく、すぐに救急車を呼ぶべき緊急事態です。日本では119番に電話します。
- 血糖値が高すぎる場合と低すぎる場合の2タイプがあり、見た目だけでは区別が難しいことがあります。どちらも早い対応が必要です。
- 多くの場合、感染症やインスリンの中断、食事がとれない状態など、何らかのきっかけがあります。日ごろの備えで防げることも多い出来事です。
糖尿病のある方すべてに起こるわけではなく、頻度は決して高くありません。ただし、1型糖尿病の方や、高齢で2型糖尿病のある方では、感染症や水分不足などをきっかけに起こることがあります。決してめったにない他人事ではなく、知っておくことで命を守れる状態です。
1型糖尿病の方(特に10代までの子どもや若い方)、高齢者、感染症にかかった方、食事や水分がとれない状態が続いた方、医師の指示なくインスリンを中止した方、新しい糖尿病と診断されたばかりの方などが含まれます。周囲の家族や介護をする方も、サインを知っておくことが大切です。
症状
- 呼びかけても反応がない、強い刺激でも目覚めない
- 意識がない、または意識が急速に悪くなっている
- けいれん(ひきつけ)が起きた
- 呼吸が非常に速い・深い、または息苦しそうで話せない
- 唇や顔色が青白い、冷や汗がひどい
- 低血糖が疑われ、糖分を口に入れても改善しない、または飲み込めない
- 甘いにおいの息と強い眠気・混乱が同時にある
- ⚠嘔吐が続いて水分がとれない
- ⚠血糖値が非常に高い状態が続き、尿や血中のケトン(体が脂肪を燃やしたときに出る物質)が多いと言われた
- ⚠強いだるさ、頭痛、腹痛が続く
- ⚠普段と比べて明らかに反応が遅い、ぼんやりしている
- ⚠発熱や感染症の症状があり、食事がとれず血糖コントロールが崩れている
一般的な症状
- のどが異常に渇く、水をたくさん飲むのに渇きが続く
- 尿の回数が増える、夜中に何度もトイレに起きる
- 吐き気や嘔吐、おなかの痛み
- 強いだるさ、力が入らない感じ
- 頭痛、集中できない、ぼんやりする
- 皮膚や口の中がカラカラに乾く
- 息が速く深くなる、あえぐような呼吸
- 息や体から甘い・果物のようなにおいがする(血糖値が非常に高いときのサイン)
- 眠気が強くなる、会話がかみ合わない、呼びかけへの反応が鈍い
- 冷や汗、手のふるえ、動悸(低血糖のときによくみられます)
子供の症状
- 元気がなくなり、遊ばなくなる、表情がぼんやりする
- おむつがとれていた子どもが再びおねしょをする、尿の量が増える
- 繰り返す嘔吐やおなかの痛み(かぜや胃腸炎と間違われやすい)
- 息が速く、苦しそうに呼吸する
- 甘いにおいの息、口の渇き
- 強い眠気、呼びかけても反応が悪い
- 急にやせた、食欲があるのに体重が減る
高齢者の症状
- 強い口の渇きや脱水があるのに、のどの渇きを感じにくいことがある
- 発熱やおなかの症状が目立たず、ぼんやり・混乱だけが目立つ
- 普段より元気がない、話がかみ合わない、日中の眠気が強い
- 転倒や失禁が急に増える
- 食欲がなく、水分もとれない状態が続く
- かぜや尿路感染症、肺炎などをきっかけに急に悪くなる
原因
主な原因
- インスリン(血糖値を下げるホルモン)が不足すること。医師の指示なく注射をやめた、体調不良で打てなかった、などがきっかけになります。
- 感染症(かぜ、肺炎、尿路感染症、皮膚の感染など)による体の大きなストレス。
- 食事や水分がとれない状態が続き、脱水になること。
- 心臓発作や脳卒中など、体に強い負担がかかる出来事。
- ステロイド薬などの一部の薬の影響(自己判断で中止せず、必ず医師に相談してください)。
- 血糖値を下げる治療が体に対して強く働きすぎた結果の低血糖(食事を抜いた、いつもより多く動いた、飲酒した、などが関係します)。
- 手術やけが、大きな精神的なストレス。
- まだ糖尿病と気づかれていない状態で、初めて非常に高い血糖値が出ること。
リスク要因
- 1型糖尿病がある、または血糖値の変動が大きい
