糖尿病とけいれん(低血糖によるけいれん)
概要
糖尿病の人が血糖値(血液の中のブドウ糖の量)がとても低くなると、脳に届くエネルギーが足りなくなり、意識がぼんやりしたり、体がけいれんしたりすることがあります。これを「糖尿病にともなうけいれん」と呼びます。多くは血糖値が下がりすぎた「低血糖(ていけっとう)」が原因で起こります。まれに、血糖値が極端に高い状態が続いたときにも意識の変化やけいれんが起こることがあります。けいれんは見た目がとてもこわいものですが、血糖を適切に戻すことで多くは回復します。あわてずに対応できるよう、日ごろから準備しておくことが大切です。
重要な事実
- 糖尿病の人のけいれんは、血糖値が下がりすぎたとき(低血糖)に起こることが最も多いです。
- 意識があるうちは糖分を口からとることが助けになりますが、意識がないときは口に物を入れず、すぐに救急要請してください。
- 血糖を下げる薬を使っている人、特にインスリンを使っている人では、低血糖を起こす可能性があります。
糖尿病のある方すべてに起こるわけではありません。インスリンや、血糖を下げる薬の一部を使っている方では低血糖が起こりやすく、その中でけいれんに至る場合があります。多くの方は食事や薬のバランスを整えることで、こうした事態を防いでいます。
1型糖尿病の方、インスリンを使っている方、血糖を下げる薬を使っている方、高齢の方、腎臓のはたらきが低下している方、食事を抜いたり飲酒をしたりする機会が多い方などで起こりやすくなります。子どもから高齢者まで、年齢を問わず起こる可能性があります。
症状
- けいれんが5分以上続いている、または止まらない
- けいれんが繰り返し起こる
- 意識が戻らない、呼びかけに反応しない
- 呼吸が弱い、息苦しそう、唇が青紫色に見える
- けいれんのときに頭を打った、けがをした、水の中にいた
- 意識がない人に糖分を口に入れてしまい、むせている・のどが詰まったように見える
- 妊娠中でけいれんが起こった
- ⚠低血糖のような症状が何度も繰り返す
- ⚠夜中に汗をかいて目が覚める、朝の血糖値が低い日が続く
- ⚠血糖値の上下が大きくなり、自分では調整できない
- ⚠意識は戻ったが、強い頭痛・嘔吐・体の麻痺などが残っている
- ⚠発熱や嘔吐・下痢で食事がとれず、薬をどうすればよいかわからない(シックデイ)
一般的な症状
- 冷や汗が出る、手足がふるえる
- 動悸(心臓がドキドキする感じ)がする
- 強い空腹感、気分が悪くなる
- 頭がぼんやりする、集中できない、会話がかみ合わない
- ろれつが回らない、歩くのがふらつく
- 体が急にガクガクとけいれんする、目が上を向く
- 意識を失う、呼びかけに反応しない
- けいれんのあと、しばらく眠ったようにぼんやりする、ここがどこか分からない
子供の症状
- 言葉で気持ちを伝えられず、急にぐずる・泣き続ける
- 元気がなくなり、ぐったりして眠ったように見える
- 汗が多く、顔色が青白い
- けいれん発作として現れることがある
- 夜中に汗をかいて目を覚ます、朝の目覚めが悪い
- いつもと違う落ち着きのなさ、怒りっぽさ
高齢者の症状
- 冷汗や動悸など、わかりやすい前ぶれが出ないことがある(無自覚性低血糖)
- ふらつき、転倒しやすくなる
- 急に話がかみ合わない、ぼんやりする(認知症や脳の病気と間違われやすい)
- けいれんのあとに混乱が長引くことがある
- 夜間に汗をかいたり、朝の血糖値が低かったりする
原因
主な原因
- 血糖値が下がりすぎた低血糖(インスリンや血糖を下げる薬の効きすぎ)
- 食事の量が少ない、食べる時間が遅れた、食事を抜いた
- いつもより激しく運動した、体を動かす時間が長かった
- 飲酒(肝臓での糖のつくり出しが抑えられ、低血糖が長引くことがあります)
- 腎臓のはたらきの低下などで薬の効き方が変わった
- 発熱・嘔吐・下痢などで体調を崩しているとき
- 血糖値が極端に高い状態が続いたとき(強いのどの渇き、多尿、ぐったりするなどのサインをともないます)
リスク要因
- 1型糖尿病がある
- インスリンや血糖を下げる薬を使っている
- 以前に低血糖やその症状を経験したことがある
- 高齢である
- 腎臓や肝臓のはたらきが低下している
- 食事の時間や量が不規則、食事を抜くことがある
- よくお酒を飲む
- 長時間・激しい運動をする
- 血糖値の変動が大きい、自分で血糖を測る回数が少ない
- 低血糖の症状に気づきにくくなっている(無自覚性低血糖)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 低血糖のような症状が繰り返し起こる、または夜間に起こる
- 血糖値が低い状態が何度も続き、自分で調整できない
- けいれんはおさまったが、頭痛・嘔吐・麻痺・強い倦怠感が続く
- 食事がとれない日が続いている、または発熱や下痢・嘔吐がある
- 妊娠を考えている、または妊娠中で血糖の変動が大きい
定期受診を予約すべき場合:
- 血糖値の記録を見直したい、低血糖が起きたときの対応を相談したい
- 薬の量や種類について気になることがある(自分で判断せず相談してください)
- 血糖測定の方法や回数を見直したい
- 家族や職場の人に、低血糖のときの助け方を知ってもらいたい
- 食事・運動・薬のタイミングを一緒に整理したい
診断
まず、けいれんが起きたときの状況(食事、薬、運動、飲酒、体調など)を聞き、血糖値を測って低血糖があったかを確認します。そのうえで、低血糖以外の原因(脳の病気など)がないかを調べます。本人が意識を失っていた場合は、家族や周囲の人が見た様子がとても役に立ちます。
行われる可能性のある検査
- 血糖値の測定(発作時の値とその後の値)
- 血液検査(HbA1c、電解質、腎臓・肝臓のはたらきなど)
- 血糖測定の記録や、持続的に血糖を測る機器のデータの確認
- 脳波検査(脳の電気的な活動を調べる)
- 頭部の画像検査(CTやMRI)で、脳の別の病気がないかを確認
- 必要に応じて心電図など、他の原因を調べる検査
診察で予想されること
診察では、いつ・どんな状況で・どんな症状が出たかをくわしく聞かれます。あらかじめメモにまとめておくと話がスムーズです。「発作の前に何を食べたか」「薬をいつ使ったか」「どれくらい動いたか」「前ぶれの症状があったか」を思い出せる範囲で伝えてください。検査の結果が出るまでに数日かかることもあります。
治療
治療の中心は2つです。ひとつは、起きてしまったときの対応(血糖を安全な範囲に戻すこと)。もうひとつは、なぜそれが起きたのかを一緒に振り返り、次に起こらないように薬・食事・運動のバランスを整えることです。多くの場合、手術は必要ありません。
自宅でのセルフケア
- 意識があるときは、糖分を口からとる(ブドウ糖のタブレットや砂糖、果汁など、すぐに吸収されるもの)。医療者から指示された方法に従ってください。
- 意識がない、または上手に飲みこめないときは、口に物を入れないでください。誤って気道に入ると危険です。すぐに救急要請しましょう。
- 日ごろから血糖値を測り、低い値が出たときの記録をつける。
- 糖分を持ち歩き、職場・学校・家族など身近な人に「低血糖のときはこれを」と伝えておく。
- 食事の量と時間をできるだけ一定にし、食事を抜かない。
- 飲酒は低血糖を長引かせることがあるため、量とタイミングに気をつける(空腹時のお酒は特に注意)。
- 運動の前後は血糖値を確認し、必要なら補食について医療者に相談する。
- 体調を崩したとき(発熱・嘔吐・下痢など)の対応を、あらかじめ決めておく。
医療治療
症状が出ているときは、医療の場では血糖を上げる処置(点滴など)が行われます。落ち着いたあとは、血糖を下げる薬の種類や量、使い方の見直しを行います。持続的に血糖を測る機器を使うと、下がりすぎる前に気づきやすくなります。必要に応じて、低血糖の緊急時に使う薬(注射や点鼻薬)が処方されることもあります。また、低血糖の症状に気づきにくい方には、血糖測定の回数を増やすなどの工夫が提案されます。具体的な薬の名前や量は、主治医と相談して決めてください。