- 高齢で、のどの渇きを感じにくい、一人で過ごす時間が長い
- 感染症にかかっている、または発熱がある
- 食事や水分がとれない日が続いている
- インスリンや薬の管理が難しい状況(災害、入院、旅行、忙しさなど)
- アルコールを多く飲む
- 腎臓や心臓の病気がある
- 糖尿病の教育や、体調が悪いときの対応ルール(シックデイルール)をまだ学んでいない
- 家族や周囲に糖尿病の緊急時の対応を知っている人がいない
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 嘔吐が続き、水分がとれない
- 血糖値が普段より大幅に高く、下がらない状態が数時間続く
- ケトン体が多く出ていると言われた、または検査で高い数値が出た
- 発熱や感染症の症状があり、食事がとれず血糖値が乱れている
- 強い眠気、ぼんやり、会話のかみ合わなさがある(ただし意識がない・反応がない場合は119番)
- 低血糖の症状が繰り返す、または起きた回数が増えている
定期受診を予約すべき場合:
- 血糖値の変動が大きく、日常生活に不安がある
- 体調が悪いときの過ごし方(シックデイルール)を確認したい
- インスリンや薬の使い方、保管方法に不安がある
- 夜間の低血糖が心配、または家族が対応に不安を感じている
- 糖尿病の定期検査(HbA1c、尿の検査、目の検査、腎臓の検査など)の予定が近い
- 災害や入院に備えた準備(非常用の持ち物、連絡先)を整えたい
診断
糖尿病性昏睡は、救急の現場で「意識の状態」と「血糖値」をすぐに確認することで見つけられます。意識がもうろうとしている、または反応がない場合、まず血糖値を測り、高いのか低いのかを判断します。そのうえで、脱水の程度、体のバランスの崩れ、感染症などのきっかけを調べていきます。診断は医師が行いますが、周囲の人が「糖尿病がある」「普段と様子が違う」と伝えることが、とても役に立ちます。
行われる可能性のある検査
- 血糖値の測定(指先の血や静脈の血で、その場ですぐに測ります)
- 尿や血中のケトン体の検査
- 血液ガス検査(体の中が酸性に傾いていないかを調べます)
- 電解質(ナトリウムやカリウムなど)と腎臓の働きの血液検査
- 血液の濃さ(脱水の程度)をみる検査
- 感染症を探すための検査(尿検査、胸部の画像検査、必要に応じて血液培養など)
- 意識の状態をくわしくみる診察、必要に応じて頭の画像検査
診察で予想されること
救急では、まず気道・呼吸・循環を守る処置が優先されます。家族や周囲の人は、糖尿病の治療歴、普段使っている薬の種類、最後に食事や水分をとった時刻、体調が悪くなった経過を伝えられると助かります。検査の結果が出るまでに時間がかかることがあり、その間は点滴やモニター装着が行われます。
治療
糖尿病性昏睡の治療は、必ず病院で行われます。家で自分で治す方法はありません。治療の中心は、失われた水分と体のバランスを戻すこと、血糖値を安全な範囲にゆっくり戻すこと、そして引き金になった感染症などを治療することです。急に血糖値を下げすぎると体に負担がかかるため、医師は時間をかけて調整します。
自宅でのセルフケア
- 退院後は、医師に指示された血糖測定の回数を守り、記録をつける
- 体調が悪いときの対応ルール(シックデイルール)を、事前に主治医・看護師・薬剤師と確認しておく
- 発熱や呕吐で食事がとれないときは、自己判断で薬を中止せず、必ず医療者に相談する
- 水分をこまめにとり、脱水を避ける
- 低血糖のときの対応(糖分の準備)を家族と共有しておく
- 糖尿病であることを示すカードや腕輪などを持ち、救急時に伝わるようにする
- 災害時や旅行時のための予備の薬・用具・連絡先を準備しておく
医療治療
病院では、まず静脈から水分と電解質(ナトリウムやカリウムなど)を補い、脱水と体のバランスの崩れを改善します。血糖値が高いタイプでは、不足しているインスリンを補充する治療が点滴などで行われます。血糖値が低いタイプでは、糖分を静脈から補う処置が行われます。同時に、感染症や心臓・脳の病気など、引き金になった原因の検査と治療が進められます。意識が戻るまでは、呼吸や心臓の状態をモニターで見守ります。治療の内容や期間は、その人の状態によって大きく変わります。
手術が検討される場合
糖尿病性昏睡そのものを手術で治すことはありません。ただし、昏睡のきっかけになった感染症(膿がたまった状態など)やけが、心臓や血管の問題に対して、手術や処置が必要になる場合があります。
この病気と共に生きる
退院後は、血糖値を測る習慣を続け、体調の変化に早く気づけるようにすることが大切です。「いつもと違う」と感じたときの連絡先を、あらかじめ決めておきましょう。家族や同居する人に、低血糖のサインと対応、119番を呼ぶ目安を伝えておくと安心です。
生活習慣のアドバイス
- 決まった時間に食事をとり、極端な食事抜きを避ける
- こまめな水分補給を習慣にする
- アルコールは量とタイミングに注意し、空腹時の飲酒を避ける
- 睡眠を十分にとり、体調を崩しやすい時期は特に注意する
- 血糖値の記録を、受診時に見せられるようにまとめておく
- 家族や職場の人と、緊急時の連絡方法を話し合っておく
食事と運動
食事は、主食・たんぱく質・野菜をバランスよくとり、間食や甘い飲み物を控えめにすることを基本にします。運動は、散歩など無理のない範囲から始め、体調が悪い日や血糖値が大きく乱れている日は控えます。運動の前後で血糖値がどう変わるかを知っておくと、低血糖の予防に役立ちます。食事や運動の具体的な内容は、主治医や管理栄養士に相談して自分に合った形にしていきましょう。
精神的健康と心の健康
昏睡のような緊急事態を経験すると、「また起こるのではないか」という不安が残ることがあります。これは自然な気持ちです。不安が強い、眠れない、気分が落ち込む状態が続くときは、一人で抱えずに主治医や看護師、地域の相談窓口に話してください。気持ちがとてもつらいときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ためらわずに119番、または地域の救急・相談窓口、かかりつけの医療機関に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、多くの場面で危険を減らせます。血糖値を定期的に測る、体調が悪いときの対応ルールをあらかじめ決めておく、感染症の予防と早めの受診、水分不足を避ける、医師の指示なく治療を中断しない、この5つが中心になります。家族や周囲の人がサインを知っていることも大きな力になります。
ワクチン
感染症は昏睡のきっかけになることがあります。インフルエンザや肺炎などのワクチンについて、年齢や持病に合わせて主治医と相談しておくとよいでしょう。
検診プログラム
HbA1c(過去1〜2か月の血糖の平均をみる検査)や尿の検査、目の検査、腎臓の検査を定期的に受けることが、血糖コントロールの把握と合併症の予防につながります。健診の機会も活用してください。
合併症
治療しない場合
- 脳へのダメージ(特に子どもの高血糖の緊急時には注意が必要です)
- 脱水による腎臓の働きの悪化
- 心臓のリズムの異常や血圧の低下
- 血液が固まりやすくなることによる血栓症
- 感染症の悪化
- 意識が戻りにくい状態が続くこと
- 命に関わる危険(適切な治療が遅れた場合)
長期的な見通し
糖尿病性昏睡は命に関わる状態ですが、早く気づいて救急対応を受ければ、多くの方は回復して日常生活に戻れます。「いつもと違う」と感じたときに、ためらわず助けを求めることが何より大切です。退院後は、今回のきっかけを振り返り、対応ルールを整えることで、次につなげられます。希望を持って、医療者と一緒に一歩ずつ進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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