手術が検討される場合
糖尿病によるけいれんそのものに対して手術が必要になることは、通常ありません。ただし、検査で脳の別の病気(腫瘍や血管の病気など)が見つかった場合は、その治療のために手術が検討されることがあります。
この病気と共に生きる
低血糖とけいれんは、日々の小さな準備でぐっと怖くなくなります。血糖測定、糖分の持ち歩き、周囲への共有。この3つを生活の一部にしていきましょう。発作が起きた日は、記録を残しておくと次の診察で役に立ちます。
生活習慣のアドバイス
- 決まった時間に食事をとり、量を極端に減らさない
- 運動は習慣にしつつ、強度や時間を急に変えない
- 血糖測定を無理のない範囲で続け、記録を残す
- 睡眠と休息をしっかりとる(疲れは血糖の変動につながります)
- 飲酒は量・時間・つまみを意識する
- 外出時は糖分と、自分の状態を書いたメモを持ち歩く
- 家族や同僚に「低血糖のサイン」と「助け方」を伝えておく
食事と運動
食事は、主食を抜かずに、野菜やたんぱく質を組み合わせてゆっくり食べるのが基本です。運動は血糖を下げるはたらきがあるので、体を動かす前後は血糖値を確認しましょう。長時間の運動や空腹時の運動は低血糖につながりやすいため、事前に補食の量やタイミングを主治医や管理栄養士に相談しておくと安心です。決まった時間に食べて決まった時間に動く、というリズムが血糖を安定させます。
精神的健康と心の健康
けいれんを経験すると、「また起きたらどうしよう」という不安が残ることがあります。これはとても自然な気持ちです。不安が強いとき、眠れないとき、気分が落ち込むときは、一人で抱えずに主治医や看護師、糖尿病療養指導の専門職に話してみてください。気持ちのつらさが続く場合は、地域の相談窓口や心の相談支援を利用することもできます。つらい気持ちが強いとき、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の相談窓口、緊急の相談先に連絡してください。あなたは一人ではありません。
予防
すべてを防ぐことは難しいですが、起こる回数を大きく減らすことはできます。鍵は「低血糖を早めに気づいて、早めに手を打つ」こと。血糖測定の習慣、食事・運動・薬のタイミングをそろえること、周囲の協力を得ることが効果的です。低血糖の前ぶれに気づきにくくなっている方は、主治医に相談して測定方法を見直しましょう。
ワクチン
糖尿病のある方は感染症が重症化しやすいため、季節性インフルエンザや肺炎などのワクチンについて、かかりつけ医に相談することが勧められています。接種の可否や時期は、体調や治療の状況をふまえて医師が判断します。
検診プログラム
定期的な診察と血液検査(HbA1cなど)で血糖の状態を確認することが、予防の第一歩です。低血糖が続いている場合は、持続的に血糖を測る機器の使用や、薬の見直しを相談できます。健診や特定健診の機会も活用してください。
合併症
治療しない場合
- けいれんによる転倒・頭を打つ・やけどなどのけが
- 車の運転中や入浴中など、危険な場所での事故
- 長時間の低血糖による脳への負担
- 低血糖に気づきにくくなる(無自覚性低血糖)の悪化
- 血糖の変動が大きくなり、糖尿病の管理が難しくなる
- 不安や緊張が続き、外出や人づきあいを控えてしまうこと
長期的な見通し
低血糖によるけいれんは、適切な対応と日ごろの備えで防げるものが多くあります。発作を経験した方も、原因を一緒に振り返り、薬や生活のバランスを整えることで、安心して過ごせるようになっていきます。あせらず、できることから一つずつ。主治医と一緒に、あなたに合った方法を見つけていきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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